9.29「砂川会長とは」
あらすじ
「そうでしょ? だって、皆が本当に行きたかったのは、大輪なんだから」笑星くん、張り切ります。笑星くんが頑張るほどユキノブ2人の存在感が圧されちゃう9話29節。
砂川を読む
Day
11/13
Time
13:00
Stage
紫上学園
【笑星】
「…………」
昼休みになった。
【笑星】
「ガツガツガツガツ!!」
よく噛んで飲み込むを高速化。昼食を早めに済ませる。
【邊見】
「えっちゃん……?」
【笑星】
「ごちそうさま! ごめん邊見、俺2年生の教室回ってくる」
【邊見】
「修学旅行の件だね~。でも、忙しくするのって放課後じゃ?」
【笑星】
「今日は色々、不安なことがあって」
何てったって……今日は、いや今日から。
この学園で最も頼れる人が確定で欠席するんだから。
【笑星】
「……えーっと。今日相談会確定の人は……」
安全を考慮してリストをチラ見で眺めながら、階段を上がる。2年生のエリアへ。
……取りあえず、Aクラスから様子を見てみようかな。と、廊下を見てみると……
【笑星】
「……何これ?」
人で溢れかえっていた。
【冴華】
「……!!」
階段近くで混雑から逃れてたっぽい村田先輩がこっちを見た。
【笑星】
「あ、村田せ――」
【冴華】
「こっちいらっしゃいッ!!」
手を引かれて階段を昇っちゃった。3年生のエリアへ。
【笑星】
「え、なんで!?」
【冴華】
「貴方まで見つかったら厄介だからです!」
事情が呑み込めないまま、その辺の空き教室に拉致された……。
【冴華】
「……取りあえず、此処なら大丈夫かしら……」
【笑星】
「何が……?」
扉を施錠までした先輩。
何か……怪しい雰囲気だ。拉致どころか監禁まで。
【笑星】
「村田先輩怖い……」
【冴華】
「べ、別に何か危害を加えようとかそんなんじゃないですよ。ただ……今はあのフロアの方が怖いことになっているので……」
【笑星】
「どういうこと? ていうか、あの騒ぎって……」
【冴華】
「会長がこのタイミングで欠席しているのが、2年生には大きなダメージだということです」
【笑星】
「ああ……」
まあ……それなら普通に納得できる。俺もその辺が1番心配だったから様子見に来たんだし。
【笑星】
「もしかして、会長のヘイト再燃してる……?」
【冴華】
「まさか。それは――」
ガチャリ。
【笑星&冴華】
「「え?」」
施錠されたばかりのロックが音を鳴らした。
がららら――
【安倍】
「村田、可愛い後輩くんを拉致監禁は見逃せないよー」
【笑星&冴華】
「「え!?」」
誰か入ってきちゃった!
【冴華】
「な、何故、ちゃんと鍵は掛けた筈なのに――」
【安倍】
「錠を弄くるくらい淑女の嗜みの1つだし(←施錠)」
【冴華】
「最近の淑女の基準が分からない……」
誰か分からないけど、女子が1人増えた。
【安倍】
「村田が雑務くんと強制逢い引きしてる姿を見ちゃったから追ってきたんだ。助けに来たよー雑務くん」
【笑星】
「え、そういう感じの……? 村田先輩……俺ドン引き……」
【冴華】
「無理矢理私を貶める文脈はやめなさいッ……! ていうか助けに来たなら何でまた密室にするッ!」
【安倍】
「だって要は雑務くんを保護したってことでしょ?」
【冴華】
「分かってるんじゃないですか……」
保護……? 何のことだろう。
【笑星】
「俺、何かミスしちゃってた……?」
【安倍】
「今だいぶ下のフロア騒がしいでしょ? 会長さん不在の件で、松井と茅園、それと応援に駆けつけた玖珂先輩が質問攻めに遭ってるの」
【冴華】
「臨時会見を設けて状況を整理した上で言明すればよいのですが……彼らも説明できるほど情報を持ってないのでしょう。学生たちもパニックですし……」
【笑星】
「ああ……じゃあ、俺もあの中入ったら、被害者増えるだけだったんだ……」
じゃあ助けられた、ってことになるのか。
俺の抱いてた不安感は的中してた。
【笑星】
「会長の存在感は、俺にとってだけじゃないんだなぁ……」
【冴華】
「前政権を考えると、六角先輩が欠席したところで玖珂先輩が居れば何の問題もありませんでしたが、今年度はあの人が居なければ話になりませんから」
【笑星】
「だね」
【安倍】
「会長ワンオペ説は本当だったんだ。そんなことできるなんて、恐ろしいね砂川会長さん……でも、そんなことするから体調崩すんだよ」
【笑星】
「え……?」
体調崩す……って。
噂の出所は分からないけど、今会長そうなってるんだ……。
【冴華】
「……推測ですが。先週もあの人、体調不良で欠席したでしょう? 多分、多忙からくる限界突破だろうと皆予想していて、昨日は登校されましたが目に隈を作ってフラフラでしたし、回復しきれておらずまた無理をして倒れた……そう噂されているんです」
【笑星】
「…………」
……その噂の出来方から、考えるに。
【冴華】
「知らないなら、松井たちが答えられるわけがありませんね。「会長は大丈夫なのか?」なんて」
それは……。
【笑星】
「……心配は杞憂だったよ、会長」
【安倍】
「え……?」
【笑星】
「会長の体調は詳しくは分からないけど……倒れてはないよ。今もバリバリに働いてるってだけで」
【冴華】
「……貴方、知ってるんですか? あの人の事情」
【安倍】
「ッ本当に?! 働いてるって……じゃあ紫上会室に籠もってる?」
【笑星】
「ううん、紫上会室じゃなくて……えっと……」
別に、口止めはされてないわけだし……。
きっと、大丈夫だろう。
【笑星】
「今は、大輪大陸に行ってる」
【安倍】
「…………え……?」
【冴華】
「…………」
アルスを自立させて、今朝からずっと頻繁にチェックしているニュースアプリを映す。
会長が電話してきて、12時間ぐらい経ったけど……まだ12時間と云うべきだろうけど。
「変化」は起きていた。
【笑星】
「有言実行だからね、会長は……」
今、ニュース系はどれも大輪のことでいっぱいだ。
だから、少しの情報もすぐキャッチされて、すぐ報道される。ましてこんな、ドデカい写真なんかさ。
【冴華】
「「女潤の空を染める、数多の物体」――」
【安倍】
「うわ、え、何コレ……!? また戦争でも起きるの!?」
【笑星】
「……会長だよ」
【冴華】
「……まさか、コレに……あの人が関わっている、というのですか?」
【笑星】
「うん」
これは、多分、とかじゃなくて。断言できるものだ。
だってこの「物体」、俺はもう何度も見てるんだから。
【笑星】
「会長は、大輪復興に行ったんだよ」
【安倍】
「ッ――な――」
【???】
「「「何だってェ――!?!?」」」
ガチャリ。
【3人】
「「「え?」」」
ダンッ――!
扉が勢いよく開かれた。
そして勢いよく、空き教室に雪崩れ込んでくる……!!
【笑星】
「うわあぁあああああ!?!?」
廊下側に立ってたのに、一気に窓側へと押しやられる……! こ、この人達は……
【男子】
「ど、どういうことだよ堊隹塚! 何で会長、今大輪に行ってるんだよ!?」
【女子】
「そうよ、相談会システムで後は何とかするってことじゃなかったの!?」
【女子】
「というかただでさえ修学旅行の調整で体調崩してるのに、大輪に渡るって、死ぬでしょ!?」
【男子】
「説明してくれ堊隹塚、砂川は……何を考えてるんだ!?!?」
に、2年生の先輩!?
【冴華】
「ど、どうして皆さん此処に!? あと施錠してたのに何で!?」
【女子】
「後輩くんを逢い引きする村田が見えたからつい……」
【男子】
「錠を弄くるぐらい淑女の嗜みの1つだし」
【安倍】
「アンタ男じゃん」
【冴華】
「私どんだけ見られてたんですか……堊隹塚くん、ごめんなさい……(泣)」
……取りあえず2人だけにって思ってたんだけど、俺の発言、皆に聞かれちゃってたのか……。
靴を脱いで、机の上に乗る。
【笑星】
「わ、分かったから! 俺の知ってること話すから、一旦落ち着いて! 臨時会見しまーす此処で!!」
うぅ……何か、微妙に緊張する。
スケールとか諸々、会長が経験してきたものの足下にも及ばないのに。
……でも、やらなきゃね。
ソレが俺の仕事、だから。
【笑星】
「此処に居る人たちって、皆2年生なんだよね? 俺、その前提で話して大丈夫?」
【男子】
「ああ! ソレで……何を考えてるんだ、あの会長は!」
急かされる。
……それだけ、皆が焦っているのが分かる。
自分たちの修学旅行に影響するから、というのもある。だけど俺が肌で感じたこの空気は……やっぱり。
【笑星】
「……心配してくれてるんだね、会長のこと。ありがとう、皆」
【みんな】
「「「…………」」」
【笑星】
「会長は……元気、とは云いづらいかもだけど、倒れてない。さっき盗み聞きしてくれたように、今は大輪で頑張ってるんだと、思う。……皆の為に」
【安倍】
「…………」
【女子】
「皆……私達の、為……?」
ざわめきながら、少しだけ静まる。
その時間を借りて、深呼吸する。パニックを外に出して……言葉の整理を入れる。会長みたいに、スラスラとはいかないかもだけど。
俺が伝えるべきと思うことを、伝えきる。
【笑星】
「この中にも、結構居ると思う。元々大輪に行きたいって希望を出してた人達は」
相談会で見たことあるような気がする顔が、結構見られる。その人達は皆、最初は大輪の何処かに行きたいと計画を時間掛けて作ってきた。
でも、それは叶わない。
【笑星】
「大輪は全域、戦争に巻き込まれた……ってことになってるけど、詳しくは分かんないよね。都市は確実に大ダメージを負ったけど、ハッキリとした情報は何も入ってこなくて……それもこれも、電波設備とか環境がめちゃめちゃになってる所為で大輪との通信手段が断たれてるのが問題で。そんな不安定な場所に、皆を行かせられるわけがない、だから会長は今まで朝早くから夜遅くまで、毘華や彩解のルート増設に奔走して、最低限2年生の皆が必ず何処かのルートに旅行できる、思い出を作れるっていう状態にまで持って行った。で、今相談会を通して皆のルートを調整してる……」
会長は凄かった。ホントに頑張ってた。それは多分、俺が1番知っている事実。
だけど会長は……昨夜の会長は、ソレでは足りないと云った。
【笑星】
「でもそれって……最低限、でしかないんだ」
【男子】
「最低限……?」
【笑星】
「そうでしょ? だって、皆が本当に行きたかったのは、大輪なんだから。沢山準備も重ねたでしょ。思い出を作るなら、やっぱり自分が1番手間暇かけたモノだよ。それに……大輪にしか存在しないモノはいっぱいあるんだよ。他の場所じゃ替えられないモノが、いっぱいあるんだ」
【安倍】
「ッ――」
【笑星】
「最低限の状態には、俺たち紫上会4人がサポートして何とか持ってける。いわゆる滑り止めってやつだね。じゃあ、その準備が出来たなら……今度は本命に目を向けよう。足掻けるだけ足掻こう――だから会長は、大輪に向かったんだよ。状況が分かれば、復興が進められれば、可能性はまだあるかもしれないから」
可能性があるということを、皆に伝える。
ソレが俺の、鞠会長から与えられた仕事だった。
【笑星】
「希望を持たせすぎるのも酷だろうから、あんまり堂々と云わなくていい、的なことは云われたけど……あえて堂々と云っちゃうよ。だって、出張したのは他でもない、鞠会長なんだから。俺は知ってる、どんな理不尽な状況からだって、ソレを一気に覆すことができる人だって。皆も……もう、分かってるよね」
【みんな】
「「「…………」」」
【笑星】
「俺は、いつも通り会長に賭けるよ。どうせ会長は口にはしないだろうけど……大輪の選択肢が復活したら、間違いなく皆もっと、笑顔になれると思うから」
会長がやってることは結果的に、そういうことだ。
「皆のため」なんだ。
それを……皆も、分かってしまうんだろう。
【女子】
「……どうしてそこまで、やれるんだろう……」
【女子】
「露骨に私達のこと嫌ってるだろうにね……」
【男子】
「俺、結構前に立ってアイツのこと、莫迦にした記憶があるんだよな」
【男子】
「だってアイツは、真理学園出身で……得体の知れない怖い奴で」
確信の光景。
どうせあの人には届かない、今の紫上学園の姿。
俺はこれをどう受け止めるべきなんだろう。
どう、会長に伝えていけるんだろう。
【笑星】
「……この可能性をチラつかせた上で……予定通り、放課後には相談会を実施します! 予約者を優先するのと、会長不在の為回転率が下がるのと、先週よりもストレス溜まるかもしれないけど大行列に負けずに皆、譲り合いの精神でよろしく! 以上で、取りあえず臨時会見終わります!! このこと、下の皆に伝えてあげて、それから松井先輩たち解放してあげて!!」
俺にはまだ、見通しが立たない。
恩返しの時はまだまだ先――