9.24「イライラ」
あらすじ
「……鞠は、敵味方で世界を眼差す癖がありますよね」砂川さん、貧乏揺すり。作者はイライラすると途端に手をワキワキします9話24節。
砂川を読む
Time
19:00
Stage
霧草区
【汐】
「~~♪」
メイドの運転で、いつも通り帰路に着いていた。
いや、いつもな時間帯よりだいぶ遅い。これは相談会終わりだから。
特に大きな支障も無く終わった。修学旅行生は全員、修学旅行すら行けないという事態は回避できる見込みだ。まだ油断する時ではない。私の事だから、あと何回気を抜いたところで不運に見舞われるか分かったもんじゃない。
因みに副会長はこの前の定期清掃の続きということで自宅に帰っている。今は私とメイドの2人だった。
【ババ様】
「……何で汐、暴走運転しないんじゃ? いつもだったら構わずやるじゃろうに」
【鞠】
「…………」
ババ様が何か云っていた気がする。
【ババ様】
「……鞠?」
【鞠】
「…………」
けど、私はソレを聞き流しているようだった。意図的なつもりはない。ただ、ついそうしてしまう。
……イライラしていた。
【鞠】
「…………(いらいらいらいらいらいらいら)」
【汐】
「~~♪(今はっちゃけたら数日口聞いてくれないオーラしてるぅぅぅ……)」
私がイライラするのは、特に今年になって珍しくもないことだけど、それにはたいてい、理由が見出せる。理由も無いのにイライラするのは、何て云うか……気に入らない。だから、自分の感情に対してはそれなりに分析を挟む。
……今それをやってるんだけど、難航していた。イライラが止まらない。
私は今、何にイライラしてるんだろう。
……いつ頃から?
* * * * * *
【安倍】
「他の皆の為に、頑張ってね」
【鞠】
「…………」
【安倍】
「私は……会長さんが選んでくれたやつを、頑張って楽しんでみるから。私みたいな莫迦じゃなくて……諦めずにルートを考えられる皆を、支えてあげて。じゃないと、文句とか云われちゃうかもよー」
* * * * * *
……やっぱり、アレ、かな。
何かすっごい、静かに愕然とした、覚えがある。でも何に愕然としたのかは、まだ分かりきれていない。それと愕然としたってだけで、別にその時イライラはしてなかった。だから見当違いかもしれない。
ただ、午後の授業も相談会も、平和と云えば平和だった。少なくとも私の心中を掻き乱すようなイベントは無かった筈。
だけど……心には徐々に、何かやりきれない感情が膨らんでいて……今はすっかり、コレだ。ちょっと貧乏揺すりしたい。
故に、昼食の時、彼女と会話した中で、私は何処か気に入らないところがあった、と分析するのが適当だろう。
【ババ様】
「……不機嫌?」
【鞠】
「……です」
ババ様、ちょっと縮こまってる感じがしたので流石にそろそろ応答してあげる。
【ババ様】
「そういう時は、いっぱい食っていっぱい飲んで、いっぱい寝るといいかもの」
【鞠】
「健康を損ないそうなので却下」
今の心うちを勢いに使おうものなら、適量を見誤りそう。
【ババ様】
「何が鞠をそこまで苛立たせるんじゃろうなぁ……不満はいっぱいありそうじゃがの」
【鞠】
「忙しい」
不満が瞬間的に漏れた。溜まってるね、間違いなく。
【汐】
「忙しいのは分かってますよ~。鞠は頑張り屋さんですね、私だったら飽きた瞬間に投げ出します」
【鞠】
「社会人とは思えない」
【汐】
「鞠と違って、私は私のあるがままに生きてますからねー」
【鞠】
「嫌味ですか」
【汐】
「……鞠は、敵味方で世界を眼差す癖がありますよね」
【鞠】
「…………」
嫌味の2コンボ。
メイドの場合、結構陰湿な言葉選びをしてくることが多い。
主である私に対しても、割と容赦無く。ほんと、社会人らしくない。
【鞠】
「まあ、それは否定はしません。現状それが事実ですから、そう私が認識しているなら悪くない都合です」
【汐】
「疲れませんか、それ……? お姉ちゃんは、割と心配しています」
【鞠】
「負けを晒すぐらいなら、徹底の苦労は甘んじて受けます」
その先の平穏を、しこり無く堪能する為に。
私は勝者であり続ける。
今年度、紫上学園で決して負けずに戦ってきたように――
【鞠】
「――――」
…………。
【鞠】
「そうか――」
ソレ、か。
私が、イライラしてる理由って……。
【鞠】
「……………………」
【汐】
「……鞠?」
【鞠】
「話し掛けないで。今考え込んでます」
【汐】
「……和佳ちゃんには、その顔見せないようにしてくださいねー……」
どんな顔してるんだろ。まあ、不機嫌面には変わりないんだろうな。
【ババ様】
「……鞠。貧乏揺すり、ちょっと出てきてる。癖になっちゃう」
【鞠】
「……癖になりそう。止まらない」
分かったとしても。
どうしようもないことだ。これは私の受け止め方の問題でしかない。
私に、ソレをどうこうする手は無いのだから。
……そうでしょ?
私は最適を誤っていないでしょ?
もう結論したことでしょ?
【鞠】
「……………………」
* * * * * *
* * * * * *
……いくら、思い出したって。仕方無いじゃん。
【鞠】
「……私には……」
どうにも、できないんだから――