9.02「暗闇2」
あらすじ
「世界が止まって……座標が崩れてるのかもしれんの」世界、停止その2。何とか合流できた紫上会、この状況を分析してみます9話2節。
砂川を読む
【笑星】
「それで、これからどうしよう会長!」
【鞠】
「知りませんよ。抑も、貴方たちは何でこんな不明な空間にいるんですか」
【深幸】
「何でって……普通にお前と一緒に居たろうが。紫上会室に」
【鞠】
「…………」
ってことは……私ひとりが変な目に遭っているわけではない、ということか。
紫上会室……だけにこんな事態が起きている、と予想するのは不自然。少なくとも学園全体で、突然のブラックアウト。
勿論、対策しようもないのは変わらない。
【鞠】
「はぁ……」
【笑星】
「お、会長の十八番の溜息。それ見ると何か安心してくる」
【鞠】
「嫌味ですか」
【笑星】
「嫌味じゃないよ。会長が、ちゃんと居てくれた。こんな状況でも会長が居るっていうのが、1番大切だから」
【鞠】
「…………」
……貴方だって、いつも通りじゃないか。十八番の笑顔。
この学園で最も天敵と呼ぶべき特長の揃った貴方の、そういうところを見てると……。
【鞠】
「……何か莫迦らしくなってきた」
【笑星】
「え、何が?」
【鞠】
「……兎も角、考えますか。この状況」
私は、所詮モブ。
だけど貴方は違う。紫上会の人気者たち。
というか抑もの、全然姿の見えない紫上学園。それ全部が消息不明は、流石に世間が怖すぎると思うし。
私独りが居なくなるのとは全く都合が違う。責任感をひけらかす趣味は無いが、無駄に周りをざわつかせる趣味も無し。それら総てを含めて、私は平穏を望むのだから。
【ババ様】
「……そうそう、ソレでいい」
【鞠】
「はい?」
【ババ様】
「夕餉は何を食べようか。人間悩むのはそれぐらいで充分じゃ」
【鞠】
「…………」
【ババ様】
「ノビノビ、ゆこうぞ鞠。もっと歩いて、もっとババ様を楽しませい」
随分、ざっくりした指導なことだ。人間は社会的動物、ゆえに常に悩むだろう、考えるだろう、それが皆で共同に生活していく為の必要不可欠な処世術なのだから。
……だけど。
【鞠】
「……はい」
考えすぎるっていうのは、確かに私の癖ではある。
自分の思い通りにいかないことの方が多い世で、私は大変不器用だった。損をしているだろう。自分の才能の不足は……紫上学園の前で露呈しないよう気を付けないと。
【4人】
「「「…………??」」」
さあ、そろそろ、適度に見ていこうか。
今の私の足下を。この地点を。
【鞠】
「……ていうか、さっきからずっと気になってたんですけど……何で貴方たち、ちょっと光ってるんですか」
赤黒いオーラというか。
その光彩があったから、光源無きこの闇の中でも姿を見ることができている気がする。
マナを纏っている、という線も勿論考えたけど、それならもうちょっと色彩に差異があるだろう。4人ともまるで一緒なんて有り得ない。性格とか為人全然違うわけだし。
【深幸】
「確かにそうだが……一番光ってんの、お前だぞ……」
【鞠】
「え?」
何云ってるの?
【深幸】
「何云ってるの、って顔してるけどホントだから。なあ?」
【四粹】
「我々、元々近いところで作業していたのもあってか、このお互いの光ですぐ合流することができました。会長はいつもの場所で作業しておられましたので距離があり、見つけられるか不安なところでしたが……その光量に導かれました」
【信長】
「我々より遙かに、強い光量かと……大変助かりましたが」
【鞠】
「えぇぇぇ??」
え、ホントに? 自分じゃちょっと分かんないんだけど……。
この環境下では人間、赤黒く輪郭づけられるってことなのかな。だとしても私だけ濃くアピールされてるのはどういうことだ。よりにもよってモブな私に。
勿論マナを纏ってなんかないし……謎だ。
【笑星】
「流石鞠会長、紫上学園一輝いてる人だね」
【鞠】
「そんなテキトウなコメントしてる暇あるならもっと色々考えなさい」
……兎も角、オーラの件は一旦保留にして、暗闇の分析にでも入ろうか。
【笑星】
「停電……ってことは、ないよね。幾ら紫上会室がエアコンとBLSに頼った密室だからって、ここまで暗くは」
【信長】
「それに、肌で感じる……この暗闇は、そんなものじゃない」
【深幸】
「俺たち以外、何も見えねえもんな」
【四粹】
「会長、この状態になってから、移動は試みましたか」
【鞠】
「いえ、闇雲に動く判断はしていません。つまり……仮に此処を紫上会室とした場合、私は仕事部屋で椅子に座っていたのだから、此処は仕事部屋となる」
【深幸】
「つまり会長のデスクと椅子、俺らが使ってるソファやテーブルが近くにあるはずだし、抑も会長が動いてないなら、此処にはあのでっかい椅子があるはずだ」
【笑星】
「……見当たらないね。ぶつかんないもん、この辺歩き回ってみても」
【四粹】
「つまり、紫上会室ではない……ということに?」
【ババ様】
「いや、多分紫上会室じゃな」
我々の妥当な思考判断に、ババ様は反論した。
【笑星】
「…………」
【深幸】
「…………」
【信長】
「…………」
【四粹】
「…………」
【ババ様】
「世界が止まって……座標が崩れてるのかもしれんの」
……座標?
思いっ切り他人がいる前なので口には出さず、左目の考えを待つ。
【ババ様】
「何となくじゃがのー。恐らく、始祖たる霊素で以て形になっておるババ様じゃからこそ、感じ取れるものかもしれん。知ってるわけではないが、そんな気がするとな」
論理もクソもないってところだけど、それでも我々の分析よりも遙かに信頼できそうな、超越的存在の勘。
だけど……止まってるっていう表現はいまいち呑み込めない。何故なら、私達は普通に動いているし、会話もしているからだ。
【ババ様】
「これは、時間の話ではなくての。いやソレも含むべきじゃろうが、それ以外にも……何と云うべきか、秩序、か? この世のあらゆる要素を結びつけ相対化している秩序・法則が、今機能していない」
【鞠】
「……ワケ分からん……」
ボソッと感想漏れる。
【ババ様】
「ババ様も分からん。じゃが、この世の景色も、その内側も総て繋がって出来ておる。その繋がりがなくなれば、世は姿を保てない。どんな形にもなれない。それが……今のこの姿、なのやもしれん」
――暗闇。
形の無い状態。
黒いのではなく、無表示の世界。
……その想定外の規模を据えた場合、なおさら此処に立っている私たちは――
【4人】
「「「……………………」」」
【鞠】
「ん――?」
あれ……何か4人が、こっちめっちゃ見てる。何か恥ずかしい。超凝視なんだけど。
私、喋ってないつもりだったけどもしかして独り言漏れてた?
【鞠】
「な、何ですか……?」
【四粹】
「会長……その……」
【信長】
「さっきから……この声は、どこから――? 心なしか会長の顔あたりから聞こえてくるような……」
【鞠】
「……え――」
【ババ様】
「ぬお?」
えっ、もしかして漏れてるの私じゃなくてババ様の声――!?
【深幸】
「もしかして……その、左眼か?」
【鞠】
「は!? な、何で――」
【深幸】
「いやだって、全体的に発光強いお前の左眼、更にめちゃ光ってるんだもん……」
何それ恥ずかしい!!? 厨二病みたいじゃん!!
【鞠】
「が、眼帯しなきゃ……確かポケットに……」
【ババ様】
「いーやーじゃ~~!! ババ様何も悪いことしてないのじゃ~~!!」
【笑星】
「あ、やっぱり左眼あたりから聞こえてくる!! 何その斬新な小型スピーカー!!」
【ババ様】
「スピーカーじゃなくてババ様じゃ!!」
【四粹】
「ババ様……?」
【ババ様】
「ふむ……どうやら本当にババ様の声が聞こえてるようじゃの。なるほど確かに、こうも通常のルールが壊れていては、ババ様が鞠の左眼になっているからといってババ様の声が絶対聞こえないということもないのじゃろう」
【鞠】
「……マジですか……」
まさかババ様の存在がバレる日が来ようとは……。
【ババ様】
「ぬはーーー!! こぉれは不幸中の幸いかの、鞠以外の人と喋れるぞーーーい!!」
ババ様、燥ぐ。
元気である。不幸な状況ってのは絶対譲らないけどね。
【ババ様】
「初めまして、じゃの。ワシは鞠のババ様じゃ! 鞠ぃー、ババ様遂に四粹たちに自己紹介できたー♪」
それは自己紹介になってないけど。
【信長】
「え、えっと……?」
【ババ様】
「話すと長すぎるから省きまくるけど、まぁ色々あって鞠に取り憑いてる幽霊みたいなもんじゃ」
【鞠】
「全然違いますよね?」
【四粹】
「……取り憑いて……ッまさか、ミマ島の――」
【ババ様】
「思考が早いの四粹は。じゃがその心配は不要なようなそうでもないような。四粹の思っておる存在とはまた別じゃ」
【四粹】
「…………」
【深幸】
「全然ついていけてねえんだけど、俺……」
【ババ様】
「今大事なのは、きっと……幽霊なこのババ様は、ほぼ普通の人間たるお前さんたちよりかはこの状況をより正確に肌で理解できておるってことじゃろう」
【信長】
「あの、俺たちはほぼじゃなくて普通の人間の筈ですが……」
【ババ様】
「さて、どうかの~」
【鞠】
「……?」
え……何その含み?
怖い、ちょっとやめてその伏線貼るの。
【笑星】
「ババ様、この状況分かるの?」
私の拒否感は、妥当と云わざるを得ない優先順位に従って隅に置かれる。
そう、大事なのは今この状況……。
【四粹】
「此処が何処か、お分かりなのですか?」
【ババ様】
「現実世界、紫上会室じゃよどうせ。ただし今は本来の状態から逸脱しとるが」
【深幸】
「何でそんな、映画でも早々見ない規模の人類の危機な現象が……」
【ババ様】
「最近賑わってたじゃろ? 大輪の地で戦争が起きていると」
【笑星】
「え……あれ!?」
【鞠】
「…………」
【信長】
「しかし、アレは人力です。確かに現代ではあるまじき規模の大事件ですが、幾ら何でもこんな異次元な停電に直結は……」
【深幸】
「人智超越してるもんな。とても人為的に起こせるものじゃ……」
【ババ様】
「ここに喋る左眼に取り憑かれてる女の子が存在するんじゃから、人智超越の1つや2つ」
【5人】
「「「……………………」」」
無理矢理納得させられた。