9.15「練習2日目」
あらすじ
「理想としては、私に従順で、私がいちいち指示せずとも勝手に思考し行動してくれて、ついでに周りの目に優しいビジュアルの……」砂川さん、新たな才能発揮。電車で立って寝てる時って、どう頑張っても膝が勝手にダンスしちゃいます9話15節。
砂川を読む
Time
23:45
Stage
7号館 屋上
【鞠】
「……さむ」
仕事の方がある程度まとまったところで、屋上に出た。
……もう1つの、私の仕事に着手しよう。にしても今日は冷え込んでる。冬は近い。
【鞠】
「最近、遅くに外出すぎ私……」
【ババ様】
「まるで非行に走ってるみたいじゃのー」
【鞠】
「……まあ良い行いではないのは間違いないですね」
ゆえに、人目に付かない深夜を選ぶしかない。
【ババ様】
「今日はどんなことが出来るようになるのかの~」
【鞠】
「……何か、楽しそうじゃありません? 下手すれば真っ先に死ぬのババ様でしょうに」
【ババ様】
「リスキーを綱渡りって刺激的でハラハラするの」
やっぱり結構もう呑まれてるんじゃなかろうか。
【鞠】
「……あのデカブツたちを沢山召喚して、動かすのは慣れた」
いや、まだ1日しかやってないから慣れたとか云うの烏滸がましいんだけど……実際、もう大丈夫だろうと思っている。
だから次の段階にいく。今度は……より、実用的に。
【鞠】
「実用する気は……――無いけど、ね!!」
一気にイメージを固めていく。
これまで見てきた機体の外見をイメージし……。
その縦横比を保ったまま……。
【鞠】
「(縮小、する――)」
……。
…………。
……………………。
Day
11/10
Time
7:00
Stage
紫上会室
【笑星】
「かいちょー、おはよー生きてるー?」
【信長】
「失礼だぞ笑星、会長が死んでいるわけがないだろ――」
【鞠】
「あ……」
…………。
【笑星&信長】
「「何じゃこりゃ!!!」」
何で日曜日なのにこの人達こんな早くに来るの。
相談会とか何かやる予定も今日は無いのに……。
お陰で、思いっ切り、見られてしまった。
【信長】
「これ、は……」
【機体】
「きゅきゅきゅきゅきゅ」
【機体】
「しゅぴー。しゅぴー」
【機体】
「ぶぶぶぶべべべべ」
【笑星】
「会長……何、やってんの……?」
さて、どう云い逃れしたものか……。
【ババ様】
「だーからそろそろ片付けようって云ったんじゃー」
【鞠】
「はぁ……」
何かノリに乗ってるから止めるに止められなくなってた。もしかしたら睡眠不足で呑まれてたかな、私。だとすればグッジョブだ2人とも。
【信長】
「赤黒いオーラ……かすかに、甘い香り……コレは会長が、やられてるのですか……?」
紫上会室は、数多の機体で溢れていた。
といっても、一体一体はたいして一般人的にも脅威とは呼べない。踏めばすぐ壊れちゃうぐらいすっからかんなクオリティ。
ぬいぐるみサイズの、今までを考えれば可愛いに違いないロボットたちが、無邪気に紫上会室を走り回っていた。まあ命令してるだけなんだけど。
【笑星】
「ミニサイズだー……会長、こんなこともできるんだ。お手」
【機体】
「ぶぶぶぶべべべべ(←無視)」
【笑星】
「会長、無視られたー……」
そりゃ、そんな機能搭載してないもの。走る以外能の無いガラクタ。
完ッ全に一から作るということの難しさを痛感。だけど確実に、前進している。
【ババ様】
「上達がエレベーター級じゃの。もう恐らく、外見も機能も、一から造ることもできるじゃろう」
【鞠】
「多分、できますね。問題はソレをやり出すと時間が足りないってことですが」
【ババ様】
「鞠はイマジネーションが欠乏してるからのー」
やかましい、分かってるって自分のことだし。
【笑星】
「っていうか会長ちゃんと寝た!? もしかしてオールナイト!?」
【鞠】
「してません。早寝……はできなかったけど早起きしただけです」
【信長】
「睡眠不足じゃないですか……」
【鞠】
「貴方たちこそ、何で日曜の朝に来てるんですか」
【笑星】
「鞠会長が心配だったからに決まってるじゃん。また無理してないかなーって」
【信長】
「……全く別のことをやられてたので、面食らいましたが……因みに俺は野球部練習もあるので」
書記は兎も角として、雑務はただ私を確認するためだけに来たのか……アドレス交換した意味あるんだろうか。
【鞠】
「……まあ、見ての通りですけど(フラフラ)」
【笑星】
「はい休もー。紫上会室から出よ!」
仕事は早々に切り上げたにも関わらず過労判断を下された私、半強制的にお泊まり解除となった。
まあ元から家に帰る予定だったし、それはいいんだけど……。
【鞠】
「……近いなぁ」
私の手が届く範囲に、彼らは容赦無く入り込んでくる。
別に、私の気も知らないで、とか云うつもりはないけど……。
【鞠】
「……勢いのあるうちに、もっと応用できるようにならないと」
【ババ様】
「焦りは禁物な気もするがの」
それも勿論分かってる。少なくとも半日は身体を休めるつもりだ。
【鞠】
「取りあえず……朝食作ろ」
【笑星】
「じゃあ待ってる」
【鞠】
「何故……」
【笑星】
「今日の鞠会長の休息は、俺が守るって決めたからね」
勝手なことを。流石雑務。
云ってもどうせ聴いてくれないのはしっかりこの7ヶ月で理解済みだ。
【信長】
「俺はそろそろ戻るか……。じゃあ笑星、会長のこと、頼んだぞ!」
【笑星】
「まっかせといてー! 頑張ってね松井先輩!」
【鞠】
「…………」
ということで、今日は雑務と休日を過ごすことになったのだった。
もうこの程度の理不尽は慣れてしまった。溜息一発でやり過ごせる。……訓練された自分に悲しくなってくる。
それはさておき、しじみ汁を調合しながら、ババ様と会話再開。
【ババ様】
「……鞠が1番気にしていた周りの目は、今回の縮小化作業を完璧習得したことで解決されたが、次はどうするんじゃ?」
【鞠】
「……正直ノープランです。一応理想のものは考えてますが、それよりも前に幾つか経験しておきたい気が」
【ババ様】
「ふーーん。例えば?」
【鞠】
「……今朝作った機体は、縮小化こそしましたが、何も機能を付けてません。今度は何か作業のできるものを造りたい」
より全長を減らし、数を増やし、自分の管理能力というものを慣れさせる。それが今朝の趣旨だったわけだけど……。
その意味で、私がこの2日間でやってきたのは開発するとかの段階ではなく、私がやり方を完全に把握する段階。
3日目は……開発の段階に進もうと思っている。
【ババ様】
「事務仕事が捗るようになるの」
【鞠】
「……そんな単純な話でもないでしょ。全部私が指示常に回してるんですから、私が何も出来なくなる」
もっと数を減らした上で機能を搭載すれば、多少は自分に割くワークメモリも確保できるんだろうけど……私自身の効率は間違いなく失われる。これを本末転倒と云う。
故に、指示を出すという私のワークメモリを損なわない工夫が必要となる。
【鞠】
「……理想としては、私に従順で、私がいちいち指示せずとも勝手に思考し行動してくれて、ついでに周りの目に優しいビジュアルの……」
【ババ様】
「奴隷じゃな」
【鞠】
「…………」
先輩に怒られそう。
【ババ様】
「しかし、それはもう殆ど……生命を造り出すってことじゃな! 難易度跳ね上がるのーいくところまでいくのー」
【鞠】
「……え? 生命? それは、まあそうかも……でも何か、越えちゃ行けない領域な気がする」
【ババ様】
「じゃな。安易にやるべきことではない。負担も非常に大きいじゃろう。その隙間にこそ、悪魔は付け込む。ババ様が守るがの」
【鞠】
「…………」
【ババ様】
「じゃが、これも鞠が脅威と対峙する為の大事な過程。かけがえない経験となるじゃろう。それに……なにも本当に、あの研究所のような仕打ちをするわけじゃなかろう」
【鞠】
「そりゃ、そんな趣味ありませんし」
【ババ様】
「なら……鞠に任せる。いつか何の心配もせずに、お空の旅と洒落込もうぞ!」
【鞠】
「だからしませんってば……」
……次に造るのは、純粋な機体ではなく。
“生命”――
どう工程を立てればいいのか、寝不足の頭では全然整然としなかった。