9.12「練習1日目」
あらすじ
「間違いなく、そう遠くない。鞠が殆どの力を引き出し、縦横無尽に扱えるようになる時は……」砂川さん、修行開始。作者は腕立て2回で沈みます9話12節。
砂川を読む
Day
9/8
Time
9:30
Stage
砂川家 庭
雑務に心配されてたタイミングでもあったので……朝帰りからの学校欠席を私は決め込んだ。激務で体調不良の為、と学園には伝え、修学旅行はどうしたと云われないよう増幅ルートは構築できたという旨を雑務から2年に拡散しておくよう云っといた。
修学旅行も大事だが……今はソレと同じくらい、コッチが私の心境的に心配なのだ。
【ババ様】
「体調不良で休むんじゃから、休むべきじゃろうに」
【鞠】
「云ったのはババ様じゃないですか」
【ババ様】
「まあそうじゃが」
……体調不良というのはあながち間違いではないのだけど、休んでいる暇は無い。だから私は今、革肥の我が家の庭に立っていた。大きさをどう説明したらいいか分かんないけど、軽いゴルフはできる。
此処なら、多少暴発しても……被害は最小限に抑えられるだろう。
【ババ様】
「ストイックじゃのー……毎日コツコツっていうやり方もあるじゃろうに」
【鞠】
「長期戦はイヤなので」
何とかなるんだったら、早くしたい。だから私は今日1日学校を欠席するのだ。
……さて。
【鞠】
「始めますよ――ホント、お願いしますよ」
【ババ様】
「自分の命も懸かっとるからの。まあババ様なりに、附き合おうぞ」
……実際に私から、この段階をやるのは初めてだろう。
【鞠】
「……………………」
――身体の内から。
半分蒸発しているように、何かが漏れ出てくるのが分かる。何をどうやってるのか、やってるのは間違いなく私自身だが、説明ができない。だけど、出来ているのは確かだ。
コレが、私の――奴に繋がる、霊素ということだ。
【ババ様】
「“霊結”は、予め存在する特殊なコードを、世界から引き出し表示するスクリプト。ババ様ら特殊中の特殊な霊素体の専用技を使う場合は、その通常よりももっと深くに、世界の深くに、手を突っ込み掴み、引っこ抜いてくる感覚じゃ」
専用技って何。いや、その表現私は分かってしまうんだけど。確かに、そんな感じだ。
今からやろうとしていることに適応しているコードを“世界”から呼び出して、実行する。例えば、火を飛ばしたり、凍らせてみたり、回復したり……RPG序盤の定番的な奴らは皆そうやって引き出す。“霊結”は各々の“機能”や万気相を発動するよりも遙かに難しい技能であるという前提のもと、ここまでなら誰でも出来る作業。
しかし、私がやろうとしていることは、その一般枠じゃない。もっと専門的で、宿合者という資格の要る、より根源的で、故に柔軟な魔法。
もっと、深層を……もっと根源を、意識する。
想像する……。
【鞠】
「……………………」
私がやりたいことを……数値化し。
それを、探り出した1つのコードに、代入し――
【鞠】
「実行する――!!」
――刹那。
私の真上に、充満した私の霊素が。
甘い香りを漂わせながら――凝縮していく。
【ババ様】
「おお……」
【鞠】
「…………」
空を見上げる。
凝縮するほど、赤黒く見えてくるそのエネルギーが、半透明な物体を構成し――
そのまま不透明な機体へと。
【機体】
「――――」
【ババ様】
「おおおおおおおおお……!!! お空の旅ができるんじゃー!!」
【鞠】
「いややりませんし……」
はい、中止ー……。
【ババ様】
「あれ、乗らないの!?」
【鞠】
「乗りませんよ!」
ちょっと思ってたよりも5回り以上大きくなっちゃったもん! あんなの長時間表示していたらすぐニュースになる。私のずる休みがバレるどころの騒ぎじゃなくなる。
とまあ、初めての一からの“霊結”作業はまずまずの結果に終わった。当然試してないけど……今表示した機体を暴れさせたら、革肥ぐらいは簡単に火の海にできるだろう。
そんな機能を搭載した怪獣ロボットを想像した覚えは全く無いけど、既存の具体的なコードを使っただけなのでソレは仕方無いところがある。云ってしまえば、あの研究所で出くわした魔女のセンスである。
私が求めるのは、更に一から……機能の搭載から自分のイマジネーションが司る、壮大なプロジェクト。それをする力は恐らく用意されてはいるものの、絶望的なほどに私の経験値が足りない。
あと多分センスも。私は画伯みたいに絵心無いもん。元々あるもの、見たものを参考どころか剽窃しちゃう詰まんない人間だ。
それから……
【鞠】
「……ババ様。私の体力もろもろの消耗、どう分析しますか」
【ババ様】
「今みたいのを表示するのに抑も膨大な霊素を必要とするの当然。まあソレ自体は寄生物が永久機関みたいなものじゃから大して問題ではないが、それを燃やす原則作業やら表示物を動かし活動させていく作業やらで常に他諸々のエネルギーを消耗する感じじゃな」
【鞠】
「燃費、わっる……」
1回やっただけで、このかったるさ。
単純な体力以外の何を持ってかれてるのか分かんないけど、兎に角最高に疲れた……。
まあやる前からイメージできることではあるよね……あんなデッカいやつの燃料をこんなちゃっちい私の身体から補給する、というのだから。
では……。
【鞠】
「もう1回……いきます」
【ババ様】
「オッケーじゃ! どんとこい!」
今の作業を、繰り返す――
……………………。
【機体】
「――――」
今度は……2回り大きいな、想像より。
4階建てのビルぐらい大きい。ご近所の目に触れないようにしたいんだけど……。
【鞠】
「私のコントロールがまだ甘いってことか」
【ババ様】
「…………」
じゃあ消すか……と思ったけど、折角出てきてもらったのだ。
軽く動かしてみようか。
【鞠】
「えっと、じゃあ……」
飛ばすわけにはいかないので、この場で運動させてみた。
【機体】
「――――(←腕立て伏せ)」
……軽い運動の部類だと思うけど、地面が軽く揺れていた。中止。
【鞠】
「速報とか流れてたらどうしよう……えっと……お疲れ様です」
腕立てしかさせてもらえなかった殺戮兵器、消失。
ああ、ほんと疲れる……しじみが不足してる……。
初めてのことをやる時はやっぱりこうなるか。でも、それすら予想通りというのは、ある意味良い傾向と云える。
【鞠】
「ババ様、次はどうすればいいですかね」
【ババ様】
「ぶっちゃけババ様もスケールでかすぎて分からん」
【鞠】
「えー……」
発案者ぁ……。
【ババ様】
「鞠の好きなようにやってみるのがいいじゃろ。無論フォローはする」
【鞠】
「……ほんと、お願いしますよ」
家消し飛ばしたら絶対怒られるもん……。
Time
12:30
【汐】
「ふんふんふ~~ん……ん?」
【機体】
「――――」
【汐】
「ってアレーーー!!? 特撮ですか鞠ィ!?」
【鞠】
「……………………」
ああ……寝込んでたら、ヤバい人帰ってきた……。
【汐】
「うわーーすっごい、実際こんな大きさのロボットとか滅多にお目にかかれませんよ武蔵大でもーー!! 十字羽もビックリですねーーー!!!(←激写)」
メイド、案の定喜ぶ。この人大きいもの好きだし。
【汐】
「にしても学校サボってお買い物ですかー? やだー、私よりもお金の使い方がさつじゃないですかこのお嬢様ー!!!(←激写)」
【鞠】
「……………………」
ちょっとはその巨大ロボットの真下で芝にぶっ倒れてるお嬢様を心配しろや。
【ババ様】
「ひー、ひー……(疲)」
【鞠】
「ちょっと、流石に休憩します……」
中止。機体を消失させる。
【汐】
「あ、あれー? 消えちゃったー……鞠ー、何処にやったんですかー」
【鞠】
「さあ、何処行ったんでしょう……よっこい」
起き上がる。
……やっぱり仰向けに倒れる。
習い事は多々経験してきたが、こんな体力仕事は初めてだ。
【鞠】
「……ほんと燃費悪い……」
表示も結構キツいのに、それを常に維持するとなると、そのヒューエルを常に供給し続けなければならない。
いや、それはただ1つ、特定の霊素だけで必要充分であるのだが、やっぱりそれ以外の体力諸々の消耗が激しい。どっちかというと、精神的負担の問題だ。
つまり走り込めばいいというものでなく、矢張り数を積むしかない。いつもの流れ……いや、そういう意味ではいつもよりも簡易的かもしれないが、やってることの規模がぶっ飛んでるので間違っても簡易とは認識してはならない。
【鞠】
「どうでしょ、取りあえずあの研究所で封印されてた人並みには使いこなせるように、というのが中間目標なんですけど。ババ様的には何点ですか」
【ババ様】
「……いや、もうそんなのとっくに凌駕しとるじゃろ。ババ様軽く引いてる」
【鞠】
「提案者の癖に引くな」
あれ、もう達成してるの中間?
【ババ様】
「元々ご利用の力のスペックが比較にならんからの。さっきやってたが、数機同時駆動をすればミマ島なんて一瞬で消し炭じゃな!!」
仮にも自分の管轄の島でそんな例え出すな。
【ババ様】
「いや、ババ様がドン引きしたのは寧ろ鞠の方じゃ」
【鞠】
「はあ……?」
【ババ様】
「いくらやり方が直感的に分かるクイックスタート環境だからといって、コレは早過ぎる……鞠自体に、霊結……いや、其奴の力に対する才があるとすら思う」
【鞠】
「ソレは……嫌すぎる」
慣れてるってだけだと思うけど。
私にある才は、どんだけ詰まんなかろうと数をこなす才ぐらいなんだから。バイオリンも一応入れとくか。
【鞠】
「いつもの流れでいければ……数をこなした先、私は紫上会の仕事並みにコレを習得ができる、と期待しますが」
【ババ様】
「間違いなく、そう遠くない。鞠が殆どの力を引き出し、縦横無尽に扱えるようになる時は……」
【鞠】
「…………」
深層に手を伸ばせば伸ばすほど、怖い。
一歩でも踏み外せば、私は私でなくなるという予感。
故に、私は確実に認識を繰り返す。
【鞠】
「……私が欲しいのは、平穏だ」
立ち上がる。休憩終わり、時間は有限。
休日をもっと有意義にしよう――