9.11「制御」
あらすじ
「其奴は鞠の前に、誰かに寄生していたのではないか?」砂川さん、超絶緊急会議。6話で保留にしてきた問題をここで取り扱います9話11節。
砂川を読む
雑務がシャワー入ってる間に……勿論、私は考える。
いや、会話する。
【鞠】
「……ババ様」
【ババ様】
「ヤバかったの。ババ様、もうダメかと思った」
やっぱり……さっきのはそれだけ限界ギリギリだった、ということか。
しかし今回はババ様という制御すら突破してたのに、どうして引っ込んだんだろう。あのままいけば……想像したくない。
【ババ様】
「ワケ分からんのー。今回も今イチ姿形は確認できなかったし」
【鞠】
「ババ様……確か、云ってましたよね。方法を探しておくと」
* * * * * *
【鞠】
「じゃあ……ババ様が体を張ったにも関わらず、消えてない」
【ババ様】
「今でも、鞠は「悪魔」の力を使える。多分元あった“機能”も、可成り書き換えられとるじゃろうな。彼処に捕らえられた“魔女”たちのように、の。まあ決定的に違うのは、このババ様という人格を護るコントロール機関が備わってることじゃな!」
【鞠】
「いや、要らないんですけど本当」
【ババ様】
「問題は……このババ様でも抑えきれないほど暴れ回ってくる可能性も否定はできないってところじゃ。人としての鞠が死ねば、その鞠に宿合していたワシも9割がた死ぬじゃろう。……まぁ手段は考えておこう。外の景色を楽しみながらのー」
* * * * * *
【ババ様】
「……そうじゃな」
【鞠】
「今は……どういう状況ですか」
【ババ様】
「……フフフッ、鞠よ――」
【鞠】
「ババ様?」
【ババ様】
「はっきり云って進捗してませんッ!!」
【鞠】
「ババ様!?」
うっわー……。
ババ様、景色楽しみ過ぎてたー……。
【ババ様】
「暴発の原因というか、法則も分からんのじゃ。何となく、鞠の精神状況が関係してるような気もするんじゃがの」
【鞠】
「私の精神状況……」
【ババ様】
「前にも云った気がするが、人間ネガティブ過ぎること考えてると弱るもんじゃ。そこに付け込む……というのは余裕であり得るじゃろ」
【鞠】
「…………」
私が、何かを考えている時に。
ソイツは襲いかかってくる。としたならば……今まで襲われた前後、私が考えていたことを思い出すべきだ。
それは……。
【ババ様】
「何か、思い当たる節はあるかの」
【鞠】
「……お姉ちゃん」
【ババ様】
「ぬ?」
【鞠】
「真理学園――優海町のことを、思い出している時に……湧いてきてるような、気がします」
【ババ様】
「……ネガティブな話題、なのじゃな。鞠にとっては」
【鞠】
「そんなところです」
私の綺麗な道が、グチャグチャに掻き乱されたあの時間。
二度と同じことを、やってはいけないのだ。
【ババ様】
「……何が、目的なんじゃろうな」
【鞠】
「……壊そうとしてる」
【ババ様】
「壊す?」
【鞠】
「私の道を……奴は、私の身体を乗っ取って、平穏を滅茶苦茶にしようと」
あの人、みたいに――
【ババ様】
「…………なるほどの」
【鞠】
「ババ様?」
【ババ様】
「鞠……これはババ様のいつもの勘じゃが……もしかして、其奴は鞠の前に、誰かに寄生していたのではないか?」
【鞠】
「――――」
……どうして。
いきなり、そこまで。
【ババ様】
「鞠は、どう思っておる?」
【鞠】
「……そうじゃないか、って……私も考えてました。あの時の、お姉ちゃんからは……」
――甘い香りが、していた気がする。
あの夢のような、どうしようもなく、エグいほどに甘い……。
【ババ様】
「……鞠がお姉ちゃんと呼んでいる其奴は、確かもう既に故人じゃったか」
【鞠】
「……はい」
【ババ様】
「親しい附き合いをしてたんじゃろう。じゃから、今鞠と距離の近い笑星たちのように……かつての宿主であるその姉と極めて距離の近かった、次の宿主候補であった鞠に、宿主死亡時に移ったんじゃ」
【鞠】
「…………」
お姉ちゃんは――今の私のように、とんでもないものに寄生されていた。勿論そんなことを話してもらったことは無い。素振りも無かった。
……だけど、何度か経験したその異様な香りが、過去と現在を決定的に結びつける。
“呪い”を――
【ババ様】
「……鞠よ」
【鞠】
「何ですか」
【ババ様】
「その力……日常的に使ってみては、どうじゃ?」
…………。
【鞠】
「はぁ――?」
何云ってるの、このババ様――?
【鞠】
「もしかしてババ様、既に乗っ取られて――」
【ババ様】
「いやいや、とち狂ってなんぞない、いつもの賢明なババ様じゃ。そんなババ様なりの考えじゃよ」
【鞠】
「…………」
【ババ様】
「力というのは物じゃ。物は基本的に常に対象、主体は人にある。持ち主である鞠が、力をしっかり使うようになれば……」
【鞠】
「何となく……何を云いたいのかは、分かってきました」
力を取り除くことが不可能なら。
力を自ら制御できるようになればいいと。所有者が物を扱う、という正しい構図にすると。
但し……ババ様が、ではなく、私が、だ。
【鞠】
「しかし、私に宿ってしまっているソイツは、ババ様みたいに意思を持ってるんでしょう?」
【ババ様】
「じゃのー多分」
【鞠】
「つまり基本的な物では断じてないでしょう。寄生虫は、種によっては簡単に人をかみ殺しますよ」
【ババ様】
「ソレはするべき対処をしなかったからじゃ。抑も気付けないんじゃがの。しかし、鞠は気付いている。ババ様が左眼となっており、それではない別の存在が鞠の身体に住み着いていることを、鞠は知っている」
【鞠】
「その対処方法を探してもらってたんですが」
【ババ様】
「……鞠の話を聴いてての。いつまで経っても力を使わない鞠から出ることもなく、またそんな鞠をかみ殺すこともなく、さっきも結局寸止めじゃ。何考えてるのかは分からぬが……どうにもババ様は、其奴は鞠に執着しているように思えてならないんじゃ」
【鞠】
「私に、執着……」
【ババ様】
「確固とした法則性が掴めないなら尚更、これは其奴の意思による鞠への働きかけじゃ。どの程度、話が通じるかはやっぱり分からぬがー……主である鞠が、自ら其奴に接近することは、無駄ではない」
【鞠】
「…………」
【ババ様】
「其奴と、向き合うんじゃ。鞠」
“呪い”と……向き合う……。
【ババ様】
「――ていうかミマ島では全然暇が無かったから今度こそもっとお空の旅をしたいのじゃー! あの機体乗りたい乗りたい乗りた~~い!!!」
【鞠】
「それはやりませんよ絶対」
本望そっちか。
あんな特撮ヒーローに出てきそうな……いや寧ろ怪獣の方かもだけど、そんな巨大物体が飛んでたら絶対ニュースになるでしょ。
【ババ様】
「力の使い方は何となくでも分かってるんじゃろ。ババ様も分かったしの」
【鞠】
「まぁ……」
【ババ様】
「じゃったら、何とか慣らしておいた方がよい。手に余ってるという現状が問題なんじゃ。それをできるだけ、解消すること。コレは立派な解決方法の1つじゃとババ様は直感する」
【鞠】
「そう、かなぁ……」
気乗りはしない……。
だってこの力を使えば――あんな惨憺な光景だって実現可能、なんだろうから。
まるでお姉ちゃんと同じ――
【鞠】
「――――」
……………………。
そうか――もしかして……あの時の、お姉ちゃんは……。
“暴走”して、それで――?
【鞠】
「私が辿るのも……だとしたら……」
【ババ様】
「鞠?」
【鞠】
「あ、いえ……ちょっと考えました。ババ様は……この力で……どんなことが、できると思いますか?」
【ババ様】
「ぬ? またえらく曖昧なことを訊くのー。これだけ強大な存在じゃ。あんなデッカいのしか召喚できない小回りの利かない力では無い筈じゃ。もっと、痒いところに手が届くっていうか、物凄くざっくり云えば、できないことの方が少ない的な」
【鞠】
「……ほう」
【ババ様】
「鞠が制御を利かせれば、例えばお手伝いくんを量産して鞠と同じ事務仕事をしてもらう。これで仕事効率倍ドン」
【鞠】
「ほう……!!」
それヤバい。普通に欲しい。
……………………。
【鞠】
「いやいやいや、そういうのがダメなんだってば私」
【ババ様】
「まああんな氾濫に呑まれる想いをするのはババ様もイヤなのじゃー。しっかり制御のフォローするから、な? 年長者の云う事、たまには信じてみるのも処世術じゃー」
……しかし、お手伝い、か……。
ババ様の提案、力に対する評価をくるめて考えるに……。
【鞠】
「できる、だろうか」
【ババ様】
「ぬ?」
ソイツの力を、例えば、完全に引き出せるというならば。ソレで今私が考えているようなモノを造ることができたならば。
ソレが――最低限、確実に、ソイツを消す鬼札になる筈。
【鞠】
「……ババ様」
【ババ様】
「何じゃ」
【鞠】
「私も、もう御免です。あんな想いを、するのは」
【ババ様】
「それは……よく分かっておらんが、かつての姉のことかの?」
【鞠】
「それも、ありますけど――」
【笑星】
「ふは~、良いお湯だったー! ……あれ、そんなところで何もしないで、どったの? 眠れない?」
【鞠】
「……私とて身体を乗っ取られるのは、不都合の極みです」
絶対に――現実にするものか。
今度こそ。
【笑星】
「……? 何か……仕事する顔になってる」
【鞠】
「今日はもう寝るつもりですけど」
【笑星】
「ホントかなぁ……すっっっっごいヤル気に満ちてる、しじみ充填完了って顔してるよいやほんと」
【鞠】
「……私はどんな顔してるんだ」
【ババ様】
「ヤル気になってくれたのは僥倖じゃの」
私の道は、守り抜く。