8.47「代役」
あらすじ
「へへへへ……久々に、暴れ回ってやるぜー……(バキバキ)」ココアちゃん、中堅出陣。一方の紫上会、欠員のアクシデントをどう乗り切るのか、山場は越えた8話48節。
砂川を読む
【冴華】
「……恐ろしい」
松井にあんな特技(?)があったなんて……。
鞠さん、まさか本当に死んだりとかしないですよね……?
【和佳】
「鞠様……」
【冴華】
「……大丈夫よ、あの人は強いのだから」
観客席最前列、観客からすれば本人たちを一番近くで見られる特等席、其処に私や和佳は座っていた。一番最後のバスに乗った筈なのだけど、どうやら後列から優先的に座らせたらしかった。まあ、最前列はステージも壁スクリーンも見えにくいから快適とは云えない、まだ後方席の方が観戦には優れてるんだろう。
でも、紫上会の席が目の前にあるので……色々、戦士たちの話が丸聞こえだったりする。
【信長】
「負けた……いや、正直負けたことよりも会長たちに迷惑を掛けたことの方がショックが大きい……すまない深幸、笑星……」
【深幸】
「うん……お前は、ホントもう、料理しないようにしよう……」
【笑星】
「ある種の才能を感じるよ……きっとテレビ映えはしてたよ、うん。ナイスファイト」
基本的に勝負に負けたら五月蠅い松井が、沈黙している。
あの2人を救護室送りにしたことが、凄く辛いのだろう。
【和佳】
「……あれ? ねえ、お姉ちゃん」
【冴華】
「どうしたの?」
【和佳】
「次、四粹様、だよね? どうするんだろう……」
【冴華】
「……あ……」
ヤバいじゃん。
【冴華】
「茅園……茅園ッ!」
【深幸】
「お……?」
最前席だからってあんまり直接話し掛けたくはなかったんだけど……。
すぐそこの茅園を呼びつけた。
【冴華】
「次、玖珂さんだったんじゃなかった……? どうするの、あの人意識失ってるけど……」
【深幸】
「あ、そうじゃん!? ヤベえどうしよ!!」
【笑星】
「こ、このまま不戦敗は流石に後味悪いっていうか、鞠会長倒れ損で絶対数日不機嫌だよ……!!」
松井が負けた時点でもう既に倒れ損な気がするけれど……。
【信長】
「それは……いけないな。会長の努力を無駄にしては絶対にならない。会長の護ろうとした生放送の秩序を護らなければ」
【笑星】
「え……?」
【信長】
「玖珂先輩が倒れた時点で毒と分かっていた俺の料理をそれでも食べてコメントしたのは……ぶっつけ本番で不安定に違いないこの生放送の合同後夜祭の“映え”を失わせない為だと思う」
【深幸】
「…………世間から醜態扱いされちまったら、しっかり映っちまった自分もまた恥曝しになるってことか……」
【笑星】
「……でも、事実恥曝しなのは学園そのものってことになるよね。だから……会長は俺たちを護ってくれた、感じになるね」
【冴華】
「…………」
きっとあの人なら、こう云うのだろう。自分の代にそんな最悪な歴史を刻んでたまるものか、という感じで。
自己中心的で。
……でも、実際はきっと。
【冴華】
「……和佳。私、職業柄というか……人の気持ちとか、そういうの推察するの得意なんですよ」
【和佳】
「え?」
【冴華】
「……鞠さんは、どういう気持ちで、松井のカレーを食べたのでしょうね」
それを想像推測するほどに……身体が熱くなるような感じを覚える。
沸かせるようなものでなく、私を包み込み、ぽわぽわと温もりをゆっくり点滅させているような……。
【冴華】
「……損な人、ですね」
どう足掻いても、優しい結論に辿り着く。
それ以上の本当探りのヤル気は失われる。元新聞部として、それはどうなんだろう、とも思うけど。
そんなこと勝手にやってると知られたら怒られそうだもの。
【司会】
「さあ、追い詰められた紫上学園、果たして踏み止まることはできるか!! 中堅戦の始まりだあぁあああああ――と云いたいところなんですが、紫上側中堅で出る予定でした玖珂くんが戦闘不能です!! もう少しお待ちください!!」
【深幸】
「少しで何とかなる傷じゃねえぞ……意識も無かったし……」
【信長】
「となると……玖珂先輩ファンには申し訳ないが、代役を用意するしかないか」
【笑星】
「でも、総じて稜泉の生徒会の人は強いよね……ツララ先輩がすごかったから、他も手強いと考えた方がいい」
【信長】
「故に、こちらも迅速に、強者を用意する必要がある……」
【深幸】
「六角先輩や菅原先輩……は、3年だからなぁ……ちょっと相手方に申し訳ない気もするし、抑も今何処で観戦してんのか分かんねえし」
【冴華】
「そんなこと云ってる場合じゃないと思いますが。テレビ映えだって、あの2人なら得意そうでしょう」
元紫上会であるから、強者としての資格は充分。
ただ菅原さんは、ボケだすと学生としてアウトなネタを素面で出してくるから、多分六角さんの方がいいだろう――
と、私なりに適当な指摘をしようと思ったの、だけど。
【信長】
「…………」
【深幸】
「…………」
【笑星】
「…………」
【冴華】
「――え?」
ちょ。
何でそんな、私のこと凝視して――
【司会】
「お待たせしました、中堅戦を始めます――が、玖珂くんコラーゲン攻撃から立ち直れてないので、紫上会側は致し方なく代わりの選手を用意しました。玖珂くんファンの人達、まことに残念でしたーーー!!!」
【ファン】
「「「……………………(←絶望)」」」
【司会】
「さて、中堅戦まずは稜泉側、生徒会雑務・ココアちゃんぁああああああ!!!」
【ココア雑務】
「……貴方が、代役ですか。へへ……正直四粹様と闘わずに済むのは、私としては好都合。全力で……潰せるッ」
【司会】
「対するはー……今私も情報集め進行中なので、全然紹介できないんですが、お名前どうぞ」
【冴華】
「む……村田、冴華、です……」
【司会】
「村田冴華ちゃんだあぁああああああああああああ!!!」
【紫上学園】
「「「村田あああぁあああああああああああああああああああ――!!!」」」
な、何で……
何で私までテレビデビュー!?!?
【信長】
「紫上学園屈指の強者の1人」
【笑星】
「3年生じゃないプラス元紫上会」
【深幸】
「あとミスコン優勝者。性格は兎も角ビジュアル面もテレビ的にグッド。そしてすぐ其処に居た。完璧だぜ村田!!」
【冴華】
「貴方たちッ……!!」
これ、今までの仕返しの一環か何か……!?
だとしたら……うん、逆らえないッ……!
【和佳】
「お姉ちゃん、頑張ってーーーー!!!」
そして妹が真剣に応援してくるー……。
【司会】
「えー、情報が続々入ってきました。村田さんは昨年度の紫上会の雑務を担当しており、学園屈指の学力を有する紫上学園エリート筆頭だそうです。因みに趣味は人の弱味を握って莫迦にしまくることだそうです」
最後の情報生放送しないでッ!?
【冴華】
「じ、情報提供者誰ですか――!!」
【深幸】
「いえーーい」
【冴華】
「茅園ぉぉぉぉぉ……!!」
嗚呼、自業自得の範囲内だろうけど、それなりに隠してきた悪いところがこんな大衆の前で晒された――
【和佳】
「…………お姉ちゃん……」
――ってソレよりも妹に遂に完璧にバレたあぁあああああ……!!!
【冴華】
「妹の失望の視線が辛い……(泣)」
【信長】
「何か、やり過ぎな気がしてきたぞ深幸……」
【深幸】
「いや寧ろ良い感じのキャラ付けになってると思うんだ俺」
【笑星】
「落ち込んでないで頑張ってーーー!!」
妹の視線が辛すぎて生放送どころじゃない私、ステージで相手様と対峙する……。
【ココア雑務】
「なるほど……悪女。ならホント手加減しなくてよさそうだぁぁ……(バキバキ)」
ヤンキー指向な雰囲気を隠さず放出するココアさん。正直顔と声とが全然ヤンキーっぽさと溶け込んでないけれど。
ヤル気は凄く感じられる。ヤバい……ボコられる……
【冴華】
「まあ、それくらいの罪は自覚しているから、それはいいんだけど……」
願わくば妹には何も見てほしくない――
【和佳】
「……………………」
――ってめっちゃガン見してるうぅううううううううう……!!!
【笑星】
「和佳ちゃん、超前のめりだね……そうだ、もうこっちで観戦しなよ。一緒に」
【和佳】
「え? いいんですか……?」
【笑星】
「知り合い権限的な。お姉ちゃん応援したいんでしょ?」
【和佳】
「…………あの……」
【笑星】
「ん、どうしたの?」
【和佳】
「お姉ちゃんは……いじめっ子、なんですか?」
【冴華】
「はは……和佳の前でこれ以上、傷付くのは……」
嫌だなぁ。
【ココア雑務】
「へへへへ……久々に、暴れ回ってやるぜー……(バキバキ)」
【ツララ書記】
「ココア雑務ー、生放送。稜泉の看板と英副会長の努力を背負ってることお忘れ無くー」
【ハコ会計】
「ココア雑務が思いの外テレビでも喋れている」
【石山】
「いや、アレは多分緊張が限界突破してヤケになってるだけ」
【ハコ会計】
「なるほど。ステージに上がって以来延々と拳を鳴らしてるのもただ単に現状を持て余してるだけですか。矢張りココア雑務はポンコツ指向です」
【ココア雑務】
「へへへ……へへへへ……(バキバキバキバキ)」
【司会】
「両者、闘志の火花を散らしているぅううう!! さて、それでは対戦内容決めるよーーー!!」
いや私は完全に気持ちで押されてるんだけど……あ、そうか、まだ対戦内容決まってない。
テレビとか考えないなら、地味なやつ……地味なやつがいい――
【司会】
「コレだあぁあああああああああああ!!!」
【ココア雑務&冴華】
「「――え?」」
司会が籤箱から掴み出した、ルールは……
【司会】
「会長への告白対決だあぁあああああああああああああああああ――!!!!」
……………………。
【ココア雑務&冴華】
「「はい?」」