8.04「画伯」
あらすじ
「まずは和佳画伯のライオンです、どうぞ!」砂川さん、お絵かき評論会。和佳ちゃんと因幡さんが熾烈な闘いを繰り広げます8話4節。
砂川を読む
Time
20:00
Stage
鞠の寝室
夜になった。
特に居残る理由も無かったので普通に帰宅してきたけど、家に帰ってもたいしてやることがない。
バイオリンも……何か、する気にならないし。調子も昨日見ちゃったし。
ってことでベッドで徒にゴロゴロしていた。恐ろしく無駄な時間。でも恐ろしく快適。
【鞠】
「寝ちゃいそう」
まだ晩ご飯食べてないのだけど。いいかなちょっとぐらい。どうせメイドが呼びに来るだろうし――
【鞠】
「……メイドに起こされる」
それすなわち晩ご飯どころじゃなくなる。
ダメだやっぱり起きてよう。ベッドから這いずり落ちて、起き上がる。さてどうしようかな。無趣味というのはこういう時困る。
【ババ様】
「暇ならババ様とお喋りでもしてるかー。連れションとかどうじゃ!! 都会っ子の流行なんじゃろ」
【鞠】
「どこ情報ですかソレ。ていうか端から見たら完全にヤバい人じゃないですか」
恐ろしい適応力を発揮した私は、もうあんまりこの独り言状態すら気にしなくなってきたけど、メイド辺りは結構警鐘を鳴らしてたりする。
あの人にとって、独り言激しい=内向性の極み=引き籠もり、らしい。私をそうさせたくないからか、結構な頻度でこの独り会話を注意してきたりする。
ババ様のことを云おうものなら、メイドの理解によっては左眼を摘出させられるかもしれない。それは何かもう色々と困るので、メイドの手前では控えようと思ってたりするのだ。それでも自分との会話みたいなものなので無意識にやっちゃうというか。癖を通り越した何かなので、これはもう仕方無いんだと私は受け止めてる。
【ババ様】
「最近は平和じゃのー。変わり映えの少ない光景に、ババ様退屈。もっと絶景とか派手なアクションとかみたいのー」
【鞠】
「テレビでいいじゃないですか、そんなの」
【ババ様】
「テレビと現実光景は全然違うじゃろー。というか、鞠はそれでテレビ観てくれるのか?」
【鞠】
「予定はありません」
【ババ様】
「ほらっ。鞠はババ様のことをちっとも考えておらん」
って云われてもなー。平和なのいいじゃん、余計な苦労が無くてばんざい。
【鞠】
「刺激なら、近々文化祭という祭があるじゃないですか」
【ババ様】
「そこではっちゃけてくれるのか?」
【鞠】
「そんな意思はありませんけど、嫌でも非日常が観れますよ。それで我慢してくださ――」
【汐】
「鞠~~夕食のご準備完了です~~~」
ノックしろや。
【汐】
「また独り言で祭りしてませんでしたか~~?(疑り)」
【鞠】
「してません。今行きます」
【汐】
「実はちょっと扉の前で聞き耳立ててみたりして(疑り)」
【鞠】
「だとしたら解雇を考えなければ」
【汐】
「じゃあしてないってことで☀」
してたなコイツ。
まあ電話してた、とでも云い訳しとこう。取りあえずは誤魔化そう。
【汐】
「と、その前に和佳ちゃん達をお呼びに行きましょう。何して遊んでるのかな~ワクワク」
【鞠】
「女の子の部屋に聞き耳立てないでください」
【汐】
「男の子の部屋だったら赦されるんですかね。四粹くんの寝室とか」
それはそれでヤバそう。
Stage
和佳の寝室
【汐】
「はい失礼~」
ほんと失礼だね。ノックなしって。
聞き耳は立てなかっただけマシなのだろうか。
【和佳】
「ふんぬ~~~」
【行】
「…………」
しかし奇襲した割には気付いてくれなかった。なんか傭兵さんまで居るし。
2人は小さいテーブルを囲って何かに集中していた。
【和佳】
「できたーー!!」
【行】
「私も出来ました」
何かが完成した。
【汐】
「それはよかったです。ところで何が完成したんですか?」
【和佳】
「あ、汐さん!」
【汐】
「鞠、和佳ちゃんがお姉ちゃんって呼んでくれません……」
【鞠】
「正常じゃないですか」
【和佳】
「和佳たち、絵を描いてたの。ライオンさん!」
【鞠】
「ほう」
それはまた微笑まし過ぎる時間じゃないか。左眼とお喋りしてる私と比べたら遙かに健康でよろしいことだ。
しかしそれに何で傭兵さんが加わってるのかが気になる。
【汐】
「行ちゃんもやってたんですか?」
【行】
「和佳嬢が暇をしていたので、その附き合いを」
【汐】
「へぇ、殺人業以外にそんな特技があったんですね。ちょっと意外でした」
【行】
「絵描きぐらい、習っておらずともできるでしょう」
【和佳】
「えへへ、行さんとまたちょっとだけ、仲良くなれたかな?」
【行】
「和佳嬢は純粋な性格でよいですね。是非そのままひねくれず育ってほしいものです」
ほんと同意。姉みたいにならないでほんと。
【汐】
「ではお待たせしました、2人の画伯の作品お披露目と参りましょう」
【ババ様】
「いえ~~~~い」
夕食は?
【汐】
「コメンテーターは私と鞠で務めましょう」
そしていきなり仕事が。私そんな気の利いたコメントとかできないんだけど。
どんな絵を描いたのかは知らないけど、取りあえず無駄に傷付けないようしなきゃあの姉に怒られるじゃん。何て面倒な展開。
何か、コメントしやすいライオンさんだと助かります。
【汐】
「では、まずは和佳画伯のライオンです、どうぞ!」
【和佳】
「えへへ、どうかな!!」
【鞠&汐】
「「クオリティヤバい!!!」」
自然とコメントが漏れた。よかった。
ていうか、あれ? テーブル見る限り色鉛筆とクレヨンだけだよね? それでそんな油彩画みたいな迫力作れるの? えっ、怖い。
【和佳】
「えっと、どうです、か……? 和佳、ライオンさん見たことないからあんまり思い出せてないかもだけど……」
【鞠】
「……え? 何も見ないで描いたんですか?」
【和佳】
「イメージで!」
……ここに金の卵がいらっしゃった。
【鞠】
「貴方は楽器なんて弾けなくていいです。筆と絵の具を持ちなさい。それで充分一峰クオリティです。額縁に入れましょうコレ」
【和佳】
「え?」
【汐】
「いやぁまさかこんな才能があったなんて……あっちのお姉ちゃん、知ってるんですかね。後で見せてあげましょう」
【和佳】
「えへへ、お姉ちゃん褒めてくれるかな♪」
これからこの子のことは画伯とお呼びしようか。
【汐】
「さて、精神的に追い込まれてるかな? 続いて行画伯の作品です」
【行】
「やりますね和佳嬢。しかし私も渾身の出来です」
これを見ても怖じ気づかない……この人も結構絵が上手ということだろうか――
【行】
「これが私のライオンです」
【鞠&汐】
「「――――」」
……未知の生物が誕生した。
え、画伯? 何コレ画伯??
【鞠】
「これは……」
【行】
「ライオンですが」
【鞠】
「……ライ…オン……」
このライオン、首どこだろう。頭最高に重そう。
あと千鳥足可愛い。果たして百獣の王者の体重をこの2本で支えられるのだろうか。あともう2本は何処にいってしまったのだろうか。お尻から何かミミズ出てるけどハリガネムシかな。
【行】
「何処か指摘するところはありましたか?」
【鞠&汐】
「「…………」」
……えっと……そうか、この人はそういう感じのセンスなのか。
【鞠】
「……えっと……ちょっと、瞳が小さいというか……動物に白目はこんなに無いんじゃないかなというか……」
【行】
「ああ……確かに。何処を向いてるかを敵や獲物に知られては生存活動に支障が出ますね。流石お嬢、目の付け所が違う」
【和佳】
「和佳も次は白目に注意しよー!」
【行】
「今回は和佳嬢に軍配ですか。次は私に上がるよう努力しましょう。これでも負けず嫌いゆえに」
【鞠&汐】
「「…………」」
この人もこれから画伯とお呼びすべきだろうか。