8.34「さあ稜泉」
あらすじ
「何故ッ、秘密にッ、する必要がッッ」砂川さん、ストレスコントロール。稜泉学園生徒会は紫上会同様に5人編成です8話34節。
砂川を読む
Time
12:30
Stage
稜泉学園第一
……稜泉学園に着いた。正確には、稜泉学園第一キャンパス。
うちの学園同様、正門に巨大なアーチが設置されている。お祭り中という証だ。
【四粹】
「……稜泉学園はいわゆる進学校の部類に入ると同時に、多くの部活動が輝かしい功績をおさめているとのことです。宮坂学園長は、稜泉学園は現状格上であるライバル校と認識されているようです」
【鞠】
「まあ偏差値だけ見たらそうでしょうけど」
部活の功績数も第一における偏差値も、紫上学園はまるで此処の下位互換だ。
……そんな感じのことを書いたニュースや口コミを幾つか目にしたことがある。私は別にソレでも構わないけど、他の人達皆負けず嫌いなので余計な油を飛ばさないでほしい。
というか想像してたより、おっきい学園だ。C等部や児育園は持ってないとのことだけど、それなのに第一キャンパスだけでウチよりも敷地面積広そう。やっぱり部活に気合い入れてるからだろうか。
その広さは文化祭においてもとても有効活用されているらしい。受付でパンフレットを貰って確信する。
【四粹】
「手前たちは何処に行けばいいのでしょう」
【鞠】
「確実に文化祭実行委員の誰かが居る場所ならあります」
2人で1部のパンフレットを拡げて、マップの1箇所を指差す。
「サッカー部グラウンド」、すなわち普段はサッカー部が使っているらしいグラウンド。其処で、特設イベント会場は展開されているとのことだ。
【四粹】
「此処で紫上学園や武蔵大学との連携イベントを行っているのですね」
【鞠】
「取りあえず行きましょう。時間が勿体ない」
……もう既に、“視線”がキツいし。
【四粹】
「此処ですね」
どう見ても特設会場。昨日の武蔵大のコンテスト会場に似た雰囲気だ。
さて、誰に話し掛けていいものか――
【鞠】
「と……その前に。副会長、一旦私から離れてください」
【四粹】
「え……?」
というか我慢の限界、私自ら彼と距離を取る。
副会長、距離を縮めてくる。
【鞠】
「ストップ。ストップ!」
【四粹】
「な、何故ですか。理由を教えていただきたく、手前が何か粗相を致したのであれば――」
【鞠】
「いやそうじゃなくて」
……この人、どうして自分が稜泉に来ることになったのか、予測できてないのか。まあらしいといえばらしいけど……。
【鞠】
「……貴方の役目は、私と共に会議をする為ではありません。だから其処で待機しててください」
【四粹】
「え……?」
【鞠】
「意味は十数秒後ぐらいに分かります。では――!!」
会場裏へダッシュ!
……十数秒、くらいしてから。
どどどどどどどどどどど――!!
【ババ様】
「何じゃ?」
【鞠】
「……やっぱり」
背後から雪崩の音。
【稜泉女子】
「「「四粹さま~~~~~~~♥♥♥!!!」」」
【四粹】
「う――うわあぁあああああああああああああ――!?!?」
【鞠】
「……あー怖かった……」
グッバイ、副会長……後で原型を留めてたら回収してあげるから。
Time
13:00
【司会】
「それでは、ミスターコンテスト、始めます――」
連携イベントが始まった。客のざわつきが実に普通だ。羨ましい。
……その裏で。
【石山】
「お疲れさん砂川会長。あれ、他は?」
【鞠】
「そちらのご要望通り、副会長を連れて来ましたよ。もうグラウンドで喰われてますけど」
【稜泉女子】
「「「四粹さま~~~~~~!!!」」」
……もう悲鳴すら聞こえてこないけど、生きてるのかな。
【ツララ書記】
「紫上学園といったら四粹様。連携するといったら四粹様。なるほど、改めてあの御方の存在感を思い知りますわね」
【ハコ会計】
「あの第一の堅物たちをも骨砕きにするとは。矢張り強者、この海賊王の仲間に取り込まなければ」
【ココア雑務】
「ていうか、あの、もう私も行っちゃっていいですかタマ先輩!!」
【タマ副会長】
「いや、ちゃんと紫上学園様をもてなさないと――」
【鞠】
「別にいいんじゃないですか。寧ろ副会長の生存を確認しに行っていただきたいぐらいですけど」
私の代わりにあの軍勢に突入してくれるなら大万歳。
【ツララ書記】
「ではそろそろ、合宿のような泥仕合になる前に私共も馳せ参じるとしましょうか。稜泉の立派な淑女として、玖珂四粹様に無礼無いようもてなすのです」
【ハコ会計】
「ふはははは将来の海賊王が罷り通るんだぜーーーー!!」
【ツララ書記】
「……(抑もコイツの手綱を引くので手一杯なんだがな)」
【ココア雑務】
「メアドとか交換できないかな……」
3戦士、出陣。
……多分あの人たちもう帰ってこないよね。だとしたら結局私、彼の生存確認しようがないね。グッバイ副会長。
扨、本題だ。
【鞠】
「こっちに後夜祭の情報殆ど入ってこないってどういうことですか」
【石山】
「だって秘密にしてるもん」
【タマ副会長】
「…………(←土下座)」
おっと早速驚異的に行き詰まる予感。
【鞠】
「何故ッ、秘密にッ、する必要がッッ」
【ババ様】
「鞠、円滑に。もっと円滑なコミュニケーションを心懸けるのじゃ」
無茶云わないでババ様、相手が遊び過ぎてる。
【石山】
「合同とは云うが、主催は俺ら稜泉なわけでさ。つまり紫上学園は立派なお客さん。紫上会だってそれに含むさ」
【鞠】
「……で、何で秘密に?」
【石山】
「何やるか教えたら面白くねえじゃん。俺の本音は、会長さんと信長に特に愉しんでもらうことだしな」
だから紫上会にも情報公開してないとッ。
【タマ副会長】
「えっと……一応、そちらの実行委員にはほぼほぼ情報をお伝えしてるんですけど……」
【鞠】
「は――!?」
何ですとッッ!?!?
【ババ様】
「鞠、ストレスコントロールじゃ、ストレスと上手に附き合うんじゃ」
ババ様がどうせテレビで知ったのであろうフレーズを囁いて私を抑えにかかる。
いけないいけない、暴走しない私……だけどめちゃビックリ。
【鞠】
「…………私は実行委員に……弄ばれてたと……」
【タマ副会長】
「ど、どうか実行委員さんを寛大に見てあげてくれないでしょうか! うちの会長がいつも頑張っていらっしゃる紫上会様にこそ楽しんでほしいというスタンスを発表していた以上、何としてもサプライズを維持したいのです……」
【ババ様】
「んー……ババ様そういうの大好きじゃけど、鞠は超絶嫌うタイプじゃの」
……私に少しでも情報を零そうものなら、私の性格上全部把握しようと動くはず。イコールサプライズ失敗。ソレを実行委員及びこの人達は予測していたから、もういっそのこと何一つ情報を見せたくなかったと。
【タマ副会長】
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
【石山】
「英、祭り中に謝り伏すのはどうなんだよー」
【タマ副会長】
「悪気が無いのもどうなんですかー!!」
【鞠】
「……………………」
項垂れる。眼を閉じる。
ちょっと何か、心のやり場が行方不明。今どんな感情が垂れ流れてるんだろう私。痴呆になりそう。
【石山】
「考えすぎじゃねーの紫上の会長さん」
そんな私に、お気楽会長野郎が話し掛けてくる。
【石山】
「ま、そういう仕事徹底するとこ、ほんと尊敬できるんだがな。だから、今回紫上をお客にする上で重要視したのさ。アンタを休ませ、楽しませられたらコッチの勝ちってね」
【鞠】
「……私は貴方の勝負に乗った憶え微塵もありませんが」
【石山】
「この世のありとあらゆるものには、優劣や勝敗がつけられるもんさ。そして俺は、常に勝ちを望む。信長やお前さんが所属する紫上会……俺たちの意識に食らい付いてきた紫上学園。気になっちまったもんは仕方ねえ、さあ勝負ってね」
ここにも勝負脳がいた。
【石山】
「絶対君主たる砂川会長を堕とせるかどうか。そんな楽しい勝負ができるってんなら、こんぐらいの仕事簡単に引き受けてやるさ。なあ英!!」
【タマ副会長】
「いえ……私は今でも反対派です……勝負とかじゃなくて仲良く共有したかったです……」
彼女は最早憔悴していた。何でこんな男子のこと慕っちゃったんだろうね。野暮なので突かないけど。
……人の弱ってる姿を見てると幾分冷静になるってどうなんだろう。まあ今はソレできっといい。思考を、再開しよう。
【鞠】
「……副会長さん、準備は恙無く終わってるんですか?」
【タマ副会長】
「は、はい! これ以上砂川さん達に迷惑を掛けてはならないと、全霊を尽くし、武蔵大学にも多大にご協力いただいて……武道館は完璧に貸し切り、スケジュールも幾十通りのハプニング想定済み、バスの手配も済ませております。紫上学園文化祭実行委員が後夜祭出席やバス誘導、武道館席誘導総てを担当するようです」
【石山】
「つまり後夜祭において、紫上会の仕事は皆無ってわけさ」
【鞠】
「貴方どうせこの副会長に大半の仕事やってもらったんでしょう。偉そうにしないでください本当」
【石山】
「バレてた」
【鞠】
「……あの島で一緒に生き残った仲、とでもしましょうか……もう勝手に動いてて貴方がソレで問題無いというなら、勝手にすればいいです……」
【タマ副会長】
「……! あ、ありがとうございます……!!」
将来良い仕事に就いて、良い生活をするべき人だ。
間違っても夫の理不尽に壊れ尽きないでほしいものだ。
【石山】
「やったなー英! 流石俺たちの副会長ー!!」
【タマ副会長】
「ははは……会長、ずっと野球やってましたもんね……いつも通り頑張らせていただいた英です……(泣)」
【鞠】
「…………」
【ババ様】
「鞠、拳握っとる。解除解除」
ストレスコントロールが発動した。
……殴るのはやめておいた。