8.26「閉園式、そして」
あらすじ
「「「…………へー(^▽^)」」」紫上会、文化祭1日目終了。そして不安のよぎる5人宿泊が始まろうとしていた8話26節。
砂川を読む
Time
16:30
Stage
紫上学園 正門
【笑星】
「帰ってきたね」
学園の正門を通った。
無事帰って来れた。ほんと、よかった。いやこの場所に安心感を覚えちゃいけないんだけど。
【笑星】
「あ、そうだ、そういえば何かまた放送入れるんだっけ――」
ピンマイク、スイッチオン。
【鞠】
「遅くなりましたが、中断式の挨拶の放送といたします。1日目、お疲れ様でした」
【笑星】
「あ……早速やるんだ……」
スピーカーからちゃんと私の声が響いている。恥ずかしい独り言にならなくてよかった。
【鞠】
「既に着手していると思われますが、各団体は片付けと2日目準備に取り掛かって下さい。また、団体代表者は未提出であれば速やかに入票箱とレジ機を職員室に提出して下さい。本日の完全下校時刻は19時となります。遅くとも18時半には巡回職員のチェックを受ける段階へ進み帰宅準備に入るように。以上です」
スイッチオフ。
【鞠】
「緊張した」
【笑星】
「嘘だッ、ナチュラルに始めてナチュラルに終わってたじゃんッ」
私そんな鉄のメンタルしてないし。
【深幸】
「お、居た居た! おかえりさん」
【笑星】
「茅園先輩、お疲れー。どうだった学内は」
【深幸】
「問題あるようなないような……事件は無かったからそこは安心してくれていいんじゃねえのって1日目だった」
うーん何か安心できない感想。
【深幸】
「で、ソッチはどうだったよ武蔵大」
【笑星】
「面白かったよー! 会長凄かったぁ!」
それ武蔵大の感想じゃないよね。私のことじゃん。ナチュラルに嫌がらせ入るのやめて。
【笑星】
「またいつか会長のバイオリン姿見れるかなぁ……」
【鞠】
「しません」
【笑星】
「ケチー」
【深幸】
「バイオリン??」
Stage
紫上会室
【信長】
「足労お疲れ様です、会長!」
【四粹】
「先ほどの放送も見事でした」
本拠地にて残り2人とも合流。
【鞠】
「ふぅ……」
…………って何一息ついてるの私っ。だから此処に安心感とか覚えちゃダメだから。
【四粹】
「何かお飲みになりますか。ご用意いたしますが」
副会長、執事の顔をちらつかせる。
……楽しそうな顔しちゃって。
【鞠】
「……冷蔵庫にレッドウィングがあるので、ソレ机に置いておいてください」
【四粹】
「グラスに移しますか?」
【鞠】
「洗い物が増えるのでそのままで構いません」
【四粹】
「承知」
副会長を追い払ったところで、洗面所に向かう。手洗いうがいは大事。
【鞠】
「……さあ、こっからだ」
仕事らしい仕事は、ここから。
Time
19:00
【鞠】
「……はぁ……」
中断式後の紫上会(実質私オンリー)は忙しい。何をやるかというと、、取りあえず総ての団体のデータ処理。此度の文化祭の勝敗を決するのに使うし、それ以上に法人として整理し保管しておかねばならないモノだ。
で、その為には各団体の入票箱とレジ機が当然必要なわけで。それらが無いと紫上会も仕事が全く捗らないわけで。だから速やかに提出しろと放送したわけで。
【鞠】
「ギリギリ過ぎるッッッ!!!」
なのに最終下校時刻ギリギリになって提出してくる団体多過ぎッ!!!
【笑星】
「ああ……鞠会長、案の定キレてる……」
【深幸】
「何でこんな遅いんだろって見に行ったけど、何か色々散らばってたわ……」
【信長】
「しっかり管理しておけと放送もしたし事前にこちらで研修を組んだのになぁ……」
レジ機の使い方なんてそんな複雑でも何でもないし、入票箱に至ってはポストに投函する感じじゃん、何でソレができないんだ……ッ!!
ってことで開店中のゴタゴタは繁忙によって後回しにされ、閉店してからそのツケを一気に消費して、結果この時間ってわけだ。終いには紫上会が直々に出向いてお手伝いする始末。
余計なヘイトを稼がない為に怒り狂うのを必死に抑えて帰ってきた私、よく頑張った。そしておめでとう私、案の定宿泊決定です。こうなる予感は無いこともなかったので、宿泊の準備しといてよかった。
まあこの入票箱もレジ機も文化祭専用、ポイント換算は自動で完了するようにできている。その計算を目視で見直ししたりVIPやコンテストの特殊ポイントを把握したり、それらで2時間ってところか……。
【鞠】
「9時を目標とする……のはいいんだけど」
【笑星】
「俺、計算はまだちょっと苦手なんだよねー……」
【信長】
「チームを組んでやればいい。俺と深幸、笑星と玖珂先輩で、それぞれ会長の見直しの見直し。」
【四粹】
「……職員室の声も、気になりますね。我々より確実に巡回し問題点に目を光らせているでしょうから、情報の共有は何かしらの役に立つやもしれません」
【笑星】
「あ、じゃあソレを俺たちでやろうかな」
【深幸】
「決まりだな」
いや決まりだなじゃなくて
【鞠】
「何で貴方たちまで泊まる必要が?」
【深幸】
「何でって……文化祭で泊まるって王道じゃねえか」
【鞠】
「いや知りませんし。泊まるのはどうしても仕事のある人達だけ。必須なものは貴方たちには無いでしょう」
【深幸】
「無くたって泊まれるだろ此処は。それに、よくよく考えたらこの面子全員で此処泊まったことって一度も無かったしさ。これを機にと思って」
【笑星】
「計画してましたー」
その計画私全然知らなかったんだけど。
……つまり私が仕事の為に此処に泊まることは予測済みだったわけか。それを踏まえた嫌がらせ。流石。
そして一度云い出すと基本云う事を聞かない。故に私は早期に諦める。
【鞠】
「……はぁ……貴方、今度はちゃんと食べ物とか用意したんでしょうね」
【深幸】
「流石にあの時みたいな失敗は犯さねえよ。ちゃんと食材持ってきた! 寧ろ今回はお前にご馳走してやんよ」
【鞠】
「それは要らないです。私には私の食材があ――」
【3人】
「「「……あの時??」」」
【鞠&深幸】
「「ん――?」」
あれ、何か楽しそうな雰囲気が何故か一変した。
【信長】
「深幸、それはどういうことだ?」
【深幸】
「え? な、何が」
【四粹】
「……あの時のような失敗とは、何ですか?」
【笑星】
「今回はご馳走してあげるってことは、ご馳走になった前回があるってこと?」
【深幸】
「!?!?」
うわー……何か、会計囲まれてる。何だろこの雰囲気。余計なものを発掘されるかもしれない凡ミスの文脈かな。何やってるの会計。
【深幸】
「い、いや、ほらアレだよミマ島! 彼処では会長が朝飯作ってくれただろ!!」
【笑星】
「それなら今度はちゃんと食べ物用意した、て表現会長しないと思うな」
おっとどうやら凡ミスしたのは私もなのかもしれない。何か恥ずかしくなってきた。
まあ、抑も隠すことでもないんだけどさ。
【鞠】
「体育祭手前でその人、ダンス練習に打ち込みたいとかでずっと泊まってたんです。その時ご飯とか何も用意してなかったので、飢えてる姿見せられても困るし食材の消費も兼ねてその期間私が用意したというだけです」
【深幸】
「ちょ!?」
【3人】
「「「…………へー(^▽^)」」」
私としては大したことない、単なる会計の恥ずかしい失敗事の思い出なんだけど。
どうやら彼らにとっては面白い話題らしかった。他人の失敗そんなに面白いの?
【笑星】
「……普通お泊まりでご飯のこと考え忘れる?」
【深幸】
「な、何も云えねえ……」
【信長】
「というかちょっと、深幸ちょっと」
【深幸】
「え、ちょ、何――」
……何故か会計、3人にリビングの方へと拉致られていった。何か怖かった。よく分かんないけど放っておこう。
……最近の若者の文脈の扱い方が分からない。
【ババ様】
「断って良かったのかー男子の手料理を食べれるチャンスじゃぞー」
【鞠】
「いや、だから自分の分ありますし……ご飯とか用意されても困るし」
会計の手料理を食べたいとか、私が思うわけないし。
……てか手料理? あの人達、手料理? できるんだろうか?
【鞠】
「副会長と雑務はまあ何とかなりそうだけど……会計も、まあ」
ただ、何だろ。
正直書記の手料理のイメージが、つかなかった。というか、
* * * * * *
【四粹】
「何か作るのでしたら、お菓子や軽食ではどうかなと。仕事には糖分が必要ですから。しかし今から作るとなると時間が微妙ですから……例えばホットケーキの粉を買ってくれば、割とすぐに出来上がりますよ」
【信長】
「なるほど……! パンケーキですね。ちょっと買ってきます!!」
【深幸】
「……何やってるんだか」
【笑星】
「はー……ビビったぁぁぁ……」
【深幸】
「別に狙って空気悪くするつもりはねーんだけどな……すまん。アイツとこういう感じになるのなんて、初めて過ぎて俺もどうしたもんか分かんないんだ」
【笑星】
「ううん、先輩が悪いんじゃないもん。悪いのは松井先輩だしー。料理に目覚めそうだよあの4番エース」
【深幸】
「……アイツ確か家庭科が一番苦手だったような」
【笑星】
「男は仕事、ってタイプなんだねー……エプロン姿ビックリするぐらい似合ってなかったもん……」
* * * * * *
……え、大丈夫ホントに?