8.17「巡回その2」
あらすじ
「お帰りなさいませ、ご主人様――」砂川さん、お化け屋敷から脱出。続いて入ったお店には、変わり果てた優等生の姿が……。友達のコスプレ写真は見たくない8話17節。
砂川を読む
Time
10:45
Stage
紫上学園 1号館
酷い目に遭った私たちは、取りあえずお馴染みな校舎に入った。
【信長】
「……苦情が積もりに積もったら強制失格も有り得ますね……」
【鞠】
「積もればいいと思います」
【信長】
「いや、流石にそれを願うのはちょっと……」
まあ私の心象は最悪の一言だけど、実際お化け屋敷としては最高のクオリティなんじゃないかとは思う。許さないけど。
学生の出し物と侮ったら確実に痛い目を見るだろう。プロの目に留まったら提案者リーダーであるあの阿部さんは何かにスカウトされるかもしれない。よかったねクラス委員。許さないけど。
さて、貴重な1時間のうちもう半分くらい持ってかれちゃったけど果たして彼はこれでよかったんだろうか。
【信長】
「…………」
ん……。
【鞠】
「……顔、ちょっと赤いですよ。体調悪いんじゃないですか」
【信長】
「え!? あ、いえ。何でもないですよ」
【鞠】
「貴方の言葉はいちいち信用に欠けるので、休んでおいた方がいいです。紫上会として倒れられたら学園も困りますから」
……正直私も体調悪い気がするし。許さない。
【信長】
「……ありがとうございます」
御礼を云われた。
微笑みながら。
【鞠】
「ッ……か、感謝を云われる覚えはありませんが。取りあえず……落ち着いて座れる場所にでも入りましょう」
【信長】
「そうですね。叫ばずに済む場所に」
……だから、そういう顔をするのはいいけど、それを私の間近で私に向けないでほしい。
小っ恥ずかしいから。
【ババ様】
「…………(←ニヤニヤ)」
【鞠】
「…………」
書記にバレないよう左眼を叩いた。
【ババ様】
「あいたー!? 何も云ってないのにー!」
云ってなくたって左眼笑ってたし。
……何この表現、怖い。お化け屋敷でやっていけそうなくらい。
【信長】
「あ……じゃあ、此処でも入りましょうか。喫茶店のようです」
【鞠】
「此処は……確か――」
Stage
2A教室
【女子】
「あ、お客様だよ、村田GO!!」
【冴華】
「お帰りなさいませ、ご主人様――」
【鞠&信長】
「「……………………」」
【冴華】
「――――」
……3人同時に時が止まった。
でも身体は取りあえずテーブルに着いた。
【冴華】
「……………………」
【鞠】
「…………」
【信長】
「…………」
【冴華】
「……………………(泣)」
教室の端っこに設けられた、控え室的な仕切りの奥に引っ込んだ彼女。
それから凄まじく悲しいオーラが漏れ出した。
あとちょっと励まされてる声も聞こえる。笑い声かもしれない。
【信長】
「……そういえば、2Aはメイド喫茶でしたね……えっと、メニューは……」
カフェラテをチョイスした。
……気逸らしの注文が済んだので気が逸らせなくなった。
【信長】
「……村田はしっかり、馴染めてる、みたいですね」
アレを馴染めてるというのかは分からないけど。
まあ私が想像していた嫌な孤立の仕方はしてないみたいではあった。
【鞠】
「……そういえば、貴方は停学中のあの人に色々私の事を流してたんですね」
【信長】
「うっ……それは、すみませんでした……会長に悪い情報は何も伝えてない筈ですが」
【鞠】
「あの人、元新聞部でしょう。意図的に曲解するの得意そうですけど」
【信長】
「それはー……十八番かと……」
ダメじゃん。
【信長】
「……でも、よかった。復学できて」
【鞠】
「……4月時点では仲良いってイメージ全然ありませんでしたけど」
彼女のやり方を非難してた記憶が。
【信長】
「アイツのあの悪い性格は全く気に入りません。断固反対すべきだと思っています。だが……アイツには、俺や深幸に全く劣らない、紫上会への執着があった。いや……勝利というべきか」
【鞠】
「…………」
【信長】
「凄まじい努力をして、それで紫上会に入って。入ってからも沢山の仕事をこなして、結果を出してきた。だから、アイツのことを大半の人が嫌ってはいるけど、同時に皆尊敬していた。不思議な奴です」
私からすれば、不思議なのはこの学園の人間だろうに。普通そんな奴一方的に嫌うだけだ。
だけど、私の居ない去年、その普通を覆すほどに彼女は頑張ってきたのだろう。
自分が自由であれる為の場所に、居続ける為に。妹を護る為に。確固たる強者である努力をした。
私は全部知ってしまったけど、知らない彼らであっても何か思うことがあったのだろう。それがあったから、彼女は今、こうして団体の一員に入っていられるのだろう。
【信長】
「村田は、最近随分と落ち着いてるそうです。今までのように誰かを陥れるような姿は全く見られなくて、雰囲気からすっかり別人になってしまった、と」
【鞠】
「まあ、そんなことする必要はもう無くなりましたから当然でしょうけど」
【信長】
「……会長は、村田を深く知ったんですね」
【鞠】
「気になるなら本人から直接訊けばいいです」
【信長】
「……そうします」
と、噂をすれば的な。
その本人が熱々のカップをテーブルに置いた。
【冴華】
「……………………」
が――立ち去らない。
【信長】
「……?」
一体どうしたんだろう、と思ったら何か視線を感じた。控え室的なところから。
【女子】
「GO、村田、GOだよ!」
【女子】
「相手よりにもよって会長さんだけど、お客様だから構わずGO!!」
……すごい盛り上がってる。
【信長】
「えっと……どうした?」
【冴華】
「ッ――そ」
【信長】
「そ?」
【冴華】
「それではッ、冴華から、お飲み物が一層美味しくなる、不思議な魔法をッ入れさせていただきます――」
【鞠&信長】
「「は?」」
突然自分に鞭打つ前みたいな覚悟の表情しだした。
……ああそういえば、ここメイド喫茶だった。
と肝心なことを思い出していたらメイドさんが持ってた瓶をカップに傾け始めた。
多分ミルクだろう――
【冴華】
「萌え萌えキュンッの、ラテハート~♥」
ミルクとか要らないよねってレベルで甘ったるい呪文を腰を振り唱えながら2人分ラテアートしたメイドさんだった。
【鞠】
「…………」
【信長】
「…………」
【冴華】
「…………」
【鞠】
「…………」
【信長】
「…………」
【冴華】
「…………」
【信長】
「……村田……お前、もしかして虐められてる……?」
【冴華】
「…………(泣)」
【女子】
「「「wwwwwwwww👍」」」
後ろでかんやかんやしてる女子たちはガクガクしてるメイドさんへとグッドサインしまくっていた。
……うん。まあ。
【鞠】
「よかったじゃないですか。身分相応に扱ってもらえて」
【冴華】
「はい……その通りですね……(泣)」
元々したつもりもないけど、心配は無用そうだった。