8.15「開会式」
あらすじ
「文化祭では学級クラスや部活動など各団体がそれぞれ争います」紫上学園、文化祭1日目スタート! 珍しく暇な方の紫上会は初日の流れを確認します8話15節。
砂川を読む
Time
9:00
Stage
紫上学園
【児玉】
「何ぃ、この格好で外を出歩いてはいけないのか!?」
【信長】
「当たり前ですよ……」
ある程度のんびり紫上会室で時を待ってたら固定電話に通報が。そう、通報と云うべき事案。
なんでも、廊下にヤバい集団が居るっていうから取りあえず出動してみたら普通に見知った人だった。
海もプールも何処にも無いのに水着の漢たちだった。
【深幸】
「児玉先輩……この恐ろしい集団は一体……」
【児玉】
「無論我がクラスに決まっているだろう。リラックスサロンを開く。お前達も是非来い、多忙で疲れているその身体を全霊で以て解してやろう」
【漢】
「「「うおおぉおおおおおおおお!!!」」」
とてもリラックスできそうになかった。むさ苦しいにも程がある。
【四粹】
「その……女性の眼には刺激が強すぎるのではないか、と。その身だしなみは……現に我々に通報が寄せられたことですし……」
【児玉】
「そうか? 云っておくがコレは下着じゃないぞ。流石に捕まるからな! だから水着にしたのだ!!」
その配慮程度では到底消せない見た目の不快感。筋肉好きにはたまらないかもだけど、それ以外の人達を目潰ししにかかってる視界の暴力。
勿論私も視界に入れないよう極力下を向いていた。あと高身長の副会長が私の盾になっていた。
【深幸】
「つーか抑も何でその格好で廊下彷徨いてるんすか!! 筋肉見せつけるっていうお店独特の世界観はまぁ黙認しましたけど、せめて何か羽織ってから彷徨いてくださいよ!!」
【児玉】
「それでは威嚇にならないだろう」
【笑星】
「威嚇? 何を威嚇してるのそのマッチョボディで」
【児玉】
「無論他の団体たちをだ。威嚇といっても、いわば体育祭における選手宣誓だな。互いに全力を出し競い合おうと挨拶しに回っていたのだ。ならば、俺たちの本気具合を見せるのに脱がずしてどうするのだ。なあ会長、お前もそう思うだろ!」
【鞠】
「変態思考に巻き込まないで……ッ」
私を何だと思ってるんだこの3年生どもは。
【鞠】
「……少なくとも多くの女子が悲鳴を上げてるので、その礼儀はおもくそ迷惑行為です……今すぐ服を着なさい。さもないと失格も検討するのでッ」
【児玉】
「それは確かに困るな……仕方無し、一旦撤収するか。……しかし普段の傍若無人の冷徹な姿からは想像できないが、赤面しているところを見るとお前も乙女らしい一面を持つのだな。男の半裸など海に行けば幾らでも見れるだろうに」
【深幸】
「半裸どころかパンツ一丁だろうがッ!!」
【児玉】
「いや水着だ」
【笑星】
「パンツでも水着でもセクハラだからッ。会長が怒り狂ってわいせつ罪適用する前にほらほらっ!」
【児玉】
「わざわざ出向かせてしまってすまなかったな紫上会!! 今日はお互い頑張ろう!!!」
わいせつ集団が去って行った……。
【鞠】
「……………………」
【ババ様】
「良い鍛え方をしておるのーあの男どもは。やっぱり男といったら筋骨隆盛じゃの、鞠!」
【鞠】
「……同意を求めないで……」
一体何年この社会で生活してて外を半裸で出歩こうと思えるのか不思議で仕方無い。これも紫上学園の文化だったりするのか? だとすれば私自ら消し飛ばさねばいけない気がする……。
【笑星】
「でも……へへ、赤くなった会長も、結構いいな」
【鞠】
「……見ないでください」
イタズラ心なのか俯いてた顔を覗いてきた雑務からそっぽを向く。
……慣れてないんだから仕方無いじゃん。
【信長】
「会長……その、児玉先輩は元からああいう人なので、寛大に見ていただけないでしょうか……」
【深幸】
「ていうか3年ってみんな年中六角感染症罹患してるからな……あんな感じだよな……俺の記憶が正しければ去年、12月のXMASに漢裸祭りしてたよな……」
【笑星】
「あ、それ俺覚えてる! 体育館貸し切って何か男子も女子も水着で相撲してた。噂だけど、その後年末年始参加者の半分くらい風邪で寝込んでたって」
もうヤダ此処の上級生。
【鞠】
「…………」
【四粹】
「て、手前は関与していませんよ会長。そういった突発的な行事は総て、六角さんか菅原さんが勢いで開催していますので……紫上会の記録にも殆ど残せていないかと……」
【深幸】
「いっそこのまま無かったことにして歴史から抹消しといた方がいいかもなぁ」
それがいいと思う。
……と、こんな莫迦な事件に時間を囚われているうちにもうこんな時間じゃん。
【四粹】
「会長、9時です」
【笑星】
「確か開会式とか、やるんだよね。放送そろそろ流れるかな……ていうか俺たち、何かしなくていいの――」
ピンマイクを胸元あたりにセットして、スイッチを入れた。
【信長&深幸】
「「え゙」」
一応面々に人差し指でサイレントにしとけとサインしておいて……
【鞠】
「― おはようございます ―」
私は挨拶を飛ばす。
対象は、登校している紫上学園全学生。
【スピーカー】
「おはようございます」
ちゃんとすぐ其処のスピーカーから私の声が響いた。遠くからも。
【鞠】
「時間になりましたので、平保31年度紫上最強文化祭、開会式を始めます。この放送は紫上会会長砂川が務めます」
全体に届いている状態と捉え、続ける。
【鞠】
「既に皆さん、把握していることでしょうが……此度の文化祭の軽いルール確認だけしますので、どうぞ作業しながら耳を傾けてください」
頭に叩き込んだ文面を、そのまま口に出す。
【鞠】
「体育祭では全クラスを4チームに分け大きく争いましたが、文化祭では学級クラスや部活動など各団体がそれぞれ争います。今年度の参加団体は全部で54団体です。その中でポイントを一番獲得した団体が、優勝となります」
結局勝負事に集約する、紫上学園の独特な文化祭を。
【鞠】
「このポイントというのは、利用客数を変換した客数ポイント、売上げ金額を変換した売上げポイント、稜泉学園や武蔵大と連携して行うコンテストにて上位を獲得した選手の所属団体に送られるコンテストポイント、特定の客が所有し渡すことのできるVIPポイントに分類されます。これらを2日間で多く獲得した上位3団体には、順位に応じた特殊恩恵と……1位限定ですが学園長のポケットマネーから繰り出されるスペシャルプレゼントが贈呈されるようです」
……彼方此方から奇声(多分盛況してるだけ)が聞こえる。上位を目指すモチベーションとして充分なことが、過去を知る彼らの反応から窺える。
【鞠】
「注意点ですが、正しく勝負を判定する為に、利用客からは必ず利用票を1枚ずつ受け取り、紫上会の配給する入票箱に総て収めてください。また売上げについては、紫上会の配給するレジ機を使って会計を処理し売上げを徹底管理するようにしてください。まだ受け取っていない団体は速やかに職員室にて受け取ること。紫上会としても、文化祭のデータはしっかり資料にし後代に残さなければいけませんので、しっかりお願いします」
まあさっき職員室見たら、全部の団体が既に受け取っていたからこの注意は無駄なんだろうけど。
一応、覚えた通りに総てを口に出す。残り少しだ。
【鞠】
「1日目終了時刻は午後4時。閉店処理をしたら片付けや2日目準備に入ると共に、速やかに入票箱とレジ機を職員室へ提出してください。終了後の動きについては午後4時以降にまた誘導の放送を入れる予定です。……では、確認は以上とします。お客様の入場時刻でもある10時一斉開店を目指し、準備を完了させてください。開会式を、終了します」
ピンマイクの電源を切る。もう放送に入らないので、ふぅ、と息をつく。
【鞠】
「緊張した……」
【笑星】
「いやどこが……?」
放送に入らないので面々も口を開き始めた。
【深幸】
「普通にいつも通り、俺らの知る知らない関係なしに平然とこなしやがって……」
【信長】
「会長、お見逸れいたします……!!」
【四粹】
「……そのピンマイクは?」
【鞠】
「倉庫から見つけました。少し前の代の紫上会が使っていたらしい、此処の放送機と簡易リンクしたやつ」
普通に便利なものが残されていたものだ。
扨、9時を回り、文化祭は始まったといっていい。まあ私たちも、各団体も本当の始まりはあと1時間先の感覚でいるのだろうけど。
そこからどう過ごすのか。これを確認する準備作業は我々もすべきことだった。
【信長】
「まずは、一般客解放の立ち会いを済ませます。去年同様なら、10分程度でいいでしょう」
【深幸】
「そっから、もう紫上会は巡回だな。ていうかただの客だが」
【笑星】
「ただの客ではないよ。俺たちも、VIPなんだしさ」
トラブルが耳に入らなければただ自由に歩き回ってるだけのお遊びタイム。何処の団体にも属せない紫上会ならではの特典とも云える。
しかしこのお遊び、じゃあ何処も回らなくてもいいよね、というわけにはいかず……雑務が云った通り私たちはVIP客。VIPポイントを持ち歩いている以上、それを何処の団体に渡すかをしっかり決めなければならない。テキトウでは一生懸命取り掛かってきた一般学生たちに非難されうるからだ。ここが地味に私の辛いところ。
【信長】
「ただ会長は1日目の連携相手である武蔵大学に行かなければいけない。それが11時半頃」
【笑星】
「さて……そろそろ決めようか」
【四粹】
「誰が、会長にお供するか、ですね」
そう、私は色々あるので武蔵大に行く。ぶっちゃけ今日は武蔵大への出張で1日目が終わる。
で……個人的には私1人だけでいいんだけど、あちら側に代表1人だけかよって思われるのもあれなのでもう1人連れて行くことにしていた。誰が附いてくるのかとか、正直どうでもよかったので彼らに任せてたんだけど……。
何故か今になっても決まってないようだった。
【深幸】
「……このまま全員行きたいの一点張りじゃどうしようもねえからな。最終手段、じゃんけんで決めるか!」
【信長】
「そうだな。恨みっこ無しの真剣勝負!!」
【笑星】
「今日の俺は強いよー……何故なら誕生月占いで1位だったからね!!」
【四粹】
「音頭は……松井さんがお願いします」
何でそんな皆気合い入ってるんだろ。
……そんなに大学の文化祭に興味あるのかな。確かに何もかも規模違うとは思うけど。それでも祭り事には私ほんと興味無し。
【信長】
「じゃーーんけーーーん……ッ!!!」
で、結果は。
【笑星】
「独り勝ちーーーー!!!!」
パーを出した雑務、一発で先輩たちを下す。運勢凄い。
【信長】
「くそぉおおおおおお……ッッッ!!!」
【深幸】
「ぐぅううう……」
【四粹】
「…………」
そして負けず嫌いな人達、超悔しそう。副会長も残念そうな顔滲み出てるのが個人的に意外。
【笑星】
「会長、よろしくー!」
【鞠】
「……附いて来たところで、特に仕事とかありませんよ」
【笑星】
「それでもよろしくー!」
楽しそうだ。いや、楽しみそうと云うべきか。
……武蔵大行って、迷子とかならないかなこの雑務。多少心配。
【鞠】
「……武蔵大から帰ってきた頃には最速であってももう終了時刻間近と思われます。なので3人で閉園立ち会いを済ませてください」
【深幸】
「唯一といっていいかもしれない確実な仕事だな。オーケー」
【四粹】
「承知しました」
【信長】
「……それでは――続いて、最初の巡回で会長と共に回る面子を決めようか!!」
【深幸】
「よしきたぁ!!」
【四粹】
「そうですね」
【鞠】
「は?」
え。ちょ。
【笑星】
「あ、俺も――」
【深幸】
「いや笑星は除外。武蔵大行くもんな?」
【笑星】
「う、うう……致し方なし……」
いや致し方ない以前にそれを決めることそのものが致し方ないことなくない?
とか文句云う前に既にじゃんけん2回戦が始まって――