8.13「前夜へ」
あらすじ
「そして……明日頑張ろうー!!」紫上学園、いきなりイベント前夜へ。にもかかわらず体育祭の時よりもずっと長いコンテンツです8話13節。
砂川を読む
仕事合宿はこれまでも何度か行ったけど、今回は主目的が違うので大して熾烈ではなかった。
穏やかとは云いがたいものの……順調に、文化祭の準備は進んでいき。
そのまま文化祭集中準備期間に入った。
【六角】
「菊川~、どう集めてきた?」
【男子】
「一応色々持ってきたけど、六角のビートのお気に召すかは分かんないぞ」
【六角】
「それは俺が決める。んじゃ一曲ずつ、堪能していきますかー」
文化祭は金曜と土曜の2日間。それを控えた週は集中準備期間とされている。具体的には文化祭手前の月曜~木曜なんだけど、この4日間は授業が午前だけで午後はまるっと各団体の出し物準備に費やされる。
【菅原】
「……んー……アルコールが足りない……」
【女子】
「そりゃただのジュースだしねー。あくまで居酒屋風ってだけだし」
【菅原】
「まあ、味さえ似せられれば構わないわ。あとは……私に任せなさい」
【女子】
「新しいおつまみ開発してみたー。菅原ちゃん味見してみてー」
といってもこの4日で間に合わせる、ていう段階では私的にはもう遅い。だからそれなりに催促はしてきた。結果この週に入る前に出し物を展開する準備はどこもほぼ完了した。
あとは、最終調整。出し物の品質を上げていく暇潰しとなる。
【邊見】
「ほ……ほんとにコレ、着なきゃ、ダメー……?」
【女子ズ】
「「「ダメー」」」
【邊見】
「んー……恥ずかしいなー……」
【男子】
「でもクラスのために頑張る邊見、マジ天使だぜ!」
【男子】
「……俺、できるだけ邊見を見ないよう努めようと思う」
【男子】
「俺も……」
その一方、紫上会も企業や学園との最終調整の段階となる。まあそんな大きな打ち合わせはしないんだけど。
【鞠】
「はい紫上会」
【信長】
「― 会長すみません、えっと……設営の為にそこそこの爆弾を使いたい、と要請が ―」
【鞠】
「……何処ですかそんな巫山戯た要請してるのは」
【信長】
「― 2Dです…… ―」
【鞠】
「…………無論却下で」
あと団体のヘルプに応じたり。
最終下校時刻が過ぎて、学生たちも皆帰ったら私たちも仕事終わり。
個人的な時間の、始まり。
【笑星】
「これ、参考書じゃないよね……普通の読み物」
【鞠】
「全ての暗記すべき項目を意識して1つ1つが簡潔になっている教科書よりも、1つのことを詳しく言及している一般書籍の方が参考になりますから。基本コレを使うのは私の方なので貴方は手に取る必要ありません」
【笑星】
「はーい。へへ……会長が隣に居ると、心強いなぁ!」
【鞠】
「……遅くとも3ヶ月で全科目全範囲を網羅するカリキュラムを組んでるので、もう効率のことは悩まなくて結構です。気合いがあるなら充分」
【笑星】
「俺の得意分野!!」
【鞠】
「……それもあまり超過しないように。私の指示には従うこと」
合宿の主目的である、雑務の学力強化。
これから先もずっと合宿するとは流石に考えてないけど……私の精神疲労とかを考慮しない場合、できるだけこの一緒の時間を作った方がいい。
相手は天敵。思うようにいかない事の方が多いはず。なら、悠長を許さず、一方健康を損なわないよう警戒を維持して、できるだけ詰めていった方がいいだろう。
【鞠】
「1500点を取れる能力を養って、本番で8割の1200点を取れるようするつもりですから」
【笑星】
「すっごいハードルだぁ……」
【鞠】
「寧ろ及第点ぐらいのつもりでいますけど」
【笑星】
「はは、じゃあ俺も、気を引き締めないと。頑張り損にはさせないから、会長」
【鞠】
「……私のことなんて考えてる余裕無いです。さっさと取り掛かってください」
【笑星】
「うっす!」
……そんな、斬新な夜をひたすら繰り返して。
Day
9/27
Time
18:30
Stage
紫上会室
日常なのか非日常なのかよく分からなくなってくる、どこか心の湧くような期間は終わりを告げる。
同時にそれは、本番の始まりでもあるのだろう。今私たちは、その狭間を過ごしている。
【深幸】
「遂に、文化祭だな……大変だったな――って云える程俺らは本来の仕事をやってない気がするけど、まあ大変だったな」
【信長】
「会長、少し早い気もしますが……お疲れ様でした。連携イベントを含めた全ての下地準備、見事な手腕でした」
【鞠】
「……変なこと云ってないで、疲れてるなら早く帰って明日に備えればいいと思います。一応、貴方たちにも仕事があるといえばあるんですから」
【深幸】
「仕事ねえ……つってもいつも通り巡回だけどなぁ。何も無ければ、だが」
【四粹】
「明日については、何も無いことを祈るべきですね」
【笑星】
「うんうん! あー、ちょっと緊張するなぁ、出し物するわけでもないけど」
【鞠】
「……ん」
固定電話が鳴る。
【鞠】
「はい紫上会」
【秭按】
「― 全団体の下校を確認しました。……もうそっちも帰っていいと思うわ ―」
【鞠】
「報告ありがとうございました」
呼び出しの可能性は無くなった。
これでやっと、私たち紫上会も下校できる。もう最終下校時刻ちょっと過ぎてるけど、これは許してくれるだろう流石に。
【鞠】
「帰ります」
【四粹】
「お疲れ様でした」
【深幸】
「お疲れーっす」
【信長】
「お疲れ様でした!!」
【笑星】
「そして……明日頑張ろー!!」
【深幸&信長】
「「おーー!!」」
【四粹】
「お、おー……?」
【鞠】
「……はぁ……」
この空気は好きじゃないというか、慣れが全くない。気まずい。ということで荷物を背負う。
【笑星】
「……あ、会長。今日は帰るんだよね」
会計らと舞い上がってた筈の雑務が私に近付いてきた。
少し小声にした会話。
【鞠】
「まあ、流石に色々準備したいこともありますし。というか貴方もでしょ」
【笑星】
「うん……姉ちゃんに怒られるし。それに、鞠会長の居ないところで合宿したら鞠会長まで怒るしね」
やっとその辺は理解したようだ。
……まあ理解してようと、ついやっちゃうのが恐ろしいところなんだけど。
【笑星】
「……文化祭、終わったら。また、よろしくお願いします」
【鞠】
「カリキュラム上、それが望ましいです」
【笑星】
「……うん!」
【深幸】
「おーい、何してんだ笑星、荷物まとめろー。帰るぞー」
【笑星】
「おっとそうだった!」
雑務がまた駆けていった。
笑って。走って。何かちょっと犬みたいだな、とか思った。
【鞠】
「……さて」
電話をかける。
【汐】
「― やっとですね!! もう、四粹くんと冴華ちゃんで発散するのにも限界が来てましたよー!! ―」
【鞠】
「…………」
副会長の方を見遣る。
【信長】
「あれ……玖珂先輩、それ、薬ですか?」
【四粹】
「え……ああ、これは……ちょっと風邪気味でしたので。もう治りかけですが」
【信長】
「あんまり無茶しないでくださいよ。俺らをもっと頼ってください」
……何か申し訳ない気持ちになった。
【汐】
「― すぐ行きますねー!! ―」
通話終了。溜息を漏らしつつ、アルスを畳もうとした……ところで。
【鞠】
「…………」
思い出した。
もう1人、電話を掛けてみた。
……………………。
出なかった。