8.11「2泊3日を終えて」
あらすじ
「……今日も比較的平和でよかった」砂川さん、普通(?)に昼間を過ごします。「3話の20分割で終わっちゃった笑星くん影薄くね?」と云われましたが、作者は一番影薄いのは残念ながら深幸くんだと思います8話11節。
砂川を読む
次の日も、特に思考停止するレベルで困るようなことはなく、日常の範囲内と判断すべき晴れの日だったといえる。
故に、特筆すべきことも無い。
Time
7:15
【笑星】
「ふわぁ~……おはよー……」
【鞠】
「……! フラフラしてるじゃないですか、体調は――!」
【笑星】
「いや、これただ眠いだけだから~……夜更かしはやっぱりダメだなぁ。でもダメと分かってるのについついやっちゃうんだよなー……」
【鞠】
「死にたいんですか!」
【笑星】
「そんな非難されることなの俺の夜更かし!?」
朝はこんな感じ。
Time
11:00
【体育教師】
「今日は1Fと合同でソフトボールだー。負けんなよ先輩どもー」
【信長】
「悪いが勝負である以上、手加減はできない。全力でいくぞ、阿部!」
【男子】
「いや、授業が成り立たなくなるんじゃソレ……」
【男子】
「ヤバい……甲子園で活躍したピッチャーとバッターが揃ってるぞ先輩チーム……」
【笑星】
「よっしよっし、阿部先輩のシンカーを打ってみせるぞー!!」
【女子】
「頑張ってー雑務くーん(←観客)」
【女子】
「阿部ー、松井くんに気付かれない程度に手を抜けー(←観客)」
【鞠】
「……………………(←観客)」
【男子】
「「「(何で会長こっち睨んでるの……!?)」」」
【男子】
「いくぞー。……ッオラ!」
【笑星】
「かきーーーーん!!」
【男子】
「おお、打った! ……多分阿部先輩が絶妙に手抜いてくれたんだろうけど……」
【男子】
「ランニングホームラン目指せ笑星ーー!!」
【笑星】
「よっしゃ任せ――」
【鞠】
「は し る の ?
( ↑視線のメッセージ)」
【笑星】
「…………」
【女子】
「あれ、2塁で止まった。もっと勢いでチャレンジするかと思ったのに意外」
【安倍】
「……てか会長さん、今日なんか体育の授業前のめりだねー、ソフトボール好きなの?」
【鞠】
「全く」
【安倍】
「ですよねー」
【男子】
「「「(じゃあ何でそんな睨んでるの……??)」」」
授業もつつがなく終わり。
Time
15:30
【信長】
「じゃあ、またリアクションペーパーの回収がてら巡回するかー」
【深幸】
「何処も出し物の準備が目に見えてきたな。信長は全然参加できてねえだろうが」
【信長】
「深幸もだろ。それに俺たちは形として参加できない決まりだしな。中央の人間としての自覚を大切にするさ」
【深幸】
「だなー。笑星行くぞ」
【笑星】
「はーい。へへ、今日もドシドシ、困り事解決しちゃうぞー」
【鞠】
「副会長、雑務が走らないよう監視しててください。これ会長命令です」
【四粹】
「え……? は、はい。承知しました。走らないように、ですね」
【鞠】
「何か困り事に対処するようなら此処に電話してください。私の把握の外で何かやるのは許しません」
【四粹】
「は……はい」
【深幸】
「おっと……遂に俺たちの死守すべき仕事まで剥奪され気味か……?」
【信長】
「もしやまた俺は何か会長の怒りを買ってしまったのか……?」
【笑星】
「…………」
放課後になったらいつも通り紫上会の仕事をこなし……。
Day
9/14
Time
0:00
Stage
紫上会室
という具合で夜を迎える。今日もお泊まりだ。
【鞠】
「……今日も比較的平和でよかった」
【笑星】
「じゃなーーーーい!!!」
隣で雑務がいきなり叫んだ。
【鞠】
「いきなり何ですか」
【笑星】
「何ですかはコッチのセリフだよ会長!! 何だったの今日一日の会長!! 俺すっごい抑圧されてた気がする会長!!」
【鞠】
「……自意識過剰ではないですか」
【ババ様】
「いやコレは思いっきし意図的に笑星制してたじゃろー……ババ様も割とドン引き」
内外同時に非難される私であった。
雑務には不評だったらしい。まあ実のところ予想はしてた。
【鞠】
「迷惑でしたか。まあだとしても私が控える理由にはならないですけど」
【笑星】
「横暴だよー……」
世の中、我慢というのは必要だ。
過不足無く、が一番良い。それを彼はもっと身に着けるべきなのは疑いようもない。
【笑星】
「うう……不完全燃焼~……」
少し彼を意識して一日を過ごしてみてしっかり分かった。
彼がどんだけノンストップで一日走り回ってるかが。
【鞠】
「……何でアレを貴方の姉は見過ごしてるのか……」
【笑星】
「だから、姉ちゃんはもう黙認してるんだってー……俺はやりたいことを全力でやるって」
【鞠】
「全力でやった結果、やりたいことを遂げる前に尽きることだってザラにある。その時後悔することになります、もっと上手にやればよかった、って。夜更かしの後悔と同じ」
【笑星】
「鞠会長が正論で俺を虐める~……」
そんな趣味は無い。
ただ……
【笑星】
「……でも、ありがと。俺のこと心配してくれて」
【鞠】
「貴方を慮っているわけじゃないです。貴方に何かあった場合、最終的に私の責任問題に及ぶ……だからいつも通り、危険の排除を徹底してるだけ」
【笑星】
「ホントだ、いつも通り」
【鞠】
「……無駄なこと云ってないで、手と頭、動かしてください」
【笑星】
「はーい」
昨日同様、拡げられた参考書に眼を戻す。
……今日は一冊の参考書と一冊の問題集だけ。昨夜のリベンジを果たすのに必要なのは、コレだけで充分。
私が要する時間は見積もって30秒。
それをほぼ無知と仮定した場合の雑務に前提知識を教えた上で問題を解かせるのに要する時間は、30分。結構盛りに盛ってるつもりだけど。
何故か結果は40分とオーバーしてしまった。
【鞠】
「はぁ~~~……」
【笑星】
「おお……解けた、解けちゃったよ、ちゃんと理解できたかも俺!」
かも、じゃこの40分無駄なんだけどね。
やっぱり慣れないことに対してはとことん私もポンコツ寄りなんだな。初めてあの家庭教師を尊敬しそうになった。
【笑星】
「俺、もっともっっっと時間かかるんだろうなって内心心配してたんだけど……鞠会長が教えてくれて、助かったぁ……!」
【鞠】
「……それでまた自制の外れた夜更かしされると腹が立つので」
【笑星】
「ちゃんと寝まーす……」
この日は、昨日よりはしっかり寝たのだった。2人とも。
……………………。
【汐】
「ひゃっはあぁああああ鞠が戻ってきましたよおぉおおおおおおお!!!(←ドリフト)」
【ババ様】
「ぎゃあぁあああああああああああ!!!」
宣言通り、2泊3日。夕方には目的としていた状態にまで現実を持って行き、私はメイドに電話をかけた。
その数分後、霧草のいつもの所でボーッと待っていた私の目の前に、縦に回転しながら見慣れた車が停まった。今からこれに乗り込むんだと思うと遺書でも書けばよかったかなとか考えてしまう始末。
で、帰りの車は他の面子が居ないこともあり案の定暴走を極めた。
【汐】
「もーーーーうずっと心配してたんですからーーーメール寄越してもいつも通り無視られるしー!! 家族を心配させないでくださいよーーぅ!!」
【鞠】
「…………」
何かリアクションしようにも、少しでも声を絞り出そうとしたら一緒に色々吐いてしまいそうなので無言で現実逃避の思考に入る。
【ババ様】
「汐の運転は意図的に粗いんじゃあぁああ……(泣)!!」
ババ様の為にも眼を閉じ、シートベルトを全面的に信用しながら、何かを考える。
……あらかた、やるべき追加の仕事も終わった。あとは稜泉が云った通り勝手に準備を進めればいい。あの会長は信用ならないけど、副会長の方がしっかりやるだろう。
割と文化祭がもう近付いてきてはいるけど、多少はゆっくりできるだろうか――
* * * * * *
Time
6:00
Stage
紫上会室
【鞠】
「……?」
【笑星】
「あ、おはよー」
【鞠】
「1時間早くないですか。貴方7時起きしてたじゃないですか」
【笑星】
「早起きして勉強しようって思って」
【鞠】
「…………」
【笑星】
「……ま、また禁止される……?」
【鞠】
「別に、早起きはいいですが。貴方は何に対しても過剰に意気込むので、それが身体の負担になる恐れは充分にあります」
【笑星】
「うー……確かにちょっと自覚はあるけど……でも、仕方無いんだよ」
【鞠】
「仕方無いとは」
【笑星】
「ほら、もう文化祭間近じゃん。来週とか特にさ。あんまり午後は時間取れないかなって……だから、今やっておくんだ」
【鞠】
「どうせ紫上会の仕事など無いのだから、ずっと勉強していればいいのに」
【笑星】
「それはダメ。俺は紫上会だから! 手に入れた仕事はしっかりやるもん」
【鞠】
「はぁ……私、云った通り今日は帰りますよ」
【笑星】
「うん。鞠会長、ほんとお疲れ様。それに勉強付き合ってくれてありがと! 俺頑張るから!」
【鞠】
「頑張るなとあと何度云ったら理解してくれるんですか」
【笑星】
「へへ……よーし、今日中にこの問題集、終わらせるぞー!」
【ババ様】
「多分無理じゃな」
【鞠】
「いや絶対無理でしょ」
【ババ様】
「でも、どうせやるんじゃろうなー笑星は。こういう体当たり系、ババ様大好き」
【鞠】
「いや知りませんし」
* * * * * *
Stage
革肥区
【汐】
「ふぅぅぅ……あースッキリした」
【ババ様】
「きゅぅぅぅ~~……」
【鞠】
「…………」
狭く静かな町に入って、メイドの車は暴走を止めた。
ここまでくれば穏やかな夜は間近。
……だけど。
【鞠】
「…………」
* * * * * *
【笑星】
「――俺は、来年会長になる」
【鞠】
「…………」
【笑星】
「会長の云ってくれたことは、尤もだよ。俺もそう思う。変なところで体調崩すなんて莫迦だもんね。それで皆を心配させちゃ意味無いもん。だから、今後は絶対気を付ける。自分の体調とも、もっと附き合うし、会長がしろっていうならそれも報告するし。……だけどね――コレは、譲れない。会長になるかどうかについては、たとえ鞠会長の意思であっても関与できない。だって決め手は実力試験なんだから。……俺は必ず皆の笑星として、皆を笑わせる。会長になって、恩返しする。邊見たちに。松井先輩たちに。それに誰よりも、鞠会長に」
【鞠】
「……今年だけでなく、来年度も嫌がらせするつもりですか」
【笑星】
「あはは……多分、誰がなっても会長のこと、放っておかないと思うな。こんなに凄いんだから。沢山アドバイスを強請ってくるよ。……そういうわけだから……頑張らないと。こんな壁に立ち止まってる暇は、無い!」
【鞠】
「寝なさい」
【笑星】
「この問題が完璧に終わったら!」
* * * * * *
……ああもう。
【鞠】
「……メイド」
【汐】
「? どうしました? エチケット袋ならその辺に常備してありますよ」
【鞠】
「これで、ノルマは達成ですよね」
【汐】
「……え?」
【鞠】
「貴方に顔を見せた。これでもう家に寄る必要、無くなってますよね」
【汐】
「…………え!?」
静かに走ってた車が、再び揺れる。
嫌な予感もよぎりながら……構わず、決める。
【鞠】
「一旦家に戻りますけど荷物用意してまた暫く宿泊します。シェフにお伝えよろしく」
【汐】
「えぇえええええええええ!?!? 仕事はたいてい終わらせたんじゃないんですかあぁあああああああああ!?!?」
気品の漂うジェントルな街で再び車が荒れ狂う。
【ババ様】
「ぎゃあぁああ~~~~鞠ぃいいいい何てことをおぉおおおおお(泣)!!?」
【鞠】
「ひとつッ、どでかい仕事ッ思い出したので――!!」
【汐】
「うわーーーーん鞠の鬼畜ぅうううううううう!!!」
遂に縦に車が回転し始めた、その中でエチケット袋をセットした私は、思う。
【鞠】
「(聴かなきゃよかった。見なきゃよかった)」
本当、やってくれる。雑務め。