7.05「脅迫!?」
あらすじ
「ナニコレ」紫上会、変なの発見します。私のメールBOXにはこんな感じのが毎日わんさか届きます。どうしたらいいか悩み中な7話5節。
砂川を読む
Time
9:45
Stage
紫上会室
予定よりも可成り遅れて到着。
ヤバい、仕事が積もってる。特に遊んだわけでもないのに夏休みの宿題を残り1週間で片付ける、的な展開に陥っている。合宿が響きすぎた。
【ババ様】
「またつまんない時間が始まるのかー……お外遊びに行きたいのー」
【鞠】
「お願いですから黙っててください。集中させてください、いやほんとに」
どうせ来てるであろう連中に遭遇しないよう、リビングエリアではなくステージエリアを通ってカーテンを開ける。
【笑星】
「あ、鞠会長!」
……残念、仕事無いくせに仕事エリアに3人屯っていた。
副会長はいないようだった。
【信長】
「おはようございます、会長」
【深幸】
「今日は遅かったな。寝坊でもしたかー」
すればよかったなーって思った。
そしたらあの子と遭遇せずに済んだかもしれないし。
【ババ様】
「……鞠はモテモテじゃなー。なー?」
遂に左眼からも嫌味が。
抉り取りたい気分になる。しないけど。
特に誰に対してコメントもせず、いつも通り会長席に座って、仕事道具一式を展開していく。
【信長】
「会長、本日のご予定は」
何故訊いてくる。警戒せざるをえない。
【笑星】
「ご予定はー!」
そしてこの協力攻撃。最近この2人、私に対する嫌がらせの仕方が被ってるんじゃ、なんて極めて無駄なことを思うようになった。
無視してもしがみついてくる人が2人になったということ。効率を考えたら、即座に答えてあげた方がずっとマシ。
【鞠】
「午後から企業打ち合わせを3つ控えています。よって正午には出ます」
【深幸】
「3つ……可成り詰めてきてんな……」
相手にもご迷惑をお掛けしてるのは否定できないが、私の夏休み最後のスケジュールは大体こんな感じ。
現状の構造は甲子園諸々の時と変わらず、事務的仕事については病院でやりまくったのでそこまで問題ではない。だけど企業相手となると時と場所が設定されるので、一度積もってしまうとなかなか消費するのが難しくなったりする。数回の打ち合わせを一気にまとめて、というわけにもいかないから。
文化祭はもうすぐそこまで近付いてきている。全クラス出し物は決まっており、必要となる食材や設備のリストも全クラス提出済み。商品アドバイスや設備設計など一般学生じゃちょっと難しいぞっていうところの洗い出しは完成してないクラスの方が多いけど、まぁ大まかに決まってるのであれば企業さんが良い提案をしてくれることだろう。
ということで紫上学園内の文化祭で連携を取る企業とは全てコンタクトを済ませており、メールや通話で方針共有くらいは済ませている。ただお互いどうしても面を合わせて打ち合わせをしておきたい。それをやって致命的な連携ミスが何処かに無いかを洗い出す作業をしたい。クラスが準備する中でアクシデントが起こることも当然有り得るが、ひとまずこの段階まで行けば私の落ち度は殆ど無い状態となる。あくまで紫上学園“内”の話だけど。
……問題は、修学旅行の方だ。こちらは別大陸が基本になるので、打ち合わせが非常に面倒臭い。ファイル共有のできる通話アプリで何とか済ませたいけど、抑もアルスを使えないっていう担当者もいる。まぁホテルとか確定プログラムとか既に最低限のものは確保してるから、突然の強制キャンセルやルート変更にも何とか対処できる、とは思うんだけど……常に百数十人の旅行状況と各地の治安や環境の状況に眼を見張り、トラブルが発生したら即座に効率的に対処に徹す、そんな神経をすり減らす1週間……流石に紫上会最難関と云われる行事なだけあって、私も苦戦は必至だ。過去の資料を見ても、どの年も何かしらトラブルとかアクシデントが結構起きている。テロに巻き込まれてるケースもあった。
本番中じゃなく、本番手前で何らかの事変が発生して少なくない旅行生のルート修正を余儀なくされる、なんてこともある。ああ怖い……今から震え上がる。
ってことで修学旅行が怖すぎるので、尚更文化祭で手間取ってる精神的暇は無いのである。片付けられることは即行片付ける。ということで集中させてホント。
【深幸】
「ん……んん――!?」
だから集中させろと云ってるのに。
あとその目安箱の確認、意味無いことにいい加減気付いて。
【深幸】
「ちょ、おい信長、笑星!」
【笑星】
「? どうしたの? また会長の悪口?」
【信長】
「不敬が過ぎるなら俺が出動するが」
【深幸】
「いや……これ、見てみろ……」
【笑星】
「……………………」
【信長】
「……………………」
【笑星&信長】
「「ナニコレ?」」
何か不思議なものを見つけたらしい。3人一緒に首を傾げてる。
【笑星】
「鞠会長、ちょっとコレ、見てくれないかな。おかしいんだよ」
【鞠】
「……何ですか」
もうこっちに持ってきてるし。
やむなく作業中断、わざわざ隣に接近してきた雑務が、デスクの上に4つ折りされた指定リアクションペーパーを置いた。
「我々は玖珂四粹の秘密を知っている。」
【鞠】
「…………」
……………………。
【鞠】
「ナニコレ」
ほんと、何これ??
【笑星】
「これしか書かれてないし、名前も書いてないんだよ……」
【鞠】
「…………」
紙を持って、しっかり調べる。10秒も使った。
けど矢張り、それしか書いていない。
【深幸】
「おお……会長が関心を示しやがった。珍しい」
【信長】
「深幸っ……」
興味関心とかじゃなくて、だってこれ、おかしいじゃん。
それに3人もしっかり気付いている。だから思考停止していた。
そう、おかしい。
【笑星】
「これ……脅迫文、的な?」
【深幸】
「イタズラじゃねえか? 現時点ではまだ、ガチのやつと見なすのは大袈裟だろ」
【信長】
「しかし、どちらにしても……玖珂先輩だぞ」
私はしっかり、目安箱に寄せられた内容に全て目を通している。彼らが勝手にやった後も、それ一切関係無しで彼らと同じことを私が自らやっている。
だから、私ははっきり分かっている。今年度に入って、副会長を貶めるような記述をしたリアクションペーパーを回収したのは初めてだと。
抑も貶める意味が分からない。私や雑務なら、分かる。だけど、副会長だ。紫上学園が挙って推薦し、私が何かをやらかして学園全体に大きなダメージがいくことを防いでくれると皆が最も信じている人物だ。
そんな彼に……脅迫文を送るとか、おかしい。当然目安箱のルールに反しているし、紫上会が処理を下す例に含まれる。判明すれば恐らく私よりも犯人は学園で孤立することにもなるだろう。
【ババ様】
「何か、面白そうじゃな! さすぺんす、ってやつじゃろ!」
何でそれは知ってるんだろ。云わんとしてることは分かるけど。
ていうか副会長、何処行ったの。
【鞠】
「彼は?」
【笑星】
「今、職員室で先生たちの書類整理手伝ってるよ」
【四粹】
「……ただいま帰りました」
タイムリー。
早速、見せてみるか。
【四粹】
「会長、おはようございます。退出、失礼しておりました」
【鞠】
「貴方が居なくとも私の仕事に何の影響もありません。それはそうと、これ見てください」
【四粹】
「え?」
直接、紙を手渡す。
【四粹】
「…………――!」
【鞠】
「(ん……)」
【四粹】
「何か、癪に障ることをしてしまったのかもしれませんね。気を付けなければ……」
【深幸】
「いや何にも心配無いっしょ先輩の振るまいにー……先輩が眩しすぎて逆恨みしてる奴が居るのかもしれねーな……」
【笑星】
「何でそんなことするかなー……誰も笑顔になんないよこんなのー……」
【信長】
「ルールを軽んじている者が居るのは間違いない。丁度2学期に入りますし、文化祭も控えている。一度注意喚起を行ってみてはどうでしょうか、会長」
【深幸】
「てかそれ俺らがやればよくね。貼り紙作って貼ればいいんだから」
【笑星】
「よっしゃあ仕事できたー!」
【四粹】
「ははは……」
……真っ直ぐ見てた私だけが、気付けたのかな。
【ババ様】
「何か……動揺してたのー」
【鞠】
「ですね」
変なのを引き起こす前に、調べ抜いた方がよさそうだ。
果たしてこの違反物。
誰が、何の目的で投函されたものなのか――