7.41「今度こそ」
あらすじ
「やりたいことは、見つかったか」四粹くん、帰宅。作者すらあの人のことを忘れてて若干慌てた7話41節。
砂川を読む
【四粹】
「……また、帰ってこれるとは」
玄関の扉を開いた。
怒濤の日々は終わり……僕は、まだ生きていた。
彼らによって、僕が殺されることはなかった。誰も、殺されることがなかった。
彼らは……もう、僕の前に。紫上学園の前に現れることは、きっと無いのだろう。
「朧」というブランドチームは聴いたことがある。どこの組織の所有するブランドなのかは知らないが、世界規模の富豪でなければ1日借りることも困難と云われる地下屈指の戦闘傭兵。会長が従えていたのは、そんな人達だった。
鎌仲さん達は、彼らによって拘束され、処理された。「大輪に送る」と会長は仰っていたが、どんな処理をするにしても、逃れられるものではないだろう。
彼らは――
【四粹】
「……僕の罪が、消えることは……ない」
忘れてはいけない。
僕は、他人を傷付ける怪物、だと。
それは変わらない。……だけど、心境が変わったものがあるとしたら。
そんな僕を支配し、使いこなし、人々を助け、そして僕をも救ってくれる存在が居るという認識。
既に僕はそのような人と出会っていた。彼は僕の手を引き、僕の新たな居場所を作ってくれた。
そして……今は、僕は彼女と――
【四粹】
「……家族……か」
勝者の、覇者の理は――僕の運命をも覆しうる。
僕のある筈もなかった道を――
* * * * * *
【鞠】
「貴方は、莫迦ですか!! 雑務より、会計より、書記より! 遙かに、莫迦じゃないですか!? 何も残らない? 当ったり前ですよ、貴方は歩いてなかったんだから!! 諦めたんだから!! 何年間も、ずっと!!」
【四粹】
「……諦め……」
【鞠】
「決断していくことに、怯えて、全部他人に決断は委ねて、他人の作った道を他人に手を引いてもらって、それで今に至るんでしょう、今の貴方があるんでしょう!! 化け物? ……そんな大層なものじゃないでしょう、貴方は単なる廃人だ!!」
* * * * * *
――いや。違うか。
【四粹】
「……最初から、あったんだ」
だけど、自分で視界を閉ざし、諦めていただけなのだ。こんなに多くの人達を傷付け壊した僕が幸せになんてなれるわけがない、なってはいけないと。
だけど――覆す。
あの人は意に背くモノ全てを屈服させる。道が拓かれる。僕の視界も、再び光を取り戻し、道を映す。
最強の理。
そのもとに居るならば……僕も。
【四粹】
「また、歩いて行けるだろうか」
ならば、僕は――
Stage
四粹の家
【玖珂さん】
「おう、お帰りー」
……………………。
【四粹】
「!?!?!?!?」
……リビングに、彼は寝転んでいた。
玖珂さんが――
【四粹】
「玖珂さん!?!?!?」
思わず駆け寄り揺らす……!
【四粹】
「く、玖珂さん!? どうして!? ゆ、幽霊ですか!?」
【玖珂さん】
「お~~~い人を勝手に殺すな、あと殺す勢いで揺さぶるな~~」
【四粹】
「あ、す、すみません……! 動転、しました……」
思わず、我を忘れてしまった。一旦、落ち着く……。
しかし十数秒静かにしたところで、目の前の現実が信じられないことには変わりない。
【四粹】
「玖珂さん……どうして……姿が見られなかったから、てっきり……」
【玖珂さん】
「アイツらに始末されたとか思ってたか? まあ可能性の1つとしては考えられるが……俺を誰だと思ってんだー? お前さんに業を教えた教育係だぜ? そう簡単に死ぬかよ、お前さんみたいに自殺願望は持ってねえやい」
【四粹】
「……自殺願望を表明したことは僕とてありませんが」
【玖珂さん】
「おお、否定したか。ちょい意外」
しかしソレに近い生活はしていたのかもしれない、今となってはそう思える。
【四粹】
「では……結局、今までどちらに?」
【玖珂さん】
「大輪」
【四粹】
「……渡航してらしたのですか……?」
【玖珂さん】
「地下三帝の安治総業って知ってるだろ? あそこに頭下げてた」
【四粹】
「……地下三帝……? パイプを持ってたのですか、そんな、非常に危険な領域への」
目を付けられたら、どんな地下組織も地上の大企業も呑み込まれる。圧倒的兵器力と組織員を誇る武帝。その話を聴いたのは昔なので、それ以降、紫上学園に入ってからは一度も耳にしていなかった存在だが。
【四粹】
「どうしてそんな危険を……」
【玖珂さん】
「どっち道危険だろー、俺もお前も。だから助けてくんねえかなって情報を提供しに行ってたわけよ。残党が変なことをしようとしてるってな。しかし、不思議なもんだ、隠れて逃げたのは俺もお前も同じなんだが、何で見逃したかね……」
【四粹】
「見逃した――?」
【玖珂さん】
「スーキュアは全員潰すっつってたが、今のとこ俺らに手を出すつもりはねえってよ。安治の傭兵の姉ちゃんが云ってた」
【四粹】
「……………………」
【玖珂さん】
「だが……俺が想定してたよりも、早く終わったみたいだな。それに……案の定奴らに気付いたお前さんはしかし、良い顔で帰ってきた。もっと心身共にボロボロだと思ってたんだが」
【四粹】
「……充分、ボロボロではあるつもりですが。僕だけじゃない、今回の事件に多くの人達が巻き込まれ、苦しんだ」
【玖珂さん】
「まあな……――お前その右手」
玖珂さんが、正座した僕の右手の惨状に気付いた。
表情が崩れた。
【四粹】
「えっと……」
【玖珂さん】
「まさか――オメルタをやったのか! 誰とだ!?」
【四粹】
「……会長とです。紫上会会長、砂川鞠さんに……お付き合い、いただきました」
【玖珂さん】
「……………………」
非常に珍しい、玖珂さんの呆然。
【玖珂さん】
「ふふっふふ……はあぁっはっはっはっはっはっは――!!!」
それは長く続かず、これまた稀の規模の大笑で崩れる。
【四粹】
「玖珂さん?」
【玖珂さん】
「はっはっは――!!! そうかぁ!! だからお前、だいぶにやついてたのかぁ!!」
【四粹】
「……多少は自覚していましたが、そんなにですか……?」
【玖珂さん】
「ああもう、写メ撮って額縁入れておきたいレベルでなぁ!!」
【四粹】
「それは遠慮願います……」
……気が済んだのか、また静かになる。
【玖珂さん】
「……やっと、歩き出せるようになったんだな」
【四粹】
「…………はい。今まで、多大に心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
【玖珂さん】
「全くだ!!」
そう云って、玖珂さんは僕の肩を叩きながらまた笑う。
……そう、僕が立ち止まっていただけ。
そんな僕を護り続けてくれた玖珂さん。手を引っ張り僕を仲間に入れてくれた六角さんたち。
僕は昔も、今も、沢山の人に支えられていたんだと――考えれば導き出せることを、今更思った。
【玖珂さん】
「四粹」
【四粹】
「はい」
【玖珂さん】
「やりたいことは、見つかったか」
【四粹】
「……はい」
こんな僕だけど。
僕には、彼らが居るから。
僕には家族が居るから。
だから、今度こそ――
【四粹】
「僕は――」