7.39「血の真実」
あらすじ
「……ただ、皆さんの役に立てるのならと」四粹くん、覚醒。砂川さんの「真実主義」が地味に炸裂している個人的には名シーンな7話39節。引き続きグロ注意で。
砂川を読む
【鞠】
「はぁ……はぁ……はぁ……――」
貫いた……。
(当たり前だけど)見たことない光景。私の手のひらに、串が垂直にブッ刺さってる。
びっくりするぐらい……達成感が無い。ただただ痛くて苦しい。そして怖い。
【四粹】
「……会……長……ッ――」
【鞠】
「……次は……貴方です……貴方の右手を、今私の右手を貫いている串で通し……手のひらを合わせるんです――」
――って何でこの人、泣いてるの。泣いてるよね? 雨じゃないよね、明らかに泣いてるんだよね。
いやいや、副会長、今泣きたいのは絶対私の方。
【四粹】
「……会長」
【鞠】
「何ですか……」
【四粹】
「――参ります」
しかし泣いてる割には、凜々しいというか。
こう間近で、覚悟決まってるっていうのを肌で感じた。
【???】
「ッ……巫山戯るな――アンタが、アンタが家族になるだと、そんなことは絶対認めるものかァ――!!?」
痒くも何ともない野次が飛んでくる。悲鳴に近い。
……これは、貴方たちの家族になる儀式とは違うのに。
形式を借りたというだけで、貴方たちとは全く関係ない儀式。
このオメルタは――私と副会長の、儀式だ。
【???】
「やめ、ろ――若頭ぁ――!!?」
【四粹】
「…………」
【???】
「若頭――アンタはまた、繰り返すのか!!」
【四粹】
「…………」
【???】
「また、全て消える! 全て壊れる! アンタが触れたもの、全てがッ、アンタが触れた掴もうとした所為でな!!」
【四粹】
「…………」
【???】
「おい……覚悟はできてたんじゃねえのかよ、死ぬんじゃなかったのかよ、この嘘つきが!!!」
【四粹】
「…………」
止まらない。聞こえてないのかもしれない。
彼の手が、私の右手に……近付いていく……。
【???】
「聴いてんのかよ、おい、待て……やめろ――」
【四粹】
「ッ――!!!」
【???】
「――やめろおぉおおおおおおおお……!!?!?」
私の手の甲より伸びた持ち手を掴み……私の手ごと、一気に自分の右手の平に突き刺した!
【四粹】
「ッ……ッオオ、オォォォォオオオオオ――!!!」
ただ串をそのまま突き刺すよりも、絶対難しい筈なのだけど……
【鞠】
「(……え、もう、完了……?)」
【四粹】
「ッ――ハァ、ハァ、ハァ……!!」
私の10分の1ぐらいの時間しかかけてないんじゃなかろうか。
随分あっさり、やってみせたように見えた。天賦の才をここでも発揮したか。
【鞠】
「はぁ……はぁ……はぁ……」
【四粹】
「ハァ――ハァ――」
……さて。
【汐】
「――――」
【行】
「何て……無茶なことを」
こっから、どうすればいいんだろ。
正直こっから、ノープランなんだけど……串外していいのかな。でも嫌なんだけど、これ抜くとか絶対また痛いよね。
【鞠】
「ッ……?」
……悩んでたら、いつの間にか私の右手を……同じ串に貫かれた彼の右手が、軽く握っていた。
【四粹】
「…………」
【鞠】
「…………」
私の血が流れる。
彼の血が流れる。
合わさった手のひらで、互いの血が混じり合っている。
その雨に濡れ流れる前の、ドロドロとした感覚が、最高に気持ち悪かった。それよりも痛くて痛くて何か叫びたくなるんだけど……吐き気とは違った、何か別の、不思議な気持ち悪さが……どうにも心静めていた。
【鞠】
「……これで、まあ、貴方は……家族を手に入れた、ということでいいんでしょう」
【四粹】
「…………」
……あれ、ずっと黙ってるけど、もしかして不服?
日記を見る限り、これをずっとやりたかったんだから、他のどんな言葉をズラズラ並べるよりも確実絶対に効果あるって考えたんだけれど。
怪我損とか、絶対嫌だよ?
【四粹】
「……ただ、皆さんの役に立てるのならと」
【鞠】
「ん……」
【四粹】
「今まで、紫上会を中心として皆さんを支援してきたつもりでした。ただそれのみが、あればいい」
副会長は……まだ泣いてる、だろうか。
【四粹】
「しかし……僕はきっと、嬉しかったのです。楽しかったのです。六角さんが、僕を頼りにしてくださり……六角さんたちと共に紫上学園を動かして……今は、会長のお姿を見続けて、会長たちと走り、叫び、島は大変でしたが……皆さんと居られることが、皆さんと深く関われることが、本当に僕の幸せだったんです」
【鞠】
「…………」
彼は……思いっ切り自分たちの手をガン見していた。
【四粹】
「……これが……道を作る、ということなのですね……本当に、難しくて、苦しい」
【鞠】
「……でしょうね」
【四粹】
「……しかし、貴方が居てくださるならば、僕は……見える。進んでいける、気がするのです」
【鞠】
「そう、ですか」
私はきっと……今、とんでもない寄り道を掘ってしまっていたのだろう。
普通の私なら、絶対に取らない行動。そうに決まってる。
その結果が、コレでさ。兎に角兎に角、痛くて辛くて、気持ち悪い。もしかしたら一生忘れることのできない最悪の思い出になるかもしれない。
当然、良かった、なんて思わない。ただ――
【四粹】
「会長――」
【鞠】
「……何ですか」
【四粹】
「家族に、なってくれて…本当に……ありがとうございました――」
――私の眼前で笑われたら、何か……もうどうでもよくなった。