7.38「家族が欲しい」
あらすじ
「ッ――ホントッ――家族って!!!」砂川さん、ご乱心。前回予告し忘れましたが、ちょいグロ描写にご注意くださいませな7話38節。
砂川を読む
【鞠】
「……家族が欲しいってさっき云ってましたね」
【四粹】
「ッ……!?」
【鞠】
「どうなんですか」
【四粹】
「ぼ、僕は……僕なんかが――」
【鞠】
「ソレはもういいです。所詮過去です。死んでるんですよシナは」
【四粹】
「…………」
【鞠】
「いいですか、現実をしっかり見て。貴方は今、紫上会の副会長ですよ? しかも3年間紫上会を務めるという前代未聞の快挙、圧倒的推薦に値する能力と人望。もはや数年前、家族を大事にした上で友人を助けようとした時の貴方とは別環境なわけですよ。そしてソレを叶える力が、ある」
【四粹】
「ッ――……そんな……僕が……僕は――」
まあ、そうだろう。
この程度の言葉で、先輩でもなく私の言葉なんぞで何かが動くわけもない。
というか先輩でもそうだった。色んな人を巻き込んで傷付けて、それでやっと……道を見据える眼を取り戻したのだから。
――“真実”は、言葉じゃ伝わらない。
ならば、口だけじゃない、己の全てで以て、私達は対峙すべきなのだ。
【鞠】
「――それで足りないなら、仕方ありませんね。貸してあげますよ」
【四粹】
「え?」
【鞠】
「私の、力を」
ばしゃしゃしゃ――
私達の周りに、どんどん人が落ちてきた。流石にちょっとビビった。
えっと、6人……あれ、それに5人もちょい遠くに。
【???】
「ぐ――ッ――!」
つまり……全滅じゃないですか。
【行】
「拘束確認」
【朧】
「「「了解」」」
仕切ってるってことは……この人、朧のリーダーみたいな感じなのか。
仕事の顔してる……と思いきや普通にニヤニヤしてる。怖い。
【汐】
「あー、これでやっと日常に戻れますねー」
【行】
「それで……これからどうしますか、お嬢」
【鞠】
「まあ全員大輪に飛ばせばいいとおもいますけど……その前に」
【???】
「ッ……砂川、鞠ぃ――!!」
……水溜まりの中で拘束されて呼吸も辛そうな敗者たち。そのうちの1人に、刃物を見せつける。
【鞠】
「これ、昨日私に襲いかかろうとして夢破れた人が所持してた串です。一応しっかり洗浄済みです。武器としてはちょっと珍しく感じますが……貴方たちにとってはコレは、絆の証なんですね」
【???】
「ッ――何で、貴様が……――返せ、風間の戒めを!!」
【鞠】
「だから洗浄したって云ってるでしょ。まあ、戒めが残ってようとどうでもいいですけど……使わせてもらいますね、貴方たちも、見届けてください」
【???】
「なに?」
【鞠】
「さあ、副会長。私達は……勝ちましたよ。故に、決めなさい。貴方は――貴方の人生に、何を望むんですか」
【四粹】
「……………………」
【鞠】
「貴方は――貴方の人生に、何を望むんですか?」
確定していた筈の絶望が、終わりが……砕かれた。
諦めるしかなかった筈なのに。素人である筈の会長が、持てる力を使って、諦めることなく、彼らを打ち倒してしまった。
どうして、そこまでできるんだ。
怖くないのか。
僕には――会長が、分からない。あまりにこの人は――
【四粹】
「(……覇者)」
――もし。
本当に、可能ならば。
貴方が力を貸してくださるというならば……。
矢張り――僕は――
【四粹】
「家族が……欲しい……僕は、家族が欲しい――!」
【鞠】
「…………」
家族が欲しい。
……もう今更こんなこと思うのも莫迦らしいとは思うんだけど。
まーーーーた家族かーー……。
【???】
「ッ……アンタは、ちっとも懲りてねえのか!! 家族なんて――そんなものを持つ資格は――!!」
【鞠】
「それを貴方たちは云える立場にあったんですか?」
【???】
「……!?」
【鞠】
「彼がやらかした、というのは否定しませんけど。抑も家族員でプロ中のプロだったのにボスを護れなかったんでしょ、情けないのは貴方たちも同じじゃないですか」
【???】
「ッ……ッッッ」
【鞠】
「ま、そんなのはもうどうでもいいです」
どんな野次を飛ばそうと、それは全て敗者の愚痴。何の価値も無い。勿論、聴く価値も。
【鞠】
「それよりも……大事なのは、儀式なんですから」
しっかり洗った、銀の串。人を殺せる凶器を……副会長にもしっかり見せる。
勿論、すぐに気付いた。
【四粹】
「――! 会長、まさか……オメルタをやるおつもりですか……!?」
【???】
「「「――!!?」」」
【汐&行】
「「……は!?」」
* * * * * *
【行】
「……間違いない。これはシナのオメルタです。しかし……ほう、シナのオメルタは特殊なのですね」
【汐】
「どういうことですか?」
【行】
「オメルタは基本、組織の鉄の掟そのものを示しますが、シナでは組織の者、家族員として心血を共にする加入儀式についてもオメルタと表現するようです。加入者と家族員で合掌する右手に銀の串を貫通させ、混じり合う血液で以て右手同士を染める儀式を」
【汐】
「うっわ……絶対やりたくないですねソレ」
【行】
「しかし、強力なチームワークはきっとそこから出発しているのでしょう。ブレの無い機械的な仕事様からイメージしていたからか、個人的に意外です。シナは、「家族的」なのです」
* * * * * *
【鞠】
「……ババ様。すいません、覚悟を」
【ババ様】
「……めちゃ痛以上じゃったら、流石に恨むぞ鞠」
【鞠】
「私が取りあえず上司ってことで。私から……やりますよ……」
【四粹】
「会長!!」
【汐】
「鞠、待ってください、オメルタをやるって……それってつまり――」
溜息……ではなく、深呼吸。
すーーーー……
はーーーー……
すーーーー……
はー――
【鞠】
「ッ――!!!!」
はーーと一緒に思いっ切り右手の平に、鋭い串を突き刺す!!
【汐】
「鞠ぃ!?」
【鞠】
「ッッッ~~!!!」
【ババ様】
「ッッッ~~!!!」
痛い……最高に、いったいッッ!!
そんでもって……全然貫けてない!! 骨も肉も結構硬い……!! 勢いよくやった筈なのに……!!
【鞠】
「はぁ……はぁ……」
吐き気がする。
怖い。
逃げたい。
【四粹】
「会長――!! やめてくださいッ、会長がそんなことをすることなんて――」
【汐】
「鞠、抜いてください!! 鞠!!!」
【鞠】
「う…る、さい……!!」
だけど……先輩と約束したんだ。
今日は……何も考えずやるんだって。やりたいようにやるんだって。
やるからには……ッ!
やり通すッ!!!
【鞠】
「……ッ…ッッ~~~――!!!」
押す。押す。押す……!!
【汐】
「――鞠――」
どんどん、突き破られた手のひらから、血液が流れていく。狂気と呼ぶほかない、自傷行為。
心から思う。
【鞠】
「ッ――ホントッ――家族って!!!」
目を瞑り。
雨で滑る左手で、しっかり持って……!
一気に!!
【鞠】
「ワッッケ分かんなーーーーいッ!!!!」
貫く――