7.37「やっと見つけた」
あらすじ
「だからこういう天気に貴方が出てきたこの絶好の機会に私は外出してきたんです」砂川勢、暴音暴風の最終決戦。久々な四粹くんとも、可成りダイレクトな会話を心懸けます7話37節。
砂川を読む
Time
25:00
Stage
水上区 噴水橋公園
【四粹】
「――会――長――」
【鞠】
「…………」
よかった、生きてた。
【ババ様】
「すっごい雨じゃな……! 叩きつけてくるぞ、こんな外にいたら死んでしまうぞ!」
【鞠】
「コレはババ様がやってるんじゃないですよね」
【ババ様】
「なーんにも関与しておらん! あいたたたた」
うん、痛い。今俯いてるから後ろ首にガンガン雨の弾丸が。
こんな嵐の中、副会長と一緒に居るこの状況。何かミマ島での災難を思い出す。
まあ此処はしっかり塗装された公園だけど。此処は……橋の下だから、普段は結構な池だ。多分この人、この公園の歩道橋から落ちて池ポチャしてたんだろう。だけど、この増水必至の大雨の中で溺れずに寝れるくらいには池の水位が下がっていた。増水を見込んで水を抜いておいたんだろうな。
【鞠】
「……貴方が学園を欠席すると、学園は一気に曇るんですよね。せめて連絡を入れてほしかった。見つけるのに、大変時間がかかった」
まあ探してくれてたのは朧の人達なんだけど。
【四粹】
「――どうして――会長が、此処に――」
【鞠】
「私の台詞でもありますがね。此処で何を……いや、それよりも今の今まで何処で何をしてたんですか、若頭」
【四粹】
「ッ――!! ……そこまで……来て、しまわれたのですか……」
【鞠】
「多分後でバレるでしょうから今のうちに白状しておきます。貴方の家に侵入しました。それから貴方のノートや日記を拝見しました」
【四粹】
「……そうですか……」
ずっと、あんなプロ中のプロが見つけられずにいたのか疑問だったんだけど、答えはこっちにあったということだ。
この人もまた、凄すぎるのだ。
【四粹】
「……ならば……尚更、何故……此処に」
【鞠】
「どういうことですか」
【四粹】
「僕は……最低な、怪物だというのに!」
最低、ね。
日記の後半、凄まじい数書いてたね。
まるで自分はそうなんだって自己洗脳するぐらいに。
【鞠】
「……貴方の旧名は、椎名八慶なのですね」
【四粹】
「……その通りです、僕はシナ・ファミリアの頭……椎名百万の子で……若頭と、されていました」
【鞠】
「しかし、敵対していたギャングスタの組織員を……友人を護る為の正当防衛で殺害した。このことが切欠で抗争が激化し、貴方の父親は殺害されてしまった」
【四粹】
「特殊顧問である玖珂さんが、僕を連れて……大輪大陸から脱出しました。父さんの最期の指示で……僕を、逃がすために……」
【鞠】
「ファミリアの中核である頭だけでなく、若頭や顧問までもが消えたことで、力を維持できなくなったシナは他の地下組織に簡単に壊滅させられた」
【四粹】
「……僕の、所為です……僕が勝手なことをしたから……父さんが、皆が……」
【鞠】
「あとついでに、紫上学園も危険に晒されたわけですね。どうして貴方に注目し入念に調べようとしたのか、その初動まではまだ分かってませんが、村田優可は貴方の正体に気付いた。そしてその情報で、シナの残党に、商売を仕掛けた。結果、中央大陸に生き残りである12人が、貴方へ報復する為に渡航してきた。……と、こんな風に私達は推理しましたが」
【四粹】
「……畏れ入ります」
ほんと畏れ入るよ、先輩。
【四粹】
「僕は……先ほど初めて、シナがとっくの昔に滅んでいたことを、知りました……彼らが僕を恨んでいるのは当然のこと、ですから村田さんを学園で貫いたアレは、僕へのメッセージだと考えました。20人近い、恐ろしい匂い……皆、僕を探しに来ているんだと。そして……オメルタによって僕を殺すのだと」
20人近い――ああ、そうかそういうことか。何と云うか、すれ違いまくってるな。
【鞠】
「……だから、貴方は紫上学園の日常が脅かされないようにと、独りで接触を試みていた……ということですか」
流石、自己犠牲精神の塊。プラス若頭。ガッツが違う。
……ただ、シナの現状を知らなかったから、全部空回りで無駄だった。これはとんでもなくダサい。
【四粹】
「会長……彼らは、云っていました。紫上学園の皆さんを……殺すと。手始めに、貴方をと……」
【鞠】
「まあ、私の雇っている傭兵が1人やっちゃいましたから、ソレを為す為にまず脅威となり得るものから消しておくのが普通ですね」
【四粹】
「……逃げて、ください……この大陸から――」
【鞠】
「無理ですよ。逃げ場なんてありません。現に今、戦闘が起きている」
雨音が大部分を消しているけど……僅かに、彼方此方から銃声音が聞こえる気がする。
朧の皆さん、張り切ってらっしゃる。因みに何故かメイドも張り切っていた。死にたいのかな。
【鞠】
「傭兵曰く、貴方を発見した時点で付近にまだスーキュアが居るとのことでしたので、私の指示で1人集中リンチしてもらいました。あっ、さっき貴方20人近く自分を狙ってるとか云ってましたけど、うち7人はこちらの人なので」
【四粹】
「な――会長、彼らを、軽視してはなりません……! 5人居れば、どんな数でも、どんな相手でも――彼らの神経を逆撫でするような行動は……!」
【鞠】
「勿論、ここ数日で仕留められませんでしたから、侮ってません。だからこういう天気に貴方が出てきたこの絶好の機会に私は外出してきたんです」
【四粹】
「え――」
……と。
バシャンッ、と隣に身体が転がってきた。落ちてきたというべきか。
2人落ちてきたうちの1人は、燥いでる知人のクッション代わりにすらされた。煽ってるなぁ。
【汐】
「ふぅ……流石に骨が折れますねー。何より視界が悪い」
【鞠】
「無理しないように」
【汐】
「お、私のこと心配してくれるんですかー?」
【鞠】
「こんな雨の中徒歩で帰りたくないからに決まってるでしょ」
【汐】
「えへへ、それもそうです。大丈夫、引き際は見極めますよーっと」
メイド、闇に姿を消した。
……脳筋め。
【四粹】
「ッ……!?」
【鞠】
「あの二次組織は、拳銃使わないんでしょう? 証拠を残さない為に、串型の刃物で即行に、美しく仕留める。つまり……こんな雨の日の訓練を徹底して積んでるわけないですよね。雨の日にはやらないんだから」
雨に濡れたら血痕が流れ出てしまう。
視界も悪いし足場も悪いしでミス率が高くなる。
……証拠が、残りやすい。
故に、彼らは退避する訓練はこなしていても、抗争する訓練の意味は持たない。
【鞠】
「シナはとても家族的だったと聞きます。仲間との絆が深い。なら……いきなり襲われて、集団リンチなんてしてきたら、他の仲間は怒り狂うかなって。それプラス……私がこんな天気に外出してきた。集団リンチを指示した私が、貴方の目の前に。……貴方を絶望させるのに、これ以上無い距離でしょう」
【四粹】
「……悪天候の中で、彼らを引き摺り出す為に……」
1人を集中攻撃というのは護りも徹底したい朧としては非効率でリスキーだが、私のこの考えに彼女は賛成した。
この荒天の中なら、訓練している自分たちが遙かに優勢、この時間を逃す手は無いと。
【鞠】
「まあ流石に全員私へ攻めにはきてないみたいで、11名のうち6名が私を殺しに接近してて、5名が周囲状況の分析。フォロー側の5名がどうなってるかは知りませんが、ここでは既に2名脱落。どうです、もう5人未満ですよ」
私なりの確信。
敗北は、無い。
まあ空中で繰り広げられてる壮絶なプロ同士の戦いに干渉する力は当然ないので、あとはもうゆっくりしているしかない。雨粒痛い。
【四粹】
「……会長……貴方は――」
【鞠】
「…………」
【四粹】
「どうしてここまで――こんな、危険なことまでして、何故僕を――」
【鞠】
「…………」
だって、貴方は紫上会の副会長だから。貴方が居なくなれば、とんでもない大打撃だから。一気に不信感が煽られて、自分の紫上学園生活が一気に危機へと向かうだろうから。
それにアッチが私を狙っているだろうなって分かってからは、排除は必須だったわけだし。
……だけど、それらの理由を差し置いて。私は……どうしても会わなければいけないって、思っていた。
【鞠】
「…………なるほど」
こうして、眼前で貴方を見ていると。
こんな草臥れた貴方を見てしまうと。
* * * * * *
【六角】
「「僕と関わると、皆が不幸になるから」だそうだ」
【菅原】
「楽しんでないとかそういうんじゃなくて……周りの人を、助けることしかしないのよ。それは……果たして彼個人の動機あってそうしてるのかが、六角の話を聴いてて気になった」
* * * * * *
【冴華】
「人生で一番楽な選択肢は、何だと思いますか? それぞれの進路を行く中で……」
【鞠】
「……え?」
【冴華】
「私は……諦めること、だと思っています。道を掘ることを、道を選ぶことを、道を考えることを、放棄することだと思います。私なりの観察でしかありませんが……あの人は……既にそれを選んでしまったんだと、思うのです」
* * * * * *
嫌でも、分かってしまう……。
【鞠】
「……貴方は……道を歩むことを、諦めていたんですね」
【四粹】
「……え」
【鞠】
「……貴方に、非常によく似た人を……私は知ってます」
今は元気になってくれたけど。
あの悲劇が起きてから暫く、あの人は虚ろになっていた。
選択すること――道を「決断」することの理不尽にボロボロにされて、歩けなくなってしまった姿を、私は見ていた。
そんな私だって……全てに絶望していた。今だって……その殆どは解消されてない、と思う。
【四粹】
「…………」
あんな日記を読めば、きっと誰でも思い知るだろう。
【四粹】
「僕は……僕の、道は……結局、全て零れ落ちて――何も残りませんでした」
【鞠】
「…………」
【四粹】
「僕は……一体……何なのでしょうか」
この人が、一体どれだけ家族に恋い焦がれていたか。
ラスト数ページからは、自分が引き起こした現実への悔い、悲しみ、罪悪感ばかりが。
本当に……似ていた。
日記を読んで、ソレに気付いて……居ても立ってもいられなくなって。
だから、私は来たんだ。何も考えず、ただこれだけの為に。
だから――
【鞠】
「――莫迦ですか!!!」
――叫ぶ。
この雨に埋もれないよう、ハッキリと、目の前に、叫ぶ。
【四粹】
「ぇ――」
【鞠】
「貴方は、莫迦ですか!! 雑務より、会計より、書記より! 遙かに、莫迦じゃないですか!?」
虚ろだった眼が……仰天の形で、焦点を私に合わせていくのが分かった。続ける。
【鞠】
「何も残らない? 当ったり前ですよ、貴方は歩いてなかったんだから!! 諦めたんだから!! 何年間も、ずっと!!」
【四粹】
「……諦め……」
【鞠】
「決断していくことに、怯えて、全部他人に決断は委ねて、他人の作った道を他人に手を引いてもらって、それで今に至るんでしょう、今の貴方があるんでしょう!! 化け物? ……そんな大層なものじゃないでしょう、貴方は単なる廃人だ!!」
【四粹】
「――――」
……私には、先輩が居た。
先輩には、仲間が居た。
だから私たちは、歩く力を……完全じゃないにしても、取り戻したのだ。だから先輩は全國大会にも出たし、修学旅行にも参加しているのだ。だから私はきっと、今紫上会なんかをやっているのだ。
だけど……この人には、誰も居なかったのだ。
最も近い場所に居た前会長すらも……悔いを残してしまった。
ならば……今、役目を受け持つのは――
【鞠】
「……家族が欲しいってさっき云ってましたね」