7.27「銃声」
あらすじ
「流石、シナ伝説の暗躍部隊……地下社会屈指の高速暗殺のプロですね」砂川さん、刹那の窮地。因幡さんは本編でも活躍されますが、その詳細は全くの未定な7話27節。
砂川を読む
Day
9/3
Time
6:45
Stage
砂川家 ダイニングフロア
朝になった。
私としてはいつもより少しだけ早いご飯の時間だ。
【鞠&汐】
「「いただきます」」
【和佳】
「い、いただきます……!」
彼女にとってはもっと早いだろう。
【鞠】
「無理しないように。全部食べなくていいですから」
【和佳】
「は、はい! 鞠様」
【ババ様】
「今更じゃが……鞠様www」
【鞠】
「笑うな」
【汐】
「…………」
因みにそんな、誰にとってもいつもより早い朝食だが、パパはもっと早くに摂って既に出勤している。
これもいつものことではあるんだけど……
【和佳】
「…………」
【鞠】
「パパが居ないの、気になりますか?」
【和佳】
「え!? ……はい……」
【鞠】
「晩ご飯は一緒に食べる主義ですが、朝はいつも早いです。まず一緒に朝食を囲むことはありません」
【汐】
「ずっと働いて家族を放置する酷い人ですよー」
【和佳】
「酷い人……」
【汐】
「あ、すみません今のは忘れてください和佳ちゃん。パパは凄く良い人ですから、不器用ですけど良い人ですから」
【鞠】
「はぁ……」
……家族、か。
今年度に入って、色んな問題が発生して、その度に何とか解決してこれたけど……何だかここ最近は分からないままのものが増えまくってる気がする。
自分が、おかしくなっていくような……。
【鞠】
「ババ様、私は正常ですか(←ブラックコーヒー)」
【ババ様】
「苦いっ。ワシは抹茶派じゃ、鞠ー!」
【鞠】
「……抹茶だって苦いじゃないですか」
しまいには……パパが与えた道を、パパが遠回しにディスるという超展開だ。
溜息が、絶えない。どんどん幸福が逃げていってるかもしれない。
【鞠】
「……朝ぐらい、しっかりしないと」
せめて、その私流は保つことにしよう。
しじみ汁とブラックコーヒーを一気に飲み干し……
【ババ様】
「うぇ~~~~~(泣)」
意識をシャキッと、させる。
【鞠】
「今日で……終わってくれないものか」
それは流石に無理かな。
Time
7:15
Stage
蛙盤区
【和佳】
「…………」
因みに、なんでこの子まで早起きして一緒に車に乗ってるのかというと、お姉ちゃんのところに行くからだそうだ。
まあ、あの人も起きたんだし広い家にメイドと居るよりは精神的に楽だろう。私は通学のついでだ。
【ババ様】
「今日もカエルが元気じゃのー」
【鞠】
「9月なんですがね」
もうそろそろ寝てくれないものか。まだ早いのかな。
【和佳】
「…………」
それにしても、シートベルトにちょっと抗って窓から外の風景を眺めている姿を見てると……幼い頃の私を思い出す。
別に景色が高速で流れていくのに夢中になってたわけではなく、ただ単に車中でやることなくてその果てに「笑ってる人を100人見かけたら今日は幸せ」みたいな運勢チャレンジをして暇を持て余してた。
このことを先輩に話したところ、「そんな優しい子だったのに、何でこんなんなっちゃったかな」みたいなコメントを戴いた。失礼な先輩だ。
【鞠】
「何か見れましたか?」
【和佳】
「……ううん、ただ……凄いなって」
【鞠】
「凄い?」
【和佳】
「外って広いんだなって……それは、分かってる筈なんですけど、何でか思っちゃって」
【鞠】
「……そうですか」
【ババ様】
「分かる、分かるぞー和佳! 矢張り実際その眼で確かめなければな、人は真に理解したとはきっと云えないのだ!!」
貴方は人間ではないよね。
【汐】
「冴華ちゃんが退院して、生活が落ち着いたら、皆でハイキングとかドライブとかしましょう。今から夏休みの絵日記ネタを貯蓄しておくんです!」
【和佳】
「ハイキング……ドライブ……和佳、やったことない……」
【鞠】
「絵日記ネタの貯蓄はしなくていいですが……まあ、いいんじゃないですか。あの家の環境から推測するに、あまりこの都市のこと知らないでしょうし。テキトウに歩くだけでも色々知れるかと」
【汐】
「決まりですね。鞠、日程開けれるよう仕事と習い事消費しておいてくださいよー」
【ババ様】
「そうじゃぞ鞠、楽しいことを全力で楽しめるようにな!」
【鞠】
「……私楽しくないと思いますけど……」
また余計なイベントが確立してしまった。
【和佳】
「…………ありがとう、ございます。汐さん」
【汐】
「ふふっ……お姉ちゃんって呼んでくれていいんですよ♪」
【鞠】
「呼ばなくていいですからね」
……私の知るところではないってことではあるんだけど。
この子はこれまで経験できなかったことを、経験していくべきだろうなと思った。
Time
7:30
Stage
霧草区
【汐】
「はい、病院とうちゃーく」
無事、彼女の入院している病院に着いた。このメイド、安全運転できたんだなって割と驚愕している。
【和佳】
「えへへ……お姉ちゃんと、いっぱい話すんだ」
【鞠】
「……私は特に話すことないですが」
独りで行かせるわけにもいかないし――
ダンッ――!!!!
【鞠&汐】
「「――!!?」」
【和佳】
「キャッ――!? な、何の音――」
【鞠】
「車に戻ってドア閉めて!!」
【和佳】
「え!? は、はい……!」
今の……まさか…銃声?
一体どこから――
どしゃっ。
【鞠】
「…………」
……上から、だったのかな。
取りあえず上から人が振ってきたんだけど。それも結構な位置エネルギーで。
【汐】
「鞠――!!」
【鞠】
「車から出ないように。その子を護ることを第一優先にしてください」
【和佳】
「な、なに……何なの……」
取りあえず――地面に血溜まりが広がっていくこの光景、見せたらあの姉に怒られそうだ。
一体この病院で何が――
【???】
「失礼、流石に慌てたので、武器を選んでいる暇はありませんでした」
とんっ。
今度は軽くて短い、金属的な音。
後ろから。
【鞠】
「……何やってんですか」
【行】
「勿論、仕事を」
他人の車に例の御方が着地していた。
注目を集めるからやめてほしいんだけどそういうアクション。
【鞠】
「……これ、貴方が仕留めたんですか」
【行】
「はい、仕留めてしまいました。申し訳ありません」
……つまり。
これが――スーキュア。
【鞠】
「……メイド。別の駐車スペースに停めて、此処を見ないようにして病院に入ってください」
【行】
「ええ。それがいいと思います」
【汐】
「行ちゃん――なるほど、そういうことですか。承知しました!」
車が発進していった。
……って、本当によかったんだろうか。
【鞠】
「他11人は?」
【行】
「半径100m以内に4人ですね。コレは除外しています」
【鞠】
「何でそんなに集まってるんですか」
【行】
「多くのギャングスタの基本原則は複数人行動です。特に、彼らの暗殺業は証拠を残さない高速処理が核ですから。本当、厄介なチームワークですね」
【鞠】
「……狙われてるのは」
【行】
「この病院周辺で息を潜めてたのを考慮すると、生還していた村田冴華か……或いは見舞いに来るであろう妹さんか。そして貴方か」
【鞠】
「行動法則は掴めませんでしたか」
【行】
「オメルタによる制裁で村田冴華を再び狙っているように見えるし、学園で最も奇異な動きをしている貴方を狙っているようにも見える。流石、シナ伝説の暗躍部隊……地下社会屈指の高速暗殺のプロですね」
【鞠】
「……で、そんな化け物集団相手に貴方は悠長に笑って私と会話してる暇はあるんですか」
【行】
「他メンバーが厳重に様子を窺っているので。戦況分析に5秒かけたら1人殺される……そう思った方がいいですね」
取りあえず私達プロじゃ無い人間が太刀打ちできるわけない相手なのはよく分かった。
それ相手にして1人仕留めちゃったこの人が相当するヤバい奴だというのも。
先輩が用意した「傭兵」なのだし、元から疑ってなかったけど……
【鞠】
「今我々が病院に入るのは問題無いんですね」
【行】
「彼ら一旦退いてるみたいですから。今なら安心ですよ。念のため、私も同行いたしましょう」
【鞠】
「追撃には行かないんですか」
【行】
「ソレができたらこんな苦労はしていませんね。彼らにカウンターの隙を与えること無く弾丸をぶち込む機会は、彼らが獲物に食らい付こうとしてる時ぐらいです。勿論食事の邪魔をする輩を妨害するチームワークも秀逸なので、今回一匹仕留められたのは奇跡ですね。お嬢が囮になってくださったお陰です」
私死にかけてたんだ。怖いこと云わないで。
……なんて悠長に会話してたら警察に巻き込まれそうだから、ソイツを放置して私達も病院に向かった――