7.23「面会」
あらすじ
「貴方の取れる選択肢など最初からありません」砂川さん、冴華ちゃんと面会します。取りあえず心配事が1つ解決する7話23節。
砂川を読む
【和佳】
「……鞠、様……?」
【鞠】
「…………?」
ふと、声に気付いた。
眼を開き、ちょっと顔を上げる。
【和佳】
「…………」
中で悲願の再会を果たした少女が目の前でしゃがんで、ベンチに座り俯き尽くしてたらしい私を見上げてた。
【鞠】
「(私――寝てて――)」
いつの間に。
まあ疲れてたから……ね。
【汐】
「…………」
【和佳】
「顔……赤いです」
【鞠】
「…………」
それを自分が云ったのかと最初思った。けど、目の前の子が云ったことらしかった。おかしいことだが、少し経ってから理解した。
……何か、変な夢を見てた気もする。まだちょっと、ぼーっとしてる。
【鞠】
「そんなこと、ないです……」
【汐】
「鞠、あまり無茶は……」
【鞠】
「……もういいんですか?」
【和佳】
「あ……はい。その、お姉ちゃんが……呼んで来てって」
【鞠】
「分かりました」
立ち上がる。
小休憩は終わり……向かい合うべき現実に戻る時だ。
Stage
冴華の病室
【冴華】
「…………」
【鞠】
「…………」
ちょっと顔が赤い。
それなりに再会は堪能できたってことでいいんだろうか。
というか気まずい。
【冴華】
「……和佳のこと。ありがとうございました」
【鞠】
「あ、はい」
あちらから話題を出してくれた。ちょっと助かった。
でも感謝されるような理由で彼女を持ち帰ったつもりはないので、ありがとうとか云われても持て余すしかない。それとこの人から感謝されるとか、失礼かもだけど、気持ち悪い。
【鞠】
「少しは事情、聴いたんですね」
【冴華】
「まさか、本当に勝ってしまうなんて……」
私が倒したって感じじゃないんだけどね。
【冴華】
「その上、身寄りのなくなった和佳の面倒まで……」
【鞠】
「身寄りなくなったのは貴方もですが」
【冴華】
「私の事は、いいのです。それよりも……貴方にメリットが無いことは百も承知ですが、どうか和佳の環境を整えていただけないでしょうか」
……あ、その辺はまだ説明してなかったのね。
【和佳】
「あの、お姉ちゃん――」
【汐】
「当ったり前ですよー、和佳ちゃんも、あと冴華ちゃんもー、もう既に私の可愛い妹なんですから♪」
【鞠&冴華】
「「は?」」
メイド?
えっ、ちょっとメイドさん??
【汐】
「何で鞠まで疑問符飛ばしてるんですか?」
【鞠】
「いや、だって、貴方さっき――」
【汐】
「さっき何か云いましたっけ。私、妹増えるの普通に嬉しいですよ~♥」
えぇええええええええ……。
もうホント、よく分からないこの人……。
【鞠】
「…………まぁいいや。取りあえず、そういうことです」
【冴華】
「いや、そういうことと云われても把握しかねるのだけど……」
【鞠】
「養子化に必要な手続きはもう双方とも終わってるそうですから、形式的には貴方がた2人はもう砂川家の一員です。これで、経済問題は解決、あとはお2人でどうするか自由に決めて下さい」
【冴華】
「――――――――」
もっと嫌な顔するかなって予想してたんだけど、そんな暇もなくただただ呆然としている。
ていうかまだ起きたばっかりだったりするのかな。だとしたら確かに刺激強すぎるかもしれない。
【冴華】
「……私、まで?」
そんな彼女の中心の疑問はそれらしかった。
【冴華】
「私は、別に……貴方にとって助けるに値しないのだから、そんな無理をする必要は――」
【汐】
「いやいや冴華ちゃん――」
【鞠】
「莫迦ですか」
……また、勝手にこの口がっ。
私身体乗っ取られてないよね?
【鞠】
「ババ様……」
【ババ様】
「特にそれらしい様子はない。純粋な鞠の気持ちなのではないか?」
純粋な私の気持ち、ね……。
【汐】
「鞠――?」
【冴華】
「…………」
メイドすら驚いてて時が止まったような状態。これは気まずい。
だから、考える。要は何でこの人の意見を一蹴したかだ。確かにこの人の云ってることは間違ってないんじゃないのか?
しかしソレを上回る、何かが……。
【鞠】
「……この姉こんなこと云ってますけど、どうするんですか貴方は」
【和佳】
「え……?」
ハイスピードな文脈に附いて来れてないっぽい妹に投げかける。
【鞠】
「つまり、この姉は、自分だけ餓死覚悟で路頭を彷徨いたいらしいのですが」
【冴華】
「そ、そういうわけじゃ――」
【和佳】
「そ、そんなの、それなら和佳も、出て行く……!!」
案の定、養子のくだりが全部無駄になることを云い出した。
姉妹共に地獄を歩むと。
【冴華】
「和佳、貴方までそんなこと――」
【和佳】
「そんなことでも何でもいいよ、もう、何処にも行かないで……」
【冴華】
「……和佳……」
【和佳】
「ずっと、一緒に、居るんだから……」
【鞠】
「……ぶっちゃけ法的手続きが済んでいる以上、暫くは居てもらわないと困ります。そして貴方も、妹の無事を確保できなければ困る。訊いておいてなんですが、貴方の取れる選択肢など最初からありません」
また私沢山色々喋り出してる――ああもう、めんどくさい。
この人には寧ろこの一言でいいだろう。
【鞠】
「勝者の私に、従いなさい。村……じゃないや、砂川冴華。砂川和佳」
【和佳】
「……! はい……!」
【冴華】
「…………」
【汐】
「……この話は今やってもあんまり盛り上がりませんね。詳しくは退院できそうなタイミングでいいんじゃないですか」
【鞠】
「それもそうですね」
じゃあもう一つの話題へ――
【冴華】
「……はは……ははは……」
――と思ったら突然、姉の方が笑い出した。
【鞠】
「え?」
【和佳】
「お姉、ちゃん……?」
【冴華】
「はは…ははは……あははっははは――」
力無い、疲れがよく分かる笑い。
あとぽろぽろ流れ出した涙。
【冴華】
「……こんな……こんな、奇跡って……あるものなのね……神様って、いるのね……ッ――」
【鞠】
「…………」
【汐】
「…………」
またもうちょっと時間置かなくちゃいけなくなったじゃん。
【ババ様】
「……鞠」
【鞠】
「何ですか」
【ババ様】
「ほんと不器用じゃの。表現力はある筈なのじゃが」
【鞠】
「……自覚はあるつもりです」
表現……私は、一体今何を表現したかったのだろう。それは勿論私自身の感情、だと思うけど。
「同情」。
そう、同情なのだから。そうに決まってるのだから、もっとマシな伝え方は無かったのか。
【鞠】
「(……或いはまさか――なんて)」
そんなの、有り得ないし。