7.02「鞠の家族」
あらすじ
「鞠は、あんまり家族付き合いが無いみたいじゃな」砂川さん、独り言に華を咲かせます。砂川さんの顔写真だけは差分作りました。皆さんどれがお好みですかな7話2節。
砂川を読む
Day
8/26
Time
8:30
Stage
霧草区
【汐】
「~~♪」
【鞠】
「…………」
……車で移動。
まだ夏休みだけど、この横に流れていく幾度となく見た景色を眺めてる時間は実に価値があるんだって思うようになったかもしれない。
最近、北海と聞くだけで発狂したくなるようになったからだと私は原因分析してる。都市最高! というわけではないけど、田舎最高! とは安易に口走れなくなった。実に骨のある実感を抱いている。
ていうか、もう夏休み終わっちゃうな。予想外の入院でもってかれた仕事の為の時間を兎に角取り戻さねば。お泊まりは「ダメ!」ってパパに云われちゃったので、昼に全力集中していく所存。
【ババ様】
「おお~~~!!」
【鞠】
「…………」
【ババ様】
「おおぉおおお~~~~!!! ハイテクが、いっぱいじゃ! 都会最っ高!!」
【鞠】
「…………」
……集中、できるんだろうか。早速ちょっと心配になってきた。
【ババ様】
「そういえば、鞠」
外の景色に夢中になっていた可愛いババ様が、声を掛けてきた。
【鞠】
「なんですか」
【汐】
「え?」
【ババ様】
「このクルマを動かしておる女子が、鞠の母親なのかの?」
【鞠】
「はぁ!!?」
【汐】
「え!!? 何ですか!!?」
朝から衝撃の疑問をぶん投げてきた。マイナス距離でその速度要る?
【鞠】
「違いますよ、このメイドは母じゃありません」
【ババ様】
「お、そうだったのか。いやぁ早とちり」
【汐】
「一体どうしたんですか鞠……? まあ確かに私は母親じゃなくて、お姉ちゃんですけど」
【ババ様】
「お姉ちゃんじゃったのか」
【鞠】
「違います」
【汐】
「ん、あれ、会話は成立してるの、かなー……?」
【ババ様】
「それにしても、メイドか!! 噂には聞いていたが、実際見るのは初めてじゃのー! もっと、もっと近付いて見せてくれ鞠!」
【鞠】
「夕方見ればいいじゃないですか……今はシートベルトしてるんです。交通法に従って」
【ババ様】
「しーとべると。こーつーほー」
ババ様に都会の常識を伝授する日常業務が増えそうだった。
【鞠】
「というか、メイドなんて知ってたんですね」
【ババ様】
「観光客は、色々知っとるからなー。島民も興味津津じゃから、それを堂々と目の前で盗み聞きじゃ!」
【鞠】
「なるほど」
【汐】
「何がなるほど……? 何と会話してるんですか鞠……!? 私と会話してくださいよー鞠ぃ!!」
……今日の運転は些か荒れていた。
しかし島での仕打ちに比べたら全然マシだと思えたのは、果たして喜ばしいことなのだろうか。
Time
8:45
【鞠】
「……コンクリート、最高」
中央大陸に戻ってきて何度云ってるんだろうコレ。
滑る泥と飛んでくる大木はもう御免だと洗練された都会の道路を歩きながら、ババ様と会話する。今度は独り言、し放題。
【鞠】
「そういえば、超今更なんですけど、私に憑いてよかったんですか」
【ババ様】
「? よかった、とは?」
【鞠】
「だってババ様は、ミマ島の守りヌシでしょう。つまり今もうあの島には守護する存在、居ないじゃないですか。縁結びの力だって」
【ババ様】
「ああ、それは大丈夫じゃろ。多分」
【鞠】
「多分……って。楽観的ですね」
【ババ様】
「ワシがやってきたことなんて、息を吹きかけて、風を起こすぐらいじゃ。それでスカートを浮かせての」
【鞠】
「都会でそれやったら犯罪ですよ。ほんとやめてくださいね」
【ババ様】
「分かっとる分かっとる。兎も角、そういうハプニングを作るってだけで、あとは島の者たちが勝手にやってきた。それがミマの歴史じゃ」
【鞠】
「……ほぼほぼ人力、って云いたいんですか」
【ババ様】
「それに数百年、ずっとあの島に憑いてたんじゃから、暫くはその「余力」が、結びを為してくれるじゃろう。人々が祈り信じる限りの。ああしかし、護符は作れなくなっちゃうのー……1年に1回ぐらいミマ島、行くのじゃ」
【鞠】
「は……!?」
【ババ様】
「定期的に島の余力のチャージをしておけば、何も問題無いじゃろ☆」
私が毎年あの島に行かなきゃいけないっていう問題があるんですけど。
【ババ様】
「ま、しばらくは大丈夫。心配することはない、奴らは皆強いからの」
【鞠】
「……まあ、それならいいですけど」
【ババ様】
「じゃあワシも質問じゃが、鞠」
独り言は続く。
いつもよりも、登校が忙しい。
【ババ様】
「母親は、何処におるのじゃ?」
【鞠】
「……何でそんなことを気にするんですか」
【ババ様】
「妙なことを問う。鞠を知るために決まっておろう」
知りたいのは外の世界なんじゃなかったっけ。
【鞠】
「居ませんよ。私が物心つくよりも前に亡くなったと聞いています」
【ババ様】
「む、そうだったのか。では鞠は母親を覚えてないんじゃな」
【鞠】
「まあそうですね。会ったことないのとほぼ同じです」
それ以上のことは特に聞いていない。
必要の無い情報だから。
【ババ様】
「……鞠は、あんまり家族付き合いが無いみたいじゃな。あの父親も、随分忙しいようじゃし」
【鞠】
「この現代、別に珍しいことではないでしょう。世のお父さんはたいてい、多忙ですよ」
【ババ様】
「ミマの男たちはそれでも、必ず夜には帰っておるぞ。家族が一番大事じゃからな」
【鞠】
「……あの人も、夕食は可能な限り家でとります。非効率だと思うんですけどね」
【ババ様】
「鞠を大切にしてるってことじゃろ」
【鞠】
「ですかね」
その結果があの過保護、だろうか。
私は別に紫上学園の人達相手のようにパパを見てはいない。流石にあの人は敵ではない。殆ど完全に、私の味方と位置づけて問題無い筈の存在。
だけど……事実として全面的に信頼することのできる相手、でもない。
ついでに、私はあまりパパのことが好きじゃない。これは誰にも漏らすつもりのない本音だ。云ったら絶対厄介なことになる。
【ババ様】
「しかし、家族は多ければ多いほどよいが、鞠のお家は人が多すぎる気もするのう。あと家自体がデカい」
【鞠】
「……? ああ、云っときますけど私、独りっ子ですよ」
【ババ様】
「ぬ?」
【鞠】
「砂川家は私とパパの2人だけ。あとは全員、パパが雇ったハウスキーパーです。あのメイドも一応その1人」
【ババ様】
「はうすきーぱー。家族ではないのか」
【鞠】
「雇用主が朗らか過ぎるので、皆仲良いみたいですね。いちいち誕生日会とか開いてますし」
お祝い事がある度に、夕食がちょっと豪華になる。
マズくないならそれは別に構わないのだけど、祝いの内容の7割は私全く関係無い事項である。
私は一体彼らからどんな評価をされているんだろう。仲は良くも、悪くもない、と思ってるけど。
ソレもまた、数分経てばどうでもよくなっている些細な疑問だった。
【ババ様】
「都会の家族事情は、複雑じゃのー」
【鞠】
「どうして、そんな家族というのを気にするんですか」
【ババ様】
「ん? だから云ったじゃろ、ミマ島の男たちは家族を一番大事にすると。男だけじゃない、その妻も、子どもたちも、家族を蔑ろにすることはない。最も大切にすべき絆じゃからの」
【鞠】
「ミマキへの信仰はどうしたんですか」
【ババ様】
「何か問題あるかの」
……まあ、それであの平和な島が出来上がってるんだから、問題は無いんだろう。縁を結ぶ存在が、大切な縁をちょん切ることはないと。
……けど。都会最高なんて叫んでた人にいきなりこういうこと云うのは抵抗あるけど、ね。
【鞠】
「家族は、良いものとは限らないと思いますよ」
【ババ様】
「そうなのか?」
【鞠】
「何をもって良しとするかにもよるでしょうけど……両親がいるから子どもが不幸になってる、なんていうケースは沢山あると聞いてます。都会田舎関係無く、全國中にそういう問題が蔓延っている」
……学園が見えてきた。このまま、真っ直ぐ、門を通るだけ。
しかし視界にはもう一つ、無視できないものが映っていて。
【鞠】
「丁度良い、なんて云ったらあれですけど……ほら、具体例がそこに」
【ババ様】
「む……?」
【和佳】
「……………………」