7.16「決めた」
あらすじ
「村田優可が連絡を取り合っていた相手というのは特定できないんですか」砂川さん、現状をメイド達と整理します。作者は整理整頓が苦手です。誰か代わりに片付けてほしい7話16節。
砂川を読む
【和佳】
「す……すいません、何か、つい――!」
【兵蕪】
「ははは! 食事の終わりの挨拶は、ご馳走様だよ」
【和佳】
「は、はい……ご、ごちそう、さまでした――」
晩ご飯早食い競争、一着はお客様だった。
【ババ様】
「ふへ~~、やっとお腹が満たされたのじゃ~~」
【鞠】
「目玉のくせに」
別に競争してないんだけど、何かそれぐらいの勢いは全員にあった。私はこれ一食目だし、私よりも忙しかったであろうメイドもきっとそう。パパはいつも早食いしてるし。
で、この子はがっつり育ち盛りなわけだし、今日は色々ありすぎたし、あとめちゃめちゃ泣いたし、お腹はペコペコだったことだろう。
シェフの料理はパパの希望を汲んでファミリー感覚とやらを常にテーマに据えているものの、基本出すのは高級コース料理。その形式とお口が合えば、と多少心配してたけど問題は無かったようだ。食欲が勝ったか。
【和佳】
「お……美味しかった、です……この世のものとは思えないぐらい――」
【汐】
「なかなかグッドなコメントしますね。シェフも喜んでくれますよーきっと」
【兵蕪】
「市鴎はよく毎日新しいコースを思いつくものだ。その想像力、経営者として見倣わねば」
【家政婦】
「お皿、回収いたしますね。何かお飲み物など、お持ちしましょうか」
【兵蕪】
「和佳ちゃん、何か飲みたいものはないかな? ジュースとか結構揃ってるよ」
【和佳】
「あ、いや……あえ、じゃなくて、私は――」
【鞠】
「ここに貴方の態度を気にする人は居ませんから、何も気にしなくていいです。……じゃあ、お茶でも貰いましょう」
【汐】
「私と兵蕪様もそれでいいですね。4人分、お願いします♪」
【家政婦】
「汐さんが持って行けばいいのに」
【汐】
「えーー」
至極真っ当な文句を呟きながらも笑顔で家政婦は退出した。
あの人たちはこのメイドにもっとデモとか起こしていいと思う。
【鞠】
「……さて」
そろそろ、避けては通れない話題へと戻るとしよう。
【鞠】
「現状の整理、しましょうか」
【汐】
「はーい」
【和佳】
「…………」
再び、明るくない現実に。
【兵蕪】
「私は全くといっていいほど把握できていないんだがね。汐ちゃん、結局何をやったの?」
【汐】
「村田優可さんしょっ引く為に3桁に及ぶ組織を買収しました」
【兵蕪】
「汐ちゃんらしい、大胆なお買い物だね……ポケットマネーが心配」
それだけやってまだポケットマネーが生きてることに一般人は驚愕するだろう。
私もその感覚を忘れないでおきたいところだ。
【兵蕪】
「しかし、村田優可さんと衝突するとはね……」
【汐】
「兵蕪様も知ってたんですね」
【兵蕪】
「この都市のお偉いさんほど、怯える名前さ。突然何の因果関係も無しに侵入され、組織関係が崩され、隷属させられる。命や家族を護る為には、従う他ない。警察がそうなってしまったから、彼女を止めることが誰もできずにいた」
【汐】
「普通に快挙ですよね。私寧ろお金貰うべきな功績ですよ」
【兵蕪】
「だが抑も、どうして彼女を今打ち倒さなければいけなかったんだい? それも今日中にだなんて。汐ちゃんは寧ろ、じっくり相手を追い詰めるタイプでしょ」
【汐】
「いやそんなことないですよー。一言でまとめるなら、鞠の命令ですねー」
【鞠】
「……今日中とは云ってませんが、確かに急かしました。急ぐに越したことない状況ですので」
【兵蕪】
「では……教えてくれるかな。一体鞠ちゃんの身の回りに、何があったのか。それに……」
【和佳】
「…………」
【鞠】
「はい」
激動の今日。そして今日に繋がるこれまでの出来事を、疲れた頭でゆっくりと整理して、パパとメイドに話していく。かなり時間をかけて……。
……。
…………。
……………………。
【兵蕪】
「……………………」
話し終えた。
途中からパパ、相槌すら打たなくなった。
普通に怖いんだけど。
【汐】
「普段見れないパパ様のマジ顔ですね。写メ撮っとこ」
【鞠】
「ちょっかいかけない方がいいんじゃ」
【汐】
「しっかし、解せないですねー。何で、玖珂くんを狙ったんでしょ。私あんまり知らないですけど」
メイドには村田家の事情ぐらいしか話してなかったから、脅迫云々は初耳だろう。
それでも今一番詳しいのはメイド。彼女の中ではもう、一番ヤバい事件の犯人は村田優可と断定されているようだった。
【鞠】
「アレをやったのは、村田優可なんですか……?」
【汐】
「首謀者……かどうかは分からないですけど、まあ確実に関わってますね。見たことない電子メールアプリ使ってました。多分オリジナルでしょう。ただ本当、やり口非道でしたよー」
【鞠】
「どういうことですか?」
【汐】
「ユーザーネーム……いや違うか、名義とでも表現しましょうか、それが村田冴華になってたんですよ。こういうのもなりすましっていうんですかね」
【鞠】
「……はあ?」
つまり……どういうこと?
【汐】
「娘の名前で誰と交流してたのかは知らないですけど……十中八九、護身の為でしょうね」
【鞠】
「……――まさか」
【汐】
「極限まで誤魔化された通信。そこまでしなきゃ繋がれない相手。真っ当なお客さんではなかったかと」
つまり、村田優可にとっても可成りリスキーな商談か何かで。
その「盾」として、彼女の名前が使われた可能性が高いと。
【鞠】
「失敗してしまった時、その相手から命を狙われる危険性があったから……その対策として、相手に自分たちの交流相手が村田冴華であると勘違いさせた?」
【汐】
「もっとも、相手が本当に勘違いしたかは分かりませんが。そう解釈した場合すっと繋がりますからね、冴華ちゃんを何者かが襲ったその背景」
【ババ様】
「極まった大悪党じゃの」
【鞠】
「悪は勝てば正義なんですよ。だからどうせ自覚なんてないかと」
【和佳】
「……大嫌い」
もう一人の彼女の娘が、呟いた。
【和佳】
「あんな人……大っ嫌い……」
【汐】
「……どれくらい知ってるんです、貴方のお母さんのことについて」
【和佳】
「全然、分からない。家にも全然帰ってこなかったから……でも、顔は、覚えてる――怖い顔、笑ってるのに笑ってなかったり、笑ってないのに笑ってたり……お父さんとは、仲良かった」
本当、自分のビジネスにしか頭にない人だったんだろう。私は結局一度もまみえることなく、彼女との戦いは終わってしまったけども。
それにしても……疑問は消せない。
【鞠】
「……その、村田優可が連絡を取り合っていた相手というのは特定できないんですか。私にとってはそこが一番重要なんですけど」
【汐】
「残念ながら、データはぐじゅぐじゅになってるどころか一部完全消失させられてるので、追い切れませんね。彼女のセキュリティ管理もありますが、相手も相当に長けている。もしかしたら、優可ちゃんより厄介かも」
【鞠】
「その人が、うちの学園に侵入して、彼女を襲った……」
いや違うか。
彼女は足を怪我している。恐らく早朝家に侵入してきた何者かが彼女のみを拉致して、そのまま学園に行き監視カメラを無効化したうえで、7号館前にて彼女を刺し“展示”した。
……おかしい。
【鞠】
「何故――そんなことを?」
【汐】
「…………」
村田優可が指示したという線は、無いわけじゃない。だけど、ここで彼女を殺しにかかったというなら、もう村田冴華の名義は使えない。ていうか実行者に「冴華を学園で殺して」なんてお願いをするのが何より不自然だ。
だから、彼女を襲ったのは、実行者自身の意思によるものではないか? メイドの云う通り、何か癪に障ったのでメール主をやっちまおうと。
だけどそうだとしても、じゃあ何で学園で晒す必要があった?
……情報が足りない。一日で得た量と考えれば良好と云えるだろうけど、暗雲はまだ拭えない。
【兵蕪】
「…………よし」
と、実質私とメイドで会話していたところに、パパ様がようやく沈黙を破った。
賢い人なんだからちゃんと理解はしてると思うけど……何が、よし、なんだろ。
【汐】
「兵蕪様、どうしたんですか?」
【兵蕪】
「決めた」
【鞠】
「何を」
【兵蕪】
「和佳ちゃん、今日から君たちは私の娘だ――!!!」
…………。
…………。
…………。
【和佳】
「――え?」
【鞠&汐】
「「はぁ??」」