7.11「何が起きている?」
あらすじ
「どうしても……手前ひとりで、確かめたいのです」紫上会、緊急会議です。総じて7話は難しい話だしエグいのであんまり無茶しないで眺めてくださいな11節。
砂川を読む
Time
6:00
Stage
紫上会室
【鞠】
「……どうぞ」
リビングエリアで座り尽くしてた雑務の前に、コップを置く。
牛乳を温めただけではあるけど。
【笑星】
「ぁ……ありがとう、会長」
【鞠】
「紫上会として呼ばれたんでしょうけど、気分が優れないなら帰ってもいいですが」
【笑星】
「……ううん、此処に居る。今は……皆と、一緒に居たい」
誰かと居たい、そう思う心理は分からなくもない。私も今、滅茶苦茶先輩に助けてほしいし。
ってそうだ。
【鞠】
「やっとかないと……」
【笑星】
「……? 何を?」
アルスを自立起動し、メールを作る。
メールで画像を添付して……送信。
【鞠】
「何でもありません」
【深幸】
「お待たせー」
会計と副会長が来た。
副会長は松葉杖を突いて来てるので単純に遅かっただけだが、会計は現場の様子をこっそり観察していた。
【深幸】
「もうビニールシートとかで隔離されて中は分からねえ。救急車は行ったから、村田はもう運び出されてると考えられる」
【鞠】
「……書記は」
【深幸】
「さっき電話来た。野球部と教員数名連れて、警察の聴取に応じるとさ。第一発見者として」
朝練で早朝登校した野球部がまずあの姿の村田冴華を発見した。
それから書記とキャプテンが分担して、出勤済みの教員や警察、そして救急に連絡。連絡を受けた教員が学園長へと報告し、学園長が紫上会に連絡を回すよう指示をした、という流れだ。
災難に巻き込まれたにも関わらず、野球部の動きがなかなか迅速。1回挨拶しに行った方がいいかもしれない。
【深幸】
「何か、会議するのか?」
【鞠】
「状況の整理は行います。場所は……此処でいいでしょう。体調が優れなければ退出して構いません」
【深幸】
「オッケー」
【四粹】
「…………」
【笑星】
「うん」
ソファを動かし、テーブルを囲むようにして書記を除く紫上会会議が始まった。
【深幸】
「……村田……久々に、見たんだけどな……まさか、あんな様で再会とか……巫山戯んなよ……」
【笑星】
「…………」
知り合いの瀕死の姿を朝っぱらから見てしまい、会計は随分とローテンション。これは流石に茶化せない。
というか私に至っては昨日会っている。勿論、予想できるわけもない。
【深幸】
「あれは……誰かがやった、に決まってるよな」
【鞠】
「時刻は、正門が開かれて職員が数人既に出勤していたこと、また地面に滴った血液の量から考えて、彼処に放置されたのは発見時刻に近いでしょう」
【深幸】
「5時ぐらいってことか」
【笑星】
「ッ……そうだ、監視カメラ! 彼処なら監視カメラの1つぐらい、犯人を捉えてるんじゃ――!」
【鞠】
「残念ながら、的確に落とされてます」
死角ができないよう建物付近には結構カメラ置いてたから、結構な損害額。
アプリで映像を確認したけど、何かを捉える前に破壊されている。ざっと見てみたところカメラに壊れてる形跡が見られなかったことから、強力な電磁波爆弾とかでショックを与えたと考えている。
何にせよ、やり方が上手。間違いなく素人じゃない。いやそれ以前に……
【鞠】
「出血箇所は傍目から見ても「綺麗」だった……血痕はあの場所以外に見られなかったということはあの場でアレをやった。多分……相当なプロ」
【笑星】
「プロ……」
だとすればその手掛かりを現場から見つけるのは、警察でもない私じゃ難しい。
だけど無いわけではない、だって其処に居るんだから。
【鞠】
「……で、思い当たる節は、ありましたか」
【四粹】
「…………」
私達の保有している筈の、唯一の手掛かりが。
【笑星】
「え?」
【深幸】
「……ここで、どうして玖珂先輩に訊くんだ」
どうしてって、流れは寧ろ自然でしょうに。
【鞠】
「母親に強制されて副会長を脅迫するような文章を投函した村田冴華。彼女はまだ謹慎の解けていない今日、何故か学内で怪我を負わされた。まず、この2つの連関性を疑うでしょう」
【笑星】
「く、玖珂先輩が犯人とかいう流れじゃ――!?」
【鞠】
「誰もそんなこと思ってない。ただ……貴方はこの事件について、何か思うところがあるんじゃないですか? 私たちが抱き得ない印象を」
【四粹】
「…………」
流石に、プライバシーなんかを気にしていられる事態じゃないだろう。
もう他人の私から入り込んでいい筈だ。
貴方はその論理を、しっかり理解できる人の筈だ。
【四粹】
「……何も無い……と、云うわけではないのが、正直なところです」
だけど、副会長はこれでも、何かを隠す。
明らかに私が数ヶ月で作ってきた、副会長の人間像とはかけ離れた選択だった。
【鞠】
「貴方は――」
【四粹】
「会長、すみません」
話を遮られた。
【四粹】
「気になることが、あります。調べさせていただけませんか」
【鞠】
「……早退ですか」
【四粹】
「どうしても……手前ひとりで、確かめたいのです」
こちらの返事を訊くまでもなく、副会長は会議の場を去って行った。エレベーターにも乗った。
松葉杖で移動してるのに……何故か盗聴器を取り付ける隙が見当たらなかった。というか盗聴器持ってきてないし。
【深幸】
「玖珂先輩……気になることって何だろ」
【鞠】
「……明日にでも聴き出します。一刻も早く情報を集めないと。貴方たちも、彼を今度見つけたら強引にいってください」
【笑星】
「……うん、分かった。この状況で単独行動は危険だし」
【深幸】
「しっかし……2学期が始まるって時にとんでもないな……殺人鬼みたいのが居るわけだし、これは数日休校にした方がいいか?」
【笑星】
「……もしかしたら、文化祭にも響くかも。下手すれば中止も……」
【鞠】
「そんな予定は一切ありません」
……2人、唖然した。
【深幸】
「……何で?」
【鞠】
「勝負が始まってるからです」
私は実のところ、副会長のことをとやかく云える立場じゃないのかもしれない。
【笑星】
「勝負?」
【鞠】
「敵はまだはっきりしませんけど、学園を攻撃しに来てます。どうせ学園生ではないプロの犯人は村田冴華を攻撃したわけですが、それだけなら態々監視カメラだらけのこの学園に忍び込んであんなものを設置する必要無いでしょう。リスクと費用がかかります」
だけど、学園に忍び込んだ。
【鞠】
「学園に……学園に関係のある人に結びつける必要がった。何らかの構造下で、紫上学園は関わっているということになります」
【笑星】
「……学園が、関わってる」
【鞠】
「相手もどうせ莫迦じゃない、こんなことをしでかしたら学園は慎重になると予測してくるでしょうけど……まずその余裕、崩しにかかります」
【深幸】
「何の為に?」
【鞠】
「学園にこれ以上用事が無いなら余計な攻撃はしてこないでしょうし、学園の何かに敵意を持つならば必ず動きを見せます。これからどんな情報が手に入るかにもよりますが、まずはそこを叩く方針です。数年前の紫上会がこう公言してますしね。「我々はテロを許さないし、屈さない、打ち勝つ」なんて」
一体何のキャンペーンに参加してそんなこと云ったのか知らないけど、紫上学園の負けず嫌いはそこまで及ぶべきものだと云っちゃってる。
それに、私自身……今回のコレには相当立腹してるつもりだ。何より、私の政権の間にこんな事件引き起こして喧嘩売ってきたというところに。
見えない敵に屈して私が会長を務める紫上学園の2学期が不安と恐怖で動転した時代になるとか、絶対その責任私にも来るじゃん。挙げ句の果てには真理学園へと、いつもの流れで。
だから、戦う以外の選択肢など存在しない。
【鞠】
「潰す……絶対に、潰す……」
【深幸】
「……取りあえずお前が全然ブレてねえってことだけは分かった、寧ろ安心するぐらいだ……けど、一般学生からしたら相当リスキーだぞ。戦うっつったって、監視カメラも通用しない相手にどうやって」
【笑星】
「俺、1人でも怪我人出たら負けだと思う会長……!! だから計画性無かったら絶対慎重に様子見た方が良いよ!」
【鞠】
「無論、怪我人を出すつもりはありません。貴方たちの云ってることは全て私も考えています。その上で……まずは業者頼みになります」
【笑星】
「業者??」
紫上学園としてではない。
この私、プライベートな縁を使って。私の気持ち的には、これは――全面戦争だ。