6.09「パジャパ」
あらすじ
「いつ行こうかな……何持ってこうかな……」砂川さん、かつてない平和な悩みごと。調べてみたら思った以上に概念がしっかりしていたパジャパな6話9節。
砂川を読む
Time
21:45
Stage
砂川家 鞠の寝室
【鞠】
「……(ソワソワ)」
砂川家の浴室は、当然のようにデカい。
デカいだけならまだいいけど、何故か男女別室になっている。ちょっとしたお風呂屋さんだ。
脱衣所の衣服スペースは個人ロッカー換算でいくと50人分、シャワー設備も50人分以上は絶対ある。完全にお風呂屋さんだ。
ってことで私と先輩の入浴が被ることはない。別にそれを嘆いているわけではない。私は変態さんじゃない。夫婦仲だったらアリかも――なんていう脱線は今しなくていいことで、重要なのは別にある。
つまり時間的に被っても全然セーフなので、私が入浴を済ませたということは先輩も入浴完了という状態と予想される。入浴時間指定したしほぼ間違いない。
すなわち、私も先輩も、今パジャマ。
【鞠】
「……パジャパが、できる」
パジャマパーティー、私は略してパジャパと云ってるが、このパジャパを私はやったことがない。色々原因はありそうだけどそれを一言で盛大にまとめるなら、私には友達が居ないからだろう。
それを嘆いたことは今まで無いけど、先輩とはもっと一緒に居たいなとはずっと思ってきた。特に、夜中を一緒に……。
これも変な方に解釈されがちだが、ここではそのままの意味だ。真理学園にいた頃、先輩とは頻繁に会っていたけど、それは基本的に昼間限定のイベント。夜中には中京の別荘に戻り、今とあんまり変わらない、事務的な夜を過ごしてきた。
だから、私は夜の先輩を知らない。通話で何度も声を聴いてはいるけど、目にしたことはない。これは、私としては渇望するに値する。親しい人のことをもっと知りたいと思うのは、きっと自然な感情だと思うし。
ってことで私はパジャパに憧れていた。もう少しちゃんと云おう。私は、先輩と一緒に過ごすパジャパにのみ、憧れてきた。
そして今、それが叶おうとしている……! 私らしくもなく、めっちゃソワソワしてる……!!
【鞠】
「いつ行こうかな……何持ってこうかな……」
私は全くこういう時の遊びに詳しくないので、先輩が楽しんでくれるか不安なところはある。此処に来てからの話も、まだまだストックは多くあるけど……正直それで楽しんでくれるか分からないし、私も楽しくない。
先輩の話を聴くっていうのもいいかもだけど……実際興味あるけど、先輩がそれを楽しむかと思うと、そういうタイプの人じゃないし……。
【鞠】
「こういうときは――調べる!」
アルスからブラウザを開き、情報を集める……。
【鞠】
「…………」
「テーマを決めろ」、だって。
夜食だったり映画だったり、それらやることや衣装にある程度の統一感を持たせる、とのこと。
明日の閉会式、先輩は主役みたいなものなのでしっかり早朝に起こさなきゃいけない。だから夜更かしさせるつもりはないけど、何か具体的で簡易なテーマを決めた方がよさそうだ。
【鞠】
「ってことは、取りあえず先輩の寝間着をチェックしに行くべきか……」
サプライズかますわけでもないし、実際パジャパというのは打ち合わせあって成功するものだろう。先輩も知識が広いから、何か良い案出してくれるかもだし。
【鞠】
「よし、それじゃまずは先輩の部屋に――!!」
がちゃ。
【汐】
「…………(←にこにこ)」
扉開けたらメイドが立ち往生していた。
何か、こういう人サッカーとかバスケとかで見たことある。ディフェンス的な。
……え、通さないってこと? 私を?
【鞠】
「何の真似ですか」
【汐】
「勿論、鞠のパジャマ姿を、井澤くんにお披露目しない為に、鞠を今晩ずっと此処に封印する使命を全うしているんでーーす」
今日ほどこのメイドの存在自体を恨んだことはないかもしれない。
【鞠】
「……じゃあ、喉が渇いたので冷蔵庫まで取りに行きます」
【汐】
「他のメイドに持ってくるよう私が無線します」
【鞠】
「……歯を磨きに行きます」
【汐】
「他のメイドに歯磨きセットとタライを持ってくるよう私が無線します」
【鞠】
「……トイレは」
【汐】
「私の口に済ませてください」
執念の為せる嫌がらせだった。
【汐】
「抑も、今井澤くんは忙しいんですよ? 鞠の遊びに附き合ってる暇などないので、諦めてくださーい!」
【鞠】
「忙しい……? どういう、ことですか」
【汐】
「リビングで、兵蕪様のお酒に付き合ってまーーーーーーす!!!!」
――!?!?
それつまり――パジャパ!?
よりによって、パパにパジャパを先取りされてしまったということ……!?
【鞠】
「いや違う……あの夕食の態度から察するに……故意!」
【汐】
「ふっふふふふ、鞠ぃー……お酒は社会人になってからぁーーー!!!」
こんの、無駄なところばかりに力を注ぐメイドぉぉぉぉおおおぉぉぉ!!!
あとパパァアアアア、先輩もまだ学生だからぁあああ!!!
【兵蕪&謙一】
「「すやぁ」」