6.48「逃げられない」
あらすじ
「俺がいつまでも護り続けられる、そんなお前であり続けろ」砂川さん、お電話。6話48節のお次は7話に入ります。体育祭が恋しい……。
砂川を読む
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20:30
【兵蕪】
「― なるほど……分かった、すぐに2つのチームを組織するよ。ミマ島は非常に重要な島嶼群開発の拠点だからね ―」
【鞠】
「ありがとうございます。では」
【兵蕪】
「― え、ちょ待ってもう切るの、パパもっと鞠ちゃんと会話しt ―」
切った。
取りあえず町長との約束は果たせたかな。捜索してもらった恩は返しておきたいんだけど、今はあんまりネタが無い。
それにしてもホント、災難な合宿だった。地獄と云って過言なし。
【鞠】
「……媚薬とか盛られたし」
【ババ様】
「惚れ薬じゃー。アレだって実を云えば、鞠の中の寄生体が“魔女”に刺激を受けすぎるのを防ぐ狙いがあったんじゃ」
それで何で媚薬を選ぶの。
……まあ、もういいや。色んなものを処理するのに可成り体力を使った。一切動いてないのに疲れた。
時間は――
【鞠】
「――そうだ」
丁度良い時間だ、一応連絡を入れてみよう。
【ババ様】
「また電話ってやつかの」
【鞠】
「そうです。応答できないのでよろしく」
左眼に注意をしておいて……発信。
……………………。
【謙一】
「― もしもし。砂川だな? ―」
ああ、癒やし効果絶大。
しじみの味噌汁100杯分に相当するんじゃなかろうか。
【鞠】
「もしもし。特に大きな用事は無いですが、時間大丈夫ですか?」
【謙一】
「― 寧ろ毎日空けるようにしてた。事情は聴い―― ―」
何かノイズがめっちゃ入った。
【鞠】
「先輩……?」
【亜弥】
「― 鞠さん!? 起きたんですね、よかったぁぁぁ…… ―」
あ……遂に妹さん乱入してきた……。
【鞠】
「えっと、帰られる前に起きれなくてすみませんでした」
【亜弥】
「― 謝るべきは偏に私の方ですから、どうか謝らないでください……私の所為で、ごめんなさい……最終的にあんな大怪我を…… ―」
【鞠】
「ああ、いや本当に気にしないでください……」
不本意ではあるけど自業自得みたいなところあるし、亜弥ちゃん達は純粋に被害者だ。謝られると凄まじく辛い。
【鞠】
「亜弥ちゃんは、怪我の方、大丈夫なんですね」
【亜弥】
「― はい、お陰様で……え、兄さん、私まだもっと鞠さんと、あぁ~――! ―」
またノイズ。
【謙一】
「― ……ってことで大変世話になったな。本当感謝してもし尽くせない ―」
戻ってきた。
【鞠】
「先輩、亜弥ちゃんに電話バレてましたよ普通に……」
【謙一】
「― ああ……しかも砂川が転校してたこと云わなかったから、帰ってきて即行兄妹会議になった……機嫌とるのに三日三晩費やした…… ―」
まるまる私が寝てる間にそんなことをしてたのか……。
【鞠】
「えっと、取りあえず私は無事起きましたっていうのを亜弥ちゃんに伝えて、というのが主題だったんですが……」
【謙一】
「― 俺はそれ以外にもっと訊きたいことがある ―」
……先輩の声が、真剣なものに変わった。
【謙一】
「― 「悪魔」に遭った、ってどういうことだ ―」
【鞠】
「…………」
何となく、勘付いたんだろう。
私や亜弥ちゃんが一体どんなヤバいものに出くわしたのか。
それが終わったことで片付けてはならないものであることを。
【鞠】
「今、研究所で見つけた文書の画像データを送ります」
【ババ様】
「お? さっき阿部に渡したじゃろ」
【鞠】
「町長に渡す前に全部写真撮っておいたので」
【ババ様】
「ああ、そういえば」
【謙一】
「― ん……? 町長? ―」
やっば、応答しちゃった……。
【ババ様】
「すまん☆」
左瞼を指で叩きながらも、アルスを操作して該当の画像データをフォルダ圧縮でまとめてメールで送った。
【鞠】
「送りました。後で読んでおいてください、多分7割ぐらいは事実のこと書いてあるので。あっ、それから異質な言語を使ってる文書も、一応送りました」
【謙一】
「― 異質……? ―」
【鞠】
「読めなかったらスルーでいいです。でも、もし読めたら……一報ください」
可能性は、無くはないから。
寧ろ私よりも――
【鞠】
「……先輩。私からもちょっと、訊いていいですか?」
【謙一】
「― 何だ? ―」
【鞠】
「……いや、やっぱりいいです」
【謙一】
「― いや俺がよくないんだが。砂川……お前、一体何を経験した? ―」
【鞠】
「……………………」
云うのは大いに躊躇った。
だって云ったら、先輩多分飛んでこっち来るもん。今の状態で、先輩に会う……そんな勇気は無い。それは恐ろしいこと。避けたかった。
だから、代わりに、私は安心を求める。
【鞠】
「先輩、もしも……」
【謙一】
「― もしも……何だ? ―」
【鞠】
「もしも――私が救いようの無いほど変わってしまったら、先輩は……私を壊してくれますか――?」
最悪中の最悪を避ける、最悪の約束を。
【謙一】
「― …………………… ―」
それ以上は何も云わず。回答を待つ。
先輩の、言葉を。
【謙一】
「― ……いや、やらない ―」
【鞠】
「…………」
【謙一】
「― でも、どうにかする。もう二度と――あんな想いはしてたまるかよ ―」
嬉しいような。
悲しいような。
どんな回答が来ようと逃れられない相反する想いが、身体を満たす。
【鞠】
「……はい」
【謙一】
「― だけど抑もだ砂川。俺にそんなことさせんな。俺がいつまでも護り続けられる、そんなお前であり続けろ ―」
【鞠】
「……はい……」
「呪い」は私を逃がさない。
折角、逃げたのに……大陸まで跨いで。こんな性に合わない生活を強いられて、それなのに。
また私達を壊す気か。そんなことさせるか。私は貴方を認めない。
だから――もう先輩に近付かないで。
お姉ちゃん。