6.46「お見舞い」
あらすじ
「私、どうやって地上に出たんですか」砂川さん、お見舞いされます。わざわざ自分の為に時間を割いて来られても気まずさしかないですよねな6話46節。
砂川を読む
【笑星】
「鞠会長、ほんとによかったぁぁぁぁ……!!!」
五月蠅い連中が帰ってきた。
起きたばかりの病人を囲む、洗練された嫌がらせ芸。流石としか云いようがない。
【秭按】
「砂川さん、気分は?」
貴方たちの所為で悪くなった、とは云いづらい。
【鞠】
「まずまず、ですかね」
【石山】
「じゃあリンゴ食べる? 美味いぞ、剥いてやろうか!」
ていうか何で稜泉の方々まで。この人達もすっかり私の事嫌いなのか。
【鞠】
「もう合宿、終わってるじゃないですか。どうして集まってるんですか」
【タマ副会長】
「えっと……今日で限れば、私達皆、砂川会長のことを心配していたので……」
【ツララ書記】
「それに、英副会長もそれなりに怪我をしていたし土砂にも巻き込まれたとのことだったので、定期的に検診するよう勧められたのです。そのついで、とも云えますわ」
【堀江】
「あれだけの自然災害が起きて、死者がゼロなんて奇跡みたいねー……ミマキ様が、護ってくれたのかしら」
……ミマキ様、ね。
【鞠】
「……副会長」
【四粹】
「! はい」
【鞠】
「貴方の容体は。松葉杖持ってますが」
【四粹】
「……全治2ヶ月、と診断いただきました」
それはキツい。
生活に長期間支障が来るという点では、一番被害を喰らったのは副会長だったかもしれない。
というか病院着だし。彼もまだ入院してるってことだろう。
【鞠】
「貴方は自分の病室に戻ってください」
【四粹】
「会長、しかし――」
【鞠】
「可及的速やかな治癒に励み退院すること。これから暫く、私の監視やトラブル対処など無理もしないこと。貴方のファンを傷付けないことに徹底するのが最優先。会長命令です」
【四粹】
「……承知、しました……」
【ココア雑務】
「あ、四粹様、補助いたします!(←鎖を纏う)」
【ハコ会計】
「仲間候補、援護は任せるんだぜー(←靴に鉛入れる)」
【ツララ書記】
「英副会長を護っていただいた恩は忘れませんわ。邪魔な連中は我々がぶっ飛ばし申し上げましょう(←ナイフ持つ)」
何あれ、大臣シフト? って思うような何故か戦闘フォーム3人による補助で副会長は退出していった。
【笑星】
「何か……会長、玖珂先輩に当たり強くなかった……?」
【鞠】
「こうでもしないと、あの人は自傷するので」
【タマ副会長】
「え?」
【鞠】
「そういえば……」
気になってることがあった。一応、これは会話を広げてでも確認しておくべきだ。
【鞠】
「私、どうやって地上に出たんですか」
【石山】
「……は?(←リンゴ剥いてる)」
【信長】
「会長……覚えてらっしゃらないのですか?(←リンゴ剥いてる)」
2人とも慣れてないの丸わかりなリンゴの惨状を眺めながら、思い返す。皮とか普通に栄養あるのに……。
いやそれはいいから。えっと……。
……………………。
【鞠】
「ダメだ……あの場所で記憶途絶えてる……」
【タマ副会長】
「あの場所って……研究所ですか? 砂川会長は、巨大な物体に搭乗して、それで陸に出てきたんですよ。私達が助けられたみたいに、港で降りて……でもそこで倒れて意識を失われて」
全然覚えてない。
多分、それは私じゃないだろう。
【タマ副会長】
「そういえば、亜弥ちゃんが意見していたんですが……あの飛行物体は、砂川会長が操作されていたんですか――?」
【鞠】
「ああ……まあ、そうですね」
直感でやれると思ったからやった。
急いでいたとはいえ、今思えば相当リスキーなことしてたと思う。3人の命どころか地上の人々全員を無断で賭けた形だ。流石に反省。
【深幸】
「マジかよ……どんだけお前のポテンシャルぶっ飛んでんだよ……遂に巨大ロボットまで操りやがった……」
【笑星】
「も……もう1回、見てみたい」
【鞠】
「絶対やりません」
こんな町中で召喚しようものなら即行で逮捕されると思う。まあ認識阻害とか、多分推論上色々改造できるとは思うけど。
そこまで力にのめり込む理由が全くもって私には無い。それどころか、全てを台無しにするほどのデメリットすら存在するのだから。
【鞠】
「ともかく……美千村先生の診断では私はもう大丈夫とのことです。折角訪れてもらって恐縮ですが、これ以上此処に居ても何も意義は得られないかと」
【秭按】
「そうね……あまり長居するのも悪いわ、私達は帰りましょう」
【石山】
「よっしリンゴ剥けたァ! 俺の勝ちだなー信長! んじゃ、ここ置いとくぜー」
【信長】
「いや待て、俺の方が綺麗に剥けてるだろ石山。……会長、退院されたらご一報お願いします」
【鞠】
「学園には入れます。学園経由で各々情報を取得してください」
【深幸】
「意地でも直接連絡は取りたくねえってか……本調子だな、いっそ安心したわ。じゃな、玖珂先輩のこと云えねえからな、お前も無理すんなよ」
【笑星】
「会長、また見舞いに来るからねー!!」
いやもう来ないで。
【タマ副会長】
「砂川会長……本当に、ありがとうございました。助けてくださった恩は、一生忘れません。どこかで返せればと思います」
【鞠】
「忘れてもらっていいし、返さなくてもいいです。それよりも……ミマキの息吹が憑いてると、いいですね」
【タマ副会長】
「え?」
【石山】
「おーい英。早く行こうぜ。そうだ、この後バッティングでもしね?」
【信長】
「俺に負ける為にか?」
【石山】
「云うじゃん! よっしゃ決まり! 連絡先も交換したし、これから1年はもっと楽しくなるなー!」
【鞠】
「あの人、救いようないくらい難敵だと思いますし」
【タマ副会長】
「……ふふっ、そうですね。知ってます……!」
一同、ワイワイしながら去って行った。
…………。
【鞠】
「余計な会話しちゃった」
何が、ミマキの息吹が憑いてるといいですね、だ。心のない言葉に口が慣れては先輩に嫌われてしまう。
棚の上に置かれた、リンゴ……の皮にフォークを刺す。
【鞠】
「……どっちもどっちじゃん」
両者、引き分け。両者とも家事は向いてなさそうだな。
とか思いながら、随分肉の付いた皮を咀嚼するのだった。