6.04「尾行終了!?」
あらすじ
「――気付かれるとはな」紫上会、まだ尾行中。上から女の子が落ちてくるのはロマンありますけど、男が落ちてくるのは恐怖感しかない6話4節。
砂川を読む
……軈てお祭り気分の中央通りから離れて、人気の少ない通りのベンチに、2人は座ってゆったりし始めた。
それを建物に挟まれた小道から、ひっそり観察する紫上会。
【笑星】
「うぐぐぐぐぐ……」
双眼鏡を買ったので、それで観察しているけど……会話してる。気になる。会長を見倣って盗聴器とか持っておけばよかった。
そして、未だに男の顔が、よく分からない。
【笑星】
「会話してる時ぐらい帽子取ればいいのに……怪しいよ、すっごく怪しいよ……」
【深幸】
「だが実際、怪しい奴、ではない感じがしてきたなぁ」
【笑星】
「え、マジで?」
【深幸】
「ほら、見て見ろ会長の顔を。ちょっとさ……赤くなってね?」
……………………。
【笑星】
「グハッ」
確かに、云われてみるとそんな気がするような……。いや、夕陽の所為だよきっと!
だけど少なくとも、相変わらず笑わないにしても、でも俺たちに向けるものとはちょっと違う気がする。
あと、それを双眼鏡越しで見た瞬間、何でか胸が締め付けられた感じ。なんとも云えない不快感……本当に不快感なのかも分からない気持ち悪さ。
【笑星】
「うぐぐぐぐぐぐ……――って、あれ? 男の人、立ったよ?」
そして、そのまま俺たちとも離れる方向へと歩いて行った。
会長は座ったままだ。
【信長】
「もう解散したのか……?」
【深幸】
「いや、トイレというだけかもしれないぞ……」
【笑星】
「よし、今のうちに会長を問い詰めて……」
【深幸】
「いやいや莫迦か!? んなことしたら尾行してたのバレるだろうが!!」
【信長】
「多分、めっちゃくちゃ怒られるぞ……下手すれば警察だ」
【四粹】
「……ん? ……皆さん」
こっからどうするか話し合っていたところ……ずっと消極的だった玖珂先輩が、口を挟んできた。
【四粹】
「どうやら、何にせよ尾行は終了せざるを得ないようです」
【笑星】
「え……?」
俺たちは後ろを振り返る。
玖珂先輩は何故か、大半を建物によって遮られた薄暗い空景色を見上げていた。
【笑星】
「ど、どういうこと先輩?」
【四粹】
「もう、バレてますよ。尾行」
【3人】
「「「へ?」」」
【???】
「――気付かれるとはな」
何か疑問を投げかけようとしたその時、声が「落下」してきた。
声だけじゃない――人が。
【3人】
「「「!?!?」」」
掃除の行き届いてない狭く暗い路地に、不自然な突風が垂直落下したことで、ゴミや砂埃が巻き上がる。
埃は兎も角、ゴミはふらふらと降り戻り視界にちらつくけど……それを気にしていられない。
注目すべきはただ目の前の男。さっきまで、俺たちが観察していた男で……。
【先輩】
「アンタは及第点……それ以外は尾行者としては不合格、かな」
【信長】
「な、どうして……さっきアッチ方向に歩いて行った人が此処に居るんだ――!? まだ1分も経ってないぞ……?」
【先輩】
「俺のことはいいだろ。それよりも……俺に……いや、アイツに用があるお前らのことを、俺は知らなきゃいけない」
感じる。
覇気……それに、怒気か。何にせよ間違いなく、俺たちにとって危機的なリアクション。
【信長】
「このオーラ……対峙してはいけない領域のスペック持ちだな……」
【深幸】
「マジか……まあ、アイツの知り合いってんなら妙に納得だが……」
【笑星】
「ど、どどどどうしよ松井先輩! 茅園先輩!!」
【深幸】
「しゃあねえ、自分の身は自分で護らないとな!!」
……茅園先輩の雰囲気が、変わる。
息遣いも、その周囲に貼り付く空気も……緊迫したものへと。
【信長】
「町中で“機能”を発動するのか……可成り、マズいことになったな……!」
そういう松井先輩もまた、同様に戦闘態勢へと入っていく。
【笑星】
「……あんまり、得意じゃないけど! 先輩たちを傷付けさせやしないよ! 皆、大事な人たちだから!! 玖珂先輩も手伝って!!」
【四粹】
「いや、あの、戦闘回避の方法はまだあると思うんですが……」
【先輩】
「……ん? 松井……茅園?」
と――覚悟を決めてた俺たちの一方で、警戒を強めてた男の人は何故か逆にそのオーラを薄めていた。
【先輩】
「それにその制服……紫上学園……? もしかして、紫上会か?」
【笑星】
「――え?」
【鞠】
「――何やってんですか、先輩」