6.34「廃工場」
あらすじ
「レクやってた!!!」砂川さん、四粹くんと滑ります。ここから平和な合宿の雰囲気が一変します6話34節。
砂川を読む
どぉおおおおおおおん……!!!
【鞠&四粹】
「「――!!」」
……何だろう、今の音。
いや、雷だと思うけど……凄い地響きを感じた。
流石に、怖くなってくる。
【四粹】
「……会長、近くに中央公園があります。濡れますが、一旦、そこに出た方がいいかもしれません」
【鞠】
「それは同意です」
分かり易い場所で「救助」を待つ、ということだ。他の人と合流するという価値もある。
2人、また歩き出す。
【鞠】
「……雲が厚い」
これ……本当に夕立なのだろうか。
都会だったらもうそれなりの警報出てると思う。交通機関だって大打撃だ。
そんな中、外に居るなんて結構な自殺行為だと思う。
【鞠】
「……ん?」
と――歩いていたら、すぐそこの道の端に、何かが落ちているのを視界が捉えた。明らかに物だ。
【鞠】
「これは……」
一応、拾ってみた。
それは――学生手帳だった。身分証明にも使えるやつ。
【四粹】
「学生手帳ですか……一体どこの――」
【鞠】
「真理学園――」
流石に、自分もかつて所持していた物。すぐに判別できる。
この学生手帳は、一番後ろのページに写真と身分証明の欄がまとめられている。もう既に雨に濡れまくって、これは再発行してもらわないといけない奴だが……顔写真と名前は何とか読み取れた。
見間違えようもなく――「井澤亜弥」だった。
【鞠】
「……まじか」
端の「先」を見下ろす。
……亜弥ちゃんは、この先に居る。否、
「落ちた」のだ。
【鞠】
「だーもうッ――!! 貴方は先に行っててください!!」
【四粹】
「会長!?」
よって、私も「落ちる」。
まあそこそこな斜面ってだけなので即座致命傷ではない。この雨の中だとどうしても滑るが、木々は腐るほど腐ってないのがあるので、それにしがみつきながら、慎重に、少しずつ降りていく。
【鞠】
「……もう川じゃん」
雨量を考えれば、おかしくはない。山に降れば、上流ができて下流もできる。
ただ亜弥ちゃんがこの斜面に落ちてヤバい、とまでは考えてない。だってこんなに木が生えてるんだから、一気に流され転がってるとは思いにくい。上に上がれないなら……下に降りている。そこで救助を叫んでいる筈。
まず、それを何とか発見する……
と――斜面が、気付けば終わった。この森林の梺ではなさそうだが……建物がある。
【四粹】
「ッ――ここは」
【鞠】
「……何で附いて来たんですか」
【四粹】
「会長を残し、行ける筈もありません。幾ら何でも無茶が過ぎます」
まあ、正論だとは思う。
ただ亜弥ちゃんを放っておくのは私の精神が耐えられない。
【鞠】
「副会長、此処がどこだか分かりますか」
【四粹】
「……申し訳ありません、地図はありますが……此処がどの辺りなのかまでは。ただ、この建物を調べれば……」
【鞠】
「何か分かるかも、ですか」
人とか居ないかなって思ったけど……外観を見るだけでその期待は無駄だと分かる。
入口があるとしたら別の壁。体育館の体積4分の1ぐらいな建築物をグルって回って調べる。
向かい側まで来て……
【四粹】
「工場、でしょうか……」
【鞠】
「もう既に使われてないですが」
此処は廃工場だと断定する。どう見ても鉄筋コンクリートな建物は、ところどころ鉄筋が剥き出しになっていて随分時間を経ているのが分かる。
玄関っぽいところから侵入すると、ほぼほぼ空っぽ。中央に井戸っぽい巨大な穴がある。採掘でもしてたんだろうか。まあ今私達にとって気になるのは雨風を凌げるかなってところなんだけど、その点から云えば完全に不合格。雨漏りはしまくってるし風は入ってくるし、抑も水溜まりもできていて、流れができている。
此処も厳密には斜面というわけだ。
と――
【???】
「あれは……私がーーー!!」
【???】
「私に、譲ってぇぇぇーー……!!」
叫び声が聞こえた気がした。
【鞠】
「今の……!」
【四粹】
「2人分、聞こえました」
外に出て、辺りを見渡す。
【???】
「「んがーーー!!!」」
……踏ん張ってる声がまた聞こえた。方角は……
【鞠】
「こっち……?」
また端の「先」。レールとか一切無い、さっきよりも深めな斜面。
そこを見下ろすと――
【亜弥】
「ぬ……ぬぬぬ!!」
【タマ副会長】
「あと、少し……あと少しぃ……!!」
――居た。
木に登ってる。斜面じゃなくて木に登ってる。
その先には例のポイントカード。
【鞠】
「レクやってた!!!」
莫迦なのこの子達!!
【四粹】
「……執念、ですね……」
【鞠】
「何やってるんだか……」
まるでジャングルジムみたいに絡み合った、凄い形の木々に這いつくばってる状況。
普通そこまでやるか、という気持ちになるのは私が彼女たちとは立っている場所が違うからだろう。
亜弥ちゃんもだし……あの稜泉の副会長だって見てれば分かる、常に手を伸ばしてきた、足掻いてきたんだろう。今みたいに。
【鞠】
「私も……頑張らないといけないのかなぁ」
何か、見てると思わずそんな疑問に駆られる。
事実上、私は先輩を縛り付ける虫なわけだし、他の人達からしたら。
だから先輩にとって、私もまた有益な存在であれるように……そうは思ってるけど。
もし。
もし――先輩の意思を覆すほどの人が現れてしまったとしたら?
【鞠】
「…………」
先輩が……私の事を、忘れてしまうようなことが、あったら?
【鞠】
「――そんなわけ、ない」
先輩だけは、裏切らない。
先輩はこれ以上私に嘘をつかない。
故に、そんな仮定をする思考は癌に他ならない。
私が考えるべきは、そんな救いようのない想像でなく……もっと実用的で、建設的な計画なのだ。
先輩の人生は、もう既に――
【???】
「――私のモノだ」
【鞠】
「ッ!!?」
……?
【鞠】
「……何か、云いましたか?」
【四粹】
「え? いえ、何も……どうか?」
【鞠】
「なら、いいです。何でもありません」
……何か、聞こえた気がしたけど……気のせいか。
【四粹】
「兎も角、危ないです、今すぐ上がらせた方が……」
【鞠】
「……あの様子だと、こちらに耳を貸すとは思えませんが……」
恋は盲目、的な?
こんな豪雨の中、河原の流れできそうな泥と木々の斜面の中、喧嘩してるようなもの。
2人が居る場所はまだマシだけど、この先更に滑り落ちていったら、どんな場所に辿り着くか分かったものじゃ――
【鞠】
「――待てよ?」