6.28「それぞれの気まずさ」
あらすじ
「ぁ……あまり、話し、かけないで……ッあとこっち見ないで……」紫上会、役場に向かいます。四粹さん以外ダメージがふんだんに残っていますがどうぞ頑張って下さいな6話28節。
砂川を読む
Time
7:45
【鞠】
「はぁ……はい、朝食、です……ッ」
リビング設定な卓袱台空間に、ほぼ時間通り朝食をセット完了。
した、わけなんだけども。
【気まずい男たち】
「「「…………」」」
【鞠】
「…………」
【四粹】
「……?」
き、気まずい……! 思ってたよりも、空気が……!
本当なら3人中2人の誤解を解いていくべきなんだろうけど……残念ながら今の私の身体だとそれも難しそう。私だって現在進行形でヤバい状況なんだもん。とても云えるわけがない。
【四粹】
「……会長、気のせいか、顔が赤いよう見えますが――」
【鞠】
「……! き、気のッせい、です……!」
【四粹】
「そ……そう、ですか……?」
声の出方、変だった。そして多分気のせいじゃないんだろう。
だけど……仕方無い。この卓袱台に隔てられている程度の、異性との距離。これは通常の私であっても、至近距離に入る。そんな距離でいたら……
【鞠】
「……ッッッ……」
過剰反応してしまう身体になっているのだ。自分で云ってて気持ち悪いけど現実だから仕方無い……! せめて周りにバレないよう隠していかないと、社会における私の立場ヤババだから……!
【鞠】
「い――いただき、ます……! ほら、どうぞっ……!」
【笑星】
「う、うん……いただきます……!」
【深幸】
「ありがたく……」
【信長】
「感謝の限り、です」
【四粹】
「畏れ入りつつ……いただきます――」
スタートダッシュなメニューを食べ始める。
スタートダッシュ前にとんでもない事件を喰らってるので事実上スタートダッシュはもう失敗してるんだけど、大変なのは今からと思われるのでしっかり栄養を摂っておく。
【鞠】
「……ッ……」
喘ぎを外に漏らしたらゲームオーバー。
そんな媚薬漬け2日目、スタート。
Stage
8:30
Stage
ミマ町村部
【ババ様】
「気を付けて、行ってくるのじゃぞー。いやほんとにー」
それぞれ支度を調え、ババ様に見送られて紫上会は町へと向けて歩き出した。
……ていうか帰ったんじゃないのかババ様。正直もう顔も見たくないんだけど。それ顔見て云ったりするのは流石に大人げないよね。
ババ様はもう忘れるとして、目的地は昨日同様、役所だ。やることは昨日みたいな交流に加えて、自身の生徒会や学園について報告、説明する「情報共有」が予定されている。恐らく合宿で一番有益であろう、大事で真面目な行事。
そこで巫山戯ようものなら、運営や他の生徒会に莫迦にされてしまう。社会的繋がりをも意識している紫上学園にとってこれは痛手、私への非難に即行繋がるだろう。
ということで勿論、気を抜いてはならない。私全く巫山戯る気無いのに……。
【四粹】
「……では、会長」
さて。
役所への移動を開始するということは……作戦の開始を意味する。
すなわち、今はもう、この私とこの副会長は、恋人同士なのだ。
【鞠】
「……はい」
【四粹】
「失礼、いたします――」
控え目に差し出された左手を、怖がりながらも、右手で触れる。
そのまま……手を繋いだ。
【鞠&四粹】
「「…………」」
これで……いいんだろうか。経験無いから、実感何も無いんだけど。
流石に往来の真ん中で肩を寄せ合い歩くなんてのは都会の蛮行に近いので真っ先に堊隹塚先生に注意されそうってことで、浅めのアピールにしてもカップルなんだぞーとさり気なく云わしめることにした。
いや、さり気なくとか無経験の人が振る舞えるわけないでしょ? ということでその辺のアピールは後方の3人がそれとなーくする、という作戦だ。
【笑星&深幸&信長】
「「「…………」」」
しかし3人の真っ直ぐな注目が背中を焼き貫きそうで、既にさり気なくないこの違和感だらけの絵。多分私なんかが皆大好き副会長の恋人役なんかやってるもんだから恨めしく思ってるんだろけど、先が思いやられるにも程がある。
…………。
…………。
…………。
【鞠&四粹】
「「…………」」
数分この状況で歩いた。まだ十数分は歩くだろう。
……正直、私は世の学生カップルが挙ってやってそうな事の大半には興味が無い。
恋人つなぎとか何のメリットがあるのか分からない。人目を憚らずイチャイチャしたり肩や腰を組み合ったり、エスカレーターに乗った途端抱き合ってたり、あの人たちホントおかしくない?
歩くなら普通に歩きたいし、アナウンスされてるようにエスカレーターはじっとしてた方が安全だ。周囲からの印象も受けずに済むから、特段自分にはパートナーが居るんだという事実を周囲に知らしめるような行為の価値を、私は認めていない。
だから、手を繋ぐ程度、人見知り的な理由で緊張することはあっても、ドキドキするわけがない。
【鞠】
「…………」
するわけが。
【鞠】
「……ッッ……」
するわけが――んだけどね、普通なら!!
【鞠】
「ッッッッッッ――!」
全身が、沸騰しているかのように、熱い……! 吐息は湯気なんじゃないかって思うぐらいに……あと何で手を触られてるだけなのに足腰の力吸われてるような感じになってるんだろう!
【四粹】
「か……会長、今日は、髪を解いたまま、なのですね」
【鞠】
「ッ……!」
私の異常な緊張が伝染してるのか……モテモテに慣れてる筈の副会長の言葉も、少し汗を感じた。多分その質問は、気休めとして投げたのだろう。
確かに今日、珍しく私は髪を編んでいない。震える指でやろうとはしたんだけど……
* * * * * *
【ババ様】
「今日はストレートでいくと恋愛運アップじゃ!! ていうか鞠は髪下ろしてた方が大人っぽさと若さが絶妙で色気ボンキュッボンじゃ」
* * * * * *
頭とち狂ってる例の島民に封印されてしまった。もしかしたらあの子も既に私のことが嫌いなのかもしれない。
ということを、説明してやればいいの、だけど……
【鞠】
「ぁ……ぅ……ッ!」
言葉が、出ない……!
手を繋ぐということは云わずもがな卓袱台なんて比じゃない至近距離。その距離から、今私は見られている事実。
それが、どうしても意識されてしまう……思考が、飛ぶ。
【四粹】
「あ、す、すみません……! デリカシーに、欠けてましたか……」
【鞠】
「ぁ……あまり、話し、かけないで……ッあとこっち見ないで……」
【四粹】
「わ、分かりました……」
現在何か欠けているのは明らかに私の方だが、副会長は私に合わせる。未だかつて無いコミュ障状態の私に適応する経験は、流石に紫上会を2年務めてきた中でも養われなかったのだろう。
そりゃそうだよ、昼に会う学生および社会人はまず媚薬を多量摂取してるわけないんだから……。
【笑星&深幸&信長】
「「「…………」」」
あと依然、後ろから3人の視線が突き刺さってきている。多分、私の方を見ている。
いや何かフォローでもしてよ、副会長の為に。それもしないで黙って附いて来てるだけなら、今の私は看られてるだけでも結構キツいから、景色の方見て楽しんでてよ。
副会長は兎も角、後方の連中は一体何を考えてるんだろう……副会長を助ける気があるのだろうか――?
【笑星】
「(……ヤバい……ヤバいことしちゃったよ俺……会長の裸、は……正直寝惚けてて全然覚えてないけど、でもあの感覚、だけは――あぁああ最悪だよ俺ぇ!!?)」
【深幸】
「(何で……何で俺、砂川と寝てて……しかも……だ、抱いて……何やってんだよ俺――)」
【信長】
「(どうしよう……会長を意識してしまった途端、どう接すればいいか、分からなくなってしまった……今まで、最低限できてたことの筈が……会長をサポートしなければならないのに……)」
【鞠】
「はぁ……はぁ……」
【四粹】
「会長、熱とかは、無いんですよね……?」
【鞠】
「ありま、せん……っ気にしなくて、ん、いいことです気にされるとッ、寧ろ問題です……」
【四粹】
「そ、そう、ですか。あてにはされないでしょうが……いつでも、頼りにしてください。恋人関係というのは手前にも全然分かっておりませんが……きっと、相手を助ける姿は良いアピールになると思われます」
【鞠】
「……そう、ですね。その時が来たら……考えます」
【四粹】
「いつでも、準備し目を見張っております」
【鞠】
「ッ……だ、だから、見ないで……!」
【四粹】
「あ、す、すみませんそういう意味では決してなくて、その……!」
【後方】
「「「(んぎぎぎぎぎぎぎぎぎ)」」」