6.18「パートナーは……」
あらすじ
「彼のパートナーは、とっくに決まっていますから」砂川さん、お仕事完了。と思いきや新たな災難がすぐさま降りかかります。イケメンだし赦してくださいな6話18節。
砂川を読む
……さて、そろそろいいだろうか。
【鞠】
「…………」
意識を周りに……視線の温度を触るように……。
【鞠】
「……よし」
【笑星】
「え?」
【鞠】
「そろそろ、いいでしょう。同じところとばかり会話に耽っていたら、この合宿の価値は中途半端で終わる。私はそう思いますけど」
ぶっちゃけそんなの私自身はどうでもいいんだけど、頃合いだろう。
【鞠】
「じゃあ……武運を」
【亜弥】
「あ――」
私は真理学園から離れて行った。
【笑星】
「ま、待ってよ会長~!」
【深幸】
「いきなりだなオイ!」
【信長】
「じゃあな、石山」
【石山】
「おうまたなー」
紫上学園、引き上げる。
そしてもっと、全体の空気を感じる。
【タマ副会長】
「……何と云うか、ユニークな人達、でしたね」
【苺花】
「そ、そうでしたね……」
【涙慧】
「特変には及ばない」
【苺花】
「あの人達と比べちゃダメだよルイちゃん……」
【亜弥】
「…………」
今の自己紹介は、私たちの間だけで行われていたものだが、それは私たちだけの時間だったわけじゃない。
本来なら周りは周りで私たちのようにペアを作ってコミュニケーションをしているべきなのだが、それよりも私たちの会話を観察することを選んだ。
ならば……分かった筈だ。
【タマ副会長】
「というか、まだ真理学園の皆さんの自己紹介が済んでいなかったのに……」
【亜弥】
「あ、そうでした。えっと、井澤亜弥……生徒会長を務めています。ご迷惑をおかけすると思いますが、合宿中、何卒よろしくお願いいたします」
【タマ副会長】
「これは……礼儀正しく、どうも……」
【涙慧】
「亜弥の趣味は、幅広い……」
【苺花】
「特技もね……」
【亜弥】
「私の趣味は、兄さんですよ?」
【苺花】
「それは合宿中封印する方向でいこう……」
莫迦と曲者に囲まれても崩れない、純白な笑顔。
あらゆる人格を包み込むように受け入れる神域のポジティブ解釈。
そして同じ場所に立ってるのすら恥ずかしくなってくる天使の容貌。
善の宝石――その光が、私たちのみならず、屈折しこの密室を余すこと無く通過する。
逃げ道もなく、一途の解釈を強いられることだろう。
【男子】
「「「あの子……」」」
【女子】
「「「やばい……」」」
【全員】
「「「天使だ――!!」」」
……動き出す。
恐れおののいていた無知の脚が、この光を直に浴びて耐えきれる筈もなく、歩き出す。
【笑星】
「……!」
【深幸】
「これは……」
――あとは、亜弥ちゃんが勝手にやるだろう。
【男子】
「あの……ババロア学園生徒会なんだけど、お話、いいかな」
【亜弥】
「え……? あ、はい! ありがとうございます!!(←笑顔)」
【女子】
「吉兆ピスタチオ学園生徒会も混ぜてもらっていいですか?」
【男子】
「割箸四散学園生徒会も――!」
【亜弥】
「え、え……?」
【女子】
「ちょ、ズルいですよ、私たちも井澤さんと――」
【男子】
「俺たちの方が先にって思ってたのに……ッ!」
【石山】
「亜弥ちゃん大人気だなぁ。可愛いもんなぁ」
【タマ副会長】
「…………私たちは別の所行きましょう会長」
【石山】
「いや、俺もうちょっと――」
【タマ副会長】
「行 き ま し ょ う 。」
【生徒会】
「「「ざわざわざわざわざわざわ……!」」」
【苺花】
「ひ、ひぃぃぃいきなり何でえぇえええ!?!?」
【涙慧】
「退散……退散しなきゃ……(怯)」
【亜弥】
「あ、あのー……? ……もしかして、鞠さん、この為に……」
目の色を簡単に変えて、恥ずかしくないのだろうか。まあ私も亜弥ちゃんも、こっちの方が助かるからいいけど。
兎も角先輩からの頼まれ事は、だいぶ完了したといっていいだろう。あー疲れた……あとの時間何してようかな。
【笑星】
「……会長、あそこ」
【鞠】
「……?」
端っこで休んでようかなって思ったら雑務に呼ばれた。
指し示した方向、そこには……
【女子】
「四粹様、また身長伸びましたか? 格好いいです!」
【女子】
「どんなシャンプー使ってるんですか? 凄く丁度良い髪質ですよね!!」
【ココア雑務】
「うわぁ、本当に噂通りのかっこよさだー……合宿来てよかったー……」
【ハコ会計】
「ふむふむ、海賊王の仲間とするなら……如何様なジョブがいいだろうか……」
【ツララ書記】
「ハコ会計、海賊王の顔をしない、余所の学園に迷惑掛けないでください(てかこんな囲まれる人とか実在するんだなビックリだなオイ)」
【四粹】
「……………………」
憔悴してる副会長がチラッと見えた。すぐに見えなくなったけど。
……普通に忘れてた。
【秭按】
「どうやら、彼女たちは上手くやってるようですね」
【笑星】
「あ、姉ちゃん」
堊隹塚先生が帰ってきた。というか顧問同士で打ち合わせしてたっぽい顧問が一斉に入ってきた。
……そうだ、そういえば真理学園の生徒会顧問って誰だろう――
【杏子】
「んー……? 少なからず心配してたが……案外コミュニケーション取れてるじゃないか。流石というべきか、井澤妹」
【鞠】
「えー……」
何であの人……? あの人、医療班で忙しい人だよね……?
多分こっち同様、臨時で附いてきた感じなのだろう。
【笑星】
「姉ちゃん、あの大行列は会長がそれとなーく誘導したんだよ。あの会長さんは凄く良い子なんだよーって」
説明すんな。
【秭按】
「そうだったのね。予期していない事態だったでしょうに……お疲れ様、砂川さん」
【鞠】
「……大したことは、特に」
【信長】
「だが、話してみると嫌でも分かるな……あれは不当に扱うべきでない子だと」
【深幸】
「だな、お前もせめてあんな感じの煌めきを出せたらなあ」
無理云うな。
【深幸】
「……なあ、会長。もしかして、亜弥ちゃんって井澤先輩の――」
【鞠】
「余計な混乱のタネになりますから、それは口に出さないように」
【深幸】
「……だろうな。分かった」
【秭按】
「……ところで。あの全く別の集団は、何?」
また忘れるところだった。
【笑星】
「玖珂先輩ファンクラブ……」
【秭按】
「何それ?」
【深幸】
「もはや学園を跳び越えて色んなところで人気になってる玖珂先輩が女子達に襲われてるんす」
【四粹】
「……………………」
【信長】
「ジェントルな対応は生きているが、何だろう、何かが間違いなく虫の息だ。そろそろ救い出さないとヤバいんじゃないか……?」
それは私も思う。ちょっと顔色悪そうだもん。
しかし私は副会長がどうなろうと基本構わないし、何よりあの獣の集団の中に突っ込んでいく勇気がない。やるなら貴方たちが勝手にやってくれ、って感じだ。
【秭按】
「……なるほど。確かに玖珂くんは女子にとても人気のある学生でしたね。状況は分かりました。……しかし、3日間あのようでは、困ってしまうわ。ここは合コンの場ではないのだから」
【深幸】
「つってもどうしようもなくね……? これ、先輩の人格の為せる業だし」
【秭按】
「いえ……やりようはあるわ。砂川さん、ここは私に任せなさい」
【鞠】
「はい――?」
何やら考えのある気合い入った堊隹塚先生、私の手を引いて戦場に――
って何で私の手を引く!?
【鞠】
「ちょ、何ですか……!?」
【秭按】
「当然ではあるけれど、魅力的な男性ほど倍率も高いし、すぐ埋まってしまうものよ」
……この人の反対を聴いてくれない勢いの良さ、どこか雑務に通じるものがあるとこの時私は思った。
流石姉弟関係、嫌な予感しかしない。
【秭按】
「失礼!! 盛り上がってるところ、大変申し訳ないのですけど――」
【四粹】
「え――?」
無理矢理獣の気団を掻き分け、中心に呑まれていた副会長への道を強引に切り開いた先生は――
【鞠】
「――!?」
何故か、私の背中を押した。
渦中へと……副会長へと、投げ込まれた私は――
【四粹】
「ッ会長!!」
――副会長によって、受け止められた。
【秭按】
「――彼のパートナーは、とっくに決まっていますから、そこをご承知ください」
【女子】
「「「――え?」」」
【亜弥】
「え……?」
……一斉の視線集中。皆、副会長を見たのが――
否。
副会長の腕に、抱かれた女子を見たのが分かる――
【笑星&深幸】
「「はい?」」
【四粹】
「……はい?」
【鞠】
「(……――はいぃぃいいいぃぃぃぃ……!?!?!?)」