6.17「自己紹介」
あらすじ
「鞠さんと初めて、私、会話できたかもって……」砂川さん、うんざりな自己紹介に臨みます。本編がこの時間軸に附いて来れてなさすぎな6話17節。
砂川を読む
【石山】
「俺は石山ぁ、稜泉学園生徒会会長だ。ヒロくんとも呼ばれてる。よろしく」
お前からいくんかい。
【亜弥】
「よ、よろしくお願いします……ヒロくんさん、ですね」
【石山】
「ヒロくんでいいよー」
【タマ副会長】
「できれば石山さんで是非ともお願いしますっ」
【石山】
「あと何云おうか?」
【信長】
「まだ名前しか云ってないじゃないか……趣味とか特技でも話したらどうだ?」
【石山】
「趣味も特技もガールズウォッチングだなぁ。暇な時とかその辺の女の子のBWH予想して時間潰す」
【信長&タマ副会長】
「「野球は!!」」
この人はあれだ、性格的にはきっとあの前会長に近いのだろう。
加えてオープンスケベときたものだ。
【亜弥】
「BWH……って、何ですか?」
【石山】
「Bust・Waist・Hip」
【亜弥】
「へぇ~~……服越しでも、予測ができるんですか?」
【石山】
「まあ経験を積んでるからね」
【亜弥】
「私、全然分からないです……分かるようになったら、もっと近付けるでしょうか……」
【石山】
「何のことかよく分からないけど、うん、千里眼は持ってて損しないと思う」
【タマ副会長】
「会長、千里眼持ちの人と千里眼と彼女と私に謝ってください」
【石山】
「前半3つは謝ってもいいけど何で最後に英に謝らないといかんの?」
いい加減野球の話しろよ。
【石山】
「あああと野球とか結構得意なんよ。ピッチャーやってるんだけどさ、ドラゴンバレットとか呼ばれてるんだよね。ぶっちゃけ恥ずい」
【亜弥】
「ドラゴンバレット……凄そうですね!!」
【タマ副会長】
「実際凄いです、会長は変化球はそこまで得意ではありませんけど、ストレートだと時速180kmの剛速球を投げます」
【亜弥】
「180……それは、どのくらい凄いんでしょうか……?」
【石山】
「信長くん、どんぐらい凄いの?」
【信長】
「俺に説明させるのは完全に嫌がらせだな……ッ! 対峙したことのある俺の感覚的には、速度以上に威力がおかしい。ダンプカーが突っ込んできた、みたいな状態だから死ぬ気でいかないとまず打ち返せない」
【亜弥】
「ダンプカーみたいなボールですか!! 凄いですね!!」
【深幸】
「ちなみにそのダンプカーボール、ここにいる会長は顔面で受け止めたことがある」
【鞠】
「ゼッタイニユルサナイ」
【石山&信長】
「「すいませんでした」」
何かオチに使われた感じもするが、無事稜泉の会長の紹介終了。流れ的に次は副会長さんだ。
【石山】
「コイツはタマ! 稜泉学園で、不肖ながら副会長を務めてる」
【タマ副会長】
「あ、ありがとうございます。代わりに伝えてくださって……」
【石山】
「だってどうせ恐縮しまくって自己紹介進まないだろ? もっと自信持てってのー」
【笑星】
「へーそうなんだ。でもそうだよー雰囲気的に石山先輩と役職逆っぽいよタマ先輩」
【深幸】
「だなー。石山も悪くはねえけど、ちょっと莫迦っぽさが滲み出てるからな……」
【石山】
「云いたい放題だなぁ。まぁ俺確かに相当莫迦だけど」
自分で痴態を晒す筋金入りのオープンマインド。
【石山】
「一方コイツは絵に描いたような優等生なんだよホント。どんだけ優等生かっていうと、俺が10点すれすれをひた走る期末テストをいきなりやらせたら全部90点以上抉り取るぐらいでさー。いやぁ凄いよね」
……まあ優秀なんだろうけど、その説明だといまいち凄さが伝わらないというか、それよりも貴方の痴態が目立ちすぎて副会長さん大迷惑というか。あと10点すれすれじゃ普通に赤点じゃん。
……ともかく雰囲気からこの副会長さんは百歩譲って私寄りの普通枠なんだと期待しちゃう私だった。
【笑星】
「おお、じゃあウチの会長とももしかしてやり合えるのかな!!」
【涙慧】
「……こちらの会長の方が強い」
おいバカやめろ。
【タマ副会長】
「お、お二人も、勉学は得意なのですね」
【石山】
「コイツを舐めるなよーー、全國模試でも凄いんだからなー!!」
【鞠】
「へ、へー……凄いんですね……」
【深幸&信長】
「「…………」」
【タマ副会長】
「そ、そんな私なんか……」
【石山】
「ほらほら、自信トレーニング自信トレーニング。ふんぞり返ってみろって👍」
【タマ副会長】
「え、えー……じゃあ……ま、まあ一応、唯一の取り柄、にしてますっ。少し寂しい気もしますが」
謙遜の目立つ副会長殿、頑張って胸を張る。
……じゃあその唯一の取り柄を傷付けないようにしなくては。
【笑星】
「会長って全國模試受けたことある?」
【涙慧】
「亜弥は、受けた……?」
傷付けないようにしないとね!!!
【鞠】
「……ないですよ(←嘘っぱち)」
【亜弥】
「模倣したものを受けたことはありますけど、本物の模試さんは一度も無いです……」
【タマ副会長】
「そう、なんですね。受験を考えるのであれば、早くから取り掛かって損は無いと思いますよ……!」
この話はここで切り上げとこう。
【信長】
「ふ、副会長殿は何か趣味とかは?」
【石山】
「ガールズウォッチング」
【深幸】
「何故お前が答える……」
この人1回ガムテープで口封印してやろうかな。
【石山】
「いやだって、昼休みの時いっつも俺と居るもん。つまりそれって、俺と充実したガールズウォッチングをやりたいってことでしょ?」
【苺花】
「え?」
【亜弥】
「なるほど……共通の趣味なんですね! それって、何だか素敵です!」
【タマ副会長】
「え……!? ち、違」
【石山】
「いや、そうでもないよ。だって俺の観察結果どころか観察の仕方にまで口出してくるんだもん。しまいには「女子を見詰めるのはやめてください」って体育会系な叱咤まで飛ばしてくるんだよ? 拘りがぶつかり合うと面倒だよねぇ」
【亜弥】
「そ、そういうものなんですね……大好きなことは同じなのに、何だか切ない思いを抱きます」
【タマ副会長】
「……本当に切ない……」
【紫上会】
「「「…………」」」
確かに切ないものを見てしまった気がした。
稜泉学園のターン終了、次はこちらがいく。
【笑星】
「堊隹塚笑星! 紫上学園で、雑務やってるんだ! よろしく!」
【タマ副会長】
「雑務……こちらでいうココアちゃんですね」
【笑星】
「そういえば、他の人達どうしたの?」
【タマ副会長】
「ああえっと、一応紹介しておきますね……書記と会計と雑務も来てるんですけど……皆、そちらの玖珂先輩の方に……多分興味本位か何かで」
後ろを見遣ると、未だ副会長は女子の渦に呑み込まれていた。刺されてたらどうしよう。
【石山】
「お前は行かなくてよかったの?」
【タマ副会長】
「…………いえ……大丈夫です……」
【深幸】
「コイツ、最低だな……」
【笑星】
「思わず俺も屑野郎だって思っちゃったよ、いけないいけない、笑顔笑顔……」
もうホント、ガムテープ誰か持ってない?
【笑星】
「俺も、実は真理学園って興味あるんだよね。もしよかったら、後で何か教えて!」
【亜弥】
「は、はい、答えられるかどうか、まだ在籍歴は浅い私ですけど、よろしくお願いします」
【笑星】
「おお……会長、この会長さん、良い人だね!」
【鞠】
「良い人ですよ。あと多分貴方と同学年です」
【笑星】
「1年なのに会長!? つまり、よっぽど優秀……」
【亜弥】
「そんなことないですよ。私よりも凄い人はたっくさん居ます。ただ、誰も生徒会に入っていないので、私たちが入ることになって……気が付いたら、私が会長を務めさせていただくことに」
【笑星】
「真理学園って生徒会人気ないんだね」
抑も存在自体知ってるかどうか怪しい。私とか普通に知らなかったし。
知ってたとしても、どうせあの学園長が勝手気ままにやってこちらの作った予算計画とか勝手に改編しちゃうんだし、やってて何の意義も感じないことだろう。あの政権下では人気も価値も無い組織、それが真理学園生徒会……。
形だけでも残っていたというのが無駄に悲しい。
【亜弥】
「笑星さん、趣味はどんなものが?」
【笑星】
「んーとね、最近は会長や皆と一緒に居るのが楽しいことかな、今年度入ってからずっとそればっかり」
【深幸】
「照れること云うなお前」
【信長】
「そういうことを平気で云ってのける笑星居てこそ、今年度の紫上会の信用度に繋がっているな」
【笑星】
「え? そう? それは会長が有能過ぎるからじゃ」
何という嫌味コンボ。
【笑星】
「俺、来年は会長になりたいんだ。その為に今、先輩たちの背中見て、修行中!」
【深幸】
「何も仕事してない俺らの背中見てて果たして意味あんのかね」
【信長】
「凄まじく申し訳なくなってくるな……」
【深幸】
「…………(←睨)」
いや、知らないし。
【亜弥】
「私、応援してます。頑張ってくださいね、笑星さん!」
【笑星】
「うん、任せておいて!! よぉし、普通の業務だと全部会長に持ってかれるから、この合宿では活躍するぞー……!」
【苺花】
「健気だ……」
【涙慧】
「苺花に近いものを感じなくもない」
はい、次。
【深幸】
「茅園深幸、会計やってる。他の奴らに比べると普通枠だ、安心してよろしく」
【笑星】
「え、俺も普通枠じゃ……」
【信長】
「俺もそこそこ普通枠じゃ」
私だって普通枠でしょ。
【深幸】
「いやいやいやいや……」
【亜弥】
「よろしくお願いします」
【涙慧】
「……チャラ男だ……」
【苺花】
「る、ルイちゃん、見かけで判断しちゃ……(怯)」
【深幸】
「ダンス部に所属してるぜー。結構動ける方だ。バク転もできるぜ」
【涙慧】
「磨きのかかったチャラ男……(怯)」
【苺花】
「…………(怯)」
【笑星】
「茅園先輩、怖がってるから! 何かもっと優しめの特徴挙げてよ!」
【深幸】
「ちょっと待てよ、ダンス部って尖った特徴なのか!?」
ダンス部というよりピアスと指輪と鎖が似合う容姿がダメなんだと思う。
コミュニケーションに慣れてる人は問題無いだろうけど、私を含む引っ込み思案な性格の子にはもう毒でしかない。
【鞠】
「はぁ……」
……この人は本当、頭は悪くないのに大事なところで……。
【鞠】
「どんなの踊るんですか」
【深幸】
「は? いや、そりゃセイレーンとかだろ。お前見てたじゃん」
【亜弥】
「セイレーン……それってキッズアニメの?」
【深幸】
「ああ、それそれ。今人気沸騰中の」
体育祭を切欠にウィキったことあるけど、本当にアレ、キッズ向けなのかな。シナリオ結構ヤバいんだけど。
【笑星】
「そういえば……茅園先輩が踊ってるのってキッズ系ばっかだよね」
【タマ副会長】
「え」
【涙慧】
「え」
【苺花】
「え」
見る目変わったかな。
私の知る唯一といっていい会計の意外ポイントはやっぱり周りにとっても少し驚くようだった。
【深幸】
「そういやそうだな。まあ弟と妹がねだるからなぁ、自然とそうなるよな」
【亜弥】
「弟さんと妹さんが居るんですね」
【深幸】
「そうなんだよ、まだ園児でイタズラ盛りで遊び盛りで、もう兎に角可愛くてなぁ~。あ、これ写真(←アルス)」
アルスでアルバムアプリを開き、3兄妹のショットを拡大する。
そこにチャラっぽさは欠片も無い。
【苺花&タマ副会長】
「「かわいい~~~!!!」」
【涙慧】
「……兄の顔だ」
【深幸】
「可愛いだろー! 俺の自慢の璃奈と瑠奈だ! 特撮とかヒーローものとか兎に角好きでなー! 最近のアニメって結構エンディングで踊るやつ多いのよ、それでダンス部総出で児育園にパフォーマンスするのが活動の8割だな」
【信長】
「結構色んな保育施設に呼ばれてるよな。なんか、最早そっち系のボランティア団体だな、紫上学園のダンス部は……」
【深幸】
「1回ダンス甲子園に応募したことあったんだけど、その後すみれ保育園に声掛けられて日時被ったことあったなぁ」
【苺花】
「ど、どっちに……?」
【深幸】
「そりゃ、すみれだわな」
【苺花&涙慧】
「「良い人だ……!(←指差し)」」
【深幸】
「最初から俺悪い奴じゃないし……」
【亜弥】
「とても立派なお兄さんなんですね。それはもう、至上のステータスです……うん、間違いなく……」
【深幸】
「ん……そ、そう?」
【亜弥】
「はい、自分を想ってくれる兄を持つ妹ほど贅沢な身分は無いと思うくらいです……!」
【深幸】
「それは何か、過言な気もするが……うん、サンキュー、褒め言葉って解釈しとく……」
彼女の奇病が顕現する前に次に行こう。
【信長】
「松井信長、紫上会書記を担当してます。趣味といえる趣味は無くて、ひたすら野球をやってきた身です」
【深幸】
「コイツは凄えぞー。甲子園にも出場したからな!」
【石山】
「まあ俺に負けたけどねー。だけどコイツと対戦した所為でその後全然投げられなくなっちゃった。お陰で2回戦負けちった」
【信長】
「だから次の試合ではずっとベンチに籠もってたのか……来年は決勝で対峙したいものだ」
【石山】
「だなー(←抱きつく)」
【信長】
「そういうわけで仲良くするつもりはあんまりないから離れてくれ……(←引き剥がす)」
【石山】
「俺はどちゃくそ気に入ってるから仲良くしよーぜー? まだ1年もあるんだからよー」
書記がまた男子に懐かれていた。
【亜弥】
「素敵なライバル関係で友人なんですねー……!」
【信長】
「いや友人というわけでは……」
【石山】
「やっぱイイ腕してるなー(←すりすり)」
ボーイズウォッチングは余所でやってほしい。
【深幸】
「俺の信長に触んな。俺の許可を取れ」
【石山】
「減るモンじゃないしいーだろー? 独占禁止法知らないのかー?」
【深幸】
「知ってるけどお前は何か嫌だからダメ!」
【涙慧】
「……俺の信長……」
【苺花】
「ええ!?」
おっと、あらぬ誤解が巻き起こってるかなコレは。
【亜弥】
「信長さんは、とても人気者なんですね!」
【深幸】
「ああそうだぜ、紫上学園屈指のアイドルだ!!」
【石山】
「稜泉では天敵認定してるけど、俺にとっても唯一無二の存在になりそう」
【信長】
「頼むから恥ずかしいこと云わないでくれ……」
【タマ副会長】
「……………………(←涙目)」
……しかし亜弥ちゃんは楽しそうなので、じゃあいっか、って感じで放置決定。
ていうか被害者面してるけど書記、貴方は思いっ切り加害者側だ。それも相当だ。ガチの被害者は私レベルの運の無い人間を指すのだ。
で……流れ的に次、その私なんだよね。自己紹介はもう4月で大嫌いになったんだけども……。
【鞠】
「砂川鞠……一応、会長やってます」
【深幸】
「あんだけの暴政しといて何が「一応」だ……」
【笑星】
「会長、すっごいんだよー!! ほんと俺の憧れ!! マジやばい!!」
【信長】
「もう会長の居ない日々なんて、考えられないな……」
おぉおい私の自己紹介に虚飾を施すなー。
【亜弥】
「…………」
そして、亜弥ちゃん当然の如く困惑である。私なんぞのネタで喜ばせるとか無理っていう以前の問題なんだよね。
だって亜弥ちゃんはついさっきまで、砂川鞠という人は真理学園生、という認識だったんだから。
実質、亜弥ちゃん以外の人達への紹介にしかならない。故に簡素に終わらせるが吉――
【笑星】
「見て見て、体育祭で画像検索したら会長の姿いっぱい出てくるんだよー! これは姉ちゃんの録画した映像だけど(←アルス)」
【深幸】
「この見た目だと分からないが、コイツ頭良いし運動も可成り出来る。璃奈たちの間でもすっかりヒーロー扱いされてる」
【信長】
「仕事も完璧にこなしてらっしゃる。完全無欠と云わんばかりの輝き、紫上学園最強と呼ぶに相応しい俺の覇者なんだ」
――ってだから勝手に紹介するな!!
【タマ副会長】
「な、何ですかこの御輿、そしてこの盛り上がり方……歌舞伎のパレード張りじゃないですか……」
【石山】
「仕事できるってのは羨ましいなー。俺は抑も識字率を教師に疑われてる。しっかしこう見るとやっぱり可愛くて成績優秀な会長って良いよな~」
【タマ副会長】
「!?!?!?!?」
【苺花】
「会長って、こんなに目立っちゃうものなの……!? 危うく私たち、なりかけてたよ会長に……!?」
【涙慧】
「種が違う……」
そして盛り上がるなっ!
ていうか何とんでもない映像データ持ち歩いてるのこの雑務!!
【鞠】
「グッ……せ、折角少しは塞がっていた傷が、また抉られたァ……」
【亜弥】
「だ、大丈夫ですか、鞠さん……?」
【鞠】
「大丈夫ではない……」
【亜弥】
「……………………」
【鞠】
「……――? どうか、しましたか?」
亜弥ちゃん、何か私を見詰めていた。
それはこの時間始まってからずっとだった気もするけど……疑い、とは別の眼差しな気がした。
【亜弥】
「あ、いえ……その」
ていうか、いきなり笑った。
【亜弥】
「今日、鞠さんと初めて、私、会話できたかもって……」
【鞠】
「…………」
……そういえば、そうだったかもしれない。だって私コミュ障だもん。
【鞠】
「……すみません……」
【亜弥】
「え、どうしていきなり謝って――?」
だって初会話がこんなんだもん……。