6.14「家主」
あらすじ
「民宿のヌシなんじゃから、ババ様くらいが相場な呼び名じゃろうな」紫上会、お宿に驚嘆。そして新キャラも登場しますが、次々回あたりもっと出てきちゃう6話14節。
砂川を読む
Time
13:45
Stage
ミマ町村部 民家
【鞠】
「…………」
……取りあえず、貰った地図を見ながら歩いたところ、ギリギリ町村部な、丘の上にひっそり佇むお家に辿り着いた。
うん……期待はしてなかったけど、結構見た目からしてボロい。
【笑星】
「おお……俺ん家には及ばないけど汚い」
【深幸】
「どんなとこに住んでんだよお前。てか本当に此処かよ?」
【信長】
「……入ってみれば、分かるだろ。取りあえず家主に訊いてみよう」
書記が先行した。
続くように私たちも、民家に突入。
……ていうか玄関開けっ放しというね。都市では考えられない。
【信長】
「ごめんくださーい」
……………………。
【四粹】
「人の気配を感じません。留守かと」
【深幸】
「んじゃあ、ちょっとお邪魔してみるか……」
勇気あるなこの面子。
まあ、このまま立ち呆けてると次のスケジュールに間に合わないし、仕方無かろう。
【笑星】
「幽霊屋敷って感じがするねー……」
【深幸】
「やめろよ、夜寝れなくなるだろ」
【信長】
「そして失礼なことを云うもんじゃない。中は案外綺麗だし、掃除が行き届いてる。人が通ってる証拠だ」
1階建てだが、なかなか広い。
書記が云った通り、掃除がされている形跡がある。だから此処に泊まれと云われても、まあ外観ほど抵抗のある環境ではない。
私が野宿を決意するかどうかは、あとは家主ということになるが……
【四粹】
「……なるほど」
その答えは、リビングと思われる7畳の畳空間に、見事に溶け込んだ卓袱台の上にあった。
紙だ。何か書いてある。
【鞠】
「……紫上学園様」
「ここに泊まってください。無人で、今は使われていない民家です。 主催より☆」
【鞠】
「ふむ」
なるほど、ホテル代わりとしては確かに大凶に値する物件だ。
多分、有力なホームステイ場所があまりに見つからなかったんだろう。それで苦肉の策な感じで此処が挙げられたんだ。
友好的な島なんじゃなかったっけか。他の優良案件がどんな感じなのか全然知らないから考察しようもないんだけど、もっと色々何かやりようあったんじゃなかろうか。主催は常連学校で回してるって聞いたけど、今年の主催は色々と酷い。
【笑星】
「でもまあ、のびのびできていいかもね! 町とも離れてるから、夜中も騒ぎ放題だ!」
【信長】
「そんなことしたら会長にもっと嫌われてしまう……」
【笑星】
「夜は夜らしく寝てよう……」
あと今までスルーしてたけど、折角こんな広い家を使うんだしってことで、紫上学園は紫上学園で一括して此処だ。云い換えると、男女関係無く此処だ。都市では有り得ないことだろう。
それに対して不満が無いわけなかったけど、この人達はどうせ私をたいして女子として扱ってないだろうし、私ひとりがそれについて騒ぐのも自意識過剰と云われ無駄に変な空気になるかもなので、もう黙ってた。
お互いその気が無いなら、そんなヤバい事なんて滅多に起こらないだろう。うん。
【鞠】
「……しかし、無人、か」
そうなると、この家の設備を一旦確認しておいた方がいい。水とか通ってるよね?
寝室に使えそうな部屋を選び始めた男子陣を放って、私はまず台所を探した。広いといえども民家なので、当然すぐ辿り着く。すると普通に冷蔵庫発見。開けると見事に何も入ってないものの、手を入れると冷えてるのが分かった。
次に水道……レバーを上げるとちゃんと水が管を通って出てきた。
【鞠】
「……食器もある」
丁度そこにあったプラスチックなコップに注いでみる。
……見た目は透明、普通のお水、だけど。どうしよう……いくか?
【鞠】
「……………………」
【???】
「……………………」
【鞠】
「…………ん?」
あれ?
気付けば、何か隣に……人間が。
【女の子】
「…………ほ?」
【鞠】
「えっと……誰、ですか……?」
【女の子】
「――――」
女の子だ。
私の首ひとつ分ほど背丈が小さい。
……え、ホント、誰??
【女の子】
「ほう――もしや、とは思ったが……驚きじゃな」
【鞠】
「私も、結構、驚いてるんですけど……まさか、此処の?」
【女の子】
「ああ、心配せんでよい。此処は無人じゃ、今は誰も住んどらん。しかしまだ電気は通っとるし、綺麗な水も流れる。気兼ねなく使えばよい」
【鞠】
「……そう、ですか」
コップの水を少し飲んでみる。
……うん、無味無臭。何となくだけど普段使ってる水と大差無いと思う。
あとでトイレやシャワーも確認するけど、取りあえずはこれで生き延びれそうだ。
で……
【鞠】
「それで……貴方は?」
【女の子】
「んー……まあ、この島に住んどるものじゃ」
【鞠】
「そりゃそうでしょうけど」
【女の子】
「遊びに来てみたら、何か人がいるからのーびっくりした。見ない顔じゃの」
【鞠】
「別の大陸の人間です。少し用がありまして、3日ほど滞在することに。此処は宿代わりですので、泥棒ではありません」
【女の子】
「この島に泥棒はおりゃせん。盗む物も無いからの!」
【鞠】
「はあ……」
【女の子】
「そうじゃな、じゃあその3日間は、この家で遊び慣れとるワシが家のヌシになってやろうぞ! これで安心じゃろ?」
うーん、全然安心する要素がないんだけど。この島の子どもってことで良いんだろうけど、この子どもならではの懐っこさ、やっぱり苦手だ。私は基本的に子どもが苦手なのだ。強く断るっていうのもできないし……
【女の子】
「名前は何と云うんじゃ?」
【鞠】
「……砂川、です」
【女の子】
「下の名もあるじゃろ?」
【鞠】
「鞠、ですけど」
【女の子】
「鞠か! 可愛い名前じゃな! じゃあ鞠のことは鞠と呼ぼう!」
【鞠】
「ぇぇぇぇぇ」
懐っこいぃぃぃ……。
【女の子】
「ワシは……そーじゃなぁ、民宿のヌシなんじゃから、ババ様くらいが相場な呼び名じゃろうな」
【鞠】
「それ何の調べですか?」
【ババ様】
「ワシのことはババ様と呼ぶがいい! まあ民宿といっても何もするつもり無いがのー! 勝手に喰って、勝手に寝とくれー!」
【鞠】
「ほんと、何にも安心できないんですけど」
ああ……面倒臭いものがまた追加された……。
【ババ様】
「ミマキ様の結びのもと、これは幸せな邂逅となろうぞ――鞠よ」
【鞠】
「言葉遣い半端ないですね」
兎も角、これがこの家の家主ってことらしかった。いや違うんだけどね。
子どもの論理に抗う精神力を、私は持ち得ないのだった。