5.07「待ち伏せる獣」
あらすじ
「何で松井先輩はソイツの肩持ってんだよ!! おかしいだろ!!」砂川さん、襲われます。新キャラ登場するたび災難に見舞われる5話7節。
砂川を読む
Time
8:00
Stage
霧草区
【汐】
「……………………」
【鞠】
「~~~~~~~~~」
【汐】
「……鞠ぃ……? 今日、何だかおかしくないですか?」
【鞠】
「~~~~~~~~~」
【汐】
「昨夜の今朝で何かあったんでしょうか……ッ――まさか、野郎が夜這いでもしてきたんですか!! 鞠、服を脱いでください、今から検査を――」
前見て運転しろ。
【鞠】
「別に……何もありません。ただ、ちょっと一つ事実を知ってしまっただけです」
【汐】
「事実? 何かあったんじゃないですかやっぱり。お姉ちゃんに相談してくださいよ~ぃ」
【鞠】
「却下で」
コイツ絶対面白がるもん。寧ろ拡散悪化させると思うもん。
写真撮られまくってるのはまあ分かってたけど、本当誰だよ勝手にネットに上げた奴。しかも画像が掲載されてるサイト飛んだら、1枚だけじゃなかったし。
カップルリレーの写真が貼られてるのを見て、私はそれ以上のネットサーフィンを中断して寝た。
ていうか多分先輩、アレを知ってたから思い出し笑いしてたんだろうなぁ。先輩が笑ってくれるのは良いことだけど、ちょっと私のダメージ量が甚大で今日を生き抜ける気がしない。
【汐】
「はい、到着ですよー」
しかし現実は1人の人間の心情など意に介さず、時を巻く。
溜息を車内に残しながら、朝から熱を帯びた外へと足を着ける。
……そういえば、結局先輩に野球の話題、投げられなかったな。
Stage
紫上学園 正門前
【???】
「――おい」
こっちでは、否が応でも関わる羽目になるのに。
【鞠】
「…………」
視界に入ってきた正門へと歩く私は、男子と正面対峙した。
待ち伏せされていた。つまり、そっちの話題だろう。
【男子】
「……野球部、認めろよクソ会長」
なんという単刀直入。
周囲の空気とか人とか一切無視した、ストレートな攻撃。
コイツ、人の迷惑とか何も考えてないらしい。
【男子】
「テメエの我が儘勝手の所為で、皆、困ってんだよ――!! この野蛮野郎!!」
この理不尽。どうやら彼も野球部の一員っぽい。
しかし、野蛮なのは本当、どっちだろう。
名乗りも挨拶も無く、朝っぱらから登校する他の学生や一般人への配慮も無い奴の方が遙かに野蛮じゃなかろうか。
尚更、話を聴いてやるギリも無いというものだろう。
【鞠】
「時と場所と自分の身分を弁えて出直してきなさい」
それでも一言添えてやって、私は名も知らぬ男子の隣を過ぎていって――
【男子】
「ッ――無視、すんじゃねえよ。このッ」
【鞠】
「ッ!」
――男子に、肩を後ろから掴まれる。
可成り、強い力。爪が食い込むんじゃないかってほどに。
痛みを感じ始めた私をそのまま強引に引っ張ろうとしたところを――
【???】
「おい」
別の男子が、野蛮な腕を掴み制す。
こっちは知ってる男子だった。
【信長】
「何してる、赤羽」
その手が、赤羽と呼ばれた男子の腕を私の肩から引き剥がした。
その瞬間のエネルギーの感触から、相当強い力で引き剥がしたと思った。そして、怒気もちょっと感じた。
彼を見ると、ちょっとどころじゃなそうな表情で、男子を見下していた。
【赤羽】
「ま、松井先輩……!」
【信長】
「野球部では年功序列を重んじていた筈だ。なのに、先輩なうえに紫上学園で一番偉い学生に向かって、その態度は何だ!! 慎め!」
【赤羽】
「何で――何で松井先輩はソイツの肩持ってんだよ!! おかしいだろ!! 松井先輩、最後なんだろ!?」
【信長】
「……知ってるんだな……だが、既に俺は野球部を辞めた身だ。もう俺は野球部じゃない。これが俺の……夏なんだよ、赤羽」
【赤羽】
「ッ――そんな――そんなの!!」
【信長】
「会長に暴行を働いたこと、時を改めて紫上会が厳重注意の処理をします。HRに遅れないように。……会長、行きましょう」
【鞠】
「…………」
まことに不本意だが、書記の助けに応じ……私はこの場を乗り越えたのだった。
【赤羽】
「何で……何でだよ、松井先輩……ワケ分かんねえよ――!!」
【鞠】
「…………」
後ろからアイツの叫びが聞こえた。
【信長】
「…………」
それには、正直、同意だった。