5.34「判定」
あらすじ
「約束の時刻になっていますが、計算に狂いが発生したので、今暫く待つように」野球部、判定式に臨みます。皆さんはこの救済措置のおかしいところにもう気付きましたか? 次回でネタばらしな5話34節。
砂川を読む
Day
6/26
Time
13:00
Stage
体育館
【六角】
「あれ、四粹、何その紙の束」
【四粹】
「これは……入部届です」
【六角】
「……何でそんなもん腕に抱えてんの?」
【四粹】
「どう答えたものか悩むのですが……何となく、でしょうか」
【六角】
「何じゃそりゃ」
……遂に、救済措置判定日となった。
【信長】
「…………」
【野球部】
「「「…………」」」
苦い記憶が鮮明に残る体育館に、俺たち野球部は再び集まった。深幸たち、サポートに尽くしてくれた者たちも。
この時間は、決して明るいものではない。結果を示すのは会長だが、俺たちは俺たちで結果を測定したから。
覚悟は俺たちなりにしてきた。
……してきた、のだが。
【笑星】
「……何か、鞠会長、めちゃくちゃ機嫌悪そうじゃない……?」
会見の時と同じように、1人だけステージに上がり、データが打ち込まれているであろうアルスを即席テーブルに置いて、そこに肘を着きながらパイプ椅子に座っていた。
ただそれだけなのに、誰の目から見ても不機嫌と分かるのだから、それだけ相当不機嫌なんじゃないかと思う。俺は、或いは野球部はまた会長の機嫌を損ねるようなことを気付かないうちにやってしまっていたのだろうか。
【深幸】
「……あんまりイライラし過ぎるとハゲるの早いんじゃね(ぼそっ)」
【鞠】
「…………(←睨)」
【深幸】
「(聴かれてた!?)」
黙って時を待つのが無難だろう……約束時刻3分前だ。
【男子】
「……キャプテン、まだ赤羽、来ません……何やってんだアイツ……!」
【児玉】
「……そうか」
判定式には、何も野球部全員が出席する必要は無い。部長であるキャプテンがいれば……しかしこの運命は、野球部全員でしっかり受け止めようと決めた。だからこの判定の瞬間も、皆同じ場所で迎えよう、そう話し合って、体育館に集まった。
だけど、3分前になっても赤羽は姿を未だ現していなかった。学園を欠席する場合、野球部にもしっかり伝えるよう云っておいた筈だが……。
【児玉】
「だが、あまり強くは云えないな。この場所を一番辛く思うのは、間違いなくアイツだ……」
【男子】
「まあ……そうですね」
と……その時――
【赤羽】
「――間に合ったァ!!!」
噂の主が、大声で体育館に走り入ってきた。
【六角】
「お……? 元気だねー」
【児玉】
「赤羽……! 来るつもりだったのか……」
【男子】
「おま、ギリギリだよ、何してた――」
【鞠】
「ッ――遅おぉおおおおおい――!!!」
【野球部】
「「「!?!?!?!?」」」
会長がマイク越しで叫んだ。ギリギリセーフの部員を指差して。
不機嫌な感情が積み込まれたハウリング必至の暴音に、思わず皆で仲良く耳を覆う。
【邊見】
「び、ビックリしたぁ……!?」
【四粹】
「……ははは……」
【赤羽】
「!? し、仕方ねえだろ、俺の今の立場じゃ誰ともコミュニケーションにならねえんだよ!!」
【鞠】
「なら別の人に事情を説明して頼めばよかったでしょうが!!」
【赤羽】
「…………あ」
【鞠】
「……底部的な、莫迦……(立ち眩み)」
会長と赤羽が、比較的ナチュラルにハイボリュームの会話をしている。
それは他の者たちにはあまりに不自然な光景で……
【信長】
「……っていうか」
登場したのは、赤羽だけじゃない。
十数名の学生が、体育館に入ってきていた。
【鞠】
「……で、その無関係者たちは何ですか……」
【赤羽】
「決まってんだろ! 入部希望者だよ!!」
【信長】
「……は? 入部――」
【児玉】
「希望者だと――?」
【六角】
「……ッ――そうか、そういうことか……!」
【鞠】
「貴方、入部希望者が入部したいと私の前に現れただけで入部完了になると思ってるんですか?」
【赤羽】
「は? じゃねえのかよ?」
【鞠】
「なわけあるかッ! 入部届をッ、紫上会に提出するという決まりがあるでしょう、貴方も野球部入った時提出したでしょう! というかこれも軽く概要で触れてた筈なんですけど!!」
【赤羽】
「ッ!?」
【学生】
「おい赤羽、依然ピンチなんじゃねえのかよ! お前ちゃんと事情把握しとけよ!!」
【学生】
「ほんと頭悪いよなお前はもう!!」
【学生】
「てかどうすんだよ、俺たち登場損!?」
【四粹】
「……因みに丁度偶然、私は十数枚ほど入部届用紙を持っていますが、使われますか?」
【赤羽】
「ッ――! 全部ください!! 皆、急いで書け!!」
【学生】
「おんまえホント巫山戯んなよ――!!」
【学生】
「そして四粹様、素敵な配慮ー!!」
ブーイングを流しながらも、来た学生たちがどんどん玖珂先輩から、紙を貰って自分の名前を書いていく……野球部への、入部届を。
一体これは、どういう、ことだ……?
【学生】
「あの、野球部の部長さん!?」
【児玉】
「……!?」
【学生】
「すいません、これ、判子押して下さい! 必要なんですけど!!」
【学生】
「あ、俺も書けたんでください!」
【学生】
「私も!!」
【児玉】
「待て、ど、どういうことなんだ!? 俺はさっぱり状況が――」
【六角】
「理解は後!! 児玉、いいから野球部印鑑出して全部押せ!! 10秒で全部いけ!!」
【児玉】
「六角!?」
【六角】
「GO!!!」
同じく事態が呑み込めていないキャプテンを、六角先輩が無理矢理動かす。
【邊見】
「えっちゃん、これって……」
【笑星】
「???????」
【邊見】
「……あ~、予想外なんだね、皆~」
【深幸】
「おいおいおいおい……何が何だかよく分かんないが、会長はコレいいのか……?」
【鞠】
「…………」
【深幸】
「……待ってる、のか――?」
軈て、来た入部希望者たちが皆入部届の記入を終える。それら全てが、部長印を載せた状態で。
玖珂先輩がそれらを回収して……階段を昇り、ステージで座りこちらを眺めている会長に提出した。
【鞠】
「……まったく、野蛮はどっちですか……」
【四粹】
「考慮、いただけるでしょうか……?」
【鞠】
「……約束の時刻になっていますが、計算に狂いが発生したので、今暫く待つように」
会長が、数台のアルスを展開し、いつもの仕事形態に入る。
……何も呑み込めてない俺たちは、当然の如く、赤羽を問い詰める。
【児玉】
「赤羽!! これは、一体どういうことだ!?」
【赤羽】
「す、すいません、また勝手にやっちまって――!」
【男子】
「ホントだよ!! いや、今はソレはいい、説明してくれ!!」
【男子】
「入部希望者を集めたのは、見た感じお前だよな? よりによってこのタイミングで部員募集ってどういうことだよ……?」
【赤羽】
「えっと……寧ろ、このタイミングだからこそ、じゃないかって」
【児玉】
「何……?」
【赤羽】
「すいません、俺、ちゃんと説明できる自信無いっす……兎に角、云われたようにやっただけで――」
【信長】
「……云われた?」
【六角】
「つまり、平均点を上げようとしたわけだ」