5.32「結果発表」
あらすじ
「平均総得点をシンプルに云うぞ」砂川さん、そして野球部、期末の結果発表に臨みます。作者も実は(媚びを売りまくって)成績優秀者だったりする5話32節。
砂川を読む
Time
9:30
Stage
コンサートホール
【宮坂】
「1年の部、チャンピオンは――邊見聡!!!」
【邊見】
「やった~~! 恩恵、貰えるかな~」
【笑星】
「俺ももっと頑張らないとな~~……」
【宮坂】
「2年の部、チャンピオンは――覇者、砂川鞠!! 今回も全教科満点ッッ!!!」
【鞠】
「……何とかなった」
【宮坂】
「3年の部、チャンピオンは――玖珂四粹!!」
【四粹】
「…………」
【六角】
「くっそぉ~……次は俺が勝ーつ!!」
……週明け、早速結果発表式が開かれた。ほんと無駄な終日イベント。いや午前9時台で終わるけど。
特にこの表彰が辛い。もろに全学年の視線を浴びる。どんなこと思われてるんだろ。どうせまたカンニング疑惑とかかな……今回私長期欠席してたから湧きそう。
【学生たち】
「「「…………」」」
【鞠】
「……帰ろ……」
訂正。紫上会室で仕事しよ。
表彰状も貰ったことだし、座ってる人たちに先んじて今回も私は一番ノリしちゃう。
【邊見】
「あ、待ってよ会長先輩~」
【四粹】
「…………」
その後ろを他2名の受賞者が追い掛けてくる。中間試験の時と同じ構成だ。いや、確かあの時はあの五月蠅い前会長がいたか。
【四粹】
「……会長」
騒然として会話もしづらい環境の中、歩いて行く私に後ろから副会長が耳打ちしてきた。
【四粹】
「野球部はこの後、総得点平均の計算に入ります。我々講師陣も立ち会います。報告は……要りませんね」
【鞠】
「…………」
その表現からして……この人は、気付いているようだ。
【鞠】
「無論です」
彼らは、いつ気付くだろうか。
Time
12:00
Stage
空き教室
【信長】
「…………」
期末試験が、終わった。結果発表式も終わった。
各々の答案用紙は既に返ってきており、採点済みだ。それらを全て野球部は、六角先輩たちに渡していた。
【菅原&深幸】
「「…………」」
【邊見&笑星】
「「…………」」
【六角&四粹】
「「…………」」
俺たちにとって、今回の結果発表式は寧ろこの時間だった。一人ひとりが、彼らの計算を固唾を呑み見守っている。
間違いがないように3グループが最終結果を導き出し、答え合わせをする。3つの解答が一致するまで、それは繰り返される。
……が、繰り返されることなく、
【六角】
「――結果が出た」
俺たちの結果は導き出された。
【児玉】
「頼む……越えていてくれ――!!」
【男子】
「俺たちに野球を……頼む!!」
【男子】
「お願いします……!!」
祈りが、漏れていく。
泣いても笑ってもの一発勝負は既に終わっている。だから何をしても意味は無い……が、俺も思わず祈ってしまう。願ってしまう。
どうか……勝たせてください、と。
それは間違いなく、俺が大事にしてきたソレとは違う、「普通」な感情だった。
【六角】
「俺が、代表して発表させてもらう。平均総得点をシンプルに云うぞ」
【児玉】
「――ああ」
【信長】
「お願いします!!!」
祈りの音は消え……強い静寂が教室を包む。
【六角】
「……………………」
その空気を一身に浴びる、六角先輩は軈て口を開き――
【六角】
「――504点だ」
――俺たちの勝敗を、知らせた。
【児玉】
「…………」
【男子】
「ごひゃく……」
【男子】
「よん、てん……」
504点。
皆ずっと、事ある毎に口に出し意識してきた……「525点」よりも、小さい数字だった。
それが意味することを――信じていたからこそ、受け止めるのに時間はかかった。
【信長】
「……そう……か」
――俺たちは、負けたのだ。
【野球部】
「「「……………………」」」
俺たちの……夏は、終わったのだ。
【児玉】
「――すまない」
あらゆる言葉が沈む、今のこの空間の中で、最初に言葉を出してみせたのは、キャプテンだった。
その、この場の誰もが持っているに違いない、悔恨に揺れる眼は俺に向けられていて。
【児玉】
「すまない、松井。お前を、甲子園に連れて行く道が……こんなところで――」
【信長】
「いえ……いいんです。いや、そんなことを云っては、皆に申し訳ないか」
【深幸】
「…………」
皆が、自然と立ち上がった俺を見ている。
俺は……どんな顔をしているのだろう。皆と同じ、悔しい顔をしているだろうか。
それは分からないが……今、キャプテンが先陣を切ってくれたからか、自然と言葉が浮かんでいた。
【信長】
「だけど、あの時に比べたら……随分と、救われた気がしてるんだ」
【笑星】
「松井先輩……」
【信長】
「笑星と深幸が俺を叩き起こしてくれて、皆が一緒に立ち上がってくれて……野球ではなかったけど全力で、闘えて。それで敗れて……野球部としてこんな夏の終わり方は無いだろ、とも思うけど、負けることができたんだ、俺は幾分救われた」
【野球部】
「「「…………」」」
【信長】
「皆ときっと同じだ、俺は今相当に悔しい感情を持っていて……だが、その一方で、兎に角感謝を伝えたくて。皆――足掻かせてくれて、本当にありがとう!!」
泣き啜る音が散乱する。
客観的にみれば当然、酷い結末なんだと思う。この皆の涙を、試合での敗戦のそれと同一に見ては絶対にいけない。
だが……今年の夏の結末にだって、きっと価値はあるだろう?
【六角】
「……去年測ったら、きっと150点ぐらいだったろうな」
六角先輩が、再び口を開いた。
【六角】
「それを2週間で、500点超えだ。執念の為せる業、ていうのはよく聴くけど、なかなか現実に見れるもんじゃない。お前らだからこそ出来た、凄い結果なんだと俺は思う」
【児玉】
「……ッ…六角――」
【六角】
「まだ次の夏がある奴は、このとんでもねえ執念の力と悔しさを絶対忘れるな。今年の夏を歴史に残せ。いいな!!」
返事は出ない。が、頷く者がちらほらと居る。
【六角】
「そして3年は……辛いだろうが、誇り高き野球部で培った全てを、紫上学園で得た全てを、どうか各々の道で発揮してめざましい活躍をしてほしい!! 児玉、お前は……最高の部長だよ、よく闘い抜いた!!」
【児玉】
「最高な……ッ最高なもんか、俺が……俺が――ッ!!」
泣き崩れる、キャプテン。その大きな背を強引に撫でながら……六角先輩は少しだけ笑って、皆にもう一度向かった。
【六角】
「引退済みの会長の言葉じゃ迫力も足りんだろうが、お前達を直に支えた講師として、確信したことを一つ云わせてくれ!! この野球部は、必ず進化していく!! この野球部は、紫上学園、最高の、部活だ!!!」
【児玉】
「当たり前だ――お前達は、最高だ、野球部は一生、最高だぁぁ――!!」
【深幸】
「ああ――そうだよッ、最高だよ畜生がぁ――!!!」
【笑星】
「ぅぅぅぅう来年は絶対甲子園行けよなーーーー!!!」
【邊見】
「えっちゃん、はい、ハンカチ」
【菅原】
「六角ー、目立ち過ぎー……」
【四粹】
「……………………」
……こうして。
俺たちの闘いは、終わった。
【赤羽】
「……………………」