5.27「復活せよ!!」
あらすじ
「野球部で、最も諦めの悪いエースだ!!」魔王信長、復活します。何で魔王なのかはどっかで説明入れます5話27節。
砂川を読む
Time
15:15
Stage
空き教室
【信長】
「……確かに、この救済措置は会長からの回答でした」
学園に戻ってきて、放課後……再び同じ場所に野球部は集まった。
先とは違って、意気消沈ではなく状況が分からず混乱している雰囲気だ。
【深幸】
「……俺たちが来た時には、既にもうこれは作ってあった……」
【笑星】
「思いっ切り仕事してるじゃん……安静してよ本当……」
因みに、紫上会の3人もこの場に来てくれていた。
会長が作った紫上会の「回答」に、俺たち同様に驚きの表情を浮かべる。
【四粹】
「……松井さん。会長は、松井さんへの「仕返し」と仰っていたのですね?」
【信長】
「はい。俺には、今のところどういうことかさっぱりですけど……」
【四粹】
「…………そうですか……」
【深幸】
「あ、そういや悪い信長、玖珂先輩にも一応、その……お前のこと、話しておいた。単純に頼れるって理由で」
【信長】
「……そうか。気を回してくれて助かる」
【四粹】
「理解が及ばず、申し訳ありませんでした……確かに、六角さんや菅原さん、それに村田さんを遙かに凌いで負けず嫌いなのだと思ってはいましたが……」
【信長】
「そんなっ、こっちこそ……ややこしい人間ですみません」
【四粹】
「しかし……そうですか、会長からすると……これが松井さんへの制裁、なのですか……」
【信長】
「……玖珂先輩?」
【四粹】
「いえ、何でも。兎に角皆さんにとって重要なのは、これは夢ではなく現実の、「救済」ということでしょう」
【笑星】
「そうだよ、ほら見てよ松井先輩、云った通りでしょ! 道、無くなってなんかなかったよ! ちょっと塞がってただけ!」
【深幸】
「塞がっちまったなら、また掘り返しちまえばいいもんな。紫上会はまだ何ヶ月も続く。だけど今年の夏はもう近付いてる。全部やろうぜ、信長!!」
【信長】
「深幸……」
【深幸】
「つーかアイツがこんなのを用意したこと自体、とんでもない奇跡だぜ……! アイツの苦慮とか気にすんな、この先アイツとどうなっていくかは分かんないけど、どんなことになったって、俺が一緒に居るんだからよ!」
【笑星】
「うん、ひとりじゃないよ! よければ俺も同行するし!」
【児玉】
「……お前が赦してくれるなら、無論俺たちも行くぞ、松井」
気付けば……俺は、皆に囲まれていた。
【男子】
「この勝負も、甲子園も、お前がいなきゃ勝ち目ないしな!」
【男子】
「松井先輩の最後の夏に……俺たちも連れてってください、松井先輩!」
【児玉】
「堕ちるところまで堕ちたんだ、屈辱も歓迎、何にでも食い付くさ! そうやって元々我が野球部も這い上がってきた……それを、もう一回やるだけだ!!」
【信長】
「キャプテン……皆――」
――どうして、今まで気付けなかったんだろうな。
確かに勝負は俺の中で最上位の概念だ。だけど、その為に他の総てを捨てる必要は、なかったかもしれない。目を瞑る必要はなかったかもしれない。
どいつもこいつも負けず嫌いで、しぶとくて、這ってでも何かを目指す人達と、何年の附き合いだ。そんな「同志」とずっと一緒に居たんだ。なら……一緒に見てきたことを、共にやってきことを、好きになったって、別におかしくないじゃないか。
【信長】
「……………………」
…………そうだな。
そうだよな……俺、らしくなかったな。
初めて負けて、それから初めて勝ったその時に俺は会得したじゃないか。一番大切なことは――
【信長】
「――諦めないこと」
【深幸】
「ッ……!!」
【笑星】
「あ……」
現実を向け、松井信長……今一番やらなきゃいけないことは何だ。俺が選んだ、会長が云ったことを思い出す。
【信長】
「今度こそ……嘘偽りなく――! 俺は――」
本当の気持ちに正直になって、その儘に、会長に回答すること――!!
【信長】
「皆と、野球がしたい。そして勝って、甲子園に行きたい!!」
【児玉】
「――!!!」
【男子】
「……ああ、行こうぜ!! 行こうぜ松井!!! 俺らなら、行けるよ!! 優勝だってできる!!」
【男子】
「松井、除名なんてしてないからな、お前はずっと、紫上学園野球部だ!!」
【信長】
「ああ……!! 俺は、背番号4番を着る松井信長!! 野球部で、最も諦めの悪いエースだ!!」
【深幸】
「やっと……やっと戻って来やがった、この野球莫迦がッ!!!」
殴られる勢いで肩を掴まれる。
……そう、迷う心配なんて無い。俺を離さず、ずっと俺と共に歩んでくれた深幸が。皆がいる――!
先は闇だとしても、今なら……進める! 足掻ける!
【四粹】
「……やることは決まりましたね。この救済措置を狙う……この方針で、間違いはないですね」
【児玉】
「ああ……!」
あらためて……会長が用意した勝負を確認する。
【深幸】
「今回の期末試験で、野球部全体が75%……つまり、野球部の総得点を野球部の部員数で割って、部員1人の平均総得点を出した時に……700×0.75つまり525点を上回っていれば、野球部の勝ちってなるな」
【男子】
「……525点か……ぶっちゃけ、野球部の点数あんまり良くねえぞ……」
【笑星】
「何となくそんなイメージ持ってたけど、やっぱりそうなの?」
【男子】
「出来る奴は出来るけど、出来ない奴はとことん出来ないな。そして、出来ない奴の方がずっと多い……」
【男子】
「畜生、日頃のつけがこんなところでッ!」
【笑星】
「鞠会長……狙ってたのかな、コレ……」
【深幸】
「さあな……けど、どっち道やんなきゃダメだし。信長の為だ、勉強出来る側のこの俺が手伝ってやる!!」
【笑星】
「正直75%は俺も怪しいとこだけど、教えられるところは教えるよ! 玖珂先輩も、暇だったらお願い手伝って!」
【四粹】
「……お求めならば、いつでも助力いたします」
【信長】
「無論、俺も全力を尽くして、皆の勉強を見る。辛いだろうが、この活動自粛の間は……ひたすら勉強だあぁあああああああ!!!!」
【男子】
「ヌグゥッ……――ぉぉぉぉおおおおおおおやってやんよおぉおおおお!!! 期末がなんぼのもんじゃーーー!!!」
【男子】
「野球で鍛え上げた集中力と根性遺憾なく発揮してやるよーーー!!!」
【児玉】
「紫上学園野球部……勝つぞーーー!!!」
【野球部】
「「「オーーーー!!!」」」
会長――今の俺の姿は、矢張り会長を裏切る姿そのものかもしれない。
けれど、尚更難しいのは分かってはいるけれど、俺は矢張り……貴方の紫上会に居ることを諦めきれないから。今度こそ、会長に従う身であれるように、まずは……ここから始める。
貴方の勝負を――全力で、受ける!!