5.18「会見、再び」
あらすじ
「あちらの話を聴いて、コメントをする。今回の臨時会見はただそれだけの内容です」砂川さん、また会見を開きます。次回は相当に長文で熾烈なのでお覚悟な5話18節。
砂川を読む
Stage
2D教室
【鞠】
「……何ぞこれ」
登校したら、何か机に置いてあった。
1枚の紙。白紙の裏が表になっていた。手に取り返すと、
「本日昼休み、体育館にて野球部の誓約書不提出に伴う公認末梢についての会見を願いたい。」
「児玉願斗、TVスポ」
【鞠】
「……何ぞコレ」
思わずもう一回云ってしまった。
部長が書いたんだろうか。なかなか達筆である。気合い入ってる。
【鞠】
「……突然なこと」
【男子】
「あー……えっと、砂川」
クラスメイトに声を掛けられた。
って……この人は誕生日会にも来てた人だっけか。クラスメイトだったのか。
【男子】
「それなんだが……」
【鞠】
「事情は知ってるんですね。このTVスポっていうのは何ですか」
【男子】
「ああ……」
今、私は結構焦っていた。
本来どんなに相手が気合い入ってようが、私にとっては一瞥に値しないものだ。会見を開くかどうかは紫上会が予告し掲示するものだからだ。こちらがソレをやっていない以上、会見を開くことはない。
……が、一番下に部長の名前、その隣に「TVスポ」というのが書かれている。これ、確かテレビ局。これは、無視しづらい要素だった。
【男子】
「どうやら監督が取材拒否の理由に、野球部の廃止につき甲子園予選への出場は困難な為って説明したっぽくて……」
【鞠】
「実力のある野球部が今年はどうしてそんなことになったのか、記者側が気になったということですか」
あんの監督、普通直球で答えるか。
いや……狙ってたか。
【鞠】
「その説明を紫上会にさせるという形にすることで、無理矢理私を引き摺り出す魂胆ですか……ッ!」
テレビ局なんて社会への影響力の高い連中が来るとなれば絶対無下にできない。
野球部にしては有効な手を打ってきたものだ。勿論褒めてない。ウザったくて仕方無い。
【男子】
「頼む!! 砂川……俺たちに、附き合ってくれ……!」
【鞠】
「……!」
野球部員が……初めて、私に頭を下げてきた。
何か――あちらで変動が起きたという事だろうか。
【鞠】
「……こうなっては仕方ありません。心配しているようなら、部長に伝えるといいです」
【男子】
「……! 助かる……!」
いや、相手など関係無い。私は揺るがない。
【信長】
「……………………」
そして、彼が揺るがないなら……奴らに勝ち目は無いのだから。
Time
13:30
Stage
体育館
【笑星】
「……ほ、ホントにやるんだ、会見」
昼休み。こっちはしてないつもりだが約束通り、会見という名にふさわしい人口密度になってきた。
ステージで雑務はマイクを設置していた。緊張しているように見える。まあ、今カメラに映ってるし。記者さんたちは会計や副会長の誘導で後方に立ってもらうことにしていた。
前方には……
【児玉】
「…………」
野球部。あらためて、凄い人数だ。数える気にもならないけど、全員神妙な顔つきをしていた。
【信長】
「…………」
いつも通り……といっても会見は2回目だが、やることがなくなった紫上会面子はステージ階段付近で待機だった。
【笑星】
「か、会長。何も準備できてないんだよね?」
ガチガチの身体でマイクを設置し終えた雑務がステージ裏に帰ってくる。
【鞠】
「仕方無いでしょう。何も用件を聞いてません。あちらの話を聴いて、コメントをする。今回の臨時会見はただそれだけの内容です」
【笑星】
「……大丈夫?」
【鞠】
「何がですか」
【笑星】
「その……心配で。何か、凄くピリピリしてるから。野球部の皆、絶対本気だよ」
【鞠】
「まあ、何に本気なのかは分かりませんが、確かに本気ですね。それもこれも、貴方たちが勝手に扇動した結果じゃないですか」
相手がどれだけ多かろうが。
相手がどれだけ真剣だろうが。
私のやることは絶対変わらない。
【鞠】
「いい加減、この話決着つけましょう」
【笑星】
「ひ、独りで立つのやっぱり!?」
当たり前だ。
今回、書記の味方は私だけなんだから。
だから――
【鞠】
「――全部、私がやります」