4.34「それは流石にどうなんだ」
あらすじ
「それは流石に……どうなんだ、俺ぇ~……?」深幸くん、とある気付き。運動会の夜は即寝落ちですね。単純に疲労もあるでしょうが、加えて経験を身体が蓄えた反動っていうのもあるようです。子どもはよく眠る、自分もそんな良質な眠りに浸かり続けたい4話34節。
砂川を読む
【司会】
「閉会式を終わります。各自、自分の椅子を持って教室に戻ってください――」
とにもかくにも、遂に終わった。
長い、本当に長かった体育祭が――
【鞠】
「やっと……休めるぅぅぅ……――」
……………………。
Time
17:15
Stage
霧草区
【汐】
「(`ε´)」
【鞠】
「…………」
【汐】
「(`ε´)」
【鞠】
「…………」
否、まだ休めそうになかった。
【汐】
「お姉ちゃんは……認めませんよ……許しませんからね」
【鞠】
「何がですか」
【汐】
「あんんんんなチャラそうな男子とカップルだなんてッッ!!! お姉ちゃん断固、赦しません!! (`ε´)」
【鞠】
「グフッ――(←心的ダメージ)」
最高に酷い勘違いしてやがる。
【汐】
「これは、兵蕪様にッ、ビデオごと報告ですからねえぇええええええええ――!!!」
【鞠】
「うっわ」
夜は、長そうだ……。
Time
18:30
Stage
茅園家
【深幸】
「うーーっすただいまー」
【瑠奈】
「ヒーローのおかえりだーー!!」
【璃奈】
「だーーー!!」
【深幸】
「ご満悦そうだな。よかったよかった」
【母】
「お疲れ様、深幸! おめでとう、頑張ったわねー!!」
【深幸】
「皆の応援の甲斐あってだな。いやー一時はどうなることかと思った……」
約束通り、瑠奈たちにはしっかり勝利をプレゼントできたことだし……ハッピーエンドって感じだな。
……ただまあ、ちょっと俺、最後活躍し過ぎたなっていうのが引っ掛かるけども……。
Time
19:15
【瑠奈】
「むぐむぐむぐむぐ」
【璃奈】
「まぐまぐまぐまぐ」
晩飯。俺の勝利祝いでお袋が本気出したハンバーグに2人は夢中になっていた。
マジ可愛い。疲れ吹っ飛びそう。
【深幸】
「……ハンバーグ、か……」
【母】
「どうしたの?」
【深幸】
「いや、何でも」
【璃奈】
「にー」
【深幸】
「んーどしたー?」
ハンバーグを頬張っていた妹が、口の中を空にしてから、話してきた。
ホント天使だわ、と思いながら、俺もハンバーグを頬張る――
【璃奈】
「にーとおねーちゃん、カップルさんなのー?」
【深幸】
「ッッ!?」
鼻に入った。
【深幸】
「ゴヘッ、うげええ……い、いきなりどうした……?」
【璃奈】
「おねーちゃん、ホントにおねーちゃんになるのかなー。えへへー、うれしいなー」
【深幸】
「……その知識はどっから吸収したんだ……いや、違うから。あれは色々あって急に頑張ることになったんだよ。アイツとは、特にそういう関係じゃない」
【母】
「あら、そうなの? てっきり私……」
知識の出所多分この人だった。
【瑠奈】
「にーちゃん、かいちょーさんとナイスコンビだったー」
【璃奈】
「だっこしてたー」
【深幸】
「ああ……弟たちが事実を述べて攻撃してくる……」
そこも大いに誤算な体育祭だったなぁ。
【深幸】
「俺は、アイツのこと寧ろ嫌いな方だったし、アイツも俺をだいぶ嫌ってるからなぁ。今回ので更に悪化だよ……」
【母】
「へえ……そうなの。確か、砂川さんって……真理学園出身なのよね? 凄く珍しいわよね」
……流石に紫上学園の職員だから、知ってるか。
【深幸】
「アイツ、何か本当会長としての煌めきが足りないし、信長の夢も奪うしで……本当気に入らなかったんだけどなー」
【母】
「……過去形ね」
【深幸】
「ん……」
【母】
「今は、違うの?」
……………………。
【深幸】
「分かんね」
ただ――アイツのことを、まだ俺は全然知らないってことだけは、ハッキリしたかな。
Time
20:30
【深幸】
「……はぁ~~~~~」
自室で、ベッドに寝転がる。
疲労度からいって即行で寝落ちしそうなもんだが……不思議と、意識は鮮明だった。
何となく、深く息を吐きながら……目を瞑る。
【深幸】
「……………………」
――蘇る。
* * * * * *
【深幸】
「無駄に心配かけちまっ――た……?」
【鞠】
「ッ――!!」
* * * * * *
【深幸】
「どうしてそこまで、やるんだ……? お前にとって不本意でしかない紫上会を、お前にとって大して興味のない体育祭を、どうしてそこまで頑張ろうって思えるんだ、お前……?」
【鞠】
「頑張るっていうか……やらなきゃいけないことですし」
【深幸】
「……どういうことだよ」
【鞠】
「やれなかったから紫上会の評価に繋がる――すなわち、私への誹謗中傷に、私が対抗できない形で、囲まれることになる」
【深幸】
「……分かんねえ、それは、そこまで重要なことかよ? ミスするくらい誰でもあるし、それで悪口を叩かれまくるような学園じゃ――」
【鞠】
「学園ですよ。きっと唯一、この私にとって」
【深幸】
「ッ……!」
【鞠】
「――自分の大切なものを悉く莫迦にされて……繊細な人間が、耐えられるわけがない。誰にも――私の道は、邪魔させない。貴方にだって、絶対に」
* * * * * *
【深幸】
「…………」
* * * * * *
【信長】
「――頼みます!!」
【深幸】
「ッ……!!」
【鞠】
「――!!」
* * * * * *
【司会】
「ッ――アンカー紫上会です!! み、御輿の上に……堊隹塚くん、茅園くん、松井くん、そして玖珂団長が担ぐ御輿の上に立っているのは……砂川会長です! とても――とても、綺麗で――輝いて、ます……」
【学生】
「ッ――!? お、おい……」
【学生】
「アレって、まさか……本当に――?」
【学生】
「砂川、なのか……??」
【来賓】
「こう云ってはなんだが……一般の学生さんたちとは矢張り何か、次元が違うような気がする。別の世界に生きているかのような――」
【六角】
「問題無いさ、今この瞬間に、俺なんぞに意識が向く奴が居るものかッ!! 菅原、見えるだろ……!! 俺は、こんなインパクトを待ってたんだ……あれこそが――新時代!!!」
【汐】
「――鞠ぃいいいいいいいいいいい!!!! こっち向いて、鞠ぃいいいいいい!!!(←撮影)」
* * * * * *
【深幸】
「……………………」
* * * * * *
【司会】
「あっと、砂川・茅園ペア、着地に失敗し盛大に転倒しました! 大丈夫でしょうか……? その後ろから――桃井・細川ペアが抜きました! 朱雀チーム、1位です!!」
【深幸】
「やべ……クソッ――」
【鞠】
「焦らない」
【深幸】
「砂川、悪い大丈夫か――」
【鞠】
「次のハードルでミスしなければ問題無くあの1位候補を抜けます。速度は大したことありませんから」
【深幸】
「……!」
【鞠】
「他は未だに後ろ。案外余裕ですよ。貴方次第ですが」
【深幸】
「上等ッ!!」
* * * * * *
【鞠】
「じゃあ抱き合って転がればすぐ終わるじゃないですか」
【深幸】
「はぁ――!? マジかお前!?」
【鞠】
「負けるのに比べたら数倍マシでしょう! それとも、貴方のチームの勝利価値はその程度ですか!」
【深幸】
「ッ――云いやがったな、テメエ……」
【司会】
「1位の砂川・茅園ペア、何と茅園くんが砂川会長を抱き、そのまま横にローリングぅうううううう!!! これは凄い、凄いです!! タイムロス必須のジャングル地帯を高速で進んでいきます!!」
* * * * * *
【司会】
「今年度の前期紫上最強のカップルは……異論は色々出そうだけど、この2人だーーーー!!!」
【鞠】
「んんんんんんんんんん~~~!?!?」
【深幸】
「この競技で優勝した――つまり紫上最強カップルリレーの覇者は、それを見せつけるんだとよ……」
【観客】
「「「ナーーイスカッポーーーーーウ!!!(←撮影)」」」
【深幸】
「俺らが最強のカップルですって……御姫様抱っこして……」
【鞠】
「――――――――」
* * * * * *
…………。
【深幸】
「――ああクソ」
* * * * * *
【鞠】
「……貴方は、基本的に人を……特に私を苛つかせてばっかりですが――」
【深幸】
「……あ――?」
【鞠】
「――懐刀というのは、案外似合ってるんじゃないですか?」
* * * * * *
マジか。
マジ、か……。
【深幸】
「……それは流石に……どうなんだ、俺ぇ~……?」