4.28「覇者の煌めき」
あらすじ
「私、こそが……ッ――」砂川さん、一峰の覇光を纏います。面を付けて掛かり稽古しながらトラックを走らされた剣道部の皆の姿を私は忘れない4話28節。
砂川を読む
Time
14:45
【司会】
「プログラムナンバー14、団体対抗リレー1――!!」
……自分の教室で着替え終わり、マントを羽織って入場口に戻るところで、団体対抗リレーの始まりがアナウンスされた。
こっちは私の出る1つ前の方。ガチ勢たちによるガチリレーだ。陸上部やバスケ部、サッカー部といった運動部とかが対決する。野球部はもう公認団体じゃないが、何か騒動起こされても面倒だし出場数調整もあって今回は入れてあげた。
これは団体対抗であるから、チームの垣根を越えている特殊種目。点数とかには影響がなく、ただ単に部同士のプライドを懸けた勝負。あとは観客へのアピールか。
【鞠】
「……だけど何で毎年、鉄道研究部はガチ勢に入れられてるんだろ」
一部の文化部は抽選で前編に組み込まれるという悲しい文化。更に悲しいのは、鉄道研究部は毎年必ず前編固定である。最早虐め。
抽選から漏れた文化部や他団体は、後編で走ることになる。紫上会もその一つだ。
【鞠】
「……ハズい」
何で体育祭でこの格好をせねばならんのだ。
Time
15:00
【司会】
「続きましてプログラムナンバー15、団体対抗リレー2。今度のリレーは、団体ごとにバトンタッチしていきます。そして走行中、団体はそれぞれの特長を活かしたパフォーマンスを行います。どうぞ、お和みくださいませー」
のんびりグラウンドに戻ってきたら、もう後編が始まってしまった。
【秭按】
「位置について、よーい――」
【鞠】
「いや位置につく以前に装備が」
どう見ても吹奏楽部。どう見ても合奏装備。
【銃声】
「DON!!」
【吹奏楽部】
「「「~~~~~♪」」」
歩きながら演奏開始。これどんだけ時間掛かるんだろう。
……みたいなのがこの先続く。基本的に一団体トランク半周で、次の団体にバトンタッチするまでの間周りの観客に己の組織をアピールする。前編のガチ勢の皆さんには悪いが、過去のデータを見る限り圧倒的に後編の方が客から人気がある。
そして今年度の選ばれしネタ面子は……
吹奏楽部⇒美術部
【美術部】
「「「うおおぉおおおおおおおおおお!!!」」」
【司会】
「美術部、なんとモデルと一緒に人物写生しながら疾走しています!! 果たしてどんな写生が出来上がるのか、楽しみです!!」
【鞠】
「(多分ヒトですらない線の塊だと思う)」
美術部⇒写真部
【写真部】
「「「とおぉおおおおおおおおおっ!!!」」」
【司会】
「写真部、凄いです、モデルと一緒に撮影しながら疾走しています!! 果たしてどんな写真が出来上がるのか、矢張り楽しみです!!」
【鞠】
「(どうせブレてる)」
写真部⇒漫画部
【漫画部】
「「「私たちの傑作を……見てください――!!」」」
【司会】
「漫画部、巨大な制作ポスターを掲げながら疾走!! あれは……男子と、男子が、絡み合って……だ、誰なんでしょうあの2人は――?」
【鞠】
「(今チャラ男の悲鳴が聞こえた気がする)」
漫画部⇒料理研究部
【料理研究部】
「「「どうぞ~~。どうぞ~~……!!」」」
【司会】
「料理研究部、観客にお菓子を配布しながら疾走しています!! 最早トラック上を走っていません!! しかしながら子どもから大人気です!! 早すぎるハロウィンを見ているかのようです!!」
【汐】
「はいはーーい私にも、私にもくーださーーい(←メガホン)」
【鞠】
「(やめろおぉおおおおおおおメイドおぉおおおおお――!!!)」
料理研究部⇒文化祭実行委員会
【実行委員会】
「「「今年の文化祭も、よろしくお願いしまーす!!」」」
【司会】
「文化祭は9月! 9月です!! 体育祭よりも盛り上がる紫上最強文化祭、是非遊びに来て下さい!!」
【鞠】
「(え……文化祭もこんな感じなの? 嫌だよもう?)」
……と、真面目に走っている人達は一人も居ない。勝負熱半端ないこの体育祭では小休憩みたいなポジションだ。
まだまだ団体は控えているけど、その中でトリを務めるのが、紫上会。だからこんなゆっくり歩いてきても間に合うのだ。
【笑星】
「あっ……! 鞠会長、良かったー間に合って!!」
【深幸】
「もうちょっと焦って来いっつーの……んで、何で羽織ってんだ? フードまで被って、軽く不審者だぞ」
【鞠】
「こんな格好で出歩きたくないからに決まってるでしょう」
【信長】
「その不審者フォームの方がマシってどんな格好をしてきたんですか……」
【四粹】
「会長、そろそろ……」
……はぁ……もう一回覚悟と諦めと溜息を決め込んで……
羽織っていたマントを、脱ぐ。
【メンズ】
「「「「――――」」」」
【鞠】
「……何ですか? 何かおかしいところでも?」
【笑星】
「う……ううん!? 全然!?」
【信長】
「問題無い、と、思います……」
【四粹】
「……なるほど……そういうことですか……貴方は本当に、恐ろしい方だ――」
何故そんな評価がここで。って……んん?
【深幸】
「……………………(ガクガクブルブル)」
【鞠】
「コイツ足腰大丈夫ですか」
ダンス張り切り過ぎたんじゃなかろうか。ミスされると私は恥をかくどころか、大怪我を負う可能性すらあるから本当しっかりしてほしいのだけど。
【深幸】
「だ、大丈夫だ……練習通り、やってやるさ……ああ」
【鞠】
「何なんですか、どいつもこいつも……」
【司会】
「紫上学園購買部門!! 今年の夏は、どうやらかき氷の販売に挑戦する模様です!! 7月中旬から販売予定、皆様どうぞご期待ください!!」
多少の心配はあるが、引き返す道などない。御輿に座り……その時を待つ。
購買のおばちゃん達からバトンを受け取る形……だが、もう既に注目を集めている。
だって御輿だもん。そりゃ目立つもん。
【司会】
「さあ、アンカーを務めるのは、例の如く、紫上会メンバーです! 走る前から、もう既に頭がおかしいのが分かります!」
うっさいわ。
【購買部門】
「ぜー……ぜー……それじゃ……よろしくー!!」
バトンがあるわけじゃないが、おばちゃんが御輿にタッチしたことで、アンカー出発。
【笑星】
「……そんじゃあ!! いっくぞーーーー!!!」
【四粹】
「合わせます」
【信長】
「いち、にーの……」
【深幸】
「さあぁあああああん!!!」
前衛に雑務と副会長、後衛に書記と会計……力を入れ、御輿と私を――持ち上げる!!
【鞠】
「ッ――!!」
大きい縦の揺れに、椅子に掴まって耐えて……
始業式で上がった壇上よりも高いアイレベルで、グラウンドを見渡す。
【鞠】
「うわ――」
改めて……思う。
私こんなところで何やってんだ、と。
平穏を求めて転校したんじゃなかったのか、と。
悪化してるでしょ、コレ。
【笑星】
「鞠会長~~! どう、安定してるーー?」
【四粹】
「バランスが取りづらければ仰って下さい。何とか、調整します」
【信長】
「じゃあ……そろそろ出発するので――」
【深幸】
「立てや!!!」
全部……
こうなったのも――
【鞠】
「お姉ちゃんの所為だからな……!!」
【学生】
「ッ――!? お、おい……」
【学生】
「アレって、まさか……本当に――?」
【学生】
「砂川、なのか……??」
【司会】
「ッ――アンカー紫上会です!! み、御輿の上に……堊隹塚くん、茅園くん、松井くん、そして玖珂団長が担ぐ御輿の上に立っているのは……砂川会長です! とても――とても、綺麗で――輝いて、ます……」
【来賓】
「おぉおおお……!!! あれは……まさに、一峰を継ぐに相応しい……神々しさ――」
【来賓】
「こう云ってはなんだが……一般の学生さんたちとは矢張り何か、次元が違うような気がする。別の世界に生きているかのような――」
【観客】
「おぉおおおお……すげえ、今年の紫上会は全然違うなぁ!!」
【観客】
「前年度も凄い紫上会だったが……今年は、何かもう……“奇跡”、なんじゃないか――?」
【六角】
「ふふ……あははッ、アヒャハハハハハハハハ――!!?」
【菅原】
「……下品な笑い方してるんじゃないよ、来賓の方々もいらっしゃるんだから」
【六角】
「問題無いさ、今この瞬間に、俺なんぞに意識が向く奴が居るものかッ!! 菅原、見えるだろ……!! 俺は、こんなインパクトを待ってたんだ……あれこそが――新時代!!!」
【菅原】
「新しいモノ好きなだけでしょアンタは。でも、まあ……そうでなくちゃね。六角の次を担うのだから」
【六角】
「知らしめたまえよ――砂川鞠ちゃん!! 勝者として、君はどんな紫上学園を見せてくれる!!」
【汐】
「――鞠ぃいいいいいいいいいいい!!!! こっち向いて、鞠ぃいいいいいい!!!(←撮影)」
【鞠】
「…………(←ガン無視)」
【汐】
「似合ってますよおぉおおおお鞠いいぃいい――ゲッホゲッホ……!!」
【宮坂】
「まったく、災難なことだ……兵蕪、仕事もいいがもっと娘の状況に気を遣った方がいいぞ」
【汐】
「問題ありませんよ、兵蕪様の代わりに、この私が附いているんですから」
【宮坂】
「お姉ちゃんが、か?」
【汐】
「鞠ーーー!!! お姉ちゃんに、もっと可愛い姿見せてーーーー!!!」
【宮坂】
「……色々と、申し訳ないことをしてしまったようだな、私は」
【笑星】
「えっほ、えっほ、えっほ……!! 鞠会長、すっごい人気だねーー!!」
【鞠】
「カエリタイ」
もうめっちゃパシャパシャ撮影されてるんですけど。メイドだけじゃなくて普通の客にも企業からの刺客にも。何でモブキャラの私がこんなに注目されなきゃいけないの。いや今更なのは分かってるけどさ。
圧巻の公開処刑。正直泣きたいけど、その為の水分まで今悉く蒸発してるような気分でいっぱいだ。
怖いよぉぉぉ……怖いよぉぉぉ……。
先輩助けてぇぇぇぇ……!
【司会】
「圧倒的強者!! 圧倒的会長!! 毅然とした態度で、我々一般学生を見下しています!! これが……この煌めきが、今年度紫上会会長、砂川鞠さんです――!!!」
【観客】
「「「うおおぉおおおおおおおお!!!」」」
やめろ司会ッ!! やめろ騒がないでッ!!
【観客】
「「「会長!! 会長!! 会長!! 会長――!!」」」
コールもやめてッ!!
【鞠】
「カエリタイ」
【四粹】
「……会長にとっては、悉く災難な祭りでしたね……」
【笑星】
「あ、あははは……だねー」
だねー、じゃねえよ御輿発案したのお前だろ。
【鞠】
「早く……早く、ゴールしなさい……あと4分の1……」
何故かトラック1周しなければならないアンカー。御輿で足並み揃えて1周がどんだけ辛いかは私も一応分かってるつもりだが、今の私の方が数百倍辛いのは明らかだろう。こうしてポーカーフェイスで立ったままでいられてるのが奇跡だ。
【信長】
「とのことだ。会長の為に、少しペースを上げようか!」
【深幸】
「ったく……しゃーねえなッ!!」
【四粹】
「もう少しの辛抱です、揺れが大きくなるかもしれませんが……速度を優先します!」
【笑星】
「いくよーーー!! せーっの!!」
【鞠】
「ッ……!!」
ただでさえ乗り物酔いに近い気持ち悪さを運ぶ揺れが続いていたのに、今度は立ってすらいられないんじゃないかという揺れ。加速する視界。
そんな中でも……私は、立ち続けなければならない。こんなところで転がってみろ、笑われ、叩かれるに決まってる。
こんなに……敵は、いっぱい居るんだ。私の道に干渉しうる有害要素たちが。
【鞠】
「ッ――負けて、たまるか……!」
私は、先輩と共に歩くのだから。
その道を……お前らなんかに、邪魔させるものか!
【鞠】
「私、こそが……ッ――」
【司会】
「――ゴーーーール!!! 紫上会、最大の歓声を纏って、フィニッシュしましたーーー!!」
【鞠】
「――勝者だ……ッ!!」
絶対的勝者の道は、続く。たとえ今、辛く恥ずかしいことがいっぱいあるとしても……
私は必ず、その先の安寧に生きる――