4.26「全天翔る生命の輝き」
あらすじ
「「全天翔る生命の輝き――!!!」」深幸くん、総ての成果を解き放ちます。笑ってはいけない、皆で一心に盛り上がることが大事な4話26節。
砂川を読む
【司会】
「白虎ダンスチーム「ナミダセカイノフェスティバル」、パフォーマンスを開始してください!!!」
…………。
【鞠】
「ん――?」
【璃奈】
「にー、まだかなー♪」
あれ、何でまだ居るの?
【鞠】
「皆、中央に行っちゃいましたけど」
【璃奈】
「おねーちゃんとみるー♪」
……あろうことか、懐かれてしまった。
何だろう、嫌な予感がする。
【菅原】
「……!! ここが、紫上学園……荒れ果てた大地に咲く、一輪の学園世界……」
と、スピーカーから何か声が聞こえたのでステージの方を観ると、団長さんが――って何あの格好。
【鞠】
「……コスプレ、か……?」
【璃奈】
「あ! ナミダー!!」
【鞠】
「ナミダ?」
【璃奈】
「おねーちゃん、しらないのー? ナミダは、やたがらすからせかいのうるおいをまもる、ヒーローさんなんだよー!」
【鞠】
「…………」
ワケが分からないが、取りあえず何らかの作品……特撮かアニメかどっちかだろうけど、そのコスプレをしているということでいいのだろうか。
【深幸】
「――ここは……どこだ?」
あ、チャラ男来た。
そして凄く団長のとよく似た衣装を身に纏っていた。
【璃奈】
「あ! ナミダー!!」
【鞠】
「は……? ナミダは、あっちの人では?」
【璃奈】
「ナミダはふたり、いるのー!」
【鞠】
「……なるほど」
分からん。
【菅原】
「君は……? 僕か――?」
【深幸】
「貴方は……私――?」
うーん分からん。あとダンスは?
その後も2人がお互いの存在を確かめる会話が続くけど、子ども達はもうそれだけで滅茶苦茶盛り上がっていた。世界観を全く把握していないから私は「???」なんだけども、どうやら2人のナミダが接触するのは相当凄いことらしい。
と――
【学生】
「ッ……!! 此処が、紫上学園! 砂漠の中に唯一佇み咲く、オアシスの秘境――!!」
【学生】
「まだどういう場所なのか分からないが……潤いがあるというなら、我らはそれを枯らすのみ!!」
何か黒い衣装の人達が沢山台に上がってきた。
【菅原】
「!! 八咫烏!!」
【深幸】
「……2人だけでこの数は、少し……」
【璃奈】
「やたがらすはね、てきなんだー!!」
【鞠】
「なる、ほど……」
ダンスはー??
【学生】
「待てぇえええい!!! 見つけたぞナミダ!! 今日こそ――って八咫烏!!」
【学生】
「どうやら……今回も、一時休戦する必要がありそうね」
【学生】
「あれ……ナミダが、2人? 一体どうなって――」
【学生】
「それを考えている暇は、無さそう!」
【璃奈】
「あっ、ミネとリファ、それにラルとディスティまでいるー!! すっごーい!! ぜーいんしゅーごーだ!!」
その全員集合というのも、極めて珍しい現象なのだろう。子どもたちだけでなく、作品を知っていると思われる連中もざわめいている。
【学生】
「……セイレーンの家畜が、大所帯か。なら、こっちも本気でいかなければな!! 全員でッ、あたれーーー!!!」
【菅原】
「……貴方も、ナミダ、なのか? よくは分からないが……ここは、力を合わせよう」
【深幸】
「紫上学園――この世界の最後の潤いは、必ず護る!!」
あ、何か殺陣が始まった。
八咫烏なる多量の敵を、正義のヒーロー側の計6人がバッサバッサとなぎ倒していく。子ども達の応援が半端ない。まるでテレビでたまに放送されてるヒーローショーを見ているようだ。
……いや、ダンスはぁぁぁ???
【璃奈】
「がんばれーーーー!!! ナミダとナミダーーーーー!!! おねーちゃんも、おーえん!!」
【鞠】
「…………がんばれー……」
【菅原】
「ナミダ、力を貸して――!!」
【深幸】
「私たちの力で、皆の力で、渇きを討つ――!!! 皆、もっと声を貸して!!」
【子ども】
「がんばれーーーー!!!」
【子ども】
「やっつけろーーーー!!!」
【子ども】
「いっけええーーーー!!!」
【菅原&深幸】
「「奥義――」」
【学生】
「ッ……!! おのれ……セイレーンの異端がッ!!! 朽ちろおぉおおおおおお――!!!」
【菅原&深幸】
「「全天翔る生命の輝き――!!!」」
【学生】
「――ぐああぁあああああああああああ……!!!?」
勝負ついたっぽい。
【子ども】
「「「よっしゃあぁああああああ!!!」」」
【菅原】
「皆、ありがとう。紫上学園の涙は、今皆の力で守られた! これからも、沢山の思いを、沢山の感動を、大事にして生きてほしい!!」
【深幸】
「この世界では、出会いも、別れも、全てが一瞬です!! だからこそその一瞬を、かけがえのない涙を、全力で過ごしてほしい!! それは今この時だって!!」
【菅原】
「さあ、エンディングだ!! 皆で、お馴染みのアレを踊ろうか……!!!」
【深幸】
「「ニライカナイ」、さあ……うめ組の諸君、また君たちの力を、貸してくれ!!!」
あ……やっとダンス始まるっぽい。
ステージにヒーローの6人。そしてさっきやられた八咫烏な人達が再びステージに上がり、後方でポジションに立つ。
そして……イントロが流れ始めて、
【深幸】
「我々を知らない皆さんも、どうぞ、踊ってみてください!!」
女装してるっぽいチャラ男が、会場全体に呼びかける。
【深幸】
「サビの動きを紹介します。こうやって、こう、です!!」
ステージの周りに立てられていたビジュアルボードが起動され、カメラを通してステージ上空にチャラ男の姿が東西南北4面に映し出される。あの背景は……紫上会室。つまりあのステージエリアで録画したものだろう。
長いイントロの中で、サビの踊りが紹介される。いきなりそんなの教えられてもすぐできるのか、っていう疑問は勿論あるが、それは想定済みだろう、簡単な動きだった。上半身だけでも充分参加がしやすくなっている。
そしてイントロが終わると同時……映像が切り替わり、今度は生の映像だ。今ステージで踊り舞っている団長やらチャラ男やらがそのまま映し出されていた。
……この数十日、アイツがずっと磨き上げてきたその成果だ。
【子ども達】
「「「いええぇええええええええい!!!」」」
【観客】
「「「おぉおおおおおおおおお……!!!!!」」」
圧倒的な準備量。
客層の選定。
どれに注目しても……白虎のパフォーマンスは他を切り離していた。
【鞠】
「……莫迦ですか」
だけど、それは……一度作ってしまえばそれで殆ど完成だったろう。
そんなのは数日で終わっていたのだ。
アイツはその後、数十日を費やしたのだ。自分のできることを、少しでもと。
【深幸】
「さあ、もっと、盛り上がって――!!! 今を楽しんで!!!」
ステップの速度や距離。手首の緻密な回し。歌詞に合わせた口パクと動きのメリハリ。
【鞠】
「……別に、そんなの誰も見てないのに」
この種目で重要なのは、勢い。
だからアイツの数十日は、気付かれなければ、無駄な努力と云われてしまっても仕方無いもの。
……まあ、それもあってなのか。
この舞台で、今、主役なのは団長ではなくチャラ男なのは間違いなかった。
【鞠】
「――煌めき……か」
私には無縁の世界だろう。兎に角、そう思った。
すなわち、思い知った、ということだろう――