4.23「顔」
あらすじ
「負う必要の無い“責任”が否応無しにのしかかってくる……!」砂川さん、2連戦。クラスリレーで人数の関係上2周走らされる人に少し憧れた、そんな4話23節。
砂川を読む
Time
11:00
【学生】
「松井ー、こっちこっち!!」
【学生】
「お疲れー……!」
長距離走が終わり退場口へ。そのまますぐグラウンドを約半周走って、入場口付近へ。
普通に考えて、酷いコンボだった。
【司会】
「プログラムナンバー6、A等部2年クラス対抗リレー!! 最高得点は100点です!」
長距離走に出場した私や書記、その他2年生は3000mを走ったその足と体力のまま、なんとリレーに参加するのだ。
【深幸】
「……お疲れさん、2人共」
【信長】
「ああ……また会長に負けてしまったよ」
【深幸】
「案の定叫んでたなぁ。切り替えてくれよー」
【信長】
「別のクラスのお前に云われなくとも、クラスの為に尽力するのみさ」
【鞠】
「…………」
本当、切り替えの早い。それは悔しさを忘れたのではなく、白虎としての勝負をこの上なく大切にしているからだろう。私は未だにコイツにドン引きしてるところがある。切り替えなきゃ。
で……合流したばかりだが、もう入場が始まってしまった。所定位置まで走りながら……走者順が並んでいる書記と私は多少会話を続ける。
【信長】
「会長、体力は残ってますか?」
【鞠】
「残ってるわけないでしょう。貴方同様」
【信長】
「俺同様なら……頼もしい限りです。今度は俺たちの力、合わせて順位を押し上げましょう」
【鞠】
「私は恥と見なされることないよう、全力で走るだけです」
走者はトラックを半周することになる。つまり隣同士の順番であれば、スタート位置は分かれることになる。
書記は北側に、私は南側に待機することになる。因みにチャラ男もあっちに行った。
【鞠】
「…………」
グラウンドから一番近い校舎に張り出された得点掲示板を見る。
長距離走にて脅威の480点を獲得したことで、白虎が一気にトップに躍り出た。が、圧倒的点差とはならない。朱雀は勿論のこと、玄武も後ろから追い掛けてきている。
このまま逃げ切る……という簡単かつ希望的な考え方はしない方がいい。長距離走で勝つのは前提でしかなく、つまりここからが本番だ。
【秭按】
「……位置について。よーい――」
まずはD組かG組が、上位に入ることを目指す……!
【銃声】
「DON!!」
【観客】
「「「おぉおおおおおおおおお――!!!」」」
【菅原】
「……まあ、予想通りの状況、ね」
悪い意味で。
松井や会長の所属するD組、茅園の所属するG組、どちらも他のクラスと比べて、全体の走力が劣っている。スタートして5人目が走り出したけど、1位と随分引き離されてしまっている。
これでは、1位はおろか得点区域に入り込めるかも微妙だ。せめて、松井のクラスが兎に角得点してほしいものだけど……。
【菅原】
「玄武が追ってきてるぞー……フフッ、怖い怖い」
正直、本当に。
玄武にだけは負けたくないんだけどね――!!
【学生】
「はぁ……はぁ……お願い――!!」
【学生】
「ッ、ヤベ、バトンが!?」
【鞠】
「…………」
目の前でバトンミスが繰り広げられた。
これはー……ちょっと、無理じゃね?
【鞠】
「最下位も見えてきた」
走り終えた、バトンミスの男子、凄え落ち込んでる。それを励ます他の走り終えた友達。責められないだなんて素敵なことだ。
私の場合、ミスったら絶対詰られる。んなことされたら登校拒否になっちゃう。
【鞠】
「……別に、1位じゃなくたって、コレに関しては私の所為じゃないよね」
ただただソレが大事。
……と、どうでもいいだろう心配事を考えながら第4レールにスタンバイすると、遠くでバトンタッチの姿が見えた。今度は、ちゃんと成功したみたいだ。
…………私もミスらないようしっかり受け取らないと。
【信長】
「ぬおおぉおおおおおおおおおおああぁああああああああ!!!」
……ヤッバイ気迫が向かい側でも感じ取れる。あんなのが今から私に突っ込んでくると思うと、軽く怖い。アイツ無駄に怖い。
ていうかよく見たら、何か並走してる。あれ……チャラ男じゃん。順番同じだったのか。
観客が凄い盛り上がってることを見るに、これは夢の対決みたいなもんらしい。私もこの対決カードは他の一般学生での組み合わせよりも、何だか客寄せの価値があるように感じる。
ただ、そういうの1位の取り合いとかなら良いんだけど、4位の取り合いなんだよね。今私の隣で1位の人がバトンタッチしちゃってるんだよね。奴らの所為ではないのに、何だかダサい。
【鞠】
「……チャラ男が先に着くか」
さっきの長距離がだいぶ堪えてるんだろう、流石に体力全快の状態で全力疾走するよりかは速度が落ちてしまっている。それでも3位との距離を思いっ切り詰めにかかっているから相当の速度であるのは誰の目から見ても明らか。
観客も大いに盛り上がり……
【汐】
「鞠ぃいいいいいいい!!! ファイッッットおぉおおおおお!!!」
【観客】
「おい、また会長さんが走るぞ!? 松井くんの次じゃないか!?」
【観客】
「凄え、さっきの長距離に続いてあの2人のコンボかよ!? また、何か革命起こすんじゃないか……!」
【観客】
「「「会長! 会長! 会長――」」」
ってその方向で盛り上がるなあぁああああああ!!!
【鞠】
「負う必要の無い“責任”が否応無しにのしかかってくる……!」
今日の私は観客の皆さんも敵と見なした方がいいかもしれない。
【信長】
「――会長おぉおおおおおおお!!!」
……チャラ男とは5m程度の差で、書記が帰ってきた。うわ、正面から見るともっと怖い。これでバトンミスとかしようものならクラスとか白虎とか以前にアイツに殺されそう。
【鞠】
「――だーもう!」
先輩曰く、こういう色んな理不尽を感じまくってる時は、いっそ覚悟を決めて(諦めてとも云う)、為せばなる精神に身を委ねるのが一番楽だったりするとな。
それでいく。それ以外は、もう考えない。
……助走圏内。私は7割くらいの力で走り出す。
8割……
9割――
【信長】
「――頼みます!!」
バトンが後ろに回していた左手に叩きつけられると同時――10割!!
【深幸】
「――頼ん、だぜ!!」
ギリギリ信長に勝って、バトンを渡し切る。
まあ同じチームなんだから争っても意味無いっちゃそうなんだが――
【信長】
「――頼みます!!」
【深幸】
「ッ……!!」
信長も、バトンタッチした。
その走者は――
【深幸】
「ッ――!!!」
――知っている顔だ。
【鞠】
「――!!」
あの時も、刹那俺の横を走り抜けていった。
汗が飛び散り、髪が舞う。遊びの一切無い――
【観客】
「「「おぉおおおおおおお――!!!」」」
――偏に、勝利だけに噛み付いていく顔だ。
【深幸】
「…………」
既走者のスペースへと歩きながら、眺める。
信長が距離を詰めた3位走者をすぐ抜かし……
交代直前で2位走者まで抜いてしまったD組の切り札を。
盛り上がる会場。盛り上がる白虎。そんな中、勝ちたい俺は、喜ぶべき俺は……あまりその現実が頭に入ってきてなかった。
……それよりも。
【深幸】
「……んだよ。クソッ……」
目を瞑り……手で覆った。
【深幸】
「――持ってんじゃねえかよ……」