4.19「開会式」
あらすじ
「今回は私が優勝旗を持ち帰り、勝利の杯を酌み交わします!!」砂川さん、開会式でも目立ちます。選手宣誓の最初の「せんせーー!!」の意味が最近分かりました4話19節。
砂川を読む
Time
9:00
Stage
紫上学園 グラウンド
【鞠】
「……屋根付き」
昨日のリハの時とは違って、今日はガチの設備。紫上会の席には日差しを遮断するルーフが立っていた。最高。
ただ、ルーフに思いっ切り「紫上会」って書いてて恥ずかしい。企業の方々に配慮してのことだろうけど、超目立つ。
因みにグラウンドにおける座席配置はチームではなく学年・クラス順となっており、正門に近い西側からB等部、東側になるにつれ学年が上がり、A等部の座席になっていく。
競技舞台となるエリアを半分囲ったその学生座席エリアを更に囲むように、グラウンド端には簡易的な段差オブジェクトが設置されまくっており、そこに一般の観客が座っていくことになる。但しそれは主に南側の構造で、東・西側の観客エリアは立ち観戦という形になる。
と、ざっくりグラウンド構造を確かめたが、北側には例外な存在がそれぞれ座席を置いている。まず、学園長やガチ来賓などのお偉いさんの席。放送やプログラム指示を行う今日一番忙しいであろう体育祭実行委員、そして我々比較的暇な筈の紫上会。5月末でそこそこ暑くなってきた天気の中、皆屋根とクーラーボックスが付いて快適である。
――さて、時間になった。
【司会】
「――それでは、開会式を始めます。――選手入場おぉおおおお!!」
朝から胃もたれしそうな、熱いBGMが流れ始める。確か、これは全國プロレスのテーマソングだったような。もうちょっとマーチな感じでもよかったのでは、と思ったが私が口出しし過ぎると良いことないので黙認。
周知してなければ即行でクレーム殺到するであろう殺戮音量のプロレスソングを聴いているうちに、座席位置から出席番号順を乱さず各クラスが進行してくる。このまま垂直に北側へ進軍すれば簡単なのだけど、開会式および閉会式におけるクラス配置は、「チーム毎」になる。
ということで西から朱雀、青龍、白虎、玄武のチーム配置に従い、クラス内整列を乱すことなく場所を入れ替えていく。今週とリハで最も全体が苦戦を強いられたのが、この芸術的な選手入場なのであった。
【笑星】
「おお……綺麗だ、上手くいってるね鞠会長!」
【信長】
「……そりゃ、リハーサルで12回もやり直したら、なあ……」
【深幸】
「鬼だよなお前」
【鞠】
「来賓にただのんびり歩いてる姿を見せろと?」
昨日のリハはなかなか熾烈を極めたものだ。「やり直し!」と云わなきゃいけないコッチの気持ちも考えてほしい。
しかし妥協しなかった甲斐もあって、選手入場の時点で歓声が上がってるのが分かる。本日の私の仕事は、この観客の反応の調査ということになる。
【司会】
「では――開会式を始めます!! 開会の言葉、体育会実行委員長の阿部さん、お願いします」
【阿部】
「ただいまより、第33回紫上最強体育祭を、開催いたします!!!」
【学生】
「「「ぶおおぉおおおおおおおおお!!!!」」」
【観客】
「「「いええぇえええええええい!!!」」」
祭りテンションでいくのか厳かでいくのかどっちかにしろ。
【司会】
「学園長の言葉。宮坂学園長、お願いします」
【宮坂】
「うむ」
ちょっと顔見慣れてきてしまった学園長が壇上に立って――ん?
【鞠】
「え……何あの格好」
ダメージジーンズ、みたいなのあるのは知ってるけど、今の学園長の服装は全身ダメージだらけで社交性の欠けた軽い露出狂だった。
【笑星】
「ああ、あれ学園長の勝負服。ジャージだって」
【鞠】
「…………」
どの辺がジャージ? テカってるよ? 伸縮性とか無さそう。
そしてアンタ一体今何歳だ。
【宮坂】
「紫上学園の学生の魅力は、学業に真摯に取り組むだけではないと私は考えている。その懸命になれる力を、万事に向けることができることだと思うし、それを学園は望む!!」
良いこと云い始めてるっぽいけど服装が気になって何も内容が入ってこない。
【宮坂】
「実感は湧かないかもしれないが、日頃の学業による糧もまた、この場で発揮されることだろう!! 是非、我々教員を、来てくださった皆様を、その輝きで以て楽しませてほしい!! そして、誰よりも君自身が楽しんでほしい!!! 以上!!」
【学生】
「「「うおおぉおおおおおおおおおおお!!!」」」
何か学園長コールが始まった。全員酒でも飲んできたんじゃなかろうか。
【司会】
「一旦静まってください。それでは――紫上会会長からの言葉です。砂川会長、お願いします」
【学生】
「「「…………」」」
静まり返った。
【鞠】
「…………(←イライラ)」
【信長】
「会長、その、落ち着いてください……」
立ち上がり、快適空間から出て……壇上に登っていく。さっきまであの変態学園長が立ってた場所なんだと思うと、歯ぎしりがやまない。マイクに拾われないようにしなくては。
そしてAB学生だけじゃなく、数多の外部客の視線。さりげに私史上、最も注目されている時間である。ホント、3ヶ月前にはこんなことになるだなんて思いもしなかった。この世に神様がいるなら、全力で殴りたいな。
とか思いながら、1枚の紙を折り目開いて口を開ける。
【鞠】
「まずは、本日来校くださった方々に御礼申し上げます」
東西および南に頭を下げる。
【鞠】
「ここで体育祭実行にあたり、協力してくださった区の関係者様、企業様を紹介させていただきます」
【宮坂】
「? ほう」
会長の言葉というのは学園長同様に、自分で考えなければいけない。
面倒だと思っていたが、案外早くまとまってよかった。そしてこの時間稼ぎ。
どんどんリストでまとめた、協力者を紹介していく。私が出張して会ってきた人の数にほぼ等しい。それを2,3分かけて消費していく……。
【鞠】
「――以上、貴方がたのこの日の為に、これだけの外部の方々が関わりました。そして今、紹介した方々に加え、各々の関係者の方が今この場の観客席に集っているのも、分かりますね。これは、貴方がたの放課後のお遊びとは全く違うということ、沢山の人が貴方を見ているということ。それを、自覚するように」
現時点でもう学園長よりも長くなっている気がする。長たらしい説教は全人類共通で嫌われるだろう。私も嫌いだ。自分でやってみてもただただ面倒いので、矢張り嫌いだ。
【鞠】
「その上で――敢えて云いますが、卑劣な真似を見せるようなら、先日のように容赦無く紫上会会長が貴方を潰しにかかります。競技に対しても、私個人に対しても」
【学生】
「「「ッ……」」」
だから、とっととまとめる。
【鞠】
「このように、私は今日も貴方がたの知っている、勝者の私を貫きます。しかれば、貴方も今まで準備してきた全てを発揮し、今日を全うすればいいと思います。以上」
自分の言葉を終える。が、私はまだこの壇上から去れない。
【司会】
「あ、ありがとうございました。続きまして……選手宣誓!!」
唯我独尊みたいなコメントを放った私の眼下に……4人の選手が、立ち並ぶ。
1人、睨んできてる。
【児玉】
「…………」
この人確か野球部の部長だったな。いまだ私を認めていない、しかし力を持たない愚図る子どものように脆弱な存在。
それ以外は――
【六角】
「いいコメントするねぇ。痺れたよ現会長」
【菅原】
「六角。アドリブとかいいからちゃんと練習通りにして」
【四粹】
「ははは……」
前年度の2年組勝者。
それに気付いた外野がザワザワしている。過去資料を見た感じじゃ、六角前会長は兎に角学外活動を充実させようだし、その分だけ外にも知られてるんだろう。
【児玉】
「宣誓!!! 我々、選手一同は――」
【四粹】
「スポーツマンシップ、そして紫上学園の誇り高き精神に則り――」
【菅原】
「正々堂々、全身全霊にて、勝利を求め闘うことを此処に誓います――!!」
【六角】
「平保31年5月25日、選手代表――」
【児玉】
「児玉願斗!!」
【四粹】
「玖珂四粹!!」
【菅原】
「菅原二葉!!」
【六角】
「六角碧叉!!」
【鞠】
「……………………」
負けず嫌いどもの覇気ヤベえ。私じゃなくて学園長でいいじゃん、何で私が立たなきゃいけないの。
まあ、これで取りあえず開会式は終わり――
【児玉】
「砂川鞠ッ!!」
【鞠】
「おい」
ピンマイク切れや。アドリブ挟むなや。そして指名すんなや。
【児玉】
「お前に云われるまでもなく、今まで培ってきたものに加えて……」
そして指を差すなや。
【児玉】
「今まで培ったお前への不満も全部ぶち込んで、白虎を叩きのめしてやるから、覚悟しとけぇ!!! その上で、俺たちが勝つッ!!」
【朱雀】
「「「うおおぉおおおおおおお!!!」」」
……盛り上がり方がワンパターンで莫迦にしか見えない。あとだから、私叩く祭りじゃないからコレ。私以外の白虎の人たちとばっちりだからソレ。
【鞠】
「…………(←視線)」
【菅原】
「やれやれ……仕方ないわね」
何か因縁付けられて私までアドリブしなきゃいけないのは嫌なので、もっとお客様にとって分かり易い構造を目指して丸投げする。
白虎団長、ピンマイクのスイッチを再び入れる――
【菅原】
「会長と共に、受けてたちましょう!!」
【鞠】
「(オイコラ待て)」
会長要らないからッ!!
【六角】
「おいおい、練習通りにやれって云われてただろー児玉ぁ。てなわけで元会長としても、現会長には負けたくないので白虎は玄武が叩き潰すのであったーーー!!! そうだろ、お前らあぁあああああ!!!」
【玄武】
「「「然りいぃいいいいいいいい!!!」」」
【六角】
「あースッキリした。四粹も何か叫べば?」
【四粹】
「手前が叫ぶまでもなく、青龍は最初から覇気を募らせております。我々も、負けず劣らずの準備をしてきた自負がございますから、観客の皆様もどうか、お忘れなきようお願い申し上げます」
【青龍】
「「「四粹様素敵いぃいいいいいいい!!!」」」
【菅原】
「それって覇気なのかねー……相変わらず玖珂は思考を読ませないし、分からない相手」
【六角】
「それは菅原だって同じだろー?」
【菅原】
「無論、全ては勝利の為に。私の軍は非常に優秀であることを私は知っています。故に――六角元会長殿には悪い気もしますが、今回は私が優勝旗を持ち帰り、勝利の杯を酌み交わします!!」
【白虎】
「「「いええぇええええええええい!!」」」
だから酒やめろって本当に。紫上学園の誇り高き精神とやらにアルコール混ぜるなって。
【鞠】
「……はぁ。司会、時間圧してます」
【司会】
「あ、はい……! 各チーム団長ありがとうございました、以上で開会式を終わります!! 続いて……プログラムナンバー1、準備体操に移ります――!!」