3.07「実力試験の結果」
あらすじ
「自分が懸けてきた分全てを燃焼できなかったなら、それはどんなに悔やまれることか」砂川さん、事の背景を知ります。さあ純粋悪は誰なのかなって感じになる3話7節。
砂川を読む
【秭按】
「今回の実力試験の結果は――二重の意味で、理不尽だったのよ」
そう話を始めた堊隹塚先生。
「実力試験」――私としてはもう忌まわしい思い出になってるけど、どうやら私を紫上会に送り出してもまだソレが尾を引いてるらしい。それも、私が理解していた以上に。
【秭按】
「実力試験の結果、最優秀成績をおさめたのは砂川さんだわ。文句の付けようのない解答用紙。試験官たちも貴方を見続けていた。試験時間中ずっと、空白欄にペンを走らせていた唯一の学生をね」
【深幸】
「ってことはやっぱ、カンニング疑惑はデマだったわけか」
【秭按】
「当然学生は砂川さんを観察する暇なんてないのだから、砂川さんを疑いたくもなるわ。だけど、教職員は私を含めて知っている……砂川さんは実力で、あの試験の全ての問題を解いたのだと」
【鞠】
「私の話はいいです。要は一つ目の理不尽は、ぽっと出の私が会長になったことでしょう。それはもう身を以て思い知っています(←イライラ)」
せめて、せめて誰か1人でも紫上会の説明をしてくれていたなら……暗黙の了解って怖い……。
【秭按】
「松井くんは当初から期待されていた通りの結果を出した。だから誰も疑っていない。茅園くんは村田さんと、本当に接戦だったわ。一問もし正解していなかったら、得点配分によっては順位が逆転していたもの」
【深幸】
「……勘でもいいからって選択問題見つけて兎に角やっといて良かった……」
正直、私もかなり良かったと思ってる。このチャラ男の方が数倍マシというものである。
【深幸】
「しかし、それだと俺も運で紫上会入りしたって感じだな」
【秭按】
「運も実力のうち、私はそう思うわ。それに君は……私は今年度就任してきているから知らないけど、どうやら候補として名前は挙げられていたそうじゃない。だから、君も松井くん同様に、相応の実力があったから紫上会でも納得される。だけど……」
【笑星】
「…………」
【秭按】
「1年生は、ある意味会長枠の騒ぎよりも想定外のことが起きたの。候補者としては無名な、笑星が1位となった」
無名。
すなわちそれは、私と同じだ。
【秭按】
「しかも1年生の結果は……例年よりも、平均点が低くなっている。その理由は、松井くんや玖珂くんなら分かっているでしょう?」
【四粹】
「……集団食中毒、ですね」
【秭按】
「その通りです」
何か新しいの出てきた。
【秭按】
「試験前日の夕方から夜にかけて……体調悪化で病院を訪れる人が急激に現れました。それら殆ど全員が、紫上の学生だったの」
【深幸】
「まあ俺も知ってるっていうか、世間でも知られてるニュースだったなぁ。結局原因って何だったんすか?」
【秭按】
「患者からはノロウイルスが検出されたけど……よく分からないまま。恐らく食堂が感染場所……だけど、原因となる要素が発見できなかったの。毎日丁寧に従業員が清掃しているというのもあるけど」
紫上学園以外の場所では全くそのケースは無かった。確かに不思議なものだ。
ただ、それを究明する時間ではない。寧ろ今気にするべきは……
【鞠】
「その集団感染に巻き込まれた中には、1年において紫上会候補の人が皆含まれていた。だから……」
【笑星】
「……俺が、1位になった。1位になるには、どうしても点数が足らないのに……」
だからか。
* * * * * *
【学生】
「運だけの奴は黙ってろ!!!」
【学生】
「おいおい……お前がそれ云うのかよ? 早速、いい身分だな! 本来お前は、紫上会に入れるわけのなかった奴だろうが!」
【学生】
「……不公平なら、無くもなかったとは思うけどな。主に……1年とか色々」
* * * * * *
勝者になり得る学力ではなく、周りが不幸に見舞われるという「運」で以て勝者となってしまったから、それを認められない奴が思いの外大量発生している、と。
【笑星】
「……今までこんなことなかったんだけど、最近俺、挨拶しても皆返してくれないんだよね」
と、今度は雑務がポツポツと喋り出した。
恐らく、ずっと黙ってきた日常の変化を。
【笑星】
「クラスではなんか浮き気味で、誰も会話してくれなくてさ。唯一、邊見だけかな。それと紫上会の皆」
【信長】
「そんなことが……もっと早く、相談してくれてもよかったのに」
【笑星】
「折角、紫上会になったばっかなのに、いきなり助けを求めるのは……って思っちゃって。こういう時こそ、俺を認めてもらうチャンスだ! ……ってなってめげずに続けてみたんだけど」
私の把握の限りでは、この雑務は能力の有無などは一旦切り離して考えて、たいして別に悪いことはしていない。つまり原因は彼自身にあるというわけでなく、彼をどう認識しているか、一般学生の考え方の問題だろう。
そこを効果的に叩かなければ、その努力は空回りに終わる。寧ろ奴らの神経を逆撫でして逆効果とすらなる。今回も実はその例だったのかもしれない。
【秭按】
「……気持ちは分かるわ。紫上会は皆の憧れで、学園の輝きだもの」
【信長】
「先生?」
【秭按】
「だから、立ちはだかる実力試験もまた……彼らにとって輝かしい舞台。それに自分の全てを出し尽くして……それで敗北したなら、確かにその悔しさは決して小さくない」
【信長】
「…………」
【秭按】
「だけど、それすらできなかったら……自分が懸けてきた分全てを燃焼できなかったなら、それはどんなに悔やまれることか。きっとそれは単なる敗北の比ではないし、どう処理すればいいかも分からない」
【深幸】
「……だからって、こんなことを」
【秭按】
「ええ。その通り。このような手で誰かを陥れて、そうして勝ち取った勝利は……果たして求めてきた勝利なのか。他人事の意見なのは承知だけれど……救いが無いわ」
故に情状酌量の必要は無い、と結論付けて。また堊隹塚先生が、私に向いて頭を下げる。
【秭按】
「まだ貴方を……そして笑星を狙う学生は居ると思うから、彼らを何としても打ち倒してください。それは結局のところ、彼らを救うことにも繋がりますから」
私にそんなことをするメリットは無い。だから頭を下げるのだろう。
……繊細な性格だと、そういうことをされるのも地味に困る。対応に困る。
【鞠】
「少なくとも過程には意義はあります。私は、私の好きなようにやるだけです。異論は受け付けません」
次、あっちがどういう方向性で来るのかは分かった。やることも決まった。
――次で、奴らを完璧に絶望させてやる。