3.04「無能な者」
あらすじ
「貴方に仕事を任せられるわけがない。だから私が全部、やると云ってるんです」砂川さん、部下の尻拭い。一応云っておきますが本作には「ラブコメ」タグが付いております3話4節。
砂川を読む
【鞠】
「無能ですか、貴方は」
【笑星】
「――え?」
早速釣れたので、グラウンドに急行。耳が辛くなっていたのでそれなりに予想はしてたけど、それを超える人の集まりだった。暇なんだろう。
……ていうか。
【信長】
「紫上会です! この騒ぎは、何事ですか!!」
【深幸】
「ッ……笑星!! 大丈夫か!!」
【四粹】
「……監視役でしかないとはいえ……手前がもっと、視野を広く持っていれば――」
何で附いてくるし。まあ、居ようが居なかろうがどっちでもいいから無視して……。
【鞠】
「……ふむ」
私は芸術にはそこまで興味無いし、家庭教師から教わった以上のことは知らないが……
スプレーアートというのも現代存在するカテゴリーだけど、それには多分含まれない。いやもっと云えば、この落書きは芸術とは呼ばないだろう。ちょっと背景に模様がついただけの単なる文字列。メッセージはずばり「死ね」の一言。
つまり誰かに死ねと云っている以外のメッセージを感じない。芸術としては情報が過疎にも程がある。本当、救いようのない落書きというわけだ。
【笑星】
「先…輩……」
【学生】
「丁度良い!! 会長、この惨事をどう受け止めるんだ?」
喧しい学生たちが、今度は私を含んで囲む。
【学生】
「お前の部下である堊隹塚が、この由緒ある体育小屋に何の思慮もない落書きをしたんだぞ!! 紫上会の面子としてあるまじき行為だ!!」
【深幸】
「はあ!? 笑星がそんなくだらねえこと、やるわけねえだろ!?」
【学生】
「ならその持ってるスプレー缶は何だ?」
【笑星】
「や……やってない、本当に、俺やってないんだ……」
【信長】
「……そのスプレー缶は、どうしたんだ?」
【笑星】
「拾ったんだ……! 来たら、落書きがされてて……その真下に転がってたから――」
【鞠】
「ほんっっっっと莫迦ですか」
警戒心が無いにも程がある。
【笑星】
「っ……ごめん、なさい……」
【信長】
「会長……! 今は笑星の無罪を――」
【鞠】
「それをどう証明するんですか? 状況からみて、そのスプレー缶2本で彼が、周りから受けている扱いのストレスに打ち拉がれて理性を一時的に失い、腹いせでこの倉庫に自分を虐める奴らへの悪口を落書きしたと考えるのが妥当でしょう」
【深幸】
「テメエ――!! 笑星がやったっていうのかよ!!」
【鞠】
「なら、証明できるんですか。彼がやっていないと。この現場に居なかった貴方がたに」
【信長】
「そ……それは……」
【深幸】
「ッ……」
本当、役に立たない。口だけの無責任な連中。イライラがやまない。
【笑星】
「……先輩……俺……やってない、やってないんだよ……」
【鞠】
「それを貴方自身もまた、証明する手段を用意できていない。威勢が良いだけ。結果を出したいなら、常に状況を見定める思考を持たなければいけない。貴方の状況はまさにそうだった……なのに、気合いばかりを飾り立てて、“敵”がどう動くかすら考えもせず、見え見えの罠に自分から浸かりに行く」
しっかり、現実を叩きつける。
【鞠】
「貴方に仕事を任せられるわけがない。だから私が全部、やると云ってるんです」
結局こうして私を少しだけ脅威に晒した、敵に。
【笑星】
「…………」
【深幸】
「……おい……芋女、お前今、罠って云ったか……?」
――まあ、こうして沢山の莫迦の客寄せパンダになったところは、思わぬ良好な働きだったとは云える。
本当、良いモノが手に入った。アルスを取り出し、片手でアプリを起動、操作し始める。
【学生】
「ほう……紫上会は認めるんだな、そこの堊隹塚が落書きをしたという事実を!!」
【学生】
「当然堊隹塚は罰せられるべきだが、コイツを放っておいた会長らにも、責任があるよな?」
【鞠】
「……会見の時のように、云いたいことがあるなら挙手制でどうぞ」
【学生】
「はあ――? 今あんたらどういう立場なのか分かって――」
【鞠】
「間違いなく現段階では貴方たち一般学生の上の立場に居ますが、おかしいですか?」
……本当はこんな予定無かったのだけど。もう少しだけ雑魚どもの相手をしてあげよう。
他でもない、お前らをより深くまで叩き潰すために。
【学生】
「ッ――お前、お前だって調子乗りすぎなんだよ!! 自分に従わない部活を即刻廃部させるとか、紫上会は自分の身勝手が許される場所じゃねえ!!」
【学生】
「堊隹塚だけじゃない、お前も紫上会を辞めろ!! 責任をとれ!!」
【学生】
「「「辞めろ!! 辞めろ!! 辞めろ!!」」」
【笑星】
「……………………」
【深幸】
「おい……早速危機なんだが、どうすんだよお前よぉ……」
【四粹】
「……前例では、会員が殺人未遂を犯したことで任期を半分残し辞職する処理がなされました。その際には、人員補充はされず、会長も辞職には至りませんでしたが」
【信長】
「会長――」
【鞠】
「黙っててください。どうせ何もできないんですから」
しかし、結局のところコレが狙いだったんだろう。
彼を使い、私を誘き寄せ……そのまま勢いで引きずり下ろすと。今日、「責任」という概念が物凄い力を宿して他人に利用されること頻繁なわけだが。
こいつらは本当、分かってない。
【鞠】
「――誰に口聞いてるんですか」
敗者が、勝者に命令するなと、そんな当たり前のことをどうして二度も口にしなきゃいけないのか。
【学生】
「ッ……はぁ――?」
【鞠】
「……さて、ではまず、スプレー事件の方を片付けますか」
優勢を疑っていなかったのであろう莫迦たちが、ここにきてやっと足並みを乱し始めた。
【学生】
「片付けるって……どういう――」
【鞠】
「誰がやったのか、なんて……抑も推理する必要も無いってことですよ」
さあ――勝手に地獄に堕ちればいい。
【鞠】
「監視カメラを確認すればいいんですから」