2.09「仕掛ける」

あらすじ

「信用していない敵と手を組むような、大胆さは私持ってませんから」砂川さん、強力な一撃を投下。牛乳だとお腹下すのにイチゴ牛乳だと平気なの不思議過ぎる2話9節。

砂川を読む

Day

4/16

Time

8:15

Stage

1号館 2D教室

 ざわざわざわざわ……。

【鞠】

「……視線を感じる」

 まあ、予想の範囲内だけど。

 ただその視線の内容がどういう方向のものなのかは分からない。大体、以下のうちどれかだろう。

 1.不登校になりかけのやつが登校してきた

 2.野蛮人が今日も野蛮そうな顔をしてる

 3.コイツ何考えてるんだ

【鞠】

「……おおかた、3かな」

【深幸】

「――何考えてんだお前はああぁあああああ!!!?

 はい、正解ー。

 疲れが残りまくった身体を引き摺って迎えた朝、着席していた私は早速胸ぐらを掴まれた。

 思うんだけど、このチャラ男ちょっと胸ぐら掴みすぎだと思う。軽くセクハラだと思う。あと私女子扱いされてないと思う。多分芋でしかないんだと思う。

 別にこの人に何思われようと問題ではないけど、朝から見たい顔ではない。イライラが募る。

【深幸】

「おまっ、掲示……!! あの、掲示ッ!!?」

 云いたいことまとめてから胸ぐら掴みに来いという話だ。

 ただまあ何を話題にしたいのかはよく分かった。

【鞠】

「何も奇天烈なことはしてませんけど」

【深幸】

「充分、奇天烈だわッ!!! 来いごらあぁあああああ!!!」

【秭按】

「ごきげんよう。それでは本日のHRを――何事ですか? あら、砂川さん今日は来たのね。身体の調子はどう?」

【深幸】

「グッ……もうそんな時間か……」

【秭按】

「面白いことになってるようだけど、自分のクラスに戻りなさい茅園くん。紫上会の一員なのですから、学生の手本となる生活態度を心懸けるように」

【深幸】

「ソレ、真っ先にコイツに云ってくれませんかね……失礼しましたー!」

 チャラ男、撃退。

 この担任は何だか立ち位置までクールだ。いやコールドだったっけ。まあどっちでもいいけど。

【秭按】

「……砂川さん、今日は貴方の周り、荒れそうね」

 ただ微妙にコッチ見て少し笑いかけてくるのはよく分かんない。それだって、どうでもいいけど。

【鞠】

「……確かに……」

 今日は荒れるだろう。

 主に、邪魔で仕方無い8割の組織が。

Time

13:30

Stage

紫上学園 用務通り

【学生】

「「「ざわざわざわざわざわ……」」」

 ざわざわ……ざわざわざわ……。

【鞠】

「んくんく……彼処に引き籠もってた方がよかった……」

 一斉に話しかけられても困るけど、こうして常にひそひそ話されてるのも気になる。いや、もうひそひそとかいう感じではないけど。だって大半のA等部学生が今、危機を感じているのだから。

 何もできない弱い会長とでも思っていたのだろう。そんな奴、簡単に会長から引き剥がせると。

 そう思っていたのに……そいつがいきなり、攻撃を仕掛けてきた。それも更に前代未聞の事態を引き起こすほどの――

【鞠】

「前代未聞では、ないけど」

【四粹】

「……そのようですね」

 デジャブがあったので、辛うじてイチゴ牛乳を鼻から噴く悲しい事態は回避した。

 この前も大体同じ時間だっただろうか。後ろを振り向くと、副会長が立っていた。

【四粹】

「失礼しております、会長。美化委員の仕事で、よく此処には来るのです」

 この学園にも、いや何処の学園にもあるんだろうけど、委員会という組織が存在する。ただ、あの学園とはだいぶ違う……先輩の話を聞くに寧ろ、ここのような委員会の規模が普通なのだろう。

 誰しもが入る必要は無い、という点が特に驚きだった。実に甘い環境である。

【四粹】

「……松井さんから話は聞いていましたが……本当に、お1人でやられるつもりなのですね」

【鞠】

「信用していない敵と手を組むような、大胆さは私持ってませんから」

【四粹】

「敵、ですか……」

 私は基本的に嫌われている。その最たる原因は今のところ、出身地。

 しかしそれに殆ど一切触れずに私と関わろうという者も、居る。その一人が恐らくこの人だ。ならば……この人は信用できるのか?

 それは、断じてノーだ。チャラ男……あれは確か会計だった筈だけど、奴のように上に立つ者は様々なものを生来持っているべきだと考える輩も居る。だけどこの学園では矢張り、学力の高い者が慕われる、そんな雰囲気がある。ならば紫上会の面子は、基本的には入った時点で尊敬を集め、学生たちから信頼を得ているのだ。

 つまり、私のように嫌われる要因を持たない他の紫上会面子は、純然たる私の敵と密接に繋がっている。この人にいたっては私を脅威と見なした学生たちがこぞって推薦した“監視役”。いわば私を封じ込めるのに最も優秀な人材。本当に、学生“代表”と云えるだろう。

 信用できるわけがない、敵だった。

【四粹】

「4泊もして……過去の紫上会の資料を読み漁ったんですね。これまで紫上会がどのような活動をし、発生した問題に対しどのような判断をしてきたのか……いわば判例。会長は、お1人で仕事をするためにまず、これを吸収することに集中された」

【鞠】

「……一応云っておきますが、今起きている騒ぎは、論理としては全くおかしくないですし、前例だって存在します。起こるべくして起こった事態ですから」

【四粹】

「ええ……手前も、実際今はそう思います。ただ、まさか……本当に実行されるとは、と驚きはありますが」

【鞠】

「躊躇する理由が、見当たりません」

 購買で菓子パンを買っただけの昼食。それはもう終わってしまったので、退屈凌ぎでチビチビと紙パックのイチゴ牛乳をストローで吸う。野菜が足りない。

【四粹】

「どこの部活も、悲鳴をあげていましたね。明日から部活勧誘期間……本格的に新年度の部活動をスタートさせていくタイミングに、あのお触れですから。松井さんも茅園さんも、今朝がた絶句されていました」

 チャラ男は早速私に殴り込みに来ていたけど。

【四粹】

「……手前の方に、会見を求める声が集中していますが、如何しましょう」

【鞠】

「うわ」

 まあそういう場を設ける、という前例は腐るほど見つかったので、一応来るかなとは思ってた。

 しかし……当たり前のことを書いただけなのに、それ以上何を説明することがあるんだろうとは本当思う。場に群がってくる奴らは、きっと莫迦ばかりなのだろう。

 ……一度くらいは、はっきり云ってやった方が効率は良いかもだし。

【鞠】

「まったく」

【四粹】

「あ……どちらに?」

【鞠】

「放送室」

【四粹】

「……なるほど――お供させていただきます」

【鞠】

「…………」

 ……邪魔だなぁ、この監視役。

     

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