2.05「会長は」

あらすじ

「アイツが会長なの許せなくても……アイツが会長なのは否定しちゃいけない」笑星くん、今後を心配します。視点切り替えシステムは画像1枚貼ることでよしとした2話5節。

砂川を読む

vseboshi

Time

17:00

Stage

紫上会室

【笑星】

「……ただいまー」

 ……広い部屋だから、なおさら感じる静けさ。

 そう決めつけて、走って探してみたけど……先輩は居なかった。

【深幸】

「ったく……普通帰るかねえ……」

【笑星】

「いや、でもまだ諦めるのは――」

【深幸】

「鞄がねえ。一回此処に取りに帰ってきたってことだよ」

【笑星】

「…………」

 本当に、先輩は帰ってしまったようだ。

 だけど……

【笑星】

「あんな集中して云われ放題したら、そりゃ帰りたくなるさ……」

【四粹】

「ははは……」

 苦笑する玖珂先輩は、気まずそうだ。

 というか皆気まずそうだ。それぞれ何かを持て余して……結局、会議用のソファに座っていく。

【信長】

「……砂川さん……」

【深幸】

「ちっとは云い返せばいいのによ。それもしないからもっと舐められるんだろうが……」

【笑星】

「……あれ? 茅園先輩、何かイライラしてる?」

【深幸】

「ん? そりゃまあ、こんな出だし誰でもストレス溜まるだろ? 笑星はどうなんだよ」

【笑星】

「すっごい仕事した感じしない」

【深幸】

「ははっ、だなぁ」

 そして、先輩が……多分傷付いた、この現実が気に入らない。

 だけど、それは別に先輩のことを悪い人とか思ってない俺だからであって……

【笑星】

「先輩、カンニング、したのかなぁ……」

【信長】

「それは――」

【深幸】

「してねえよ、どうせ」

 茅園先輩まで、何か俺みたいなのがちょっと不思議だった。

【笑星】

「え、そうなの!?」

【深幸】

「確定づける証拠が無いからな。ていうか何となく、村田のやり口の匂いがする」

【信長】

「はは……俺も、何か匂ったなぁ」

【笑星】

「へー……村田って、さっきの新聞部の?」

【信長】

「ああ。そして昨年度の紫上会メンバーだ。覚えてるか?」

【笑星】

「あれ、そうだったっけ……」

【信長】

「実のところ仕事は一番凄くテキパキやってたんだが、アイツ「雑務」ってラベルが気に入らなくてな。それなら見られない方がマシって裏方ばかりやってたんだ」

【深幸】

「アイツほどプライドで生きてる奴、この学園には居ねえよな。ま、そのプライドを芋女が正統な形でズタズタにしちまったから、逆恨みしてるってところだろ」

【信長】

「実際、紫上会を諦めてないかもしれないな。砂川さんを退けて、空いた枠を……」

【四粹】

「……もしそうなれば、手前もお役御免で外れるでしょう」

【深幸】

「2枠は空くから、それを狙って村田に乗っかってる組織も多いかもしれねーなぁ。ったく、どいつもこいつも実力試験で結果出さねえのがいけねえんだろうが……」

【笑星】

「……ねえ、茅園先輩。砂川先輩のこと嫌いなんだよね?」

【深幸】

「あ……? 何だいきなり。まあ、気に入らねえな。自己紹介の時に云った通り、アイツ居なきゃ信長が会長だったわけで、俺はそれが良かったんだし」

【笑星】

「じゃあ、このままクーデター起こしたいって思うんじゃないの普通?」

【深幸】

「……あー……そうだなぁ」

 茅園先輩が、ソファに腰を倒しながら頭を搔いて。

【深幸】

「いや、クーデターは要らね」

 その状態のまま、自然と答えが返ってきた。

【笑星】

「何で?」

【深幸】

「何でって、そりゃ気に入らねえからだよ。砂川はホント気に入らねえ。煌めきが全然ねえ。何でこんな奴が会長なんだ巫山戯んな芋って、心の底から思ってる」

【笑星】

「まあ、それは何か分かる」

【深幸】

「……だけど、それでもアイツは実力試験で1位を取った。カンニングしてたんなら論外だが……何だろうな、アイツのあの日の帰り際の疲れ方を見てるからな、俺はアイツ本気で試験受けたと思う」

【四粹】

「……そう、なんですね」

【深幸】

「俺も、信長も、B等部の頃から物凄く頑張って、部活しながらでも絶対弛まないようお互い励まし合いながら、絶対勝つって信じ続けて……それでやっと掴み取った勝利なんだ。この席なんだ。アイツが何て思ってるかは知らないけど、あの試験で勝ったから、この紫上会に入ることが許される……俺は心の底から、そう思ってる」

 だから……と、茅園先輩は上体を起こし腰をただす。視線をテーブルに下げて……

【深幸】

「アイツが会長なの許せなくても……アイツが会長なのは否定しちゃいけない」

 そう呟いた。

 強い、呟きだった。

【深幸】

「信長は、どうする? 今の状況なら、会長になれる可能性無くはないぜ」

【信長】

「……誰に云ってるんだ、お前は」

 愚問、と切り捨てるような、笑みを混ぜた返しだった。

【信長】

「全部お前が云った通りだろ。俺は勝ったが、砂川さんには負けた……無論彼らも、砂川さんに負けた。それが全てだ」

【四粹】

「……ふふ、この学園は……確かに奇妙ですね。しかし、それが紫上学園、なのでしょう」

【信長】

「玖珂先輩は、どうお考えですか?」

【四粹】

「進むも退くも、守るも壊すも、学生たちの意思が決めること……手前は彼らの願いの為に、紫上会は在ると考えます。ですが、その学生たちには……紫上会の面子も含まれている。たとえ相反するとしても、全ての願いは受け止められ吟味されるべきものでは、ないでしょうか」

 ……つまり、皆誰一人としてクーデターを賛成していない。

 そして、当然俺だって。

【笑星】

「……先輩は、絶対凄い人なんだ」

 俺とは違って……疑いようなく。

 だから何とかしないと。誓約書が集まらない――紫上会っていうトップに8割以上の組織が反抗しているこの状況を、何とかしないと!

【笑星】

「よーし、説得頑張るぞーーー!!」

【深幸】

「いや、今日は帰ろうぜ?」

 ……今日はもう、下校ということになった……。

     

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