2.03「また自己紹介」
あらすじ
「そこを確認する意味も含めて、自己紹介の時間を設けましょう。如何でしょうか、会長?」砂川さん、自己紹介地獄。すごく露骨に5人集結な2話3節。
砂川を読む
Time
15:45
【信長】
「会長、指揮を……」
【鞠】
「…………(←ごにょごにょごにょ)」
【信長】
「え、何と……?」
【四粹】
「恐らく、「そっちで勝手に進めればいいでしょう」かと……」
【深幸】
「何から、何まで……ッ! せめてもっと会長らしく振る舞えっつーの! いつまでもふて腐れやがって――」
【信長】
「深幸……!! はぁ……分かりました、では――副会長、お願いします」
【四粹】
「分かりました。恐れながら、代行させていただきます」
【深幸】
「これだよこれ……この只者じゃない感じ……何で先輩が会長じゃねーんだよ……」
【笑星】
「……ていうか、抑もどうして玖珂先輩が、紫上会入りしてるの? 一応邊見から軽く話は聴いたけど……」
【四粹】
「……そうですね……まず、今年度の紫上会編成は、例年よりも特殊です。そこを確認する意味も含めて、自己紹介の時間を設けましょう。如何でしょうか、会長?」
【鞠】
「…………」
マタ、ジコショウカイ……。
【四粹】
「……会長?」
【深幸】
「あーもうアイツはいいから、それでいきましょーよ……えっと、じゃあ取りあえずややこしくない組から。多分、俺が一番そうでしょ?」
【四粹】
「そう、ですね……では、茅園さんよろしくお願いします」
チャラ男は立ち上がった。見た目通りというか、こういうのは得意な方なんだろう。
【深幸】
「会計の茅園深幸っす。前年度は順位微妙でダメだったけど、今年は幸運なことに何とか入り込みました。信長と一緒に紫上会、これが夢だったんで、これから精一杯頑張っていきたい……所存でした……」
【信長】
「前半良い感じだったのに、後半の落ち込みどうした……?」
【深幸】
「だって……だってよう――」
テンションの浮き沈みの激しいチャラ男、突然こっち向く。
【深幸】
「――何で会長があんな芋女なんだよ!?!?」
そして躊躇無く指差してくる。失礼。
【笑星】
「え? だって、凄えじゃんこの先輩、テスト全部満点ってヤバいじゃん」
【深幸】
「それは素直に凄えよ!! だけど、なあ!? 普通に考えてみろよ、会長ってほら、それだけじゃないだろ? ただ学力が高いってだけじゃなくて、生まれつきの天才っていうのが見ただけで分かるオーラがあってしかるべきだろオイ!!」
【信長】
「……いつものアレか……」
【深幸】
「そうだよ!! 煌めき!! トップの人間に必要なのは煌めきなの!! 自分たちの上に立つ人間には、キラキラしててほしいもんだろ!? なーのーにぃ――」
【笑星】
「砂川先輩、キラキラしてない?」
【深幸】
「してないッ!! 濃い茶色!! ドヨーンとしてる!! ビジュアルと放つ空気が見事に芋女!! 何でこんな奴が俺と信長の上なの!? 信長会長が良かったよマジで!!!」
【信長】
「ダイレクトに失礼なこと大声で云うな。あと、さらりとちょっと恥ずかしくなることも云うな……」
この人も結構過ぎたことでふて腐れてないだろうか。
ていうか今からでも会長交代とかできないのだろうか。
【深幸】
「玖珂先輩!! 今からでもまだ間に合う……! 信長か玖珂先輩、どっちか芋女と代わってください……!!」
【鞠】
「……!(←前のめり)」
【四粹】
「結論から申し上げますと……それはできないでしょう」
【深幸】
「…………(←どんより)」
【鞠】
「…………(←どんより)」
【笑星】
「そうなんだ?」
【四粹】
「その理由は……そうですね、私の番の時にお話しましょう」
【深幸】
「……俺と信長の、最初で最後のコンビネーション紫上会生活が……」
【信長】
「べ、別に何もかも終わった、みたいな気分にならなくてもだな……深幸も云っていたように、今年は俺も深幸も紫上会だ。何を夢見たのかは分からないが、その何割かは実現できるさ。な?」
【深幸】
「お前が会長前提なの、8割ぐらい夢見てた……」
【信長】
「……そ、そっか……思ってた以上に応援してくれてたんだな、すまん……」
【深幸】
「…………(←キッ)」
こっちまたすっごい睨み付けてくる。ふて腐れ超えて女々しい。
【四粹】
「ははは……えっと、次はじゃあ、松井さんでしょうか」
【信長】
「ですかね……書記担当になりました、松井信長です。知ってる人は知ってるでしょうが、前年度も副会長として紫上会入りしてました。経験者なので、分からないことは何でも聞いてください。……まあ玖珂先輩が居るから、俺の出番はあんまり無さそうだが」
【四粹】
「そんなことはありません。今年度も、頼りにさせてください」
【笑星】
「茅園先輩的には、松井先輩はキラキラしてるってことなんだ」
【深幸】
「その通りだ、本当、その通りなんだよ……!」
【笑星】
「すっげーベタ褒め。仲良いんだね!」
【信長】
「一応、幼馴染みで附き合い長いんだよ……性格は随分違ったが、今でも友人枠で落ち着いている」
【深幸】
「親友だな」
【笑星】
「おお、完璧云いきる……! そういうの、いいなぁ俺ちょっと憧れる」
【信長】
「幼馴染みは無理でも親友になら、今からなれるだろう? 先輩として頑張るつもりだから、これからよろしく頼む」
【笑星】
「よっしゃあ、よろしく!! 確かにキラキラしてる!!」
【深幸】
「コレ、だよ、コレ……」
親友を指差しながらまたコッチ睨んでる。参考にしろと? どう見ても性格もっと違ってるんだけど。
【笑星】
「次は俺! 1年の、堊隹塚笑星です!! 正直、俺まだ信じられないんだけど……1年で1位になって、雑務になったんで、よろしく!! あと既にタメ口でごめんなさい!!」
【深幸】
「こんなにナチュラルなタメが似合う奴もそういねえな……そして随分外交的なもんだ」
【信長】
「堊隹塚は、エスカレート生だよな? 実力試験で1位を取るには、相当準備が必要だからな……」
【笑星】
「あ……う、うん……」
【深幸】
「だよな……そうだよな、普通この試験でどうなるかとか、ちゃんと知ってるよな……ッ」
いちいちこっち見るな。そしてソレは私の周りの大人たちにもだいぶ落ち度あるからっ。
【笑星】
「あと、俺のことは是非、笑星って呼んでください。変かもだけど、名前で呼ばれる方が好きだから」
【信長】
「良い名前だな、実に堊隹塚の雰囲気を表してるって感じがする」
【深幸】
「オッケーよろしく、笑星。信長だけと云わず、俺とも親友になろうぜ」
【笑星】
「うっす、よろしく! 玖珂先輩もよろしく!!」
【四粹】
「はい、よろしくお願いします」
【笑星】
「そして、砂川会長も、よろしくッ!!」
【鞠】
「…………」
すっっっっっごい眩しい笑顔で真っ直ぐ見られるのキツい。眩しい。お日様見てるみたい。
【笑星】
「んで……次は、玖珂先輩、かな? こういう云い方あんまりしたくないんだけど……本当なら、邊見が入る筈だったんだよね?」
【四粹】
「その件については、本当に申し訳ありません。その通りです。通例であれば、1年の部において1位の笑星さんが副会長、2位の邊見聡さんが雑務という形で紫上会入りしていました」
……そういえば、確かに1年生が1人足りない。
その代わりに、彼らの会話から察するに、先輩の彼が居るということになる。
私は生徒会というものに全然詳しくないが、トップである会長は普通3年では? しかしそうではないということは、元から3年生は生徒会メンバーの対象外、なのだろう。
思い出しても3年の部は発表式で随分ついでな感じで発表されてたし、進学や就職を控えている3年からの選出は難しそうなことぐらいは想像できる。
……だから、自己紹介では後列なのだろう。そして私気付けば最後列。
【四粹】
「しかしながら……その、まことに申し上げにくいのですが……」
こっちチラ見。まあ、何か教職員の方でも揉めたのだろう。何で揉めたのかも、想像できる。
【深幸】
「あそこでだんまりを決め込んでる奴がよりにもよって会長になっちまったもんだから、悪い意味で学園中がざわついたってとこっしょ?」
【信長】
「……まあ、大体その通り、だな……。学園としては、可成りの覚悟で学力改革に臨んでいる。学力至上主義とまでは云わないが、学力ある者にはそれだけの恩恵を……そうすることで多くの者が勉学により真剣に励むように」
【四粹】
「その姿勢ゆえに、紫上会入りのシステムに学力と別の事情で干渉することは、事実上御法度とされているのです」
【深幸】
「でも、学力があってもヤル気の無い奴だって居ないわけじゃないっすよね? 実際こういう奴は、今まで居なかったんすか?」
【四粹】
「勿論、その前例はあります。しかしいわゆる問題児扱いされてしまった方の隣には殆ど常に紫上会を目指してきた真面目な方も紫上会入りしているので、学園生活の運営に支障を来すような紫上会破綻は起こりえなかった」
【信長】
「村田も初期は非常に面倒だったが……何とかなったからな。何とかなるから……兎に角、前例が無い……紫上会の役職分担は実質的に何の価値も無くても、実力試験によって与えられた立場には無視しがたい意味がある。その上下関係を簡単に覆してしまうようなことがあれば、今後の紫上会の選抜の在り方が、良くない方向で複雑になってしまう恐れがあるんだ」
【笑星】
「……じゃあ、玖珂先輩は?」
【信長】
「一言で云えば、前例があったから、適用された異例だ。いくら「何とかなる」って学園が判断してても学生たちが不安で仕方ないって時には……」
【深幸】
「実績があって信頼できる経験者を“隣”に残すことで、何かが起きてもその人が何とか処理してくれる……それで学生の不安問題を解消するってことか……」
【信長】
「深幸も知ってるように、玖珂先輩は既に2年間、紫上会で活躍している。特に前年度は自由柔軟に新しいことに挑戦した六角元会長の無茶振りを、現実的に調整してきた実績がある。これが決め手だったんだ」
【四粹】
「前例に従い、3年生が紫上会に推薦される場合の枠は副会長となり、1年の部2位の学生には本来の恩恵はそのままに、紫上会入りを断念していただくことになります。但し、被推薦者および2位学生の承諾が得られなければ当然、この特例は発動しません」
【笑星】
「それで邊見がオッケーして、玖珂先輩もオッケーしたから、こんなややこしいことになったのかー」
【四粹】
「手前からも、邊見さんには直接謝罪をしました。……彼は恩恵が主目的だったので、構わないと」
【笑星】
「んー……俺たちも、松井先輩と茅園先輩みたいな感じで一緒に入ろうって関係だったからなー」
【深幸】
「マジか!! それは……」
【四粹】
「…………何と詫びれば……」
【笑星】
「いやいやいや、邊見のことだし、どうせ来年また頑張るとか思ってるって! だからそんな、気にしないでさ。兎に角、玖珂先輩、よろしく!」
【四粹】
「……彼の分まで、手前の時間を紫上会に捧げいたします」
【深幸】
「えっと、まあ……自分の進路に響かない程度で、お願いしますわ」
何かもうほんと、いたたまれない空気だった。帰りたい。
【深幸】
「帰りたいとか思ってねえよな主原因……」
コ イ ツ 。
【笑星】
「よっしゃ、お待ちかねの会長のターンだ! 凄いのよろしくー!」
コ イ ツ !
【鞠】
「…………」
【笑星】
「…………(キラキラ)」
一体私の何に対して期待の眼差しを持ってるんだろうこの男子は。無邪気の一言が実に似合う。
ただ、無邪気というのは時にすんごい暴力だったりもする。今私はそれを感じている。こっから、逃げる、という選択肢が見当たらない。
……つまり、テキトウでもいいから兎に角やり過ごした方が楽なパターンだ。
【鞠】
「……砂川、鞠……か…かい……会――」
……ああ、云いたくない。
云いたくないッッッ!!!
【鞠】
「…………会長、デス……(←涙目)」
全然楽じゃなかった。
【笑星】
「おー……! 俺、もしかしたら先輩の声初めて聴いたかもしんない! やっと会話できたよ!」
【深幸】
「これ、会話になってんのか……?」
【笑星】
「ねえ、会長会長! 俺ずっと聞きたかったんだよ! 真理学園のこととか!!」
だがしかしそっから更に追い打ちを仕掛けてくる無邪気という獣。
【信長】
「ま、待て、笑星その話題はちょっと――」
【笑星】
「真理学園って、凄いってホントなの?!」
【深幸】
「いや待て笑星、その質問ざっくりし過ぎにも程があるだろ?? もっと限定しろ限定」
【笑星】
「えっと、じゃあ……身体能力が学生全員ヒグマ超えてるってホント?!」
どんな流れを経たらそんな噂が調合されるんだろう。
【鞠】
「………………(←イライラ)」
【信長】
「笑星、残念だが砂川会長は、その……あまり喋らないタイプなんだ。ペースを抑えてこれからコミュニケーションに励んでくれると、助かる……」
【笑星】
「うーん……そっかぁ、でもいつか教えてくれると嬉しいんだけどな、先輩」
【深幸】
「何でこんな芋女の住んでた場所にそんな興味抱けんのか甚だ不思議だわ……」
【四粹】
「…………」
イライラしつつも自己紹介……本日の地獄は、やっと終わった――
……そう、思っていたのだけど。
この1時間後には――私は、今自分が置かれている状況というのを、真に理解することになる。