10.05「情報共有」

あらすじ

「一生を用いても返せない借りですが……作っても、いいでしょうか」笑星くん達、亜弥ちゃんと情報共有。この辺は本編実はプロットすら出来てないというね。ごめんなさいな10話5節。

砂川を読む

Time

20:30

Stage

生徒会室

【亜弥】

「すみません……お見苦しいところを……」

 亜弥ちゃんが落ち着いた。

 ていうか俺たちも歩きまくってたので椅子に座れて凄く落ち着けた。

【笑星】

「亜弥ちゃん、頑張ってきたんだね。そういえば……この町で権力者っていったら特変なんだよね? その人達は、何してるの?」

【亜弥】

「……今は、それぞれ別行動されていますね。優海町の復興の為だったり、そうじゃなかったり……」

【深幸】

「そうじゃなかったりする奴らは何してんだか……」

【コアレスさん】

「おおかた、情報収集といったところなのでは? この町に居ては全く世界の状況など分からないのだから」

【信長】

「譱軀が来ているなら、態々特変が出向かなくともそこから情報が入ってくるんじゃ……」

【コアレスさん】

「……色々あるのです。決まりとでも云うべきものが」

 複雑らしかった。

【コアレスさん】

「しかし、外部の人間が敵対の目的もなくこうしてやって来たというのは非常に価値のあること。情報共有をしたらどうかしら」

【亜弥】

「はい。お願い、できますか……?」

【笑星】

「勿論。俺たちも優海町を知るために此処に来たんだから」

 情報共有を、始める。

【笑星】

「えっと……もういきなり聞いちゃうけど、一体何があったの……?」

【亜弥】

「…………私達にも、よくは分からないのです。めまぐるしく状況が悪化して、そして気付けば……」

【深幸】

「現地の人間でもそんななのか……?」

【苺花】

「分かってることなんて、譱軀が間違って奇襲してきちゃった、てことぐらいだもん……」

【コアレスさん】

「…………」

【笑星】

「え……敵って、譱軀だったの!?」

【コアレスさん】

「違います、いや当初は違わなくもありませんでしたが、黒幕がいたというだけで……」

【苺花】

「だけ……?」

【コアレスさん】

「貴方結構怒ってますよね……いや、それだけのことを譱軀がしたという自覚は少なくとも私にはあります。落ち度を認める他ありません……」

 よく分かんないけど、譱軀は優海町に迷惑をかけたらしかった。そういえばさっき、埋め合わせの為に今警察やってる、みたいなこと云ってたし……。

【亜弥】

「でも、今は譱軀さんは私達に協力してくれています。よく分からない敵とも共闘してくれました。私達が生き残れたのは、コアレスさん達のお陰なんです」

【コアレスさん】

「……正直、諸々不満はありますが。我々がいながら、結局優海町がこれだけ大きく被害を受けてしまったことは遺憾と云うしかありませんわ」

【苺花】

「……仕方無いですよ……相手は、凄く巧妙だったんだから……」

【コアレスさん】

「……貴方に、アレだけの責務を負わせたことが1番腹立たしいですわ」

 ……何処までを訊いていいのかが、分からない。その反応を見ていて掘っていいとは決して思えないけど。

 だけどそれも覚悟の上、だから。

【笑星】

「他の町も、沢山被害を受けてたけど……此処ほどじゃないよ。優海町は自然豊かって聞いてたけど、それが全部焼けてしまってる……此処は都会から離れてるにも関わらず、戦火の規模がおかしいんだ」

【亜弥】

「そう、なんですね……でもそれは当然かもしれません、敵さんの狙いは此処でしたから」

【深幸】

「……会長の直感は当たってたっぽいな……でもそれは何とかなったんだろ?」

【コアレスさん】

「その通りです。受けた傷はあまりにも大きいですが、敵自体は倒しました。暗闇もあって私はその様は見てませんが」

【苺花】

「お兄さんが、頑張ってくれたから……」

【信長】

「そこも会長の予測通り、か……」

 暗闇……これも一応訊いておこう。

【笑星】

「大輪は酷い有り様になったけど、他の大陸は無傷だよ。でも、暗闇の数十時間だけは全國共通で起きたみたい」

【コアレスさん】

「らしいですね。譱軀もそう認識をまとめています」

【亜弥】

「恐らく、その間に総ての決着は着いたのだと思われます。兄さんは、多くを語ってくださいませんでしたが……」

 世界で唯一、暗闇の中で戦っていたのが井澤先輩たち、なんだろうか。

 一体何がどうして暗闇は訪れたのか。それをどうやって修復したのか。

 それを訊けるとしたら相手は亜弥ちゃんではなく、本人しかいない。でも亜弥ちゃんにすら話さないのなら、俺たちに話してくれるわけもない。

 そして俺たちが知るべきは間違いなくそこじゃなくて……。

【笑星】

「……今は、この町の人達はどうしてるの? 多少は此処に着くまでに見てきたけど」

【深幸】

「だいぶ調子悪そうだったが、ここの学生たちは? 確か……寮制度ってやつで大半優海町暮らしだろ?」

【コアレスさん】

「どんだけ詳しいんですか貴方がたは……」

【四粹】

「生徒会室に着くまでにも、廊下で過ごされている方々を見ましたが……」

【亜弥】

「倒壊せずに済んでいる建物は貴重ですから。本来の用途を考慮している暇はありません。学校営業はストップして、避難所として学生や町民を受け入れています」

【信長】

「あれだけ建物が無くなってしまっていては、明らかに避難所足りないだろう……?」

【亜弥】

「それは大丈夫です、地下がありますから」

 どんだけ広いんだろうこの学園……。

【亜弥】

「でも、そうですね……ずっと建物の中、というのも心が病んでしまいます。ただでさえ戦火で町が壊されたショックもあり、電磁波もあります。結局何処に居ても危ないというなら、と壊れた自分の家に戻る方も少なくありません」

【深幸】

「開き直って全裸拳してる集団居たんだが、アレは流石にやめさせた方がいいんじゃ……」

【苺花】

「あの人たちは屈強だから、大丈夫かなーって……」

 元気な人達もいるにはいるけど、元々この町は端的に云っちゃえば病人の為の町。今1番悩まなきゃいけないのは、復興ではなく、人々の健康の確保だろう。

 その為にも……

【笑星】

「電磁波を何としてもやっつけないと」

【コアレスさん】

「話から察するに、貴方がたのもう1人のお仲間が今ソレをやっている、ということでしょう? それは信頼していいものなのかしら」

【笑星】

「でも会長、他の町ほぼほぼ全部電波塔建て直した人だし」

【四粹】

「笑星さん、その辺の情報はあまり……」

【笑星】

「あ、やべ……」

 あんまり私の事は云うな、みたいなの云ってたよね会長。それをよりによって譱軀の人にバラしたら、すっっっっごい怒られそう……。

【コアレスさん】

「どうなってるの最近の学生は……奇跡の世代過ぎるでしょう……ッ」

【亜弥】

「……あの力」

【信長】

「どうかしたのか?」

【亜弥】

「いえ。その……研究所で似たモノを見ましたし、1度助けていただいていますから、その時の力かなと」

【四粹】

「…………」

【コアレスさん】

「何のことですか?」

【笑星】

「な、何でもないよー何でもないない」

 多分何でもなくないんだけど、ソレまで譱軀に調査されようものならぜっっっっったい怒られる……。暫く口聞いてもらえなくなるかも。

 えっと、それなりに話題転換しないと……。

【笑星】

「まあそんなわけで、今頑張って鞠会長が持てる力で電磁波除去やってて。鞠会長曰くそれから電波塔建て直しに挑戦するらしいよ。それから、食糧とか薬とかも今会長の知り合いの人達が協力してすこーしずつ運び入れてきてくれてるって。もう直接各避難所に届けてるんじゃないかな」

【苺花】

「そ、そんなことまで……!」

【信長】

「建築材など景観復興に必要な物資については、流石にMSBらに勘付かれやすいからな、トンネル地下に掘って南湘エリアに繋げて其処から直接運び入れるとか」

【コアレスさん】

「どうなってるんですか最近の学生の人脈は……ッ!!」

 微妙に話題転換できたのか分からなかった。

【笑星】

「それから、今俺たちの鞄にも入ってるんだけど、電波とかきっちり遮断する箱の中に新品のアルス詰め込んでる。電磁波問題が解消されて電波塔が機能するようになったら開封するね」

【四粹】

「元々優海町は閉鎖的ということで外部の者と連絡を取る、という用途はあまりないやもしれませんが、各避難所と即座に連絡を取り合えるのは便利かと」

【苺花】

「い、いい至れり尽くせりぃ……!? そこまで、やってくれちゃうんですかッ……!?」

【笑星】

「寧ろ、大事な時に助けられなかったからコレぐらいはさせてよ」

 ……これ全部会長の用意した物資なんだけどね。偉そうなこと俺が云っちゃっていいのかな。

【亜弥】

「……一生を用いても返せない借りですが……作っても、いいでしょうか」

【笑星】

「皆が笑ってくれるなら、それで何割引かにするよ」

 とか思いながら偉そうな言葉が止まらない。

 無責任は止したいけど……でも、取りあえずは笑うことから始めよう。俺の経験上、笑っていれば、諦めなければ、何とかなるんだから。

【亜弥】

「…………お借りします。紫上会の皆様、本当に、有り難うございます」

 ちょっとは、初めて会った時の笑顔を、取り戻してくれただろうか。

【コアレスさん】

「……解せませんね……物好きというか……否定はしませんが」

【苺花】

「合宿に行って、よかった……」

 さて……俺たちのやるべきノルマは結構果たせてきたけど、まだ1つ大きいのが残ってる。

【深幸】

「なあ、亜弥ちゃん。井澤先輩が何処に居るのか……知ってるのか?」

【亜弥】

「兄さん、ですか――?」

【信長】

「ここ最近、会長は井澤先輩と連絡つかずだったらしいんだ。会長の持つあの人のアドレス総てが「存在しない」ことになっていて」

【亜弥】

「…………」

【笑星】

「だから、アドレスが変わったんならその今のアドレスを聞いておかないと、会長この先ずっと電話できないことになっちゃうから」

【亜弥】

「そう、ですか……確かにそうだったのかもしれません……」

【笑星】

「……亜弥ちゃん?」

【亜弥】

「兄さんに、会いたいんですよね。正直今の兄さんに誰かを会わせることはとても抵抗があるのですが……ここまでしてくださった方々を無下にはできません。特変の長にも伝えておくべきことでしょうし」

 え……そんなに理由を作らないといけないことなの? 今井澤先輩どんなことになってるの?

 ちょっと、怖くなってきた。

【亜弥】

「先ほど、地下のことに触れましたが……兄さんもまた、今地下にて活動しています。訳あって、終戦してからずっと……」

【四粹】

「十数日、ずっとですか――?」

【深幸】

「地上がこんなことになってんのに、地下で何やってんだよ……」

【亜弥】

「勿論、総てを承知した上でのことです。兄さんの状態によっては……面会するのも、困難なことをどうか」

【笑星】

「……うん。分かった」

 井澤先輩……危険な状態なのだろうか。

 果たして会うことができるのか、場所は分かったのに一層不安になってきた――

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