10.02「仕事の時間」

あらすじ

「……貴方は中央大陸に渡ったんじゃなかったかしら。砂川会長」砂川さん、起床。本編を御存知の方は「あ、この人も出てくるんだ」って思いそうな新キャラご登場の10話2節。

砂川を読む

【鞠】

「――ん……」

 眼を、開ける。

 視界について何かを考えるよりも先に、首が気になった。

【鞠】

「痛い……」

 ちょっと、寝ちゃっていたようだ……寝違えた……とかそういうレベルじゃないね、有り得ない体勢じゃん私。

 ソレから身体を離し、しっかり座り直す。

【ババ様】

「……鞠」

【鞠】

「ババ様」

 私の視界は、再びソレをアップで映す。

* * * * * *

【???】

「――これから、じっくり……溶かすみたいに、壊してあげる」

* * * * * *

 ……ソレを思い出す。

【鞠】

「……私の身体、どうなってましたか」

【ババ様】

「首が痛いこと以外は、普通に寝てただけじゃ」

 ババ様、不機嫌な模様。私も当然痛いんだから赦してもらいたいものだ。

【ババ様】

「……奴と、対峙したようじゃな」

【鞠】

「まあ、多分」

【臥子】

「???」

 立ち上がって……背伸びする。

【鞠】

「んーっ……基本的には、見守る、だそうですよ」

【ババ様】

「コミュニケーションは出来たようじゃな」

【鞠】

「引き続き油断はできないってことはしっかり理解しました。あとババ様によろしくって云ってました」

【ババ様】

「殺しにかかっとる癖に」

 それ私云っておいた。

【鞠】

「アレは、精神の病んでるヤバい爆弾魔です。映画で見たことあります」

【ババ様】

「おお、さようか。じゃあ今度それを見せてくれ」

【鞠】

「……何の映画だっけな……」

 ていうか、そろそろ町の方行かないと。

【???】

「……随分、懐かしい顔がいるわね」

 バッグを片付けてたら、声が届いた。

 横を向く。私が登ってきた方向。

 此処のことを知る者は、私の知る限りでは他に2人程度。

【???】

「……おかしいわね。貴方が、此処に居るだなんて」

 記憶とは多少異なる姿ではあるけど、そのうち1人だと私は理解した。もう、烏丸、じゃないんだっけか。

【鞠】

「……汀、先輩」

【ババ様】

「誰じゃ?」

【鞠】

「学園生です」

 更に情報を絞るなら、「特変」。私の関わりたくもない集団の、唯一あの人以外に関わりを持ってしまっていた1人。

 今は汀凪となっているであろう人だ。

【凪】

「……貴方は中央大陸に渡ったんじゃなかったかしら。砂川会長」

 相変わらずな小言ぶりだ。

 知ってるんならその問いは全く以て無価値だろうに。

【鞠】

「修学旅行です。私はたいして意欲も無かったのですが、色々あって来ることになりました」

【凪】

「そう。申し訳ないわね。見ての通り、沢山燃えてしまって」

 相変わらず、申し訳なさそうじゃ全然無い表情だ。懐かしいとすら思える。そこは本当、変わりないようだ。

 ……もうちょっと、笑うようになったんじゃないかって期待めいた想像は巡らせていたんだけど、矢張り人というのはそう易々と変わるものではないんだろう。

【鞠】

「此処には、通ってたんですね。随分綺麗だったから、誰かしら定期的に来て掃除してるんだと思ってましたが」

 背後のソレを軽く指差す。

 ……彼女は視線を逸らした。

【凪】

「……あの人は多忙だから、来れてないでしょうし。あとは私だけじゃない、此処を知っているのなんて」

【鞠】

「何か……すみません」

【凪】

「勝手にやっていただけ。貴方の……貴方たちのあの姿を見たら、何だか、此処は蔑ろにしてはいけない気がしたし」

 ……あれからこの人は、どれだけ事実に気付いてしまっただろうか。

 私も先輩も、貴方には無知でいてほしかった。でも貴方は莫迦でいてはくれない。故に……多少なりとも、その配慮のように勘付いているんだろう。

 そこは、本心から申し訳ないと思っている。私史上の最も深刻な嘘の被害者。

 だから会いたくなかったんだ。

【凪】

「……図書館にでも寄りなさいよ。折角、帰って来たのなら」

【鞠】

「……図書館、ですか」

 帰るとは本来、そういう意味だろう。元いた場所に戻るということ。

 であれば、私がその表現を使うに値する場所は、優海町においては此処か或いは其処だろう。

 図書館……か。

【鞠】

「まあ、そうしますけど……その前に」

 もうすっかり暗くなっちゃった優海町を見下ろす。

 この時間帯、此処に居るというのは懐かしいとかじゃなくただただ新鮮だ。私は直帰型だったし。

 だから此処から眺められる夜景というのも当然見たことはないけど……もしあの頃見ていたなら決してこんなに暗くはなかっただろう。

 今のこの町は、町ではなくなっていた。

【凪】

「酷い有り様でしょう。最悪なタイミングで帰ってきたものね。楽しめることなんて、何も無いわ」

【鞠】

「元々何も期待してません。それにお土産の需要を考えたらタイミングは良かったと云うべきでしょう」

【凪】

「……お土産?」

【鞠】

「臥子、始めましょう。仕事です」

【臥子】

「ふーはバッチコイです」

 ……さて、まずは……分担作業、かな。

【鞠】

「電磁波はどうですか?」

【臥子】

「非常に濃厚で、未知的な残留物です。人体に様々な影響を及ぼすに充分な濃度。除去には、相当の時間が掛かる予定」

【鞠】

「では、まずは全力で、且つ可能な限り町民の脅威にならないように除去に取り掛かってください。機体は例の如く私が造りますから、欲しい機能を教えて」

【臥子】

「オーダー・アクセプト。プリーズ・コネクト」

 臥子を抱きしめる。

 ……情報が入ってくる。

【鞠】

「(……電磁波除去の段階で、これだけの機能が必要なのか)」

 多少覚悟はしていたけど、矢張りこれまでの復興作業とは格が違う。

 1日2日で何とかするのは難しかろう。

【凪】

「砂川、貴方……何を、あとその子は何?」

【鞠】

「うちの連れが、ちょっと身体弱くて心配なので、この残留電磁波、掃除しますよ。いいですよね?」

【凪】

「それは大いに私達も助かることだけど……貴方、もしかして此処に来たのって――」

【鞠】

「違いますからねッ――」

 もう慣れたものだ。そこそこデカい機体を瞬時にして数体。まあコレは最早空気清浄機みたいなものだけど……。

 次々と、優海町各地に飛ばしていく。

【凪】

「……は――?」

【鞠】

「不本意ながら、うちの学生の健康を害する可能性を可能な限り排除したいのと、お世話になる旅行先への土産ッ、私は普通のことをやるだけです――!」

 調子が、いい気がする。邪魔するものが何一つ無いような、すんなりと自分のやりたいことが現実となっていくような。

【鞠】

「臥子、コレでいいですか」

【臥子】

「燃費良好。オーダーの実行に着手します。姉素の更なる供給速度をふーは求めます」

 姉素って何。新しい概念勝手に生まないで。

 そんな臥子が絶好調なのは見て取れた。水着効果なのか、それとも燃料の質か。

 それでもなお、課題の壁は大きい。

【凪】

「…………」

【鞠】

「あ、そうだ……汀先輩。特変なんだから、役所から町の建築データとかパクれますよね。ちょっと拝見したいんですが」

【凪】

「……ソレで貴方は、何をしてくれるつもりなのかしら」

【鞠】

「取りあえず……私、電話しなきゃいけないんで――」

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